山頂にはギザッロ教会と自転車博物館イタリア・コモ湖畔でサイクリストの聖地を巡礼 地元の名門チームに教わったヒルクライムの楽しみ方

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 イタリア北部、ロンバルディア州の避暑地・コモ湖を見下ろす頂に、サイクリストの聖地があるという。その中心はギザッロの聖母マリア教会(Madonna del Ghisallo)と、それに隣接する自転車博物館。世界各地から多くのサイクリストが参拝に訪れていると聞き、9月下旬に「Cyclist」記者も愛車を持参して“登頂”に挑んだ。今回は特別に、1902年創立の地元名門自転車チーム「カントゥリーノ」(Club Ciclistico Canturino)のメンバーとともに走行する機会を得た。

カントゥリーノのメンバーとサイクリストの聖地へ。左からエルヴィオ・タリアブエさん、ララ・リガモンティさん、アンドレア・ベッカレットさん、記者、マウロ・ヴィオッティさん=イタリア・コモカントゥリーノのメンバーとサイクリストの聖地へ。左からエルヴィオ・タリアブエさん、ララ・リガモンティさん、アンドレア・ベッカレットさん、記者、マウロ・ヴィオッティさん=イタリア・コモ

伝統のチーム「カントゥリーノ」とともに

今回の旅では、キャリアー付き輪行バッグで自転車を持参。私物にはバックパックを用いた今回の旅では、キャリアー付き輪行バッグで自転車を持参。私物にはバックパックを用いた
キャリアー付き輪行バッグには、自転車のほかにヘルメットやシューズといったものを同梱して全部で16kg。ゲージ付き携帯ポンプは旅先でかなり便利キャリアー付き輪行バッグには、自転車のほかにヘルメットやシューズといったものを同梱して全部で16kg。ゲージ付き携帯ポンプは旅先でかなり便利

 コモ湖畔の街・コモへのアクセスは、ミラノ・マルペンサ国際空港から電車を乗り継ぎ約1時間半。テレビ番組で湖周辺が映しだされた際に、ロードバイクでいきいきとサイクリングを楽しんでいたホビーサイクリストたちが忘れられず、渡欧時にはぜひ訪れたいと思っていた。到着時は土曜の夜10時。夜が更けても店舗の明かりはきらめき、人々がそぞろ歩くなど、観光地らしい趣だ。

 コモ市街からギザッロ教会までの距離は、およそ30km。時計回りと反時計回りのルートのうち、記者は湖畔の優雅な風景を期待して時計回りで計画していた。そこにストップをかけたのが、「Cyclist」からの同行依頼をこころよく引き受けてくれたカントゥリーノだ。なんでもプロロードレースでも選ばれる時計回りのルートは、アップダウンが激しくクルマの交通量も多い上、ラストがかなりつらい急坂なのだとか。

 カントゥリーノは、コモとミラノの中間に位置するカントゥを拠点とする創立111年目のチームで、ジュニア育成に力を注いでいる。現在は60人近いメンバーが所属し、州選手権で優勝者を輩出するなどチームの実力、歴史ともにその名をとどろかせる。

峠道もスイスイとこなすカントゥリーノの若手、ベッカレットさん峠道もスイスイとこなすカントゥリーノの若手、ベッカレットさん

 今回は、18歳になったばかりのアンドレア・ベッカレットさんをはじめとするカントゥリーノのメンバー4人が同行してくれた。まだあどけなさを残すベッカレットさんだが、インターナショナルスクールで習得したという英語を駆使して、イタリア語が不得手な記者のガイドを買って出てくれた。2010年に競技生活をスタートさせ、チームに供給されるイタリアンバイク「SCOUT」で毎日練習へ出かけているという。

大挙して駆け抜けるローディたち

ホテルではしっかり朝食を摂ってスタート。カプチーノも忘れずにホテルではしっかり朝食を摂ってスタート。カプチーノも忘れずに

 朝9時、チームと待ち合わせをしてスタート。秋のヨーロッパとあって寒さを覚悟していたが、まだ夏用ジャージで十分といった暖かさだ。

 走り始めてすぐ、反対方向から向かってくるサイクリスト、それもロードバイクの多さに驚かされた。最初こそ数をカウントしようと試みたが、もはやいくつチームが通り過ぎたかわからない。まるで東南アジアの国のスクーターばりにローディが大挙して駆け抜ける光景は衝撃的だった。ベッカレットさんによれば、「イベントやレースでなくても、午前中はいつもこんな風にたくさんいる」ということだ。

ベッカレットさん(手前)とヴィオッティさんベッカレットさん(手前)とヴィオッティさん

 それほどたくさんいるのであれば、走行ルールはきちんと確立しているのだろうと思うも、意外とばらばら…。サイクリストたちはクルマの左右を時折通り抜け、信号待ちの停止位置も厳密に決められてはいないようだ。それでも、クルマが自転車の動きを読むというのだろうか、意思疎通ができているからすごい。

 ひとつ、走行時に注意するポイントがあるとしたら、日本では見かけることがないロータリー型の交差点だ。「ロータリーでは『こっちへ行く!』という強い意思表示が欠かせない」とベッカレットさん。記者を誘導してくれたチームのメンバーは、ロータリー手前からこの先ロータリーを越えてどちらへ進みたいかをハンドサインで明確に示し、躊躇することなく(急な減速をすることなく)走行していた。

 また、側溝には必ずと言っていいほど段差があるので、日本のように車道の端ぎりぎりを走行する場合は気をつけたい。逆に、それを見越してクルマは自転車を大きく避けていくため、無理な追い越しやぎりぎりまで押しやられるというシチュエーションはほとんど起こりえない。

 そういったクルマ側との相互理解があり、さらに路面の段差を効率よく吸収するためか、カントゥリーノの選手たちはハンドルバー上部のフラットな部分を握ることが多い。ブレーキ・ブラケット部分を持つ方法が一般的だと思っていた記者にとっては意外な発見だった。

コモの中心にあるドゥオモ横の入口。ドアを囲んでいる装飾が美しいコモの中心にあるドゥオモ横の入口。ドアを囲んでいる装飾が美しい
通りすがりの地元のおじさんから「触ればラッキー」と言われたカエルを、みんなで触り合い。げん担ぎはサイクリストには欠かせない通りすがりの地元のおじさんから「触ればラッキー」と言われたカエルを、みんなで触り合い。げん担ぎはサイクリストには欠かせない
コモ市内のバイクシェアリングのドックステーションコモ市内のバイクシェアリングのドックステーション
コモ市内のバイクシェアリングに付属するベル。デザインがかわいいコモ市内のバイクシェアリングに付属するベル。デザインがかわいい
コモの中心にあるドゥオモ正面コモの中心にあるドゥオモ正面

 なお、今回の拠点としたコモ市内には、事前登録型のバイクシェアリングサービスが10カ所設置されていた。利用料金は、世界各国の多くの都市と同じく30分無料。自転車を持って行かない場合でも、徒歩よりも行動範囲を広げて効率よく観光を楽しむことができそうだ。

ギザッロ教会が聖地たる所以 ヒルクライマーが上る理由

ギザッロの聖母マリア教会。この鐘がジロ・デ・ロンバルディアを通過する際に鳴り響くギザッロの聖母マリア教会。この鐘がジロ・デ・ロンバルディアを通過する際に鳴り響く

 ギザッロ教会は標高754mというその立地から、ジロ・デ・イタリアやジロ・デ・ロンバルディアといったプロロードレースの通過点に設定されるようになり、各地からサイクリストが徐々に参拝に訪れるようになったという。1949年10月13日、ギザッロ教会の崇拝の対象となっている聖母マリアが、ローマ教皇ピウス12世により“公式に”サイクリストの守護聖人として宣言され、この地が正真正銘の「サイクリストの聖地」となった。

 だがサイクリストにとってそこが仮に聖地でなくとも、意味のあることには変わりないと思う。上りやすいと言われる南側からであっても、ギザッロ教会9km手前から坂が始まり、ラスト1.9kmは平均勾配5.1%。登頂すれば達成感やすがすがしさに満たされ、仲間と上れば連帯感まで味わえる。

コモのスタートからおよそ20km地点のセグリーノ湖とリガモンティさん。紅葉が始まった木々が湖面に映っていたコモのスタートからおよそ20km地点のセグリーノ湖とリガモンティさん。紅葉が始まった木々が湖面に映っていた
ヴィオッティさん(右)がくれたイチゴ味の雷おこしのような補給食ヴィオッティさん(右)がくれたイチゴ味の雷おこしのような補給食
ギザッロ教会はあともう少し!ギザッロ教会はあともう少し!

 トレーニング不足はもとより、ここ数カ月は忙しさと暑さにかまけてほとんど自転車に乗っていなかった体には、かなりキツイ上りが続いた。一番軽いギアだけは、気持ちのゆとりのためにとっておきたかったのだが、どうやらそれも難しくなってきた。カントゥリーノのメンバーも会話をやめ、上ることに集中しているようだった。

 そこへ、前方からヒュルっと位置を下げて記者に近づいてきたベッカレットさんは、フロントはインナーであるものの、リアは重いギアに設定し、口を閉じたまま余裕の表情でペダリング。息が上がっていた記者に、「少し傾斜が緩やかになったら、できるだけ重めのギアに変えて、肺を休ませてあげるといいよ」とアドバイスをくれた。これには、ハンドルの持ち方に続いて驚かされた。日本では、「軽いギアでクルクルと回せ」とばかりアドバイスされてきたからだ。

 アドバイスのとおりにしてみると、確かに少し楽だ。脚はさほど疲れてはいない。呼吸を落ち着かせて、体中にゆっくり酸素をいきわたらせるイメージが気持ちのゆとりにもつながった。ギザッロ教会までは、もう少し。

チームカーには、レース時によく耳にする独特なクラクションへの切り替えを装備。記者を激励するため鳴らし続けている様子チームカーには、レース時によく耳にする独特なクラクションへの切り替えを装備。記者を激励するため鳴らし続けている様子
ギザッロ教会への坂を上ってきたタリアブエさんギザッロ教会への坂を上ってきたタリアブエさん
ギザッロ教会へ到着した記者。「終わった~上れました~」ギザッロ教会へ到着した記者。「終わった~上れました~」

 実を言うと記者にはずっと、ヒルクライマーが好んで峠に挑み続ける理由が分からなかった。風を切り、自力でスピードに乗る方がよっぽど楽しいと思っていたのだ。この日も、若きヒルクライマー、ベッカレットさんに対してその疑問を投げかけ「分からないな」と答えをもらってはいた。しかし、フィニッシュ直後に撮影してもらった記者自身の表情を見た瞬間、疑問が解けた気がした。

 もちろん、記者のレベルと比べれば遥か彼方で、1分1秒を速く上るトレーニングを重ねるレーサーには違う理由や目標があるのだろう。それでも、自問自答しながらペダルを回し続けた末に訪れる満たされる感覚は、サイクリストなら誰もが“原体験”のように知っている快楽ではないだろうか。

ギザッロ教会の内部。たくさんの参拝客がひっきりなしに出入りしていたギザッロ教会の内部。たくさんの参拝客がひっきりなしに出入りしていた
亡くなった方を弔うキャンドル(電子)を見つめるベッカレットさん。壁には写真が並んでいた亡くなった方を弔うキャンドル(電子)を見つめるベッカレットさん。壁には写真が並んでいた

 ギザッロ教会の中に数多く掛けられている、小さな額に収められた写真は、誰もが亡くなった人たちだそうだ。ジャージ姿や自転車といっしょに写っている人も多い。1995年のツール・ド・フランスでレース中のクラッシュにより亡くなったコモ出身のファビオ・カザルテッリが弔われているほか、昨年事故で亡くなったというカントゥリーノの若いメンバーの写真もあった。記者も、大過なく自転車に乗っていられることへの感謝と安全祈願をさせてもらった。

ギザッロ教会の前で記念撮影。すぐ後ろには、コモ湖を見下ろす絶景が広がっているギザッロ教会の前で記念撮影。すぐ後ろには、コモ湖を見下ろす絶景が広がっている
10月6日に行なわれたジロ・デ・ロンバルディアは、あいにくの雨。逆方向から上ってきた選手たちが教会の前を通過していく10月6日に行なわれたジロ・デ・ロンバルディアは、あいにくの雨。逆方向から上ってきた選手たちが教会の前を通過していく

ロンバルディアだからこそ 充実の自転車博物館

自転車博物館の内部自転車博物館の内部

 隣接する自転車博物館へ入ると、吹き抜け2フロアの空間に歴史的な自転車やジャージ、アクセサリー、ライダーの写真パネルが所狭しと展示されていた。残念ながら展示解説の記載がすべてイタリア語だったのだが、展示品を見ているだけでも十分楽しむことができた。

 主な展示品としては、自転車兵のためのビアンキの自転車や、ナンバープレート制があった時代の自転車、ハンドル無しで峠を上った記録を持つ男性の自転車、チェーンまで木製の自転車といったものから、歴代オリンピックのイタリア選手のパネル展示、世界最大のマリアローザコレクションなどを見ることができる。

 ロンバルディア州では、700チームほどの自転車クラブががしのぎを削り、年間1200レースが開催されているのだという。自転車博物館がこの地に建ったのも、必然と言えるかもしれない。

自転車博物館のチケットのデザインはそれぞれ異なる自転車博物館のチケットのデザインはそれぞれ異なる
自転車博物館のオリンピックコーナー。パネルを見つめるのはカントゥリーノの拠点とするカントゥのパオロ・フリジェーリオ市長自転車博物館のオリンピックコーナー。パネルを見つめるのはカントゥリーノの拠点とするカントゥのパオロ・フリジェーリオ市長
パオロ・ベッティーニのための2004年アテネ五輪仕様シューズパオロ・ベッティーニのための2004年アテネ五輪仕様シューズ
かつての変速機を間近に見ることができるかつての変速機を間近に見ることができる
1935年から2012年まで、全50枚のマリアローザコレクション1935年から2012年まで、全50枚のマリアローザコレクション
1973年のジロ・デ・ロンバルディアを走ったエディー・メルクスの自転車1973年のジロ・デ・ロンバルディアを走ったエディー・メルクスの自転車

◇      ◇

 サイクリングの後は、カントゥリーノ代表のフラヴィオ・スピネッリさんが運転するチームカーでゆるりと観光を楽しませてもらった。「人」という漢字のように細長く分岐した形のコモ湖は、観光地としては名が知られていない小さな集落であっても、ドライブの道すがら絶景を楽しむことができた。

 途中立ち寄った景勝地ベラージョは、映画など数々のロケが行なわれる美しい街。デートスポットとしても人気が高いそうだ。混雑する駐車場では、駐車線を無視して車が雑然と並び、ラッシュ時には渋滞がまったく動かなくなった。そんな“缶詰”具合に苦笑したが、それをも楽しめてしまうのがイタリアの空気の魅力なのかもしれない。

チヴェンナから望むコモ湖のパノラマビューチヴェンナから望むコモ湖のパノラマビュー

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