title banner

山下晃和の「ツーリングの達人」・東北編<前編>地球の裏側で知った大震災から2年半 東北の“今”と“これから”を知るために、僕はペダルを漕いだ

  • 一覧

 モデル業を中心に活躍しながらトラベルライターとしても活動し、世界19カ国を自転車で駆け抜けてきた山下晃和さん。そんな旅サイクリストでもある山下さんが、東北を自転車で旅することになった。東北でのツーリングを体験してきた山下さんのレポートを、2回にわたってお伝えする。

◇           ◇

東日本大震災当時、中南米を自転車で旅していた=ペルー・ワカチナ東日本大震災当時、中南米を自転車で旅していた=ペルー・ワカチナ

 2011年3月11日。東日本大震災が起きた。僕はこのとき、中南米を自転車で旅していた。日本列島を揺さぶり、世界中を震撼させたあの大災害を、地球の裏側で観ることとなったのだ。PCの画面に映るUstreamの緊急ニュース。津波の映像、気仙沼の炎の映像。首都圏の人々が夜の街を歩いて帰る姿。自分が出発した日本とは、あまりにも状況が変わり過ぎていた。

 その後の数カ月間、余震が続いたとはいえ、僕はその1番大きな揺れを体験することのないまま過ごしてきた。

 もちろん、そんな大地震は二度と起きてほしくない。しかしあの震災で、日本列島が地震の危険性をはらんだ地であることを思い知らされた。ならばその教訓を生かし、地震の被害を最小限でとどめるよう考えなくてはならない。

 あれから2年半が経った東北を自転車で旅しよう。「今の東北」を、「これからの東北」を自分の目で見て、伝えなくては。そんな思いが、ペダルを漕がせた。

東北への輪行 新花巻駅からは釜石線「はまゆり」で

上野から乗った東北新幹線「やまびこ」を待つホーム内。輪行バッグが旅心をくすぐる上野から乗った東北新幹線「やまびこ」を待つホーム内。輪行バッグが旅心をくすぐる

 JR上野駅発の東北新幹線「やまびこ」は朝6時10分に出ると、途中乗り換えることもなく、9時過ぎには新花巻駅へ着いた。秋晴れを祈っていたが、空はどんよりとした雲に覆われてグレーになっている。今にも泣き出しそうという表現以外は見つからない。

 そしてまもなく、雨がしとしとと降り始めた。新花巻駅から自転車で走り出そうと考えていたが、もう少しだけ鉄道の旅を続け、JR釜石線の快速「はまゆり」に乗り換え、釜石駅まで行くことにした。

新花巻駅からは釜石線に乗り換え、白と緑の車体の快速「はまゆり」に乗って釜石駅へ向かった新花巻駅からは釜石線に乗り換え、白と緑の車体の快速「はまゆり」に乗って釜石駅へ向かった

 レールの上を走る鉄道の音を聞きながら、おじいちゃんやおばあちゃんと一緒に揺られる気分は、のんびりして心地良い。車内にはゴミ箱まであって、なんだかほっこりした。

 雨は止まぬまま、釜石駅に到着してしまった。輪行バッグからようやく自転車を出し、組み立て、レインウェアを羽織り、ペダルを漕ぎ出すことにした。

 クルマはそれほど多くないが、側道がないので、気を遣いながらスタート。釜石駅からは南下して大船渡を目指す。

自転車で日本一周中の青年との出会い

太平洋を望みながらのはずだったが、あいにくの雨で、ガスってしまった国道太平洋を望みながらのはずだったが、あいにくの雨で、ガスってしまった国道

 途中、巨大な釜石観音を望みながら海沿いの道を走る。途中、行く先々でがれきが盛ってある場所を見つけては、悲しい気持ちになった。あの中に流された家やクルマが入っていると考えると心が痛む。また、プレハブが並んだ団地があり、人の気配はなかったが、住んでいる人も居るのだろう。

 しかしながら、2年半の間で草木や森は復活を遂げていて、まだ夏の雰囲気を残したまま、たくましく育っていた。

コンビニで休憩していると現れた、日本一周中の青年サイクリストコンビニで休憩していると現れた、日本一周中の青年サイクリスト

 コンビニで休憩をしていると、「こんにちは!」という元気なあいさつとともに、自転車乗りの青年が現れた。名前を聞きそびれたが、「日本一周をしているんです」という彼は、北海道から南下している途中だという。この日の朝は、宮古から来たそうだ。

 「どこから来たんですか?」という青年の質問に、「新花巻駅から大船渡までね、短い距離だけど」と答える自分は、なんだか申し訳ない気持ちになった。

 自転車で何日間も旅を続けてきた人の格好良さには到底かなわない。

 ジャイアントの古いカラーリングのグレートジャーニーにまたがった彼は、宿泊する予定の「道の駅」に向かうとのことだった。雨が止んでいたので、僕は先を急いだ。

建物の3階に残された津波の跡

 雨が降ったり、止んだりを繰り返すなか、大船渡に着いた。ここは市街地が割と広範囲に広がっていたので、どこで曲がっていいかわからず、宿を通り過ぎてしまったようだ。来た道をしばらく戻る。スマートフォンのマップは便利だが、その分、人と話す機会を逃してしまっているようなので、やっぱり地図を持っていったほうがいい。人に聞きながら、地図を頼りに右往左往するのもまた旅の醍醐味だろう。

雨でどろどろになった泥除け。旅に泥除けはマストだと再認識させられた雨でどろどろになった泥除け。旅に泥除けはマストだと再認識させられた
上りが続く旧道。新道と比べ車通りが少なくて良い上りが続く旧道。新道と比べ車通りが少なくて良い

 16時頃、あらかじめ予約していた旅館「菊水館」に着いた。優しいおかみさんが出迎えてくれた。港まですぐのところに立地しているため津波の被害にあい、今年の8月に復興してオープンしたばかり。

 「あの壁まで津波が来たのよ。色が変わっているでしょ」と言って、目の前にある建物を指差した。高さ6mくらいのところに残る津波の跡は、3階の窓にまで迫っていた。

 「最初はこの辺もがれきだらけだったけれど、だいぶきれいになってね。でも、全部なくなってしまったら、忘れ去られてしまうようで、複雑です…」

 「まだ暗くなる前に、港のほう走ってきます」と伝えて、自転車で走り出した。

 この後、ものすごい光景を目の当たりにした。

山下晃和山下晃和(やました・あきかず)
ファッションモデル。タイクーンモデルエージェンシー所属。雑誌、広告、WEB、CMなどのモデルをメインに、トラベルライターとしても活動する。雑誌の「Bicycle NAVI」(Voice Publication)、「GARRRV」(実業之日本社)などで連載ページを持つ。東南アジア8カ国と、中南米11カ国を自転車で駆けた旅サイクリストでもある。それらの旅の日記をもとに2013年8月、自身初となる著書『自転車ロングツーリング入門』(実業之日本社)を出した。

関連記事

この記事のタグ

ツーリング 山下晃和の「ツーリングの達人」

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載