「ツール・ド・東北」出場へ抱負「少しでもポジティブになってもらうために、僕はペダルを回す」 別府史之選手インタビュー

by 上野嘉之 / Yoshiyuki KOZUKE
  • 一覧

 サイクルロードレースの本場ヨーロッパのプロチームで活躍する別府史之選手(オリカ・グリーンエッジ)が、今年11月に初開催されるサイクリングイベント「ツール・ド・東北」への出場を前に、表敬訪問したヤフー本社でCyclistのインタビューに応じた。東日本大震災で被災した東北地方の復興に向けて、別府選手は「前に進む力が大切。このイベントを通じて、少しでもポジティブになってもらいたいと考えてペダルを回したい」と語った。また、自身の競技生活については、来季からの所属が決まったトレックチームで、春のクラシックレースとジロ・デ・イタリアに出場したい意向を示した。

 

世界へのキップをつかむために走った東北の大地

インタビューに応じる別府史之選手インタビューに応じる別府史之選手

 ――東北地方にどんなつながりや思い出がありますか

 「以前に開催されていたステージレース『ツール・ド・東北』(注・今年開かれるサイクリング大会とは異なる)を、高校1、2年の時に走りました。これが初めての全国クラスのレース。当時、(主要なレースで)ジュニアカテゴリはこの大会しかなく、世界へのキップをつかむために『なんとしても勝たなければならない』と意気込んだ、思い入れのあるレースです。岩手、宮城、福島と、各ステージごとにロケーションが異なり、例えば岩手だと、牧場の周りを走るような特徴的なコースでした。空気もきれいで、そういうところで伸び伸びと走れたことが嬉しかったです」

別府選手が震災復興のチャリティーのために取り組んだ「ひとりじゃない」運動のリストバンド別府選手が震災復興のチャリティーのために取り組んだ「ひとりじゃない」運動のリストバンド

 ――東日本大震災が発生した2011年3月11日には、どこにいましたか

 「イタリアでティレーノ~アドリアティコというステージレースに出ていました。第3ステージの日に震災があり、レース後に『日本が大変なことになっている』と聞きました。多くのトップ選手から『残念だね』『力になりたい』と声をかけてもらいました。スチュアート・オグレディ、ファビアン・カンチェラーラ…。テレビを見ると、本当に悲惨なことになっていました。翌日の第4ステージは、2009年にイタリアで起こったライクラ地震の被災地付近を通ることもあり、イタリア人も心を痛めていました。この日のスタートでは、選手を代表して最前列に立たせてもらい、みんなで黙祷しました」

 「それから、ツイッターのプロフィール画像に復興支援のリボンをつけてもらったり、リストバンドの販売収益を寄付する『ひとりじゃない』運動をやったりしてきました。リボンやリストバンドは、海外のトップ選手にも付けてもらいました」

 

被災地の現状をナマで見て、感じて、知りたい

 ――その後、被災地にはどのように関わってきましたか

 「2011年の全日本選手権ロードレースが、被災地に近い岩手県の八幡平で開かれたため、何としても走りたいと思い、シーズンのスケジュールを変更して出場し、優勝しました。東北のレースを走り、ファンや関係者の方々に元気を与えたいと思っての出場でした」

 「ただ、実際に津波の被災地には足を運べていないので、今回のツール・ド・東北で現地の状況をナマで見て、感じて、知りたいなと思っています。復興しつつあるといっても、今もなお仮設住宅で暮らしている方々もいる。困難な状況の方々に、ツール・ド・東北というイベントを通して少しでもポジティブになってもらいたい。例えば今回の東京オリンピック招致もそうですが、とにかく前に進むという力が大切だと思います。ポジティブに考えれば歯車は回る。僕はひとりの自転車選手として、そう考えてペダルを回したいと考えています」

ヤフーを表敬訪問し、ツール・ド・東北の運営スタッフらと歓談する別府選手ヤフーを表敬訪問し、ツール・ド・東北の運営スタッフらと歓談する別府選手

 ――大会主催者であるヤフーを訪問し、ツール・ド・東北の運営スタッフにあいさつされましたね

 「皆さん、自転車を楽しんでいらっしゃるばかりで、情熱をすごく感じました。一人ひとりのスタッフやボランティアの方たちの力が、ツール・ド・東北のイベントを成功させるので、一緒にペダルを回したいという気持ちが強いですね」

 ――大会当日はどんな風に走りたいですか

 「ヨーロッパに渡って12年になりますが、この大会は日本のサイクリストの方々と身近に、楽しく話して走る機会にしたい。走ることで世界が広がっていく。コミュニケーションを広げることで、もっといろいろ知っていくことができる。それが僕の思う自転車の良さです」

 「今はシーズンオフで、心も体も疲れきっていますが、少し休んで体調を整え、10月下旬に開かれる『ジャパンカップ』のクリテリウムと、『さいたまクリテリウム by ツールドフランス』にコンディションを合わせていく。もちろん、その翌週のツールド東北にも合わせます(笑)」

 

ジロ・デ・イタリアは照準を合わせたいレース

 ――ジャパンカップのクリテリウムや、さいたまクリテリウム by ツールドフランスへの意気込みは

 「ジャパンカップのクリテリウムは、昨年はスペシャルチームで出場して2位でした。今年も、昨年の1~3位が出場するそうなので、勝ちを狙います。さいたまクリテリウムには、オリカ・グリーンエッジとして参戦するので、もちろん優勝を狙います」

2012年のジャパンカップ・クリテリウムで2位となった別府選手(前列左から3番目)2012年のジャパンカップ・クリテリウムで2位となった別府選手(前列左から3番目)
2012年のジャパンカップ・クリテリウムのゴール後、報道陣に囲まれた別府選手2012年のジャパンカップ・クリテリウムのゴール後、報道陣に囲まれた別府選手

 ――来シーズンからはトレックチームへ移籍することが決まりました

クラシックレース「ヘント~ウェベルヘム」の難所、石畳が敷かれた急坂「ケンメルベルグ」をメーン集団の前方で走る別府選手(2013年3月、田中苑子撮影)クラシックレース「ヘント~ウェベルヘム」の難所、石畳が敷かれた急坂「ケンメルベルグ」をメーン集団の前方で走る別府選手(2013年3月、田中苑子撮影)

 「今年のツールドフランスの頃にオファーがありました。世界のロードレース界を代表するトップチームの1つなので、楽しみです。オリカ・グリーンエッジは、毎回1人のスプリンターを勝たせるために全員がとことん仕事をするチームスタイルだけれど、トレックは総合系の選手が多く、バランスのとれたチーム。自分の成績を求めて自由に走れるチャンスも増えるので、ワンデーレースなどを狙いやすいと思います」

 「今シーズンは落車やかぜでの体調不良が多く、自分でも悩んだ時期がありました。いまは来年に向けて心の準備ができていて、モチベーションは高いですね。春のクラシックレースとジロ・デ・イタリアは、照準を合わせていきたいレースですね」

インタビューに応じる別府史之選手

 ――グランツール(3大ステージレース)の中で、なぜジロを挙げられたのですか?

 「ジロが自分の中で好きなレース。単純な理由ですが、イタリアが好きなんです。ご飯も美味しい(笑)。ジロは、チームメートの間で“アドベンチャーレース”と呼ばれているように、コース設定も“ここを走るか”と驚かされるほどムチャなところを走ったりする。そして観客も情熱的。ツール・ド・フランスが近代を感じるレースなら、ジロはクラシカルな、ツールにはない良さが残っていると思います」


この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

ツール・ド・東北 別府史之

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載