じてつう物語<17>編集者の移動の自由を支えるのは圧倒的完成度の痛自転車! 月刊モデルグラフィックス副編集長 高久裕輝さん

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 『最新のキャラクターモデルから精密なスケールモデルまで、模型に係わる森羅万象をビジュアルに展開する総合模型雑誌』。そんなキャッチコピーを掲げ、書店のホビー雑誌コーナーで存在感を発揮しているのが、株式会社アートボックスが制作している雑誌「月刊モデルグラフィックス」(発行:大日本絵画)だ。その編集を手がけている高久裕輝さん(31)はもちろんモデラーで、趣味を仕事にすることができた幸せな男。時間に不規則な仕事なゆえに、通勤手段として自転車が大活躍しているのだが、その自転車が人とはちょっと違うのだった…。

高久裕輝さん(31)と愛車の「キュアサンシャイン号」高久裕輝さん(31)と愛車の「キュアサンシャイン号」

模型雑誌を作るという仕事

 モデルグラフィックスの編集者として8年目を迎えている高久さんの、現在の肩書きは副編集長だ。その、モデルグラフィックス、書店に並んでいるところを見て存在を知っている人は多いと思うが、実際はどんな雑誌なのか。高久さんはこう話す。

 「モデルグラフィックスは創刊号から、新製品の情報に加えて、模型ファンがどのようにして模型を楽しんでいるか、そして、どんなことを知っているとより模型が楽しくなるのか——雑誌ではよく“文脈”と言うのですが——そういった情報に注力している雑誌です」

 そんな模型雑誌の編集とは、どういった仕事なのだろうか。

 「模型メーカーは日本だけでではなく世界中にあって、それらのメーカーから膨大な数の新製品が登場します。そんな新製品を誌面で紹介するために、まず編集部で組んでみるというのも仕事です。また、モノによってはモデラーさんに組み立てと執筆を発注することもあります。この模型をどう作ると面白いか、かっこいいか、リアルになるのか。模型としての見所はどこなのか。そういったことをモデラーさんと相談し、指示を出すこともあります。それ以外にも、模型のイベントがあれば取材に行きますし、模型と関連した博物館に足を運んで、展示されている実物について取材したりといったこともあります」

 当たり前だが、模型雑誌といってもいつも机の上で模型を作ったり眺めたりしているわけではないのだ。最近では、同誌の連載漫画として、あの『風立ちぬ』があった。そういったコンテンツの編集等も、彼らの仕事だ。

月刊モデルグラフィックスは毎月25日発売(画像提供:高久さん)月刊モデルグラフィックスは毎月25日発売(画像提供:高久さん)

模型好きは乗り物好き

 そんな同社のスタッフには、一定の傾向があるらしい。

 「模型好きには、ミリタリーが好き、メカが好き、その流れで乗り物好きへとつながっていくんです。だから、バイクが好きで、バイク通勤をしている人がとても多い。それは、モデルグラフィックスのスタッフも、姉妹誌のスタッフも同じです。1台のバイクで満足せず、何台も所有している人もいます」

 時間に不規則な仕事だから、バイク通勤は趣味と実益を兼ねたメリットがあり、社内で流行るのは必然だった。そんな環境の中、あるスタッフがロードバイクで会社にやってきたのだ。

 「先輩が、LOOKのロードバイクで通勤してきたんです。そこで、10万円以上の自転車の世界というのを初めて知りました。そのLOOKに乗せてもらったところ、こんなにビシッと変速したり、ブレーキが効いたりするのかと。ママチャリ、シティサイクルとはまったく違う世界にびっくりしました。一方で、学生時代にMTBで学校に行ってみたことはあったので、自転車でも10kmを超えるような移動はできるという感覚自体は、持っていました」

 高久さん自身も、もちろんメカ好き、乗り物好き。高性能なロードバイクの世界を知ってしまったら、欲しくならないわけが無かった。

運動の機会だけでなく移動の自由を手に入れる

お話を伺った高久裕輝さんお話を伺った高久裕輝さん

 「はじめて買ったロードバイクは、TREKの1200SLでした。最初の1台だから、エントリーグレードのアルミフレームでいいだろう、と。このTREKで、自転車通勤を始めました。当時住んでいたのが大田区の大森で、会社は大手町。晴れていれば基本的に自転車。よほどの暑さでも無い限りは、自転車で通うようにしました」

 編集者の仕事は、取材に追われている時期もあれば、一方でオフィスに閉じこもっている時期もある。もちろん高久さんも例外ではなかった。だから、自転車通勤は絶好の運動機会となった。

 「基本は座り仕事ですし、放っておけば3〜4日は椅子から動けないくらいの激務となることもあります。自転車通勤であれば、そんな日々にほどよく運動を組み込めるのが良いと思いました」

 もちろん、運動以外にもメリットはある。電車通勤と比べて、格段に移動の自由が手に入った。

 「会社の行き帰りに電車を乗り換えるということが、とても嫌いなんですね(笑)。もう、近かろうが遠かろうが関係なく、乗り換えが嫌い。自転車であれば、乗り換え無しに通勤することができます。そして、自由に行き先を変えることもできる。例えば帰宅途中に“海に寄りたい”と思えば、芝浦方面に向かうことだってできるし、どこかで友達が遊んでいるところに合流することだってできる。“今日はもっと走りたい”と思えば、遠回りして帰ることもできます」

 そんなふうにして、気がつけば東京の街を走り回るようになっていた高久さん。

 「仕事帰りにちょっとルートを変えて夜の銀座を走り抜けたりすると、やっぱり気分がいいんですよね。そして、ライトアップされた東京タワーが見えたりして。私は東京出身ですけど、電車で通勤しているときにはわからなかった“東京らしい風景”を実感できるのが、自転車ならではですよね」

 そんな高久さんの現在の愛車は、コルナゴのロードバイク「CLX」だ。

 「TREK 1200を友達に貸したら、事故に遭ってしまってですね(笑)。修理して乗ることはできるレベルだったのですが、これを機に、メカ的な興味もあって、もっとグレードの高いものに乗ってみたかったんです」

圧倒的な存在感を放つ「キュアサンシャイン号」

 しばらくはほぼノーマルで乗っていたCLX。しかし、その後CLXのルックスは大きく変化することになる。この記事冒頭の写真でおわかりのとおり「痛自転車」になったのだ。

 「クルマの世界で“痛車”がありますが、プラモデルでも2006〜2007年頃に流行ったんです。それを見ているうちに当然、自転車でそれをやりだす人もいて、個人的な興味もありました。ただ、イラストの入ったディスクホイールをどう作るかが問題で。A4で出力したステッカーをつなげている人などもいました。そんなとき、プリンターメーカーの方から“ウチのプリンターなら1枚もので出力できるし、耐光性のあるシール素材も選べますよ”と聞かされて、それでやってみたくなったというのがいきさつです」

 プリンターメーカーに、そのプリンターを置いている出力サービスのショップまで教えてもらった高久さん。そこからは速かった。

 「即、リアのディスクホイールをネットオークションで落札して、その他のパーツは、上野にある『アサゾー』などで購入しました。絵柄は『ハートキャッチプリキュア!』のキャラクター、キュアサンシャイン。痛自転車の世界で有名なラムちゃんの自転車を、オーナーの方に見せて頂いて、これはかっこいいなと。そのラムちゃんをリスペクトする感じで、共通性を持たせたデザインにしました」

Adobe Illustratorでイラストを起こして1枚もののステッカーを作った(画像提供:高久さん)Adobe Illustratorでイラストを起こして1枚もののステッカーを作った(画像提供:高久さん)

 1枚もののステッカーを出力してディスクホイールに貼るのがメーンと言っても、やはり手間はかかっている。イラストだって、スキャンして引き延ばしているわけではない。元になるイラストはもちろんあるが、それを見ながらAdobe Illustratorでイチから起こしている。

 「痛自転車の面白いところは“もったいないところ”でもあります。コルナゴのCLXにコリマのディスクホイール、スピナジーのバトンホイール……なんでそれでやるのかなあ!っていうところですね。もちろん、手間をかけて作ったものを自慢したいという気持ちは、あります(笑)。人と違うものが作れたら面白いなと思っています」

 このあたりはプラモデルと同じで、元は既製品でも、どれだけ人と違ったものが作れるか。それは、どれだけ手間を注入できるか、ということでもある。そうして出来上がった「キュアサンシャイン号」は、ご覧のとおりの完成度の高さだ。

目を見張る完成度のキュアサンシャイン号目を見張る完成度のキュアサンシャイン号

 ここで高久さんが、あるものを取り出した。箱の中からパラパラと出てくるのは模型、いわゆるガレージキットなのだが、よく見ればコルナゴ・CLXではないか。しかも、リアはディスクホイール、フロントはバトンホイール……ということは!?

 「キュアサンシャイン号が、ガレージキットになってですね……」

 これまでもロードバイクのガレージキットを手がけてきた「SNRC」の那珂川さんが、キュアサンシャイン号をキット化してしまったのだ。キュアサンシャイン号の大人げない本気度は、思わぬところへ波及していた。

ガレージキットになったキュアサンシャイン号ガレージキットになったキュアサンシャイン号
チェーンなどはエッチングで再現チェーンなどはエッチングで再現
完成するとこうなる!(製作:SNRC 撮影:高久さん)完成するとこうなる!(製作:SNRC 撮影:高久さん)

もう少しラフに扱える自転車が欲しい!

 大変身を遂げ、誰からも注目されるようになった高久さんのCLXだが、悩みもできた。

 「今でもこのCLXで通勤をしています。ディスクホイールなので、ゴリゴリ、ガコンガコンと音を立てながら走っているのですが、やはり横風には弱いですし、トラックが横に来ると、吸われるような感覚になるので、いつも気をつけながら乗っています。また、それまで以上に盗難が怖いと思うようになりました。こうして話している今も、実は(インタビューをしている店の)店先に置いた自転車が気になってしかたがありません(笑)」

 もちろんディスクホイール以外のホイールも用意してあるのだが、今はもう少しラフに使える自転車が欲しい、と高久さん。

 「LOOKやTIMEの最新モデルもかっこいいなと思うのですが、いちばん欲しいのは29erのMTB。多少重たくても、頑丈で、街中である程度ラフに乗っても大丈夫な1台が欲しいですね」

 確かにそういう自転車が1台あったほうが便利ですよね…と相づちを打ちつつも、いつまでも「キュアサンシャインのディスクホイールをゴリゴリ言わせている高久さん」でいてほしいような気もした。

勤務先:株式会社アートボックス「月刊モデルグラフィックス」編集部
通勤ルート:都立大学〜大手町、往復30km
使用している自転車:コルナゴ・CLX
自転車通勤のここが○:電車と違って乗り換え不要で寄り道も自由

月刊モデルグラフィックス(株式会社アートボックス)
http://www.modelkasten.com/magazine/mg/

ガレージキットの作者「SNRC」のWebサイト
http://sakuranrc.blog47.fc2.com

TEXT&PHOTO BY Gen SUGAI

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