「チーム・トーゲ」アフターレポート<1>【田代恭崇のオートルート・アルプス】先頭集団にくらいつき、本気でレースに臨んだ7日間

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アルプス山脈を舞台に、8月18~24日に開催されたアマチュア・山岳ステージレース「オートルート・アルプス」。日本からは「チーム・トーゲ・ジャパン」が出場し、7日間の過酷なレースを乗り切って3人全員が完走した。その1人ずつにスポットを当て、オートルートへの挑戦を振り返る。第1回は田代恭崇さん。

第6ステージで快走する田代恭崇さん ©Minoru OMAE第6ステージで快走する田代恭崇さん ©Minoru OMAE

◇           ◇

 現役ロードレース選手時代はチーム ブリヂストン・アンカーに所属し、アテネ五輪に出場したほか、全日本選手権を2度制覇するなど輝かしい戦績を残した田代恭崇。2007年シーズン限りで引退し、それから5年間はまともにロードバイクに乗っていなかったという。今年1月、オートルート・アルプス出場のためにトレーニングを再開した時には、周囲にどんなにあおられても「僕は完走目的です」と笑ってかわした。

 しかし、すき間時間にマメに練習を重ね、あっという間に現役時代の勘を取り戻してしまった。ジュネーヴへ向けて出発する直前には、「行けるところは、行きます」ときっぱり断言するほど、心も体も順調に仕上げてきた。

 

スタート前:湖畔を散策してリラックスに集中

アジア・オセアニアのツアーメンバーと食事をともにした ©Team TAUGE Japanアジア・オセアニアのツアーメンバーと食事をともにした ©Team TAUGE Japan

 スタート地点のジュネーヴに到着早々、愛車のリアエンドがゆがむという不運に見舞われた。しかし田代は終始リラックスしていた。もしかすると、リラックスすることに集中していたのかもしれない。早朝にレマン湖のほとりを散歩したり、広場のマルシェをのぞいたり。

 アジア・オセアニアのツアーメンバーとの食事の場では、いつもさっとオーダーが決まる。「僕はこれで休みます」と、席を立つタイミングも、自分で決めていた。

 

ステージ1:補給所で叫んだ「水を入れてくれ!」

    <8月18日 ジュネーヴ→メジェーヴ 距離153km/獲得標高3300m>
急いで補給するが、集団に置いて行かれてしまった ©Minoru OMAE急いで補給するが、集団に置いて行かれてしまった ©Minoru OMAE

 いよいよオートルート・アルプス開幕。前年度覇者のフランスMTBチャンピオン、ピーター・プーリーが率いる集団に「ついていく」という宣言通り、2番目のジュ・プラン峠までは第2集団にいた。

 峠の頂上に設置された補給ポイントでスタッフが待ち構えていると、ものすごい形相で駆け寄ってきてボトルを差し出し「ド・ロー! ド・ロー!(水を入れてくれ!)」と叫ぶ(集団内の会話がフランス語だったのだろうか)。滞在20秒。あっという間に走り去る。

 あとで聞くと、ニコニコしながら「集団の誰も補給所に寄らないんですよ。焦りました。先頭はちゃんとレースをしてる。(優勝した)ピーターは一度も停まることなく、チームサポートがサコッシュを渡してました」と。20秒の停車で集団に置いて行かれ、単独になるとスピードは維持できない。最後の峠は時速8km程度しか出なかった。この日の順位は19位。

 

ステージ2:総合12位へ躍進、ツアーのメンバーが乾杯!

    <8月19日 メジェーヴ→ヴァル・ディゼール 距離111km/獲得標高3500m>
作戦が見事に当たり、10位でゴール ©Minoru OMAE作戦が見事に当たり、10位でゴール ©Minoru OMAE

 前日のタイムロスから田代が考えたのは「出発時にできるだけ補給食をポケットに詰め込んで、できる限り補給ポイントに寄らない」という作戦。これが当たり、このステージの順位は10位、総合で12位と大きく前進。

 ディナーの時には同じツアーのメンバーが田代の健闘をたたえグラスを捧げて乾杯した。しかしその一方、下りでも踏みまくって先頭集団についていかなければならないため、疲労がたまり始めていた。
 

ステージ3:“新星”の活躍に海外メディアも注目

    <8月20日 ヴァル・ディゼール→セル・シュヴァリエ 距離164km/獲得標高3400m>

 スタートの1級山岳コル・ド・イズラン、第2集団を率いてさっそうと現れ6位で通過。アンカーでの現役時代からずっと田代を撮り続けてきたカメラマンの大前稔は「田代っちは、すごいんだよ」とうなずいた。

 最高にいいポジションで写真を撮影するため、大前が「明日この峠で待ってるから、集団の一番前に出てきてくれ」と指示を出すと、現役時代同様、指示通りに走ってきた。元プロのすごみだ。

寒さに苦しんだステージだったが、堂々とした姿でゴールした ©Minoru OMAE寒さに苦しんだステージだったが、堂々とした姿でゴールした ©Minoru OMAE
注目度が高く、海外メディアが取材に訪れた ©Minoru OMAE注目度が高く、海外メディアが取材に訪れた ©Minoru OMAE

 しかしこの日は気温が低く、零下の峠を下って順位を落とし、最後は31位でゴール。総合18位に後退した。オートルート・アルプスのトップグループに現れた新星に、海外メディアの取材が入った。
 

ステージ4:疲労が蓄積し大きく後退 「狙える身体はなくなった…」

    <8月21日 セル・シュヴァリエ→プラ・ループ 距離119km/獲得標高3000m>
コンディションを崩し、厳しいステージになった ©Minoru OMAEコンディションを崩し、厳しいステージになった ©Minoru OMAE

 最初の1級山岳コル・ディゾールに田代はなかなか現れなかった。峠を通過したのは19位。笑顔はなかった。

 実は前日あまりにたまった疲労を抜こうと受けたマッサージで一気にリンパの詰まりが流れたようで、朝食に現れたときの田代の顔はアンパンマンのようにむくんでいた。第4ステージは62位でフィニッシュ、総合は23位まで後退。

 田代はこの夜、自分のFacebookに「成績を狙える身体はもうなくなりました。身体はつらいけど気持ちは楽になりました。後は楽しむのみです」とまで書いた。

ステージ5:日本から応援に駆けつけた父の前で快走

    <8月22日 シム・ド・ラ・ボネ(個人タイムトライアル) 距離23km/獲得標高1562m>

 前日までの総合順位が低い順からスタートするため、田代のスタートはこの日12時過ぎだった。よく休めたのが功を奏したのだろうか。はるばる日本から父が応援に駆けつけたからだろうか。もともとヒルクライム寄りのオールラウンダーで上りが得意な田代だが、ゴール前の激坂を前日とはまるで別人のようにパワフルなダンシングで駆け上ってきた。

日本から父親が応援に駆けつけた日本から父親が応援に駆けつけた
峠の名が記されたキーホルダーに笑顔 ©Team TAUGE Japan峠の名が記されたキーホルダーに笑顔 ©Team TAUGE Japan

 結果、ステージ7位、総合20位まで躍進した。このステージで登場したボネ峠のキーホルダーをツアードライバーのジョーにプレゼントされ、満面の笑み。
 

ステージ6:1級山岳をトップで通過 コメのおむすびでパワーアップ

    <8月23日 プラ・ループ→オーロン 距離143km/獲得標高3800m>

 確実に、体のキレが戻った。最初の1級山岳カイユー峠、田代はなんと先頭で現れた。前年度王者のピーター・プーリーは田代に遅れをとっていた。

田代の愛車「アンカーRL8」。このバイクで過酷な山岳ステージレースを走りきった田代の愛車「アンカーRL8」。このバイクで過酷な山岳ステージレースを走りきった
最初の峠では先頭通過する好走を見せた ©Minoru OMAE最初の峠では先頭通過する好走を見せた ©Minoru OMAE

 田代は朝、補給・リカバリー食用のおむすびを4つないしは6つ受け取って、誰よりも早く愛車アンカーRL8の整備をして出かける。メカニックがいたプロ時代とは違い、すべて自分でやらなければならない。ちなみにおむすびの中身は必ず梅干し。そして実山椒やかつお昆布など、変わり種が1つ。食事は基本的にコンチネンタル料理だから、コメを食べながら体のリズムを作っていたのだろうか。このステージは10位、総合18位。
 

ステージ7:コース誘導ミスで後退も…チーム全員揃ってゴール

    <8月24日 オーロン→ニース 距離169km/獲得標高2900m>
ツアー仲間との記念撮影では人気者ツアー仲間との記念撮影では人気者

 7日間寝食を共にしたツアーの仲間は誰しも「めちゃ速い」、「自転車に乗せたら凶器に変わる」と言い、田代と記念写真を撮りたがった。和気あいあいの雰囲気だったが、「ニースに嵐が来るからコースが大幅短縮。スタート前倒し。計測地点は最後の3級山岳コル・ド・ヴェンスのみ、42㎞」という変更が、前夜に発表された。この時点で、田代は狙っていた。

 だが、コース誘導係員の間違いで大幅なタイムロス、という驚きのアクシデント。ステージ196位というありえない順位でフィニッシュ。コースが短かったため総合順位は19位と影響は少なかったが…。

 しかし「いやあ、ショックですよ」と言いながらも「でも間違えたおかげで、チームのみんなと最後一緒に走れたからよかったです」と満面の笑みを浮かべた。いい笑顔だった。

満面の笑みで全てのレースを終えたチーム・トーゲ・ジャパン ©Minoru OMAE満面の笑みで全てのレースを終えたチーム・トーゲ・ジャパン ©Minoru OMAE

=敬称略

(レポート・Team TAUGE Japanマネージャー 山本祥子)


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