劇的な加速がもたらす興奮と醍醐味日本初! 高さ8mのBMXスタートヒル完成 栗瀬裕太さんが手作りで築いた世界規格のコースを披露

by 中村浩一郎 / Koichiro NAKAMURA
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 山梨県の八ヶ岳山麓に造られているBMXコース「YBP」に、高さ8mの巨大なスタートヒル(スタート台)が建設された。UCI(国際自転車競技連合)の近年のコース運用に準じた、日本初の国際規格のBMXスタートヒルだ。8月31日、その完成披露イベントが開催され、日本を代表するBMXレーサーたちが集結。現在のBMXシーンの世界標準とも言える劇的なスピードや上空を舞うようなジャンプを、スタートヒルの建設資金を提供した“パトロン”でもある観客たちに披露した。

(文・写真 中村浩一郎) 

今回完成したコース「YBP」の代表であり、中心人物である栗瀬裕太さん。「いまは、今後に向けた緊張感で一杯です」 今回完成したコース「YBP」の代表であり、中心人物である栗瀬裕太さん。「いまは、今後に向けた緊張感で一杯です」

クラウドファンディングで資金を準備

右奥が、クラウドファンディングによる資金で完成した、UCIレースと同じ規格をもつBMXスタートヒル。直後に10m級のジャンプが続く右奥が、クラウドファンディングによる資金で完成した、UCIレースと同じ規格をもつBMXスタートヒル。直後に10m級のジャンプが続く
いよいよスタートヒルがオープン。栗瀬さんを応援してきた人々を代表する方が、念願のテープカットを行ったいよいよスタートヒルがオープン。栗瀬さんを応援してきた人々を代表する方が、念願のテープカットを行った

 このスタートヒルを建設したのは、現役BMX・MTBレーサーの栗瀬裕太さん。競技活動を続けつつ、自転車動画サイト「シクロチャンネル」でBMX・MTB専門シリーズ番組「ダートバイク チャンネル」の司会をつとめ、コース造りのプロとしても活躍してきたダート自転車界のマルチな才能だ。

 栗瀬さんは、自身が造っているBMX練習コースのYBPにスタートヒルを築くため、「クラウドファンディング」と呼ばれるネットでの寄金プログラムを活用。1カ月ほどで250万円以上の資金を集めた。その話題性もあって、今回のYBP・8mBMXスタートヒル完成披露イベントには多くの人々が集まった。

 このコースが完成したことの意義を理解するには、彼がなぜ個人としてスタートヒル建設に取り組んできたのか、そしてこれから何をなすべきかを知る必要がある。以下、スタートヒル建設の背景と将来展望についてお伝えしていこう。

わずか2秒で60km/hにまで加速

 ネットの映像配信が一般的となり、日本でも世界レベルの自転車レースを動画で見られる機会が増えている。自転車レースを統括する国際競技団体のUCIも、映像視聴者のことを考えているのか、よりダイナミックなレースが展開されるようにさまざまなルール改訂を行ってきた。自転車レースは時代に合わせて進化を続けているのである。

 その進化が顕著なのがBMX競技である。8人が同時にスタートし、トーナメント方式で順位を競う基本フォーマットは変わりないが、そのコースというかレース展開自体は、もはや空中戦という言葉がふさわしい。距離にすると10mはあろうかというジャンプがいくつも現れ、ライダーたちはフワリ、フワリと飛んでいく。

トップライダーによるデモ走行で、先陣を切って走った栗瀬さん。この距離感と浮遊感が世界標準トップライダーによるデモ走行で、先陣を切って走った栗瀬さん。この距離感と浮遊感が世界標準
スタート地点からの眺め。角度にして45度という急斜面を、レーサーたちは全速力で駆け下りる。2秒で時速60kmに達するというスタート地点からの眺め。角度にして45度という急斜面を、レーサーたちは全速力で駆け下りる。2秒で時速60kmに達するという

 そんな巨大なジャンプを実現するスピードを生み出すのが、高さ8mのスタートヒルだ。ビルの3階ほどの高さから一気に駆け下りるエネルギーは、レーサーをわずか2秒で時速60kmにまで加速させる。

 2006年あたりから、UCIはこのコースフォーマットをBMXレースの標準とした。昨年のロンドンオリンピックでBMX競技をご覧になった方なら、その“非現実的な”スピードと距離感、そして浮遊感を目の当たりにしたことだろう。現在のBMXレースの興奮と醍醐味は、この高さ8mのスタートヒルがもたらす劇的な加速感を抜きには、決して実現できないのである。

世界レベルの選手を増やすために

世界標準を知るトップライダーであり、後進の育成にも力を注ぐ三瓶将廣さん。「これでやっと世界と同等の練習が可能になりました」世界標準を知るトップライダーであり、後進の育成にも力を注ぐ三瓶将廣さん。「これでやっと世界と同等の練習が可能になりました」

 だが日本には、こうした立派なスタートヒルを持ち、10m級のジャンプが次々に現れるコースがこれまでなかった。日本のBMXレーサーたちは、ジャンプやコーナーをこなす技術面で世界と対等のレベルにまで向上してきたが、最近の世界標準コースについては、海外を転戦するトップクラスの精鋭たちでなければ走ったことすらないのが実情だ。

 日本のトップクラスの1人として活躍してきた三瓶将廣選手は、こう述べている。

 「日本でだけ練習を積んできたライダーは、まず8mのスタートヒルに慣れることが大変。スタートヒルやコースを走れるのは、レース前日の1時間と、当日の30分だけ。初めてであれば、この高さに立っただけで足がすくんで、自分の力を満足に出すこともできない」

 自身もBMXレーサーである栗瀬さんは、そんな状況をなんとかしたいと考えた。

下り基調のコースには、いくつも10mレベルのジャンプ、そして巨大なコーナーが続く。これら全ては栗瀬さんの手によるものだ下り基調のコースには、いくつも10mレベルのジャンプ、そして巨大なコーナーが続く。これら全ては栗瀬さんの手によるものだ

 彼は「ダートシーンを盛り上げたい」という気持ちを、BMX・MTB専門番組「ダートバイク チャンネル」の司会として表現してきた。その気持ちを具現化するには、オリンピックなど世界的レースで活躍できる選手を増やすのが近道だとも考えた。

 もともと栗瀬さんは、国内MTBダウンヒル競技のメッカといわれる富士見パノラマリゾート(長野県富士見町)でコース造りに携わってきた。その技術を使って自分の想いを実現する取り組みが、BMXトレーニング・コースプロジェクトのYBPである。

自ら土地を借り、森を切り開いて築いたYBP

 栗瀬さんはたった1人で、長野県の八ヶ岳山麓に土地を借り、森を切り開き、パワーシャベルを操縦し、世界標準である巨大なジャンプやバーム(角度の付いたコーナー)を造り始めた。こうしてYBPのコースは2年ほどの期間をかけて少しずつ形になり、栗瀬さんの純粋な想いは地元の方々にも通じていった。行政に口をきいてもらったり、機材の協力を得たりと、さまざまな協力を得ながら、土で造れる箇所は大まかに完成、あとはスタートヒルの建設を待つという段階を迎えていた。

スタート地点を下から眺めると、その高さを実感できる。まずはこの高さを自分のものにすることが、世界のBMXシーンへ参戦する切符となるスタート地点を下から眺めると、その高さを実感できる。まずはこの高さを自分のものにすることが、世界のBMXシーンへ参戦する切符となる
番組制作を通し栗瀬さんの想いを後押しした中心人物の一人、「シクロチャンネル」ディレクターの継松彰宏さん番組制作を通し栗瀬さんの想いを後押しした中心人物の一人、「シクロチャンネル」ディレクターの継松彰宏さん

 栗瀬さんの番組「ダートバイクチャンネル」でディレクターを務めるシクロチャンネルの継松彰宏さんは、栗瀬さんの行動を、まずは番組企画という視点で撮影・配信してきた。栗瀬さんの想いが形になっていくなかで、継松さん自身もこのプロジェクトにどう貢献できるか考えた。その2人の想いを加速させたのが、シクロチャンネルのコンテンツマネージャー、佐藤奨さんだ。クラウドファンディングという新たなアイデアを提供し、ライダーである栗瀬さん、メディアである継松さん、そしてファンドを担当する佐藤さんというチームを結成。スタートヒル建設資金の出資を受けることに成功し、ついに8月31日、協力者へコースを公開できるまでに至った。

課題はコースの維持 運営計画はこれから

日本BMX界を代表するレーサー11人が集結し、華麗かつダイナミックなライディングを披露した日本BMX界を代表するレーサー11人が集結し、華麗かつダイナミックなライディングを披露した

 スタートヒルの完成披露イベントには日本のトップライダー11人が集まり、驚異的な走りをみせて観客の歓声を浴びていた。

 今後、栗瀬さんはこのコースの維持を目的とした活動を行い、世界レベルを目指すレーサーに練習をしてもらえるようなシステムを作りたいと考えている。また、三瓶選手がJBMXF(日本BMX協会)の公認のもとで立ち上げた、BMXの普及・選手育成プロジェクト「システマチックBMX」と連携し、ジュニアクラスのレベルアップを目的としたスクールなども積極的に開催していきたいという。

 「このスタートヒルが完成して、もっと自分は感動するかと思っていたけれども、実際にこの日を迎えてみると、むしろ今後に向けた緊張感でいっぱいです。このコースを維持していくために必要なフォーマットを造ること。それが今度の課題です」と栗瀬さん。その言葉通り、イベント開催時点では、コースの具体的な運営計画はまだ示されていない。

大事なのはコースの存在を知ってもらうこと

 しかしまず行うべきことは、「このコースが実在するという事実を、番組を通して配信し、より多くの方に知ってもらうこと」(継松さん)であるという。

 7月28日に行われたBMX世界選手権では、日本人で初めてエリート男子の決勝ヒートに進出した長迫吉拓選手が、7位という日本人史上最高位を獲得した。栗瀬さんの想いは、願いを超えた未来予想図となって、実現しつつあるのだ。

スタートヒル完成披露イベントには、クラウドファンディングに協力した“パトロン”を中心に多くの方が祝福に駆けつけ、BBQに舌鼓を打ったスタートヒル完成披露イベントには、クラウドファンディングに協力した“パトロン”を中心に多くの方が祝福に駆けつけ、BBQに舌鼓を打った

 栗瀬さんと継松さんの二人三脚を中心に催された8mスタートヒルの完成イベント。このコースの存在をなんらかの形で広めていくことが、栗瀬さんが次のステップに進むために必要な作業であり、それにはわれわれも力になることができる。もし皆さんのご子息がBMXレースでの活躍を目指しているなら、システマチックBMXに代表されるスクーリングがこのコースで開催される機会に、ぜひとも参加を検討していただきたい。

 また、われわれ一般人がこの世界レベルのコースを走ることは根本的に無理だが、コースの一部を利用して、一般のMTB・BMXライダーも走れるようアレンジしたイベント「八ヶ岳カップ」の開催が9月29日に予定されている。BMX世界標準の巨大さをその眼で感じるのには、うってつけの参加型イベントだ。

 栗瀬さんが2年に渡って進めてきた壮大なプロジェクトは、スタートヒルと世界レベルのコースの完成によって文字通り“スタート”を迎えた。そのことを祝福し、今後の栗瀬さんの活躍とコースの発展を大いに期待したい。


【映像提供:シクロチャンネル】 

YBP Project(facebookページ)
栗瀬裕太オフィシャルサイト
八ヶ岳カップ 参加申し込みサイト
Dirt Bike CHANNEL(シクロチャンネル内)

 

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