最高標高は約3700mの難コース池田祐樹さんが挑んだ北米最大のMTBマラソンレース「レッドヴィル・トレイル100」 自己最高記録を更新

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 MTB競技で国内外の耐久や長距離レース(マラソン)に挑んでいる池田祐樹さんが8月10日、北米最大のマウンテンバイク(MTB)マラソンレース「レッドヴィル・トレイル100」に出場。コース上の最高標高は約3700mと富士山の山頂並みで、ワールドクラスの選手も出場する世界トップレベルのレースだ。自身7回目となる挑戦を、池田さんにレポートしてもらった。

◇      ◇

標高3094mの街からスタート

 レッドヴィル・トレイル100は、言わずと知れた北米最大のMTBマラソンレース。参加権を得るだけでも難易度が高いことで有名だ。参加資格を得る方法は、指定選考レースでの上位入賞か抽選の二通りとなる。抽選は倍率が10倍にもなるほどの人気ぶりだ。北米最高標高の町“レッドヴィル”(3094m)がスタート・フィニッシュ地点となり、総距離160km、獲得標高3400m、コース上の最高地点は森林限界を優に超える約3700mというモンスターコース。年々レベルが上がり、今では世界トップレベルのレースとなっている。

「レッドヴィル・トレイル100」を疾走する池田祐樹選手 ©Linda Guerrette「レッドヴィル・トレイル100」を疾走する池田祐樹選手 ©Linda Guerrette

 今年も例外ではなく、MTBマラソン世界選手権覇者、クリストフ・ザウザー選手(スイス、スペシャライズド・レーシング)と準優勝のアルバン・ラカタ選手(オーストリア、トピーク・エルゴン・レーシング)が優勝争いの筆頭となり、コースレコードが生まれるかが注目された。

 大会は今年で20周年を迎え、私にとっては7回目の挑戦となる。世界選手権に続き、ワールドクラスのライダー達に挑戦できるチャンスをここアメリカの地で再び得たことに、興奮せずにいられない。早く今の自分の力をぶつけたい、そして試したいという欲求に駆られた。

コースに設置された案内標識 ©Linda Guerretteコースに設置された案内標識 ©Linda Guerrette
スタート地点に集まった選手たちスタート地点に集まった選手たち

まったく読めない天候 気持ちがたかぶるスタート

スタート前。気温はひと桁前半だが、会場は熱気に包まれたスタート前。気温はひと桁前半だが、会場は熱気に包まれた

 8月10日午前6時半、スタート会場は二千数百名のライダーと無数の観客が発する熱気で溢れていた。気温はひと桁前半だが、そんなことは関係ないくらいの熱い雰囲気に包まれていた。レッドヴィルの天候は、高すぎる標高のせいで全く読めない。雪が降る可能性もあれば、日中は灼熱にもなる。前週のコース試走ではヒョウに降られたほどだ。天候も含めてレース準備を行うことが重要になってくる。

スタート前、武井亨介選手(白いジャージ)とともに記念撮影スタート前、武井亨介選手(白いジャージ)とともに記念撮影

 目の前には世界チャンピオンが並び、スタートのカウントダウンが始まる。今回は、日本からもう1人の心強いチャレンジャー、武井亨介選手もいる。アジア人の力を魅せつけたい。2人でそう誓い合い、スタートラインに立った。かつてないほどにたかぶる自分がいる。

 ライフルの号砲と共に、ついに160kmの挑戦が始まった。先導車が消え、未舗装路に入るとまた一段スピードが上がり、気を抜くと一瞬で置いて行かれるような緊張感が張りつめる。

険しい登坂路。酸素が薄い中で踏み続けなければならない険しい登坂路。酸素が薄い中で踏み続けなければならない

 最初の上りで、すでに限界を超える一歩手前で追い込んでいる自分がいる。とにかくきつい。心肺機能が悲鳴を上げ、筋肉は乳酸でいっぱいいっぱいだ。3000mを超える標高の影響で頭がグラグラしてハンドリングもおぼつかなくなる。

 なんとかしがみ付きながら2つ目の上りを迎え、20~30番あたりで耐えながら上る。ここで武井選手に追いつき、励まし合いながら3人のパックを形成してパワーラインの下りへ突入。

つかの間の舗装路。しかし気をゆるめることなく、パックを形成して高速で走行した ©Linda Guerretteつかの間の舗装路。しかし気をゆるめることなく、パックを形成して高速で走行した ©Linda Guerrette

 3人の息がぴったり合い、神経が研ぎ澄まされて、次から次へと前のライダーをごぼう抜きする。ここで一気にトップ15のパックまで追いつき、平坦セクションへ。ようやく身体が温まり始めてローテーションを回してひたすら前を追う。前へ、前へ。それしか頭の中にはない。

2000人を超えるレーサー達とすれ違い、励まし合う

 第1エイドステーション「パイプライン」で、レース中のサポートを務めてくれたジェフからボトル補給を受け取る。応援の掛け声ももらい、元気が身体からわき出てくる。積極的に前を引き、次のエイドステーション「ツインレイクス」を目指す。ツインレイクスのエイドステーションは巨大で1km以上あり、お祭り騒ぎとなっている。ものすごい歓声を受けてさらにエネルギーをもらう。スピードをほぼ緩めることなく、サポーターから補給を完璧に受け取った。最高のサポート体制だ。


 ここから一気に約1時間かけて登り、標高3700mの折り返し地点「コロンバイン・マイン」へと向かう。上りの中盤でグループのペースがだんだんときつくなり、必死に踏みなおすが徐々に遅れ始めてしまう。

 森林限界を超え、斜度もきつくなり、フラフラと耐えるだけの展開になってしまった。トップの選手が折り返してきてすれ違う。悔しい気持ちをバネにしてペダルに再び力を込める。武井選手が折り返してきて、お互いに励ましの声を交わし士気を上げる。

 ついに折り返し地点に到着。しかし、ここでまだ半分。レッドヴィルへの復路が本当の勝負だ。1時間以上かけた上りも30分かからないで下る。下りの最中には2000人を超えるレーサー達とすれ違う。たくさんの励ましの声をかけ合い、お互いにエネルギーを与え合う。他のレーサー達とこんなにもコンタクトできることもこのレースの魅力だ。

斜度20~30%、砂で滑る路面…でも降りたら負け


 ここで13位。ひと桁が見えるか!?と思えたあたりで前半のオーバーペースがボディーブローのように効いてきた。120km以上全力で乗ってきたところで、コース最大の難所、パワーラインの上りを迎える。斜度20~30%、砂で滑る路面が続くかなり厳しい登板セクションだ。

 ケイデンスは止まりそうなほど遅くなり、震えがくるほどに筋肉に限界が来ている。それでも上る。足を地面につけたらどんなに楽だろう。辛すぎる。しかし、降りたら負けだ。一生後悔する。そんな葛藤を心の中で繰り返しながらも足を動かし続けた。パワーラインの上りで何人に抜かれただろうか。悔しすぎるが、反応するエネルギーは一切残されていなかった。

©Linda Guerrette©Linda Guerrette

 地獄の様な上りを終え、つかの間の下りで体力の回復を試みるが呼吸も整わず、足の重さも消えない。舗装路の長い上りでも、また数人に抜かれてしまう。酸欠になりながらも付いて行こうとするが、すぐに離されてしまった。心身ともに崩壊ギリギリのラインにいた。

 頂上にある最後のフィードで、サポーターから「今21番!あと1人抜かせばTOP20!抜かせー!」と喝を入れられた。この言葉のおかげで再び気合いが注入された。ここでやらなければ絶対に後悔する。どんなに苦しくてもやるしかない。

 下りでの集中力を限界まで研ぎ澄ませる。こぐところでは今までやってきたトレーニングを意識。絶対できる。自己催眠のように心の中で何度もつぶやいた。

 最後2マイルのサインでついに前のライダーをキャッチ。相手も相当疲弊し、足が攣っているように見える。着いてこられないように、一呼吸置いてスピードをつけて一気にパス!そこから先はフィニッシュまで振り返らずに、持てる力を出し尽くした。

自己最高記録でフィニッシュ!

7時間9分37秒の自己最高記録でフィニッシュ! レッドカーペットが見えると涙が出そうになった7時間9分37秒の自己最高記録でフィニッシュ! レッドカーペットが見えると涙が出そうになった

 ついにフィニッシュゲートとレッドカーペットが見えた。感動のあまり涙が出そうになるが、最後まで気を抜かずに踏み続け、フィニッシュラインを通過した。自己最高記録を更新して7時間9分37秒。20位でフィニッシュ。

 目標のひと桁順位は叶わなかったが、成長できている自分を認識した。トップとの差も微々たるものだが少しずつ詰めている。まだまだやれる。そして、もっと上のライダー達とレベルの高いレースをしたい。フィニッシュした瞬間からすでに心は前を向き始めている。来年は再び自分を超え、目標であるいと桁フィニッシュを必ず叶えてみせる。

 トピーク・エルゴン・レーシングのチームメート、ラカタ選手とサリー・ビッグハム選手(イギリス)が男女共にコースレコードを樹立して完全優勝。本当におめでとう。中盤まで共に戦い、アジア人史上最高位の6位という快挙を成し遂げた武井選手も、心から祝福したい。

アジア人史上最高位の6位でゴールした武井亨介選手(左)と健闘をたたえあう池田祐樹さんアジア人史上最高位の6位でゴールした武井亨介選手(左)と健闘をたたえあう池田祐樹さん
12時間の制限時間内レース完走者全員に贈られるフィニッシャーメダル12時間の制限時間内レース完走者全員に贈られるフィニッシャーメダル

 12時間の制限時間内レース完走者全員にフィニッシャーメダル、ベルトバックル、名前とタイムが入ったジャケットが贈呈される。9時間以内フィニッシャーには特大ベルトバックルが与えられる。このアイテムを手にするために参加しているライダーがほとんどだ。さらに、10回完走すると名前が刻印された超特大1000マイルバックルがゲットできる。私はそれを目指し、今回で7回目。あと、3回!ようやくゴールが見えてきた!

 最後に、機会を与えてくださったスポンサーの皆様、レース中に完璧なサポートをしてくれた清子、マナオ君、ジェフ、応援してくれたすべての人たちに感謝したい。本当にありがとう。

レッドヴィル・トレイル100 MTBレース
場所:アメリカ・コロラド州・レッドヴィル
日時:2013年8月10日
コースコンディション:晴れ
レース距離:160キロ
大会ウェブサイト:http://www.leadvilleraceseries.com/
 
■池田祐樹リザルト
順位:20位(12時間制限時間内完走者1286名)
タイム:7時間9分37秒

池田祐樹池田 祐樹(いけだ・ゆうき)
MTB競技で国内外の耐久や長距離レース(マラソン)に挑戦しているライダー、かつコーチ。2012年は、国内では希少なMTBマラソン「セルフディスカバリーアドベンチャー・大滝」を春・秋と制し、「キング・オブ・王滝」の称号を獲得。また、日本人初の米国自転車連盟認定コーチとして、小野寺健(TEAM SPECIALIZED)のパーソナルコーチとなっている。トピーク・エルゴンレーシングチーム所属。東京都在住。ブログ「Yuki’s Mountainbike Life

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