じてつう物語<16>「通勤がメーン」の自転車ライフ OVE南青山・店長 北敏さん

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 東京・南青山にある「ライフ・クリエーション・スペース OVE」は、あのシマノが運営する不思議な空間だ。自転車のある生活を提案するカフェと説明されることが多いと思うが、自転車色は極めて薄く、生活のそばに自転車もある…といった程度。基本はカフェであり、ときにはライブや料理教室などさまざまなイベントも行われる。そんなOVEで店長を務める北敏さん(47)は、ホテル業界出身だ。OVEに関わるまでは自転車とはまったく縁のない人生だったが、今では片道22kmを自転車通勤している。しかしよくよくお話を伺ってみると、今までの登場人物とはちょっと異なる気持ちで自転車に乗っているようで…。

OVE南青山の北敏店長(47)。始業前にはタオルで汗をふきユニフォームに着替えるOVE南青山の北敏店長(47)。始業前にはタオルで汗をふきユニフォームに着替える

周りにうながされるようにはじめた自転車通勤

 お仕事中にわざわざ時間を割いていただき、OVE南青山の北店長にお会いした。OVEの運営会社はシマノであり、店内にもそれとなく自転車が置いてあるけれど、そこに自転車業界らしさはまったく感じられない。北さんの落ち着いたたたずまいも、「らしくない」感じに拍車をかけている。

 「もともとはホテルで働いていました。その後、自分でレストランバーをやったりしていたのですが、縁があって声をかけていただいたんです。それまで自転車とはまったく縁が無かったですし、自転車で20km以上の距離を走るなんて、どうかしている…と思っていました」

 そう話す北さんに、自転車を勧めたのは前任のマネージャー。いくらOVEが自転車業界らしくないスペースと言っても、やはり自転車の魅力を伝える場所であることには間違いないし、「散走」と名付けたサイクリングイベントも行っている。マネージャーの「どうせなら、いい自転車に乗ってみて」という声に押され、マウンテンバイクを見繕ってもらったのがきっかけだ。

 「OVEで自転車を受け取って、(横浜市)都筑区の自宅まで1時間半ほどかけて乗って帰ったんです。自転車もいいなとは思ったのは確かなんですが、足がつってしまって。それまでランニングをやっていて、1時間半の運動で足がつることなんてなかったので、びっくりしてしまいました。それでも“本当に自転車乗ってるの?”と言われるのも嫌ですし、とりあえず毎日通勤で乗ることに決めました(笑)」

 つまり、職場で周りにうながされるように自転車通勤を始めた北さん。とはいえ、実際に始めてみると意外な発見があった。

現在の愛車は、使い込まれたマウンテンバイク。片道22kmを通勤する現在の愛車は、使い込まれたマウンテンバイク。片道22kmを通勤する
他の自転車などと絡むようなことが無いようにと、ハンドル幅は切り詰めた他の自転車などと絡むようなことが無いようにと、ハンドル幅は切り詰めた

自転車通勤で田園都市線の混雑から解放される

 「都筑区の自宅から南青山のOVEまで自転車で通っても、ドア・ツー・ドアでは電車と比べてさして時間がかかるわけではないと知りました。それまでは東急田園都市線で通っていたのですが、自宅から最寄り駅まで歩いて、そこから電車に乗り、そして表参道の駅からOVEまで歩いても1時間はかかります。一方で246(国道246号)経由で自転車通勤すると、距離は23km、時間にして1時間20分くらい。田園都市線は朝も夜も混雑しますから、それに比べればずっといいなと思いました」

 北さんが「自転車のほうがずっといい」と思った理由は、それだけではなかった。

 「マネージャーからは、OVEのブログも書きなさい、と言われ、その題材用にとデジタルカメラまで渡されました。そして実際に意識して自転車に乗ってみると、四季折々の街の風景の違いに気がつくようになったんです。そしてもうひとつ、パソコンにデータをダウンロードできる心拍計も使ってみました。身体を動かすことは好きなので、毎日のデータを見るのも面白かったのです。そういった複数の楽しみがあったことで、自転車通勤が習慣になったと言えますね」

 それでは、自転車通勤をきっかけに、さぞかし自転車にハマッたのだろう…と思って伺ってみると、意外な答えが。

 「実は、通勤以外ではそれほど自転車には乗りません。とくに、片道20km以上の距離を走るなんて、通勤だけ。自転車を2台持っている方だと、これは通勤用、これは週末用…なんて使い分けができると思うのですが、私にとっては今乗っている1台だけ。だから、自分の自転車を見ると、まず第一に“通勤”が思い浮かんでしまうんですよね(笑)」

自転車通勤の緊張感と心のゆとり

ソーラー充電式のテールライトが最近のお気に入りアイテムソーラー充電式のテールライトが最近のお気に入りアイテム

 「身体を動かすことが嫌いではないと言っても、毎日自転車通勤をしていると、足がだるいと感じる朝もあります。また、パンクや事故などの理由で遅刻するわけにはいきません。もちろん時間には余裕を持っていますが、それでも緊張感があります。また、仕事を終えた夜はどうしても疲れている。そんな中、暗い夜道を自転車で帰るのも、また緊張感があります」

 電車通勤の混雑からは解放されても、自転車通勤には自転車通勤なりのストレスもあるというわけだ。

 「メインの通勤ルートである246は、意外と路面のコンディションが悪いところがあるんです。また、無灯火の逆走なんていう怖い自転車もいる。そういう中を1時間以上かけて帰宅するのは、やはり疲れるものです。ときどき“電車のほうが楽かも”と思うことがあるのは確かです」

 そんなふうに思いながらも自転車通勤で大事にしていることがある。

 「心のゆとりですね。通勤途中に何度も自転車の事故を見ていますが、装備がちゃんとしている人でも事故には遭っている。装備も大事ですが、やはり自転車通勤にはゆとりがないと。私も最初は、どれだけ短い時間で職場に到着できるかと考えていました。しかし、そういった気持ちで乗っていると、ルールやマナーがおろそかになってしまうかもしれません。それで事故にでも遭ったら、何の意味もありませんよね」

 確かに、今日は自宅から会社まで○分だった、最短記録更新…というのも、楽しみにはなるだろう。しかし、それでもし事故にでも遭ったら元も子もない。

 自転車通勤をはじめてからしばらくして、横浜市内で転居した北さんだが、自転車通勤の距離はほとんど変わらず22km。まずは自宅から国道246号をめざし、そこからOVEまでは一直線だ。

 「結局、大通りが安全で確実です。今では246を自転車通勤する人も多く、ドライバー側にも自転車に対する意識があるように感じます。裏通りのほうが、飛び出しなどが多くて余計に緊張してしまいます」

 安全かつ確実に。それをいちばん大事にして、北さんは自転車で通勤している。それは決して趣味ではないけれど、北さんの日々の生活になくてはならないものになっているのだ。

自転車色を前面には出していないOVEだが、フロアにはこんなすてきなシティサイクルの姿も自転車色を前面には出していないOVEだが、フロアにはこんなすてきなシティサイクルの姿も

勤務先:ライフ・クリエーション・スペース OVE(南青山)
通勤ルート:横浜市内〜港区南青山3丁目、R246経由、往復44km
所要時間:片道1時間20分
自転車通勤のここが○:満員電車に乗らずに済む
自転車通勤のここが×:疲れた身体にはちょっとしんどいと思うこともある
心がけていること:自転車通勤はゆとりが大事

ライフ・クリエーション・スペース OVE オフィシャルサイト
http://www.ove-web.com/

TEXT&PHOTO BY Gen SUGAI

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