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つれづれイタリア~ノ<8>夏にゾクゾク…イタリアには不吉な迷信がいっぱい 選手たちのラッキーアイテム

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ゼッケン「13」の代表的なつけ方(2005年ロードレース世界選手権)ゼッケン「13」の代表的なつけ方(2005年ロードレース世界選手権)

 事件は、フィレンツェで2013年7月21日に行なわれたジュニア自転車競技レース「第2回トロフェオ・バッレリーニ賞」の最中に起きました。選手たちが聖マルコ・ヴェッキョ教会の前を通過しようとした瞬間、75歳のシスターが道を横切って、先頭を走っていた選手たちと接触。6人が転倒し、シスターは頭と胸を打撲しました。不幸中の幸いで、誰も大けがを負うことなく大事には至りませんでした。

 この程度の規模であれば、地元新聞のニュース欄の片隅にも乗らないはずの事故ですが、なぜかイタリアのすべてのスポーツチャンネルから配信され、全国的に大反響を引き起こしました。

 実は、イタリアには変わった迷信がたくさんあります。そのひとつは「シスターは災難を起こす」というものです。先のニュースを見てイタリアの多くの人は、「やはり本当だったか」と思ったことでしょう。

 今回は夏に因んで、そんなイタリアの迷信や怖~い山について書きたいと思います。

 

レース前のタブーや、ジャージに使わない色

勝利の女神の力を信じて…勝利の女神の力を信じて…

 イタリア人の95%はカトリック信者だと言われています。信じる神はひとつだけで、他の神秘的な現象は悪魔の仕業だとされています。しかしながら、イタリア人はキリスト教と全く関係ない迷信ばかりを信じています。ほとんどの人は星座占いを信じ、聖人のご遺骨を崇めたり、宝石や聖水の神秘的な力を借りたりして、運を開こうとします。

 自転車競技選手の多くも例外ではありません。勝利の女神様の力を信じ、様々な方法で彼女の注意を自分の方へ向けようとします。

 まずは、イタリアで不吉だと思われる出来事、物、やってはいけないことを紹介します。万が一レース前に起こってしまったら、迷信に敏感な選手はレースに集中できないかもしれません。

イタリア人にとっての不吉なこと

* ミサや宗教行事の最中にろうそくの火が突然に消えたら、近くに悪魔が来ている
* 黒猫は道を横断したら、きっと不幸なことが起こる(実際、マルコ・パンターニが巻き込まれた1997年の事故の原因となった)
* 脚立の下をとおったら、不幸が訪れる
* 鏡を割ったら、7年間不幸が続く。しかも割った鏡を絶対に素手で触っていけない。不幸はもっと続く
* 塩をこぼしたら、不幸が突然訪れる
* 靴をひっくり返したまま放置すると、不幸が訪れる
* はさみや刃物が床に落ちたら、拾う前に足で踏まなくてはいけない。そうしないと、不幸が訪れる
* 耳鳴りがしたら、きっと誰かが悪口を言っている。要注意
* 教会の前で警察官、医者またはシスターに出会ったら、不幸な事が起こる

 さらに、不吉なアイテムもたくさんあります。主な物には、紫色のもの。葬儀の色のため、ジャージには絶対に使ってはいけません。また、イタリアで嫌われる数字としては、宗教的要因による13番と、ラテン語で「VIXI」に変換でき、それが「死ぬ」を意味する17番が挙げられます。これらは身につけるだけで必ず不幸なことが起こるとされ、プロ選手でも13と17のゼッケンをつけたがらないイタリア人は多いですね。

ペタッキがペンダントにつけるラッキーアイテムは?ペタッキがペンダントにつけるラッキーアイテムは?

 不幸を避けるにはどう対処すればいいのか――まずは、ラッキーアイテムを身につけることが大切です。例えば、クローバーや、クモ(絵または入れ墨もオッケー)、角またはその模型、真っ赤な唐辛子のペンダント、十字架のネックレス、聖母マリアのペンダント、聖なるピオの肖像、財布におさめたユーロの2セントコイン、聖水入りのペンダント…などです。

 これだけでは足りず、イタリア人は様々なジェスチャーを使って不幸をはらいます。一番使われている行為は3つです。「tocca ferro(トッカ・フェッロ)」、「fare le corna(ファレ・レ・コルナ)」、そして「fare il segno della croce(ファレ・イル・セーニョ・デッラ・クローチェ)」です。

 「Tocca ferro」とは、「鉄を触る」を意味します。不吉な事が起こると、一番近い鉄製でできたものを触るのです。鉄を触る事で悪いエネルギーは“放電”され、悪影響が薄れる効果があると信じられています。実は男性は体の特定の部分を触ることで、同じ効果が得られます。その部分は……日本語でも「金」という文字が入っています。ご想像にお任せします。

 「Fare le corna」とは、片手で牛の角の形を作るジェスチャーです。人差し指と小指を立てて中指と薬指をたたみ、そこへ親指を添えます。もともとは侮辱的な意味を持ちますが、角を持つ悪魔をはらうことにも使われます。コルナのペンダントは、ラッキーチャームとしても人気があります。「Fare il segno della croceは十字架を切るジェスチャーです。やはり神様の偉大な力が欲しいものですね。

 

選手たちが身にるけるラッキーアイテム

 イタリア人選手が勝利のために身に付けている物もユニークです。“イケメンスプリンター”、アレッサンドロ・ペタッキ(ランプレ・メリダ)は、運をもたらす黒豹のペンダントを首にしています。黒豹は彼の優勝の女神なんですね。

ベッティーニは2008年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝をあげたベッティーニは2008年のブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝をあげた

 “ライオンキング”ことマリオ・チポッリーニは現役時代、バーテープの下に聖ピオの肖像を埋め込んでいたという噂があります。聖ピオは若者の保護聖人で、病を治癒する力があると信じられています。また2008年に引退したパオロ・ベッティーニは、その年8月の北京オリンピックで2度目の金メダルのために、レースの前にアルカンシエル色が塗られている銀製の角を唇の中にずっと挟んでいました。彼のラッキーアイテムです。残念ながら優勝に至りませんでしたが。

 迷信に科学的な根拠はないにせよ、おまじない行為やラッキーアイテムによって選手の集中力を高め、さらに精神的に安心させる効果があります。レース中の映像を見たら、ぜひ選手たちの仕草にも注目してみてください。

 

サイクリストが恐れる山

モルティローロ峠を上る選手たち(ジロ・デ・イタリア2012)モルティローロ峠を上る選手たち(ジロ・デ・イタリア2012)

 イタリアでも恐怖を感じる数多くのスポットがありますが、主なものは山に集中しています。かつてアルプスの山々は、悪魔の住まいとされ非常に恐れられていました。それだけでなく、山賊が多く潜んでいたので、山道を渡らざるをえない商人にとっては命がけの旅でした。ここでは、恐ろしいストーリーを持つ特に有名な2つの山をピックアップします。

 標高1055mのチェントクローチ(百十字架)峠は、リグリア州とエミリアロマーニャ州の県境に位置しています。かつて修道院がありましたが、山賊は修道院を襲い、住んでいた修道士を惨殺したのちに修道院に住みつきました。ここで、越境のために通過する100人以上もの旅人を、強盗のために殺害したのです。伝説には、山賊たちは神の怒りを買い、雷で殺されたとされています。嵐の夜になると、殺された100人の魂が峠をさまようと言います。

クルマ1台分の上りを蛇行しながら上る選手たち(ジロ・デ・イタリア2012)クルマ1台分の上りを蛇行しながら上る選手たち(ジロ・デ・イタリア2012)
激坂のモルティローロ峠を上ってくる選手とランプレのチームカー激坂のモルティローロ峠を上ってくる選手とランプレのチームカー

 モルティローロ峠(標高1852m)は、直訳すると「死人峠」です。1990年以降、ジロ・デ・イタリアで有名になったこの峠ですが、80年代までは車1台が通れる程度の未舗装の道が続く危険な場所でした。伝説によれば、7世紀にカール大帝の軍隊はこの峠の麓にあった村の住民を皆殺しにし、その血で渓流が赤色に染まったといいます。夏になると、峠から不気味な叫び声が聞こえてくるのだとか。

 ジロ・デ・イタリアでは、2012年に再びこの峠に挑みました。初めて「via Cimitero」(お墓通り)から峠へ入り、多くの選手たちが恐怖を感じたという話は、国営テレビでも話題になりました。さらにイタリア人に事故が多発。パオロ・ティラロンゴ(アスタナ プロチーム)は上りで自転車のコントロールを失い、転倒。ランプレのサポートカーも進めなくなり、完全に道をふさぐハプニングもありました。

マルコ・ファヴァロMarco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)
イタリア語講師。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会で、自転車にまつわるイタリア語講座「In Bici」(インビーチ)を担当する。サイクルジャージブランド「カペルミュール」のモデルや、Jスポーツへ「ジロ・デ・イタリア」の情報提供なども行なう。東京都在住。ブログ「チクリスタ・イン・ジャッポーネ

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