じてつう物語<15>自転車通勤をきっかけに独自の折りたたみ自転車を開発へ 株式会社イルカ 小林正樹さん

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株式会社イルカの小林正樹さん(43)株式会社イルカの小林正樹さん(43)

 株式会社イルカは、新しい折りたたみ自転車「iruka」を開発している会社だ。同社の創業者である小林正樹さん(43)は、インターネットの広告代理店出身。それまでの仕事上、自転車との接点は無いに等しかった。そんな小林さんを折りたたみ自転車の開発、そして独立へと駆り立てたきっかけは、2004年に始めた自転車通勤だ。

折りたたみ自転車ならオフィスに置ける

 「自転車が欲しいと思い、都内の大手スポーツサイクルショップ“ワイズロード”に行ったのが2004年のこと。そこで心惹かれたのが、折りたたみ自転車でした。当時は江戸川橋に住んでいて、職場は赤坂見附。自転車で通えば30分くらいといったところでした。当時のオフィスには駐輪場が無かったのですが、折りたたみ自転車ならオフィスに持ち込める、これなら自転車通勤できると思ったのです」

 そう話すのは、株式会社イルカの代表取締役・小林正樹さんだ。自転車通勤を始めた当時、小林さんはインターネット広告代理店の創業メンバーとして忙しい日々を過ごしていた。そんな暮らしの中に、ふと入り込んだのが、折りたたみ自転車と自転車通勤だった。

 「そのとき買った折りたたみ自転車は、ダホンのヘリオスというモデルです。いざダホンに乗ってみたら、これが楽しいのです。通勤だけではなく、輪行サイクリングなどもするようになりました」

 経緯は後ほど紹介するとして、その後インターネット広告代理店を退職し、イルカを創業した小林さん。現在の通勤ルートは、都内の自宅から神宮前までの片道6kmほどだ。

 「大通りは避けつつも、ほぼ一直線に走ることができるんです。時間は片道25分くらいですね。今はあまり寄り道はしないのですが、朝は趣味のテニスをしてからオフィスに向かうことがあります。また、家では料理をするので、買い物をして帰るということはありますね」

「前後に長くて安定感があるのがダホンの良いところ」と小林さん。この他に、研究用として購入したブロンプトンがある「前後に長くて安定感があるのがダホンの良いところ」と小林さん。この他に、研究用として購入したブロンプトンがある

都市に対してセンシティブになった

 もともとは電車通勤で、プライベートでの移動にはクルマも使っていた小林さん。自転車通勤をするようになって、日常の風景が変わった。

 「江戸川橋から赤坂見附まで通っていたときは、途中お堀沿いを走ります。春になると桜がとてもきれいで、楽しみでした。その後オフィスが大手町に移転したのですが、その頃は時間に余裕があれば皇居を何周かしてから帰ってみたりとか。それ以外にも、例えば青山霊園の中であるとか、自転車だからこそ見つけることができた東京のきれいな景色がありました」

 一方で、問題点も見えてくるようになる。

 「自転車に乗ることによって、街の景観、都市政策というものに対してセンシティブになったことは間違いありません。クルマの移動で眺める景色は、どうしても窓の面積に制約されているように思いますし、電車、とくに地下鉄は遮断された空間というイメージです。それに対して自転車は、360度の景色を感じることができます。それによって、先ほど挙げたような良い発見もありましたが、美しくない景観も目につくようになります。“東京の景観はもっと良くすることができるのではないか”と思うようになりました。また、ヒートアイランド現象についても、ビルやクルマからの排熱といったものを、肌身で感じるようになりました」

自分で自転車を開発するために独立

今のオフィスには駐輪スペースがある。自転車通勤をはじめたときは駐輪場が無く、それが折りたたみ自転車に着目した理由のひとつでもあった今のオフィスには駐輪スペースがある。自転車通勤をはじめたときは駐輪場が無く、それが折りたたみ自転車に着目した理由のひとつでもあった

 やがて小林さんは、自転車そのものにも興味を持つようになった。

 「ダホン・ヘリオスはとても良くできた折りたたみ自転車だと思います。しかし、自分にとっての“最高”かというと、そうではありませんでした。例えばもっと持ち運びやすくする工夫があったほうがいいし、折りたたんだときのサイズも、デスクの下に入るくらいに小さくなってほしい」

 ダホンの他にも、BD-1、ブロンプトン……さまざまな折りたたみ自転車があるが、小林さんの心はいつしか「自分で作る」という方向へと動いていく。

 「インターネット広告代理店の仕事をしていたのですが、自分自身に変化を求めていたこともあり、次は何をやろうかとは考えていました。そこで、自転車はどうだろうと思ったのです」

 とはいえ、まったく自転車業界のことはわからない。そこで小林さんは自分なりに調べ始めた。

 「折りたたみ自転車を開発したいと思ってまずやったことは、自転車店の人に話を聞くこと。自転車業界の仕組みがまったくわからなかったので、どんな登場人物がいるのかを聞いたのです。また、実際に自転車をデザインして量産品として世に出したデザイナーにも話を聞きました。そこで、日本では量産は難しくて、中国や台湾で生産する必要があることなどがわかりました」

 日本で設計し中国か台湾の工場で生産すること、そして、小林さん自身はデザイナーではないので、アイディアを設計に落とし込むデザイナーの存在が不可欠であることなど、いろいろなことがわかってくる。しかし小林さんは「これは難しそうだな」と諦めるのではなく「これはやれる」と決意した。

 自分が考える最高の折りたたみ自転車を作りたい——その想いを具体化するために独立という道を選び、デザイナーを探し出して折りたたみ自転車の機構を考え始めた。

ブロンプトンのほうはというと、オフィスの一角が定位置(小林さん撮影)ブロンプトンのほうはというと、オフィスの一角が定位置(小林さん撮影)

連れて歩く自転車「iruka」

 現在開発が進んでいる折りたたみ自転車「iruka」のアイディアが浮かんだのは、実は独立直前のこと。

 「2008年、会社を辞める直前になって、良いアイディアが浮かんだんです。知り合いの結婚披露宴に行ったときに、スタッフの方が使っているソムリエナイフを見て“コレだ”と思いました」

 まさに現在開発中で試作を重ねている段階なので、ここで具体的な形状をお見せできないのが残念だが、つまり折りたたみ方法のアイディアを、刃やコルク抜きが柄の部分に収まるソムリエナイフに求めたわけだ。小林さんが考案したその折りたたみ方法によって「ジオメトリ(走行状態でのサイズや設計)はごくふつうの折りたたみ自転車でありながら、折りたたみサイズはダホンやBD-1等と比較して4割小さくなっています」と話す。

現在開発中のirukaのフレームには、こんなアルミパイプが用いられる予定(写真提供:株式会社イルカ)現在開発中のirukaのフレームには、こんなアルミパイプが用いられる予定(写真提供:株式会社イルカ)

 そして、折りたたんだときに転がせることで、自転車を降りた後も持ち運びやすいのも重要なポイントだ。コンパクトで持ち運びやすいから、鉄道やクルマに持ち込むことも簡単になる。

 irukaには「連れて歩く自転車」というキャッチコピーが付けられている。

 「自転車は都市においては最速の移動手段と言えます。東京で5km圏内の移動なら、自転車がいちばん速い。しかし、自転車さえあれば良いかというと、違いますよね。自転車だけではなく、クルマや鉄道と組み合わせることで可能性がもっと広がります。そこで考えたのが、連れて歩く自転車と言うコンセプトなのです」

 irukaには、小林さんが自転車通勤を通じて都市について考えたこと、そして折りたたみ自転車そのものについて考えたことが、注ぎ込まれているわけだ。

世界を「より美しく、サスティナブル」に

 小林さんは言う。

 「いちばんやりたいことは、高級なクルマより自転車のほうがイケているんだというくらいに思える、そんな世界を作ることです。その手段として、irukaを売り出して、自転車といつもいっしょに過ごすライフスタイルを提供したいと思っています」

 そして東京の自転車利用環境にも話は及ぶ。

 「自転車が最速という話をしましたが、東京の自転車の利用環境は貧弱です。自歩道は多いけれど、自転車通行帯は極めて少ないですし、駐輪場も足りません。都内に100kmの自転車通行帯と1,000カ所の小規模駐輪場があるだけで、東京の自転車利用環境はずっと良くなると思うのです。柵で囲った自転車道ではなく、車道の左端を自転車通行帯にするだけで良いし、駐輪場も地下等に大規模なものを作るのではなく、植栽の一部を駐輪場に転用した小規模なものを複数作るだけでも効果があります」

オフィス近くの青山通り。小林さんは「道路の左側に自転車通行帯を設けて、植栽の一部を駐輪場にするだけでもずっと街は良くなる」と話すオフィス近くの青山通り。小林さんは「道路の左側に自転車通行帯を設けて、植栽の一部を駐輪場にするだけでもずっと街は良くなる」と話す

 そういった自転車利用環境を実現するためのアプローチはいくつかあるだろう。行政に訴えかけるでも良いし、知事選に立候補するのでも良い。サイクリストの団体を作るのもアリだろう。そして小林さんが選んだ手段は、irukaだった。

 「自分が生きているうちは限界があるとしても、最終的には世界全体をより美しく、よりサスティナブルなものにしたいと思っています。それに対して何ができるのかは、まだ明確な答えはありません。ただ、私は自転車に乗ることによって、課題意識を持つようになりました。そして、自転車に乗る人が増えることで、同じように課題意識を持つ人が増えてくれたらいいなと考えています。しかも、やってみたらかっこいいとか、気持ち良いとか、そういったことで広まればよりハッピーですよね」

 そこに、irukaという自転車があれば——プロダクトを通じてメッセージを出していくことが、小林さんの狙いだ。現在、試作もいよいよ最終段階。その登場が待ち遠しい。

勤務先:東京都港区神宮前
ルート:往復12km
頻度:毎日
使用している自転車:ダホン・ヘリオス

株式会社イルカ Webサイト http://www.irukabikes.com/

TEXT&PHOTO BY Gen SUGAI

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