福光俊介の「寝落ち禁止!ツール三昧」<6>ピレネー頂上決戦! テレビの向こうに観た主役たちの姿

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 職業柄(?)、夜型の生活を送っているもので、ツール期間中はレース中継が終わるともっぱら情報収集や自分の好きなことに時間を充てる。収集するその情報はもちろんサイクルロードレース関係のものが多い。日本の深夜はヨーロッパではバリバリの活動時間。それらの時間帯に、何か新しい情報が発信されることが多いのだ。

 昨日(これを書いているのは7月19日午前1時頃)の早朝4時頃に第一報があった、フランク・シュレク(ルクセンブルク、レディオシャック・ニッサン)の薬物陽性のニュースは驚きと同時に大きなショックだった。薬物とは対局にいる選手というイメージを持っていた人も多いことだろう。朝一番、このニュースで目が覚めたという人もたくさんいたようだ。

フランク・シュレクのドーピング検査陽性反応を受けて、マスコミの取材を受けるレイディオシャック・ニッサンのプレスオフィサーフランク・シュレクのドーピング検査陽性反応を受けて、マスコミの取材を受けるレイディオシャック・ニッサンのプレスオフィサー
第7ステージでのフランク・シュレク第7ステージでのフランク・シュレク

 それでも戦いは続く。休息日開けの第16ステージ、ピレネー頂上決戦第1弾。オービスク、トゥールマレーの2つ超級山岳とさらに2つの1級山岳が含まれるこのステージをクイーンステージと呼ぶ向きもあったほど。さらには、新城幸也(チーム ヨーロッパカー)が逃げた。エースのトマ・ヴォクレールのアシストを全うし、ステージ優勝と山岳賞奪還に大きく貢献した。

エスケープグループで積極的な走りを見せた新城幸也エスケープグループで果敢に攻めた新城幸也

 ヴォクレール、ピエール・ローランという2人の絶対的エースを抱えるチームにおいて、ただ逃げに乗るばかりでなく山岳でのアシストもこなし、時にはスプリントにも参戦するユキヤの働きは、過去に出場したツールと比較しても格段に貢献度が高い。このツールだけでなく、今後のレースでのユキヤの起用法に大きな期待が生まれる。

 一方の総合争い。スカイ プロサイクリングの盤石ぶりは揺るがない。他チームであればエース待遇であろう選手たちがアシストを務めるチームを相手では、ライバルチームのアシストがどうやっても敵わない。結局、ニバリやエバンスといった選手たちは、ウィギンスやフルームではなくスカイのアシスト陣との戦いを強いられている。これでは仮にスカイのアシストが消耗したとしても、その頃にはライバルたちも力が尽きてしまい、ウィギンスやフルームの思う壺にハマってしまう。

アスパン峠でヴィンチェンツォ・ニバリをアシストするリクイガス・キャノンデールのイヴァン・バッソ。後方はマイヨジョーヌのブラッドリー・ウィギンスアスパン峠でヴィンチェンツォ・ニバリをアシストするリクイガス・キャノンデールのイヴァン・バッソ。後方はマイヨジョーヌのブラッドリー・ウィギンス

 特に今日は、前半から中盤にかけての超級山岳で総合ジャンプアップを賭けた仕掛けがあるのではないかという見方があった。しかし、大きな動きはなかった。むしろスカイのペースでレースが進んだ。これはやはりスカイと比べると手薄なアシストであることや、エース自らが動いたとしても、スカイのアシスト陣に対応されてしまうのを嫌ってだろう。

 これまでの戦いでウィギンスは、テンポで山岳を上り続け、ライバルの攻撃を封じてきた。こうした走り方を観ていて魅力に感じない人も多いようだ。でもこればかりは脚質でしかないので、言っても仕方がない。実際、スカイのアシストにも山岳に強いルーラー系脚質の選手を揃え、まさに“ウィギンスシフト”を組んでいる。このような戦い方は戦前からの予想通り。まぁ強いチームじゃないとあんな走り方はできないのだけれど。

 もっとも、ウィギンス自身が強くないと、今日の1級山岳ペイルスルド峠で見せたようなニバリのアタックには反応できなかったはずだ。今年は3月のパリ~ニースでも自らアタックする場面があったり、4月のツール・ド・ロマンディではスプリントを制したりと、パンチ力の向上も見て取れる。アシストだけではない、エース自身が隙のないライダーに進化しているのだ。

第16ステージで落車したジョージ・ヒンカピー(左)と、大きく遅れたカデル・エヴァンス。傷ついた2人が手を取り合ってフィニッシュした第16ステージで落車したジョージ・ヒンカピー(左)と、大きく遅れたカデル・エヴァンス。傷ついた2人が手を取り合ってフィニッシュした

 もう1つ、このままワンツーフィニッシュができるのではないかと思えるほど強力な2枚看板で臨めるのもメリットだ。それこそ去年までのシュレク兄弟の例があるが、この手の戦い方は今のサイクルロードレースにおいては斬新だ。スカイのウィギンス、フルームのように、総合を狙える選手が2人いればそれだけ戦いのオプションが増えるし、何より攻撃がしやすい。リーダーチームのアシストを消耗させて、エース同士でのガチンコの戦いを、という観点で今回のツールを語るのであれば、リクイガスはバッソ、BMCはヴァンガーデレン、ロット・ベリソルはファネンデルトらが各チームのエース並みに機能していればもっと違った戦いになったように思う。

 書いているうちに、レースと戦力の分析になってしまった・・・。あくまでも私見で、極端プラス偏り満点の見方なので、それぞれの視点でレースを楽しむことができれば良いのだ。

 人間誰しも好き嫌いはあるし、早くから大勢が決したムードのレースを観るのは気分が乗らないことがあるかもしれない。でも、特定の選手を指して失敗を望んだり、露骨に不快感を示すのは、同じファンとしては辛い。どの選手もツールのために心身を粉にして準備し戦っているわけで、選手によっては数年かけてこの3週間に臨んでいるのだ。

 特にウィギンスとフルームの関係をおもしろがる人がいるようだけど、本当にそんなことになったらチーム内はおろか、レース全体の空気が悪くなる可能性だってあるのだ。どうかネガティブな物言いをせず、選手たちへの敬意を大切にしてほしい。

 フランスを一周する旅は残り4日間。ボクはパリ・シャンゼリゼで感動的なフィナーレが待っていると信じている。

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)
自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて数十年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

(写真 砂田弓弦)

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