第26回全日本マウンテンバイク選手権大会 DHI井手川直樹が7年ぶりのダウンヒル日本王者 女子は末政実緒が14連覇

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 伊豆・修善寺の日本サイクルスポーツセンターで開催のマウンテンバイク全日本選手権は、クロスカントリー(XCO)に続いて21日にダウンヒル(DHI)のレースが行われ、男子シニアエリートでは井手川直樹(Devinci/SUNSPI.com)が2006年以来となる自身3度目のチャンピオンに、女子は末政実緒(DIRTFREAK/SARACEN)が貫禄の走りで優勝し、同種目14連覇となった。

男子シニアエリートで優勝した井手川直樹。コース後半は砂塵が上がる程のドライコンディションになっていた男子シニアエリートで優勝した井手川直樹。コース後半は砂塵が上がる程のドライコンディションになっていた

新設ダウンヒルコースでの戦い

 今回、JCFマウンテンバイク小委員会にとって悲願であった、日本CSC内におけるダウンヒルコース造成が実現した。しかし距離1500m、標高差150mのスペックは、例えば昨年のMTB世界選手権が開催されたオーストリア、レオガングで用意されたDHIコースのスペックである距離2600m、標高差524mと比較すると物足りなさは否めない。事前に公開されたコースの情報から、通常のダウンヒルバイクではなく、軽量で取り回しの良い150mm前後のトラベル量をもつ、いわゆる「オールマウンテン」にカテゴライズされるバイクを用意するライダーも現れた事で、日本一を決める全日本選手権にふさわしいコースとは言えないのではないか?といった前評判もあった今回のコース、さて実際はどうだったのか。

前日のクロスカントリーまで大会本部が置かれていたコントロールタワーが後方に見える。施設内の山を工夫してコースが設置された事がわかる。ライダーは和田良平前日のクロスカントリーまで大会本部が置かれていたコントロールタワーが後方に見える。施設内の山を工夫してコースが設置された事がわかる。ライダーは和田良平
ダウンヒル競技は夏場のスキー場で行われる事が多いため、搬送にはゴンドラを利用するパターンが一般的だが、ここでは軽トラックによって選手を搬送した。今年の世界選手権が開催される南アフリカのピーターマリッツバーグでも同様にトラックを使った選手搬送が行われているダウンヒル競技は夏場のスキー場で行われる事が多いため、搬送にはゴンドラを利用するパターンが一般的だが、ここでは軽トラックによって選手を搬送した。今年の世界選手権が開催される南アフリカのピーターマリッツバーグでも同様にトラックを使った選手搬送が行われている
スタート直後のダブルを軽く飛んでいく栗瀬裕太。ジャンプスキルに長けているライダーにとっては見せ場の多いレイアウトだったスタート直後のダブルを軽く飛んでいく栗瀬裕太。ジャンプスキルに長けているライダーにとっては見せ場の多いレイアウトだった

 実際に金曜日の試走が始まると、コースに対するネガティブな意見はほとんど聞こえてこなくなった。国内ではあまり例を見ない連続するジャンプや先の見えないドロップオフに対して転倒やメカトラブルが頻発し、斜度のないコギのセクションでは体力を消耗するとあって、身体、機材共にタフなコースだったのだ。

 金曜日のタイムドセッションでは、トップタイムをマークした浅野善亮(ジャイアント/ホットスピン)が前後サスペンションこそエアタイプに変更したものの、通常のレースで使用するダウンヒルバイクを使用していた事が大きなインパクトとなった。その一方で、予選でトップとなった安達靖(DIRTFREAK/SARACEN)は29インチホイールを装備したオールマウンテンバイクを使うなど、戦略的な意味でも機材スポーツであるダウンヒルレースの意外な面白さに気付かされる事となった。

軽量バイクの投入もあって、多くのライダーがトラブルに見舞われた。国内のレースでは珍しい光景かもしれない軽量バイクの投入もあって、多くのライダーがトラブルに見舞われた。国内のレースでは珍しい光景かもしれない
コース中盤に用意された2連のテーブルトップを飛ぶ井本はじめ。予選で大きく転倒し、まさかの予選落ちとなってしまったコース中盤に用意された2連のテーブルトップを飛ぶ井本はじめ。予選で大きく転倒し、まさかの予選落ちとなってしまった
予選を1位通過した安達靖。ペダリングパワーが要求される上り返しを全開で漕ぐ予選を1位通過した安達靖。ペダリングパワーが要求される上り返しを全開で漕ぐ
3連覇がかかっていた清水だが、「気持ちが焦っていたかもしれません。前半までは良い感じでしたが、後半にミスが出てしまいました」3連覇がかかっていた清水だが、「気持ちが焦っていたかもしれません。前半までは良い感じでしたが、後半にミスが出てしまいました」

男子決勝を制したのは井手川

 迎えた決勝、一時は雲行きが怪しくなり雨の心配もあったが、シニアエリートの決勝が行われる午後には快晴となり、路面はドライコンディション。予選を3位通過した井手川がトップタイムを更新し、2年連続の全日本チャンプである清水一輝(AKI FACTORY TEAM)と安達のゴールを待つ。ゴール前の折り返しが続くコーナーは想像以上に乾燥が進み、続いて現れた清水は小さなミスを犯してタイムが伸びない。最終走者の安達も僅差が想像されるタイミングで最終セクションに姿を現したが、井手川のタイムには届かず、井手川の勝利が決まった。

 今季は肩の故障で思うような走りができていなかった井手川だが、「肩の調子はまだ完全とは言えませんし、不安もありましたけど、下半身のトレーニングとかね、やれる範囲でベストを尽くした分、結果が出て良かったです。やっぱり(清水)一輝に3連覇を許すわけにはいかないでしょう。来週からはワールドカップ(アンドラ大会)にも行きますし、良い形で優勝できましたよね」

シニアエリート優勝 井手川直樹シニアエリート優勝 井手川直樹

 今回のコースについて聞かれると「ジャンプスキル、コギに対するフィジカル、アスリートとしてのトータルバランスを問われるコースだったかもしれませんね。ダウンヒルバイクを使わなかった事がちょっと残念ではありましたね。これについては事前にずいぶん悩んだんですけど、来週からはすぐにワールドカップに行きますし、レース直前にあれこれ悩むのは嫌だったので、もうこれ(dixon リア142mmトラベルの軽量バイク)で行こうって決めて、ダウンヒルバイクはもう早々に梱包して挑みました」とコメントした。

 井手川の専属メカニックである藤田氏は「とにかく軽く!が今回のポイントになりました。ライダーの負担をできるだけ低減できるように、各部の抵抗を極限まで減らして、スピードが落ちないような、それこそコギに集中できるようなセッティングを目指しました。届いたばかりのマヴィック製のタイヤもうまくマッチしたようです」と今回のコースに対するセッティングを教えてくれた。

女王・末政揺るがず 全日本連覇記録を14に伸ばす

ゴール直前に設けられた川越えジャンプを飛ぶ末政実緒ゴール直前に設けられた川越えジャンプを飛ぶ末政実緒

 女子は中川綾子、九島あかねといった若手ライダーの成長が今後の女子DHIを面白くするであろう展望はあるものの、やはり女王として君臨する末政との実力差はまだ相当大きなものがある。ダウンヒルのような予選と決勝の1本勝負で勝敗を決する競技スタイルを考えると、末政の14連覇はもはや驚異的な領域に達している。長年の海外挑戦で得てきた経験に裏打ちされた強さは並大抵では崩せないが、今後は若手の躍進にも注目したい。末政を脅かす存在となるライダーが現れた時、日本の女子DHIはもっと面白くなるだろう。

14連覇を達成し笑顔がこぼれる末政実緒14連覇を達成し笑顔がこぼれる末政実緒

 14年間、守り続けているタイトルとは末政にとってどういうものなのか? それについて聞くと「負けられない戦いっていうんですかね。レースでは誰かが勝つわけですけど、そこに自分が挑戦しているからには、現役で走っている間は獲り続けたいタイトルですよね」と話す。

 海外で走る上でナショナルジャージが持つ意味とは?とXCO男子を勝った山本と同じ質問を投げかけると、「それ(を着るのが)がスタンダードと言いますか、各国で勝って、そういう人達が集まって世界の頂点を目指すのがワールドカップだっていう感じですかね。少なくとも国内で勝つっていう事は世界で認められるためのステップとしては大切だと感じていますね」と語った。

前半の急斜面を駆け下りる末政実緒前半の急斜面を駆け下りる末政実緒
ジュニア優勝の加藤将来ジュニア優勝の加藤将来
マスター優勝の大野良平マスター優勝の大野良平
女子2位となった中川綾子。王者末政にどこまで迫れるか、今後の成長が期待される若手の1人女子2位となった中川綾子。王者末政にどこまで迫れるか、今後の成長が期待される若手の1人

熱戦を終えて

 今回のレースでは各ライダーの機材選択を含めて、見所の多い戦いとなった。

 ダウンヒルレースでは国内を代表する会場である富士見パノラマで開催された6月のJシリーズで清水が記録した平均速度が49.51km/h、今回のコースにおける井手川の平均速度は45.91km/hであるが、前半に数カ所ある上り返しのペダリングセクション等を考えると、瞬間的な最高速度は今大会の方が速かったのかもしれない。そんな中でトップライダーが軽量バイクを選択した原因のひとつはスムーズな路面にあった。ロックセクションやルーツ(木の根)などが皆無であったのが印象的だった。いずれにしても日本CSCに新設されたコースは、前評判を良い意味で裏切る、立派なダウンヒルコースであった事を最後にお伝えしておきたい。

(文・写真 中川裕之)

表彰式の最後には男女揃ってのフォトセッションが用意された。(左から)女子2位の中川綾子、男子2位の浅野善亮、井手川、末政、男子3位の永田隼也、女子3位の中川弘佳表彰式の最後には男女揃ってのフォトセッションが用意された。(左から)女子2位の中川綾子、男子2位の浅野善亮、井手川、末政、男子3位の永田隼也、女子3位の中川弘佳

シニアエリート男子
1 井手川直樹(Devinci/SUNSPI.com) 1分57秒599
2 浅野善亮(ジャイアント/ホットスピン) 1分58秒461
3 永田隼也(MARSH/SANTACRUZ) 1分58秒642

女子
1 末政実緒(DIRTFREAK/SARACEN) 2分13秒338
2 中川綾子(Team YRS) 2分19秒636
3 中川弘佳 2分23秒141

マスター男子
1 大野良平 2分06秒099
2 黒川陽二郎 2分06秒669
3 粟野宏一郎(KYB RACING) 2分08秒797

ジュニア男子
1 加藤将来(TransitionRacing) 2分07秒678
2 五十嵐優樹(重力技研/STORMRIDERS 2) 2分08秒714
3 林佳亮(大同大学大同高等学校) 2分09秒109

中川裕之中川裕之(なかがわ ひろゆき)
’06年、大きな病気を乗り越える課程で写真を撮り始める。
’11年からは活動の場を海外に広げ、山の中を走る自転車レースを追いかけている。
MTBのコアな部分にフォーカスした雑誌SLmの発行人。
http://www.slmedia.jp/slm-mtbphotojournal/

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