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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<20>老獪さと強い心 エースを支えるベテランはツール・ド・フランスで輝く

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 コルシカ島の明るい日差しの下で始まった今年のツール・ド・フランスは、あっという間に第2週目までを終えました。続く第3週では、総合優勝争いはもちろんのこと、各賞を狙う選手、ステージ勝利でひと花咲かせたい選手、パリへなんとかたどり着きたい選手など、それぞれの思惑の中でさまざまな戦い方が見られそうです。そんなとき、心身ともに消耗した若手選手を後押しするのが、ベテランの存在です。


チームメートに希望を与えるベテランの捨て身の攻撃

 今年のツールは、19歳から41歳までの選手が出場。最年長の41歳は、おなじみイェンス・フォイクト(ドイツ、レイディオシャック・レオパード)だ。

 フォイクトは、毎年のように引退をほのめかすような発言をしながら、結局は現役続行を選び、一部ファンの間では“辞める辞める詐欺”などとネタにされているようだが、走り自体は衰えを知らない。シーズン序盤から次々とアタックを繰り出し、数少ない勝利のチャンスをものにする。

 今シーズンは、ツアー・オブ・カリフォルニアで1勝。このツールでもリヨンへ向かう第14ステージでエスケープに乗った。勝利はならなかったが、チームメートのアシストにも奮闘し、力のあるところをしっかりと見せている。

第14ステージに逃げを成功させたフォイクト(7月13日)第14ステージに逃げを成功させたフォイクト(7月13日)
チームのために献身的に集団を牽引するオグレイディ(7月3日)チームのために献身的に集団を牽引するオグレイディ(7月3日)

 スチュワート・オグレイディ(オーストラリア、オリカ・グリーンエッジ)も、今年で40歳を迎える。このツールで17年連続出場と、昨年ジョージ・ヒンカピー(アメリカ、当時BMCレーシングチーム)が打ち立てた連続出場記録に並んだ。かつてはスプリンターとしてステージ3勝を挙げ、マイヨジョーヌ着用経験もあるが、年齢を重ねてルーラーへと変貌。ここ数年は、ゆっくりとシーズン序盤を送り、ツールに調子を合わせているイメージだ。

 第4ステージのニースでのチームタイムトライアルでは、中盤パートの牽引を担当。ペースを作り、チームの勝利はもちろん、エースのサイモン・ゲランス(オーストラリア)のマイヨジョーヌ獲得に大きく貢献した。来年は18年連続ツール出場の新記録を達成し、引退の花道とする予定だ。

第13ステージ、横風の中で攻撃を仕掛けたロジャース(7月12日)第13ステージ、横風の中で攻撃を仕掛けたロジャース(7月12日)

 エースを支えるベテランの活躍と言えば、第13ステージが良い例だろう。この日は横風を利用した駆け引きで集団の分断が多発。総合上位勢でも大きくタイムを落とす選手がいた中、大成功を収めたのはチーム サクソ・ティンコフだった。

 ゴールまで残り31kmからみせたサクソ・ティンコフのペースアップに、対応できた選手はわずか14人。マイヨジョーヌのクリストファー・フルーム(イギリス、スカイ プロサイクリング)までをも後方に置き去りにするこの大逃走劇を演出したのは、マイケル・ロジャース(オーストラリア)とマッテーオ・トザット(イタリア)だった。

 当初、サクソ・ティンコフはこのステージで動く予定はなかったが、それまでの風を利用した動きで各チームとも消耗しているのを見たロジャースが、レース終盤になって機転を利かせたのだという。メンバーを揃えたうえで、まずはダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)を先頭へ送り出す。続いてトザット。風向きとライバルチームの動き、そしてチームメンバーの特性を最大限生かした、経験豊富な選手の大ファインプレーである。結果、エースのアルベルト・コンタドール(スペイン)は、フルームに対し1分9秒を取り戻すことに成功。アルプスを前に、チームはまだまだやれることを示した。

第12ステージの落車で指を負傷した新城幸也。ここまで積み重ねた疲労や問題をすべて持って臨む最終週は、選手1人1人全てとって厳しい戦いとなる第12ステージの落車で指を負傷した新城幸也。ここまで積み重ねた疲労や問題をすべて持って臨む最終週は、選手1人1人全てとって厳しい戦いとなる

 第3週目にはアルプスの高峰が次々に待ち受ける。パリまでの道のりは長い。あまりの厳しさに、走りながら、またはゴールで泣き崩れる若い選手も出始めているという。そんな選手を勇気づけ、成功へ導くのもベテランの役割だ。レースでの活躍でスポットライトを浴びる一方、そうした目に見えない仕事も自然にこなしていく。実力だけでなく、カリスマ性があることも長いキャリアの秘訣なのだろう。

アルプス最終決戦を経てパリ・シャンゼリゼへ ツール第16~21ステージの展望

 いよいよ第3週目に突入するツール。マイヨジョーヌの行方は定まりつつあるものの、総合表彰台、各賞争いなど、見どころはまだまだ盛りだくさんだ。

 休息日明け、第16ステージ(168km)は、逃げ向きのステージ。残り11.5kmに出てくる2級山岳・マンス峠で生き残った数人によるスプリント、または単独逃げ切りとなるか。

 個人タイムトライアルの第17ステージ(32km)は、山岳TTの趣だ。ほぼフラットだった第11ステージの個人TTとは異なり、今度はクライマーが主役となる。総合上位勢のシャッフルも大いにあるだろう。

いよいよ登場するラルプ・デュエズ。今年はここを1日に2度上る。写真は2011ツールいよいよ登場するラルプ・デュエズ。今年はここを1日に2度上る。写真は2011ツール
第18ステージ コースプロフィール ©A.S.O.第18ステージ コースプロフィール ©A.S.O.
第19ステージ コースプロフィール ©A.S.O.第19ステージ コースプロフィール ©A.S.O.
第20ステージ コースプロフィール ©A.S.O.第20ステージ コースプロフィール ©A.S.O.

 第18ステージ(172.5km)は、ラルプ・デュエズを2回上る、今大会の目玉ステージ。ラルプ・デュエズの登坂路は2回とも同じコースで、距離13.8km、平均勾配8.1%、最大勾配11.5%。前日の山岳個人TTの結果によって、このステージの流れが変わりそうだ。チーム単位での総攻撃に期待がかかる。

 第19ステージ(204.5km)は、総合争いから脱落したオールラウンダーに期待したい。前半に超級山岳を2つこなした後は、2級山岳1つと1級山岳2つと、前日よりは難易度が下がる。また、山岳賞を狙う選手にとっても、ポイントの稼ぎどころだ。

 アルプス最後の戦い、第20ステージはアヌシー・セムノズの頂上ゴール。125kmと距離が短く、総合上位勢の玉砕覚悟のアタックが見られるか。100回目のマイヨジョーヌ獲得者がここで事実上決まることとなる。

 そして最終、第21ステージは夜のパリ・シャンゼリゼで競われるスプリントゴール。距離こそ133.5kmだが、ヴェルサイユのスタートからしばらくはパレード走行。ヴェルサイユ宮殿、ルーヴル美術館の庭園、凱旋門を巡る荘厳なナイトステージだ。今大会最後のステージ勝者、第100回総合チャンピオンは、日本時間7月22日午前4時35分頃に誕生する。

今週の爆走ライダー-マルセル・キッテル(ドイツ、アルゴス・シマノ)

「爆走ライダー」とは…
1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2011年のブエルタ・ア・エスパーニャを終え、日本に帰国した当時のチームメート・土井雪広は「キッテルは純粋なスピードだけなら、絶対にマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、現オメガファルマ・クイックステップ)より上」とその強さを評価した。あれから約2年弱。その実力を、ついにツールの大舞台で見せることとなった。

最強スプリンター直接対決で、カヴェンディッシュを打ち破ったキッテル(7月11日)最強スプリンター直接対決で、カヴェンディッシュを打ち破ったキッテル(7月11日)
早くもステージ3勝を挙げたマルセル・キッテル(7月11日)早くもステージ3勝を挙げたマルセル・キッテル(7月11日)

 第12ステージ。最高の位置で発射されたカヴェンディッシュを後方から追い上げ、ゴール前で差しきった。今大会3勝目。胃腸炎であっという間にツールを去った昨年のことを思えば、今年はすでに大成功といえるだろう。第1ステージではマイヨジョーヌも獲得した。

 2005、2006年に個人タイムトライアルの世界ジュニアチャンピオン。2010年にも同じ個人TTで、世界選手権アンダー23の3位。プロ転向後にスプリンターとして大成したが、本来持つ独走力がロングスプリントに活かされている部分は大きい。

 かつて、薬物問題に揺れたドイツ自転車界。今でもツールのテレビ放映はなく、現地取材のメディアも少ないという。トップカテゴリーからもドイツチームは姿を消した。ドイツ人選手が口を揃える、「我々の活躍をドイツの人たちに見てほしい」という思いは、自身の勝利で実を結ぶものとキッテルは信じ続けている。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)
自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて数十年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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