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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<19>成功の陰にドラマあり、序盤に輝いた2チームの素顔 そしてツールはアルプスを目指す

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 ツール・ド・フランスは第1週が終了し、8日は静かな休息日を過ごしました。前半のヤマ場となったピレネーでは、総合争いで予想以上の大差が付く格好に。とはいえ、まだ大会は折り返し点にも至っていません。きょう9日からは中盤戦に突入。舞台はフランス北部に移り、そしてアルプスを目指します。ここまでの戦いを振り返りつつ、次なる展開への期待を膨らませましょう。


人間らしさが報われる これぞツールの醍醐味

 前回、「ツールほど人間味溢れるレースはないだろう」と書いた。その人間味がレースで報われてほしい、と願うのが人の常である。いや、そうあるべきだろ。そうでなければおもしろくない。

チームTTで優勝を遂げ、表彰台にのぼったオリカ・グリーンエッジ(7月2日)チームTTで優勝を遂げ、表彰台にのぼったオリカ・グリーンエッジ(7月2日)

 コルシカ島での第1ステージで、ゴール直前にチームバスがトラブルを起こし、大会運営に大混乱を来たしたオリカ・グリーンエッジ。この“事件”は、「ゴールが見たい」とリクエストしたオリカ社社長をチームバスで連れて行くよう指示したチームマネージャー、マット・ホワイトの判断ミスが原因だった。とはいえ、ドライバーがどれだけ責任を痛感していたか、計り知れない。大会を、いや世界中を混乱させたようなものだから。

 それでも、翌日にはチームが配信する動画にドライバーを出演させて元気づけ、選手たちはバスのエアコンが壊れたことでどれだけ暑いかをユーモア混じりにアピールした。暑くったって何だって、ツールは楽しいものなのだとドライバーに諭すかのように。

“波乱の幕開け”の一場面となった、チームバスのゲート衝突(6月29日)“波乱の幕開け”の一場面となった、チームバスのゲート衝突(6月29日)
リーダージャージのゲランスを守り全員で先頭を固めて走るオリカ・グリーンエッジ(7月3日)リーダージャージのゲランスを守り全員で先頭を固めて走るオリカ・グリーンエッジ(7月3日)

 そんな優しさに満ちたチームは、第3ステージから快進撃をみせた。このステージでサイモン・ゲランス(オーストラリア)がスプリントを制すると、続く第4ステージではチームTTで勝利。ゲランスはマイヨジョーヌも獲得した。

 以降、ゲランス、ダリル・インピー(南アフリカ)がそれぞれマイヨジョーヌを2日間着用。ポディウムでプレゼントされる、大会スポンサーLCL社のライオンのマスコットを4体、故障の修理から戻ってきたばかりのチームバスに飾ることができたのだ。それは、チームがバスによるトラブルの呵責を乗り越え、元来持つポジティブさを発揮して実を結んだことを意味している。

 ダニエル・マーティン(アイルランド)が第9ステージを制したガーミン・シャープも報われたと言えるだろう。

第9ステージを区間優勝したマルティン(7月9日)第9ステージを区間優勝したマルティン(7月9日)

 チームを率いる“策士”ジョナサン・ヴォーターズは、このステージ序盤から選手を次々に前方へと送り出し、レースをかき回した。総合2位につけていたリッチー・ポート(オーストラリア、スカイ プロサイクリング)までもが餌食となった山岳でのハイスピードバトルは、マーティンが自らの勝負強さで成就させた。

 ヴォーターズがとった作戦は、レースをおもしろくさせたのは良いが、ガーミン・シャープの選手たちには消耗という形でツケが出てしまい、危うく「策士、策に溺れる」ところでもあった。同時に、勝つに値するチームが勝った、大きな成功例にもなった。総合では遅れをとったかもしれないが(マーティンが2分28秒遅れの総合8位につけてはいるが…)、ならば相応のトライをするのがこのチームだ。守りに入ることの恐ろしさは、我々の生活に置き換えて考えてみればわかりやすいかもしれない。

 第2週目はどんな展開が待っているだろうか。まだまだステージは残されていて、勝負が決まったと見るには早すぎる気がする。もっとも、追う側も追われる側も、持っている“強さ”を観る者に見せつけてほしい、そう願う部分が強いというのが実際のところだ。

モン・サン・ミッシェルからモン・ヴァントゥへ 第11~15ステージ展望

第77回目のツールでモン・サン・ミッシェルへ向かって走行したステージ(1990年)第77回目のツールでモン・サン・ミッシェルへ向かって走行したステージ(1990年)
第15ステージ コースプロフィール ©A.S.O.第15ステージ コースプロフィール ©A.S.O.

 この1週間のほとんどは、スピードマンが主役になるだろう。そして、2週目の締めくくりにツールを象徴する大きなスポットが待ち受ける。

 世界遺産モン・サン・ミッシェルに向かう33kmの個人タイムトライアルが第11ステージに登場。ほぼフラットで、TTスペシャリストの力の見せどころだ。総合上位陣にとっては、ここでのタイム差が今後の戦いに直結してくる。

 前日まで耐え抜いたスプリンターたちは、第12ステージ(218km)、第13ステージ(173km)で再び勝負のときを迎える。山岳ポイントは、第13ステージでの4級山岳1つだけ。今大会序盤のスプリントステージ同様、オメガファルマ・クイックステップやロット・ベリソルが集団コントロールを担うことが予想される。

 リヨンを目指す第14ステージ(191km)は、アタックの応酬に期待。中盤から後半にかけて7カ所の山岳ポイントが出てくるが、いずれも3級または4級。登坂距離も短く、逃げ集団にチャンスが巡ってきそうだ。一方で、スプリンターチームがどのようにエースを導くかにも注目が集まる。

 そして、第15ステージ(242.5km)に“魔の山”モン・ヴァントゥが登場。スタートからフラットなルートを進み、最後の20.8kmで高度にして1690mを一気に上る。平均勾配7.5%。総合争いに大きな展開が待っていることだろう。

今週の爆走ライダー: ダリル・インピー(南アフリカ、オリカ・グリーンエッジ)

「爆走ライダー」とは…
 1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

マイヨ・ジョーヌに身を包んだインピー(7月4日)マイヨ・ジョーヌに身を包んだインピー(7月4日)

 ロードレースに詳しいファンなら、バルロワールド時代の2009年ツアー・オブ・ターキー最終ステージのゴール直前で、テオ・ボス(オランダ、当時ラボバンクコンチネンタル)に引っ張られ大落車した選手、とのイメージが強いかもしれない。その時は、5ヵ月間レースから遠ざかるほどの怪我を負っている。

 2010年にはチーム・レイディオシャック(当時)入りも、活躍の場に乏しく1年で移籍。その移籍先となったペガサススポーツは、チームビルディングキャンプまで行いながら、シーズン直前で頓挫。危うく無所属でシーズンを送るピンチを経験するなど、何かと苦労が多かった。

チームとともにハイスピードで走行するインピー(7月6日)チームとともにハイスピードで走行するインピー(7月6日)

 転機は2012年。合流した現チームで活躍の場が巡ってきた。スプリンターの発射台を務めたり、チームタイムトライアルでの牽引役など、持ち前のスピードを生かしチームの主力となった。

 今ツールは第6ステージでアフリカ圏選手初のマイヨジョーヌを獲得。記念の地・モンペリエは奇しくも、2007年のツール第11ステージで同胞のロバート・ハンター(当時バルロワールド)が、アフリカ圏選手として初のステージ勝利を飾った場所と同じだ。

 そんなハンターがお手本だという彼。今ツールの第8ステージでは、マイヨジョーヌを手放すことが濃厚と見られながらも山岳で粘り、総合リーダーとしての責任を果たした。これからは、インピーの存在が全アフリカ圏選手の模範となるに違いない。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)
自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて数十年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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ツール・ド・フランス2013 週刊サイクルワールド

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