【迷走 自転車対策の現場(下)】社会問題化、事故防止譲り合う精神

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 自転車事故が社会問題化する中、改めて注目を集めているのが自転車専用の通行路だ。歩行者とも、車とも、別のところを走るなら、事故の危険は大幅に少なくなるため、理想的な問題解決策のようだが、現実はそう単純ではない。

「自転車の通行路ができてから、店の売り上げが2、3割落ちた」

 東京都江東区亀戸の国道14号沿いにあるビルで、スポーツ店を経営する男性(39)は、複雑な表情で話す。この地区では、3年ほど前から、片側4車線の国道と歩道の間に柵を設け、幅約2メートルの自転車通行路を確保する道路整備が行われているが、車や自転車の客が歩道脇の店に立ち寄りにくくなり、売り上げが減り始めたという。

 通行路はまだ整備途中で、店の近くで途切れているが、それでも歩道からぶらりと立ち寄る自転車の客は大幅に減った。車の客も店の前に車を一時停車しにくくなり、店への荷物搬入も不便になった。

 「店の前の歩道はそこそこ広い。気をつけて走れば、いいだけ。ここに自転車だけの道が必要と思っている人なんているのかな」

 男性は、こう話す。

 近隣には通行路にあからさまに反対する店もあり、約1・2キロにわたって予定されている通行路は、まだ400メートルしか整備されていない。

◇          ◇

 「自転車専用の通行路は、地域の実態を細かく調査したうえで整備をしないと、地域住民に受け入れられない。そういう検討なしでは、有効な対策にはならないのではないか」

 自転車問題に詳しい筑波大学大学院人間総合科学研究科の吉田章教授は、こう指摘する。

 警察庁が「自転車は車道」という“原則回帰”を打ち出してから、こうした通行路を検討する自治体は増えている。群馬県警は10月末、自転車走行が認められる県内の歩道約2360キロについて、実態調査を指示。宇都宮市でも今月19~25日、中心部の商店街「オリオン通り」に、自転車専用路を設置した。

 しかし、いずれもまだ検討・実験段階だ。通行路に必要な最低1メートル程度の幅を確保できるのは、もともと車道や歩道に余裕がある場所だけ。多くの道路では、道の拡幅や建物の立ち退きが必要になり、莫大(ばくだい)な費用と時間を要する。タクシーを降りるなどした歩行者が横切る際、自転車にはねられる事故も予想される。

◇          ◇

 他国では、必ずしも自転車と歩行者、車の三者を分離するという対策にこだわっていない。

 ドイツやデンマークでは車道を走る自転車に配慮して、車の速度を時速30キロ以下に規制する道路が街中に整備されている。イタリアでは、バスから乗客が降りるとき、多くの運転手やガイドが、すぐ横を走ってくる自転車に注意するよう乗客に促すという。

 「結局、大事なのは三者が少しずつお互いに譲り合うこと。大岡裁きの“三方一両損”の精神が求められるのではないか」

 交通取り締まりなどを担当している警視庁幹部は話す。

 その精神を実現するにはどうしたらいいのか。吉田教授は「自転車の交通ルールと運転技術を学ぶ場所をもっとつくるべきだし、違法な運転に対する警察の取り締まり強化も必要」と指摘する。

 歩行者にも自転車にも車にも安全な社会の実現に向けて、自転車対策はまだ始まったばかりといえる。(西尾美穂子)

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