ホッと一息@北海道自転車が街の未来を変える 札幌のサイクルシェアリング「ポロクル」

  • 一覧

 札幌市の「ポロクル」が2年目のシーズンを迎えている。みんなで自転車を分け合って利用するサービスで、登録すれば市内各所に設けられたサイクルポート(専用駐輪場)間を自由に乗り降りできる。便利で環境に優しいだけでなく、放置自転車の減少や自転車のマナー向上も目的としたこの事業を支えているのは、学生を中心とした若者たちだ。自転車の移動や整備などの作業をしながら率先して正しい乗り方を実践することで、10年後に笑顔があふれる街を目指す。(産経新聞札幌支局 藤井克郎)

クルーは歩道では必ず自転車を押して移動させる=6月25日、札幌市中央区(藤井克郎撮影)クルーは歩道では必ず自転車を押して移動させる

 札幌市の中心部、大通公園に近いオフィスビルの脇に設置されたポロクルのサイクルポートで、2人の若者が作業をしていた。おそろいのグリーンのポロシャツの背中には、「みんなの道 走ろう左」の文字が躍る。調整のため、ほかのポートに移動させる自転車を数台、ワゴン車に積み込むと、自らは自転車を押して歩道を歩き出した。

 「歩道は押して、車道は左側を走る、というルールは徹底しています。4、5人のシフトで、1シフトの作業は5時間。朝は点検が多く、夜になると翌日に向けての台数調整が中心になります」と、車で自転車を回収していたクルーの鈴木悠司さん(22)は説明する。

 ポロクルが本格営業を開始したのは昨年4月。雪が積もる11月半ばにいったん閉鎖し、今年4月から2年目のシーズンが始まった。事業主体は、総合建設コンサルタントのドーコン(札幌市厚別区)の子会社、ドーコンモビリティデザインで、学生を中心とした環境NGO(非政府組織)「ezorock」のメンバーが、クルーとして支えている。

ポロクルの狙いについて説明するドーコンモビリティデザインの澤充隆さん=6月25日、札幌市中央区のポロクルサポートセンター(藤井克郎撮影)ポロクルの狙いについて説明するドーコンモビリティデザインの澤充隆さん

 「建設コンサルタントとしてこれまで、発注に基づいた業務を請け負ってきたが、それだけじゃなく、社会的意味合いがあってビジネスにもなるものがあるんじゃないか。高速道路など大きな道路ばかり造ってきた中で見過ごされてきたものもあるんじゃないか。そんな議論から浮上してきたのが自転車だった。自転車の事故は急増しているし、自転車にまつわるさまざまな問題が注目されてきたころで、新しいビジネスモデルとして何か打ち出せたらとなったんです」と、ドーコンモビリティデザイン取締役事業部長の澤充隆さん(45)は振り返る。

 同社が参考にしたのは、フランスのパリで2007年に導入された「ベリブ」というコミュニティーサイクルだった。自転車1万台を使用し、750ものステーションを備える大規模な貸し自転車システムで、道路上にバス停と同じような広告スペースを設けることで収入を得ている。

都心部を中心にこのようなサイクルポートが40カ所くらい設けてある=6月25日、札幌市中央区(藤井克郎撮影)都心部を中心にこのようなサイクルポートが40カ所くらい設けてある

 だが都市規模も生活習慣も違う札幌にそのまま持ってきても難しい。試行錯誤を重ね、実証実験などを行いながら札幌モデルとして始めたのが、サイクルシェアリングという考えのポロクルだった。市内各所にサイクルポートを設け、有料で登録した人は、どこのポートでも自由に貸し出し、返却ができる。2年目の今年は、およそ40カ所のポートに特注の自転車250台を用意。すでに法人で500契約、個人で4400契約と昨年を大幅に上回っている。ちなみにポロクルの「ポロ」は札幌、「クル」はサイクル(自転車)から名付けた。

 「日本は屋外広告があふれているし、規制も多い。やみくもに広告を増やしてそれを収益にすることはあり得ません。まずは若者を巻き込んで公益性を高めていく。そうすることで将来の収益に結びつけばと考えています」と澤さん。

ポロクル事業をサポートするezorockの鈴木悠司さん、三上貴史さん、小野寺桜さん(左から)=6月25日、札幌市中央区(藤井克郎撮影)ポロクル事業をサポートするezorockの鈴木悠司さん、三上貴史さん、小野寺桜さん(左から)
ポロクルのサポートセンターでは、ezorockの若者が自転車を1台1台、丁寧に整備している=6月25日、札幌市中央区(藤井克郎撮影)ポロクルのサポートセンターでは、ezorockの若者が自転車を1台1台、丁寧に整備している

 そこで出会ったのが、ezorockの若者たちだった。このNGOはもともと、石狩湾新港で毎年夏に開かれている「RISING SUN ROCK FESTIVAL」のボランティアに集まった学生が組織。ほかにもさまざまな環境系のボランティア活動を行っており、実証実験のころからポロクルに協力してきた。

 「レンタルではなく、シェアリングという仕組みにひかれた。レンタルはその時間を個人が買い取るわけですが、これはみんなで分け合うという考え方ですからね」と話すezorock事務局の三上貴史さん(25)によると、現在は50人近くのメンバーがポロクルのクルーとして参加。1シフト5時間の勤務にはバイト代が派生するが、多くのメンバーが勤務後も事務所にとどまって、まちづくりなどについて話し合ったりしているという。

 「若者の意見を聞いてくれて、社会との窓口を作ることができるのはやりがいがある。ポロクルに関わることで、それまで社会や街に無関心だった子たちが関心を持ち始めるということが大事なんじゃないか。警察や駐車監視員の人たちは一般市民には近寄りがたいかもしれないが、僕たちならみんなでよりよい空気を作り上げる要素を持っている。街を楽しく盛り上げるための一因になれたら、みんなが笑顔であふれるような街にできたら、と思うんです」と三上さん。

 ポロクルの自転車が保管されているサポートセンターで1台1台、丁寧に磨いていた北海道教育大4年の小野寺桜さん(21)は「ポロクルを利用してくれる人から、ありがとうなどと声をかけてもらえるとうれしいですね。でもまだまだ違法駐輪が減ったという実感は持てない。自転車の乗り方が危ない人もまだ多いので、もっとがんばってポロクルの重要性を伝えていきたいと思っています」と意欲を見せる。

サイクルポートによって台数の偏りが出ないよう、クルーは頻繁に自転車を移動させる=6月25日、札幌市中央区(藤井克郎撮影)サイクルポートによって台数の偏りが出ないよう、クルーは頻繁に自転車を移動させる
クルーが自分たちで自転車に乗ってサイクルポート間を移動させることも多い=6月25日、札幌市中央区(藤井克郎撮影)クルーが自分たちで自転車に乗ってサイクルポート間を移動させることも多い
クルーは歩道から車道に出ると初めて自転車に乗る。必ず左側走行だ=6月25日、札幌市中央区(藤井克郎撮影)クルーは歩道から車道に出ると初めて自転車に乗る。必ず左側走行だ

 ドーコンモビリティデザインの澤さんによると、札幌市の放置自転車の数は全国でも4、5位にランクインするほどで、歩道の点字ブロックの上にはみ出して駐輪するような危険なケースも見られるという。歩道を疾走する自転車も多く、イヤホンや携帯電話をしながら走行するマナー違反も後を絶たない。「それらもちょっとした心の隙間が生むものなんです。ポロクルに触れて新しい価値観で自転車を共有すれば、いい人になることができる」と澤さんは力説する。

 若いクルーが率先しているせいか、ポロクルの利用者は通常の自転車と比べるとマナーがいいようだ。ときにはイヤホンをして返却してくる利用者もいて注意を促すが、逆ギレするような人はいないという。「10年後、20年後には、クルーをしている若者の世代が街の主役になっている。彼らのおかげでその先の未来が変わるかもしれない。そんな一つの仕掛けでありたいと思っています」と澤さんは期待感をにじませた。

この記事のコメント

利用規約順守の上ご投稿ください。

関連記事

この記事のタグ

レンタサイクル/バイクシェアリング

  • 一覧

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

e-BIKE最新特集

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載