山口和幸の「ツールに乾杯!」<3>25年間見続けた夢…新城が表彰台に立ち、ボクの脳裏をよぎったこと

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 4日に行われた第4ステージ、ルーアンのゴール地点で新城幸也を待った。0km地点でアタックし、210kmを逃げに逃げた果てに捕まって、開口一番なんて言うんだろう? もうその時点でグライペルが勝ったとか、カンチェッラーラがマイヨジョーヌを守ったとか、もうどうでもよくて。あー、集団に埋もれて緑のジャージを着た新城がきたきた!

ツール・ド・フランス 2012

 ところがボクの目前で新城は数人のスタッフに囲まれてしまい、なにごとか言葉をかけられた。新城が「ウィ!!」とうなずいたのが見えたのが最後で、自転車に乗ったままUターンして表彰台に拉致されていった。

 「つまり敢闘賞だ。しかも日本勢初の表彰台だ!」

 敢闘賞はもともとフランス勢が受賞する確率が極めて高い。6人の選考委員がフランス人ばかりだし、フランス人は結局勝利に結びつかず「お情け」的に受賞することもあると思う。だから新城が敢闘賞を獲得したのは他の2選手よりも格段に頑張っていたからだ。

 しかもここ、第4ステージのゴール、ルーアンはツール・ド・フランスで初めて5勝を記録したフランスのジャック・アンクティルの出身地だ。ラジオでもゆかりの人やアンクティルにまつわるエピソードをずっと紹介していた。つまり7月14日のフランス革命記念日と同じくらい、ルーアンではフランス人が勝たなくちゃいけないステージなのだ。

 新城が他の2選手よりアグレッシブに走っていたのはだれが見ても明らかで、ボク自身も敢闘賞の表彰台に呼ばれたのを確認したとき、うれしかったけどとりわけ驚くことはなかった。

この日の敢闘賞を獲得した新城幸也(チーム ヨーロッパカー)。日本人選手で史上初めてツール・ド・フランスの表彰台に上った(砂田弓弦撮影)この日の敢闘賞を獲得した新城幸也(チーム ヨーロッパカー)。日本人選手で史上初めてツール・ド・フランスの表彰台に上った(砂田弓弦撮影)

 25年ほど大会を取材しているが、母国の選手が表彰台に上るなんて初体験だ。ボク自身はジャーナリストというID区分なので、カメラマンのようにゴールエリアや表彰台の前には入れない。普段は続々とゴールする選手がチームバスに乗り込む前に捕まえて話を聞けばいいのだが、表彰対象者は違う。表彰台の後ろにある、ジャーナリストのために用意されたコンタクトエリアで新城を待つ。

 しばらく待っていると、特別仕様の車両の中で着替えた新城がステージ裏に出てきた。すでにマイヨジョーヌから表彰が始まっている。アテンドしている広報担当にインタビューしたい旨を伝えると応えてくれた。

 おお、新城がきた。まずはフランステレビジョン、続いて大会公式の子ども新聞、ラジオ局。そしてボクのところに来てくれたとき、「敢闘賞が始まるぞ!」と登壇をせかされた。あ、連れて行かれた。

 日本勢がこのツール・ド・フランスの、あの表彰台に上るシーンを夢見てここまで続けてきたが、その夢が実現した瞬間だ。ボクはその場を動けなかったので、セレモニーを進行するダニエル・マンジャスの声と、「ユキヤー・アハシオ、ル・プルミエジャポネ!」のかけ声に応えた地元ルーアン市民の大歓声を聞くだけで十分だった。

表彰式を終え、敢闘賞の盾を手に引きあげる新城幸也表彰式を終え、敢闘賞の盾を手に引きあげる新城幸也

 表彰式からしばらくしてボクたち日本人取材陣のところに来てくれたので、しっかりとその話も聞くことができた。

日本からの取材陣に囲まれる新城幸也日本からの取材陣に囲まれる新城幸也

 ボクがサイクルスポーツ編集部を離れて、初めて取材した1997年ツール・ド・フランスはルーアンで開幕した。以来クルマを一人で運転し、全日程を追いかけているのだが、あのときのルーアンは不安でいっぱいだった。ボクがツール・ド・フランスの常連になると、隣に座った記者が声をかけてきた。

 「日本選手は出ているのか?」
「それじゃなんでいるんだ?」

 そう言われるのは当然だったけど、くやしさは飲み込んだ。いつかは日本選手が表彰台に立ってくれると信じて、毎年自費でフランス一周の旅をするしかなかった。

 新城が敢闘賞を獲得したあとは原稿に追われ、息つく暇もなかったが、夜遅く郊外のホテルに入って奇跡的に開いていたレストランで食事をして、ようやく部屋で落ち着くことができた。

 別にボクは選手じゃないんだけど、くやしかったことやツラかったことなど、いろいろなことが脳裏をよぎった。
 

山口和幸山口和幸(やまぐち・かずゆき)
ツール・ド・フランスをはじめ、卓球・陸上・ボート競技などを追い続け、日刊スポーツ、東京中日スポーツ、ナンバー、ターザン、YAHOO!などで執筆。国内で行われる自転車の国際大会では広報を担当。著書に「シマノ〜世界を制した自転車パーツ〜堺の町工場が世界標準となるまで」(光文社)、「もっと知りたいツール・ド・フランス」(八重洲出版)。

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