パリ~ルーベ2013レンズ越しに追った「クラシックの女王」 時代を越えて愛され続ける伝統のレースの魅力

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 フランスで4月7日に開催されたパリ~ルーベ。「クラシックの女王」「北の地獄」とさまざまな異名を持つこのレースは、今年で第111回の開催を迎え、まさにクラシックレース中のクラシックレースといえよう。次々に登場する石畳が選手を苦しめ、また観客を熱狂させる。その日のレースでは、選手、観客、スタッフなど、その場で関わる全ての人たちにドラマが生まれる。伝統のレースを色鮮やかに彩るさまざまなシーンを、フォトグラファーの田中苑子さんが追った。


パリ~ルーベで最も有名なセクター、アランベールの森。長い直線路の石畳が選手たちを待ち構えるパリ~ルーベで最も有名なセクター、アランベールの森。長い直線路の石畳が選手たちを待ち構える
カルフール・ド・ラルブルの出口付近。大勢の観客が詰めかける人気の観戦ポイントカルフール・ド・ラルブルの出口付近。大勢の観客が詰めかける人気の観戦ポイント
乾燥して例年以上に砂埃がひどかった今年のパリ~ルーベ乾燥して例年以上に砂埃がひどかった今年のパリ~ルーベ

111回目 脈々と受け継がれてきた情熱

レース前日に開催されたチームプレゼンテーション。壇上で紹介される別府史之(オリカ・グリーンエッジ)レース前日に開催されたチームプレゼンテーション。壇上で紹介される別府史之(オリカ・グリーンエッジ)

 ツール・デ・フランドルから1週間後の日曜日、世界でイチバン有名なクラシックレース「パリ~ルーベ」が開催されました。クラシックレースとは、歴史ある伝統的なレースのことで、パリ~ルーベの場合、初めて開催されたのは1世紀以上も前の1898年です。途中、世界大戦により開催されなかった年もありますが、今年は111回目の開催となりました。

 当たり前の話ですが、1回目の大会を見た人は、現在まずこの世には生きていません。選手や関係者が時代とともにどんどん移り変わっていくなかで、レースは毎年必ず開催され、脈々と後世に受け継がれています。そう考えると、いま私たちが目にするレースのどこかに、100年以上も昔の人たちの情熱が生きているような気がして、少し不思議な気持ちになりました。

スタート地点のペルマナンスとなったコンピエーニュ城。場内は美術館になっているスタート地点のペルマナンスとなったコンピエーニュ城。場内は美術館になっている

 さて、パリ~ルーベはその名前のとおり、フランスの首都・パリから、ベルギー国境に近いルーベまで北上するレースです。かつてはパリ市内のポルト・マイヨからスタートしていましたが、最近はパリ郊外のコンピエーニュがスタート地点として定着しています。

 スタート地点は、マリー・アントワネットやナポレオン、歴代の国王らに愛されたというコンピエーニュ城の前。レースが始まるまでは、お城の内部が関係者用の施設に充てられ、プレスセンターや監督会議には、荘厳な雰囲気が漂うお城の一室が使われます。いかにもフランスらしいなぁ、と思うところです。

スタート地点のコンピエーニュでなぜかブタの被り物で自転車に乗って応援するファンスタート地点のコンピエーニュでなぜかブタの被り物で自転車に乗って応援するファン
スタート地点のスポンサーブースで大会の旗をもらって喜ぶスタート地点のスポンサーブースで大会の旗をもらって喜ぶ

フランドルとは石畳の質が違う? より難易度が高い“荒れた農道”

ニュートラルサポートのマヴィックは、たくさんのタイヤとともにオフロードバイクで参戦ニュートラルサポートのマヴィックは、たくさんのタイヤとともにオフロードバイクで参戦

 パリ~ルーベはツール・デ・フランドルなどのベルギーのクラシックレースと“北のクラシック”として、括られることが多いのですが、これらレースは、“歴史がある”“石畳を使う”という点以外では、大きく雰囲気の異なるレースだと私は感じています。

 そもそも共通点とされている“石畳”ですが、フランドルのものは規則的にきれいに敷き詰められ、かつ登坂区間に多く見られるのに対して、パリ~ルーベでは、農道のような細くて荒れた道に敷き詰められたもので、石と石、それぞれの間隔が広く、間に草が生えていることも珍しくありません。そのため求められる脚質やテクニックも変わってきますし、難易度という面からは、やはりパリ~ルーベのほうが上だということは、選手でない私であっても簡単に理解できます。別府史之選手(オリカ・グリーンエッジ)は「そうですね、パリ~ルーベのほうが荒い石畳でよりアツくなるんですよ!」なんて話していました。

難易度が高いカルフール・ド・ラルブルの石畳。路面もけっしてフラットではない難易度が高いカルフール・ド・ラルブルの石畳。路面もけっしてフラットではない
アランベールの荒れた石畳。溝が深くて草が生えているアランベールの荒れた石畳。溝が深くて草が生えている
コースの設営が終わったカルフール・ド・ラルブルコースの設営が終わったカルフール・ド・ラルブル

 また大会運営という面からも大きな違いを感じています。最初に「世界でイチバン有名なクラシックレース」という表現をしましたが、それには、パリ~ルーベの極めて高い難易度だけでなく、プロモーションの上手さも関係していると思います。

 現在、大会を主催するのはツール・ド・フランスの主催者であるASO。ツール・ド・フランス同様にたくさんのスポンサーを抱え、レース映像は瞬く間に全世界へと配信されます。レースのエンターテイメント性を最大限に生かしながら、システマチックで規模の大きい大会運営という印象が強いレースです。

ツール・ド・フランスでもおなじみ自動車メーカー、シュコダのイエティ。子どもたちに大人気ツール・ド・フランスでもおなじみ自動車メーカー、シュコダのイエティ。子どもたちに大人気
「パリ~ルーベの石畳」という標識。有名な石畳セクターに設置され、1年を通してサイクリストや観光客が訪れる「パリ~ルーベの石畳」という標識。有名な石畳セクターに設置され、1年を通してサイクリストや観光客が訪れる
アランベールで試走をする選手たち。選手の試走にもカメラマンモトが帯同するアランベールで試走をする選手たち。選手の試走にもカメラマンモトが帯同する

セクターからセクターへ カメラマンも必死にレースを追う

 そして、迎えたレース当日。ここは興味をもっていただけるかわかりませんが、私の話をしたいと思います。オートバイで移動するカメラマンたちは、ラジオから伝わってくる情報を頼りにして、セクターからセクターへと猛スピードで移動していきます。道が細いので、1カ所で撮影を終えるとコースには戻らず、GPSを頼りにコースではない裏道をつないでいくんです。

 それが舗装路とは限らず、ところによっては砂利道になります。スピードが早いものだから、ときどき後輪が滑ったりして、ジェットコースターなんて比にならないほどのスリルに溢れています…。写真1枚のために転倒事故を起こすのは馬鹿げていますが、この期に及んで「ゆっくり行こう!」なんて言っていられません。安全確保は大前提ですが、どこまで攻められるか、まるでカメラマンたちもレースをしているようです。

抜け道を使って次のセクターに向かうカメラマンモト。砂埃でほとんど姿が見えない(2012年)抜け道を使って次のセクターに向かうカメラマンモト。砂埃でほとんど姿が見えない(2012年)
ゴールのルーベに向かうカメラマンモトの隊列ゴールのルーベに向かうカメラマンモトの隊列
アメリカ人とベルギー人のファン。セクター23にてアメリカ人とベルギー人のファン。セクター23にて
最初の石畳セクターにて最初の石畳セクターにて
セクター8にて。リラックスして観戦を楽しむ地元の人たちセクター8にて。リラックスして観戦を楽しむ地元の人たち
ルーベの競技場にて。選手たちはバンクを1周半してゴールとなるルーベの競技場にて。選手たちはバンクを1周半してゴールとなる

 そんな風にして、私が今年、撮影したのは、セクター27、25、23、18、12、11、8、4、そしてゴールです。コースマップを見てもらうと、どんな動きをしていたのか想像できると思いますが、一分一秒を争う非常にナーバスな現場でした。私のドライバーは去年から一緒に仕事をしていて、今年は2シーズン目。

 しかし、なかなかうまくいかない部分もあって、今年は私が感情的に怒る場面もありました。彼はヘルメットを被ると性格が変わると言いますが、私もカメラを持つと性格が変わるのかもしれません…。普段、大声を出すことなんてありませんが、こういう現場では、言葉の壁もありますので、感情を大きく表現します。

昔ながらのシャワーが残る歴史あるルーベの競技場昔ながらのシャワーが残る歴史あるルーベの競技場

 もっとうまくやれば、あと2カ所くらい撮影ができたハズです。しかし、ドライバーの失敗は、私の詰めの甘さであることも事実ですので、うまくできなかったところはお互いに来年までの課題です。でも何よりも、ゴールであるルーベの競技場に着いたときは、無事に終えられたことにホッとし、シャワールームで泥を落とす選手たちの表情に共感できる部分が多くありました。

 今回、初めて競技場の歴史あるシャワールームで撮影することができました。歴代の優勝者の名前が壁に刻まれていることで有名な古いシャワールーム。選手(男性)のシャワーシーンの撮影というのは、ちょっと気が引けますが、目を伏せながら、こっそりと撮影をさせてもらいました。

 このとき、ちょうどシャワーを浴びていたのは、シクロクロスでも活躍するスティーヴ・シェネル(フランス、AG2R)でした。トップから50秒差の17位でゴール、彼にとっては好成績です。壁越しに私のレンズを見つけ、嬉しそうに笑ってくれたのが印象的でした。

歴代優勝者の名前が刻まれるルーベ競技場のシャワールーム歴代優勝者の名前が刻まれるルーベ競技場のシャワールーム
長くて厳しいレースを終えて、シャワーを浴びる長くて厳しいレースを終えて、シャワーを浴びる
シャワールームで達成感と安堵に包まれるシャワールームで達成感と安堵に包まれる
シャワールームで笑顔を見せるスティーヴ・シェネル(フランス、AG2R)シャワールームで笑顔を見せるスティーヴ・シェネル(フランス、AG2R)

 テクニックや脚力だけでなく精神力や運をも試される究極の自転車レースであるパリ~ルーベ。今年も約半数の選手がトラブルに見舞われるなどして、ルーベに辿り着くことができませんでした。さらに先頭集団の選手が観客と接触して落車するという悲しいトラブルもありました。いったいどれだけ多くの選手が納得のいく結果を残せたのでしょうか?

無事にルーベのゴールまで走りきり、笑顔を浮かべる無事にルーベのゴールまで走りきり、笑顔を浮かべる
レースを終えたチームカーにはたくさんの砂埃がついているレースを終えたチームカーにはたくさんの砂埃がついている
新しく建設された室内の競技場で開催されたファビアン・カンチェッラーラの優勝会見新しく建設された室内の競技場で開催されたファビアン・カンチェッラーラの優勝会見
表彰式で石畳のブロックを使ったトロフィーにキスをするファビアン・カンチェッラーラ表彰式で石畳のブロックを使ったトロフィーにキスをするファビアン・カンチェッラーラ

 パリ~ルーベは「クラシックの女王」という異名も持っています。コースだけでなく運命の厳しさ、そして、それを乗り越えた先にある至福感とのギャップは、たしかに厳しくも優しい「女王」のイメージと重なります。

 長い歴史とともに、そんな「女王」は果敢にもレースに挑む選手たち、そしてそこに情熱を捧げる人たちを見守り続けているのでしょう。

(写真・文 田中苑子)

中川裕之田中苑子(たなか そのこ)
1981年、千葉生まれ。2005年に看護師から自転車専門誌の編集部に転職。2008年よりフリーランスカメラマンに転向し、現在はアジアの草レースからツール・ド・フランスまで、世界各国の色鮮やかなサイクルスポーツを追っかけ中。

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