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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<6>スパルタクスの反乱、完遂! 最高のフィナーレとなった“春のカンチェ祭り”

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 カンチェッラーラに始まり、カンチェッラーラに終わる――今年の「北のクラシック」はまさにこれに尽きますね。特にパリ~ルーベではレース中、そしてレース後と、これまでのファビアン・カンチェッラーラ(スイス、レイディオシャック・レオパード・トレック)が表に出さなかった一面を垣間見ることにもなりました。ルーベで見せた彼の走りは、みなさんにはどう映ったでしょうか?

“春のカンチェ祭り”の山場 最後は経験値の差

自ら小グループを率いて走るファビアン・カンチェッラーラ(スイス、レイディオシャック・レオパード・トレック)自ら小グループを率いて走るファビアン・カンチェッラーラ(スイス、レイディオシャック・レオパード・トレック)

 E3ハーレルベーケ、ツール・デ・フランドルでライバルを圧倒し、続くパリ~ルーベでは誰がどう見ても優勝候補筆頭だったカンチェッラーラ。注目されたのはその勝ち方、そしてどこで仕掛けるのかといったレース内容だった。ふたを開けてみると、“カンチェッラーラ劇場”は新たなストーリー展開で構成されることとなった。

 「早めに仕掛けて独走に持ち込む」というスタイルが、カンチェ定番の勝ちパターン。しかし、今回はゴール地点であるルーベのベロドローム(競技場)まで勝負が持ち越され、ラストのスプリントで“ようやく”競り勝った形だ。

勝負が決まった瞬間、両手を上げるファビアン・カンチェッラーラと2着セップ・ヴァンマルク勝負が決まった瞬間、両手を上げるファビアン・カンチェッラーラと2着セップ・ヴァンマルク

 いくらカンチェとはいえ、あの展開はリスクが大きすぎた。厳しすぎるマークを受け、アシストも早々に失うなど苦境に立たされた。さらには、4月3日のシュヘルデプライス、その後のパヴェ試走中とレース直前に2回の落車に見舞われており、体へのダメージは少なからずあっただろう。先の2つのクラシックレースとは違った走り方を余儀なくされたのだ。

 実際のところ、カンチェッラーラは最後の最後まで決定的なアタックを繰り出せないままだった。先頭集団が分断された際に後方に残り、チームカーを呼ぶなど消極的に見える動きも見られた。最後は、持ち前のパワーと経験で逆境をカバーして、優勝を何とか手繰り寄せた格好だ。

 カンチェが2位となった2年前のパリ~ルーベを思い出してほしい。20人以上の逃げが形成され、それにほとんどのチームが乗ったことにより、カンチェが勝つためには自ら動く必要があった。そして、彼をマークする有力選手たちはこぞって先頭交代を拒否。ペースの上げ下げを繰り返しているうちに、逃げ集団にいたヨハン・ヴァンスーメレン(ベルギー、当時ガーミン・サーヴェロ)の逃げ切り優勝を許す格好となった。

 今回もひとつ間違えれば、それに近い形になりかねなかったのではないか。2年前のように大人数の逃げがあったわけではないが、精鋭グループに絞られるほど、選手たちはカンチェマークに徹することになる。

 それであれば、数的優位を作り出していたオメガファルマ・クイックステップや、ブランコ プロサイクリングの選手たちをあえて動かして、自分は少し距離を置きながら仕掛けどころを待つ――チームカーを呼んだのは、そのための打ち合わせだったのかなと思ったり…。

 そんな中で、いつもとは違うカンチェの動きに対応できた選手がいたことも確かだ。セップ・ヴァンマルク(ベルギー、ブランコ プロサイクリング)は、ラストのスプリントでは分(ぶ)があると見られた。結局、ヴァンマルクのライン取りが甘かったということもあり、カンチェの勝利となったのだが。

勝負をたたえ表彰台でかたく握手を交わすファビアン・カンチェッラーラ(スイス、レイディオシャック・レオパード・トレック)左とセップ・ヴァンマルク(ベルギー、ブランコ・プロサイクリングチーム)勝負をたたえ表彰台でかたく握手を交わすファビアン・カンチェッラーラ(スイス、レイディオシャック・レオパード・トレック)左とセップ・ヴァンマルク(ベルギー、ブランコ・プロサイクリングチーム)

 だからといって、これを機にカンチェの勝ちパターンが増えたとは思えない。残り4km地点でのアタックに失敗した時点で、勝つための選択肢は1つしか残っていなかったゆえの“賭け”だったはず。そして勝敗を分けたのは、ルーベのコースをどの程度体に染み込ませているか、いわば経験値の差だったのではないだろうか。

アルデンヌクラシック開幕! ゴール位置が変更されるアムステルゴールドレースは要注目

 クラシックシーズンは、ベルギー・フランドル地域やフランス北部から、オランダやベルギー・ワロン地域へと舞台がシフト。まずは4月14日のアムステルゴールドレースだ。

2012年のアムステルゴールドレースて名物風車の前を通過するプロトン2012年のアムステルゴールドレースて名物風車の前を通過するプロトン

 これまで、カウベルグ(800m、勾配12%)での上りスプリントでフィナーレを迎えていたレースは、今年からゴール位置が変更。カウベルグを上って、さらに1.8km走ってフィニッシュとなる。

 昨年、同地で開催された世界選手権では、カウベルグで飛び出したフィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)がゴールまで逃げ切り、マイヨ・アルカンシエルを獲得。このほかにも、カウベルグからゴールまでの1.8kmの間にさまざまなドラマが生まれたことで、アムステルゴールドレースにも採用されることとなった。これにより、クラシックハンターはもとより、“上れるスプリンター”にチャンスが巡ってくる可能性も。新たなコースとなり、各チームがどうレースを組み立てるかも焦点となる。

今週の爆走ライダー: ファビアン・カンチェッラーラ(スイス、レイディオシャック・レオパード・トレック)

「爆走ライダー」とは…
1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 昨年のツール・ド・フランスの期間中、筆者と同世代にあたる1980~1981年生まれの選手をピックアップしたが、彼はまさにその筆頭格である。

2012年のパリ~ルーベで勝ち取った石を高く掲げるカンチェッラーラ2012年のパリ~ルーベで勝ち取った石を高く掲げるカンチェッラーラ

 とにかく狙ったレースへのピーキングが凄まじい。近年であれば、北のクラシックとツール・ド・フランスのプロローグに向けて、確実に調子を上げてくる。その状態の良さは素人目にも分かるレベル。

 一方で、調整出場のレースや興行的要素の顔見せレースにおける走りはからっきしで、ギラギラしたモノが全く感じられない。白状すると、そんな“ちょっと弱々しい”彼の方が筆者は好きだったりするのだけれど(笑)。

 その強さゆえファンの間で“宇宙人”などと形容されるが、レースを離れれば人間味溢れる男だ。この北のクラシック期間中は、2011年のジロ・デ・イタリアで落車事故により命を落とした元チームメイト、ワウテル・ウェイラントの遺族の元を訪れて交流を深めたという。また、ウェイラントの墓へ足を運んだりと、ビッグレースが続く中でもかつての仲間や残された家族を思う気持ちを忘れることはなかった。そうした彼の人間性も、皆から愛される理由だろう。

 北のクラシック3冠を達成し、次なる野望は何になるのだろう? 筆者個人的には、トニー・マルティン(ドイツ、オメガファルマ・クイックステップ)の後塵を拝する状況のTTで、再び輝きを取り戻してほしいと願っている。

文 福光俊介・写真 砂田弓弦

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)
自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて数十年、気がつけばテレビやインターネットを介して観戦できるロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。2011年、ツール・ド・フランス観戦へ実際に赴いた際の興奮が忘れられず、自身もロードバイク乗りになる。自転車情報のFacebookページ「suke’s cycling world」も充実。本業は「ワイヤーママ徳島版」編集長。

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