チームNIPPO・デローザ 大門宏GMと福島晋一選手に聞く(後編)NIPPOは日本と世界の橋渡し 世界のトップシーンで活躍できる日本人を育てる

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 シーズン初戦となる「ツール・ド・ランカウイ」でチームのジュリアン・アレドンド・モレノ(コロンビア)が総合優勝したチームNIPPO・デローザ。このレースでは欧州で活躍する強豪プロチームを打ち破り、日本、アジアのコンチネンタルチームとして非常に価値ある勝利を掴んだ。この活躍に至るまでに、チームはどんなヴィジョンを描いていたのか。そして今シーズンに目指すものは? 福島晋一選手と大門宏ゼネラルマネージャーへのインタビュー後編は、若手の育成、さらには世界を目指すということについて、大いに語ってもらった。(聞き手 田中苑子)


見事ツール・ド・ランカウイで総合優勝を果たしたチームNIPPO・デローザ。幸先のいいシーズンが幕開けした見事ツール・ド・ランカウイで総合優勝を果たしたチームNIPPO・デローザ。幸先のいいシーズンが幕開けした

 ――若い選手に必要なものは何だと思いますか?

 福島「多くの経験に基づいたプロの仕事を見て、実際に自分もやってみて違いを肌で感じ、どうしたらその差を埋められるかって、自分自身で考えられるといいと思いますね。なかなかそこまで考えられる選手はいません」

 大門「最近の日本の平和ボケしてる若い選手たち(苦笑)にありがちな“待ちの姿勢”って、本当に厄介ですね。積極的に質問もしない、聞かれるのをひたすら待ってる子が本当に多い。明らかに“必死な姿勢”が欠けています。『どうしても』っていう真摯な気持ちは人間として向上していくには非常に大切です。

 素質、潜在能力は高そうなのに『そこまでして強くなりたい』とは考えていないように見受けられる選手が多い。目標が低かったり、すぐに満足してしまう。自身のクオリティを発揮せず、もて余している感じですね。実行が伴わなず、『何がなんでも…』って姿勢が伝わってこない選手が本当に増えました。

 選手のレベルをヨーロッパの水準まで引き上げたい田舎(日本)のチームにとって、そういう選手の消極的な思想は“果てしなく高い壁”に思えます。

ランカウイ最終ステージのスタート前。バリアーニが大学生2人に気さくに話しかける。言葉の習得も彼らにとっては大きな課題。カタコトでも積極的に話すランカウイ最終ステージのスタート前。バリアーニが大学生2人に気さくに話しかける。言葉の習得も彼らにとっては大きな課題。カタコトでも積極的に話す

 ただ、(ツール・ド・ランカウイにチームNIPPO・デローザから参加した)石橋学と徳田鍛造は、僕が思っていた以上にいい感じですね。物事に対してレスポンス、リアクションがあります。でも問題はこれからなんです。油断は禁物です(苦笑)。

 世界水準を目指す上でいまの選手に必要なことは、まず“貪欲な積極性と旺盛な好奇心”でしょうね。自身を強くしてくれる環境の良さ(価値観)の判断能力の低さも目立ちます。

 これも些細な話ですが、レース会場で、忙しそうに働いてるチームのスタッフに『トイレどこですか?』って聞くのも愚の骨頂です…。海外で活動するためには、スタッフにも様々なクオリティが要求されます。彼らのクオリティやキャパシティをリスペクトする選手の姿勢も求められます。これは僕からの愚痴になるけど、『トイレの場所を教えるために我々の貴重なスタッフはここにいるんじゃない!』って訴えたいですね(苦笑)。

 そういうちょっとした行動能力や姿勢が、選手の資質を占う要因だったりします。強くなる選手は不思議と、そういうことに関してストレスは感じませんね。僕はトレーニングメニューとか栄養学、機材なんかよりもはるかに大切で基本的な“しつけ”“教育”だと思います」

 福島「うん、これまで多くの選手を見てきて思うのは、強くなる選手ってあんまりアドバイスはいらないんだよね。タカシ(宮澤崇史、サクソ・ティンコフ)にしてもユキヤ(新城幸也、ヨーロッパカー)にしても、見ているだけで覚えていった。イチバン世話が焼けたのはコージ(福島晋一選手の弟、元選手の相沢康司氏)なんだけど…(笑)。あれは全部言ってもわかんないから! だけど、まぁ、それは人それぞれなんで、自分のやっている姿を見せるというのが、選手が選手に教えるイチバンいい方法かな、と思うね。自転車から降りて教えるとなると、言葉が必要になって、それはまた難しいので、まずは自分でやって示すのがいい。今回、自分もバリアーニの動きを見てきて、勉強になった部分はたくさんある。やっぱり観察力だよね。観察力がある選手は強くなるね」

アシストとしてボトルを運ぶ徳田鍛造。このチームでは“大学生だから”という甘えは通用しないアシストとしてボトルを運ぶ徳田鍛造。このチームでは“大学生だから”という甘えは通用しない

 大門「他のスポーツ界を見ても、この世代(大学生)で、もっとプロ意識が高くなければ選手として伸びないと思います。石橋と徳田には『これは経験のため、とかって考えるなよ』って言い聞かせました。ミッションができなかったら、それはすごく悔しいことだと思えって。そして『改善するためには自身で良く悩んで考えろ』と言います。

 皆さんよく“大学生の甘え”って言うじゃないですか。『学生にしては良く頑張った』とか…ただ、それって絶対に間違った意識の植え付けだと思っています。特に、他のスポーツ界を見渡せば、20歳そこそこで日本の代表で戦ってるヤツってたくさんいるでしょ? そういう意識が日本のロードレース界に薄いことも改善していかなくてはなりません。

 ――晋一選手も大学を卒業してからプロになっていますが、当時はどんな選手でしたか?

今季新たにチーム加入した福島晋一。今年42歳の大ベテランだ今季新たにチーム加入した福島晋一。今年42歳の大ベテランだ

 福島「あのころは何も考えていなかったね(笑)。もちろん、学生のころは、実業団の選手に『一緒に練習させてください』って、道場破りをしてやるって思いで決戦用ホイールを付けていったりもしていたけれど、最後のインカレで10位に入ったのが最高位だった。

 ただ、常にヨーロッパでやりたいっていう気持ちを持ち続けていた。大学卒業後に運良くチームブリヂストン・アンカーに入れて、さらに運良く3年目にヨーロッパへ1人派遣することになって、浅田顕監督に『行きたい人!』って聞かれて、『はい!!』って手を挙げて行かせてもらってね。それから数シーズンを経て、日本のトップ選手になれた。やっぱりヨーロッパで走りたいって思っていたのが、周りの選手との違いだったと思う。

 大学3回生のあとに、オランダに行って、苦手なクリテリウムばっかり走っていて打ちのめされて…。もう自転車をやめようかなって思いながら帰って来て。でもそれで日本のレースを走ると、選手と選手のあいだがスカスカだから、簡単に前に出れるんだよね。それでまた自信を取り戻して、卒業後は実業団で走りたいなぁって思うようになった。

 自分がブリヂストンに入ったときに、ちょうど浅田監督も入って、すごくタイミングもよかった。それでフランスに行って、どんどん勝って上に上がっていって。ヨーロッパでレベルが上がったことや、勝った自信から、日本に帰って来たらトップになれた。そんなキッカケがあった。

 だから学生のころはいまの彼らと比べたら…。今回、彼らが初めて走るレースはHCカテゴリー(プロカテゴリー)で、最初からそこで走ることが幸か不幸かわからないけど、トップへの近道ではあると思う。自分は第1カテゴリーのレースを走るまでには5年かかったからね。そういうチャンスがなかったし、どこの馬の骨かわからないヤツが第1カテゴリーを走れるってすごいことで、少なくとも自分が若い頃にはなかったよね。

フランス、ノジョンでのレースでスタートを待つ福島晋一。2000年、地元チームに所属していた頃に同レースで3位に入っているフランス、ノジョンでのレースでスタートを待つ福島晋一。2000年、地元チームに所属していた頃に同レースで3位に入っている
ノジョンのレースにて、知人との再会を喜ぶ福島晋一。かつてこの街のチームに所属していた経歴をもつノジョンのレースにて、知人との再会を喜ぶ福島晋一。かつてこの街のチームに所属していた経歴をもつ

 いまとなれば身近にツール・ド・フランスを走ったユキヤなんかもいるし、そういう意味では、本当に当時とは違う。時代が変わったよね。プロツアーチームのスカウトもけっこう日本人に来るようになったしね。俺が若い頃にはなかった。そういう意味では、いい時代なんじゃないかな、って思う」

 ――晋一選手自身の今季の目標は?

 福島「去年もチームNIPPOはいい成績を挙げたので、まずはツアー・オブ・ジャパンにしてもツール・ド・熊野にしても、引き続き総合優勝をするというのが目標。そして、それを達成させながら、自分にもチャンスがあればリーダージャージを着たいなって思う。もし自分がリーダージャージを着たなら、強いこのチームが守ってくれると思うし、逆にチームの誰かがリーダーになったら、全力でアシストをしたいと思う。まずはチームとして、ちゃんと仕事ができるように、チームの成績に貢献できすようにしたいと思う。

 だから、ランカウイでのレースはとても光栄なことだった。(自身が所属してきた)ここ最近のチームでは、チームメイトがちょっと弱い環境だったから、どうしても自分が狙って行かないといけないし、リーダージャージを着たときに守れなかったりもした。けれど、いまのチームは強い選手がたくさんいるし、自分のやりがいもあるよね。強いチームで走ることはやっぱり楽しいよ」

 ――大門監督は晋一選手にどんなことを期待していますか?

福島晋一と大門宏マネージャー。2人の年齢差は約10歳、大門氏が現役選手だった頃、福島は大学生で同じレースを走ったこともあるという福島晋一と大門宏マネージャー。2人の年齢差は約10歳、大門氏が現役選手だった頃、福島は大学生で同じレースを走ったこともあるという

 大門「日本のチームで、選手スタッフ含めて、これだけの外国人とのコミュニケーションが必要なチームは、彼にとって初体験のはずです。イタリアで活動するのも初めて。彼ほどのベテランでも新しい発見を追い求める姿勢は価値があるので、応援していきたい。

 いまは彼の10年先もイメージしてます。将来的には、多才な“武器”を兼ね備えた優秀な監督になっていってほしいと思っています。ワールドワイドで日本から世界をまたにかけ飛び回る監督。

 いま、チームユーラシアで修業しながら経験を積んでいる橋川(健)もそうですが、何カ国かの言葉を操りながら国際舞台でも物怖じしないコーチや監督の養成は、日本には急務だと感じています。そういう資格や将来性のある人材って、いまの日本には本当にいないんです。だから希少価値は高いです。

 とはいえ、まずは現役で若手とコミュニケーションを取りながら大暴れして続けて欲しいですね(苦笑)。橋川同様、将来的には僕なんかよりも一歩進んだ監督(チームマネージャー)になれるクオリティ&キャパシティは十分あると信じています。僕に残された使命として、引き続きNIPPOをはじめチームのスポンサー環境を活かしながら、将来の優れた監督が育つために必要な環境整備をぜひ推し進めていきたいです」

レース前に徳田鍛造にアドバイスをする大門宏マネージャー。若い選手の育成やレースの本場への派遣に情熱をもち続けているレース前に徳田鍛造にアドバイスをする大門宏マネージャー。若い選手の育成やレースの本場への派遣に情熱をもち続けている
レースのスタート前、フランスやベルギーのレースでよく見かけるポートレート写真のコレクターたちに囲まれるレースのスタート前、フランスやベルギーのレースでよく見かけるポートレート写真のコレクターたちに囲まれる

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 昔から変わらず、大門宏氏率いるチームNIPPOの1番大きな目的は、世界のトップシーンで活躍できる日本人を育てるための環境整備。

 現在、トップシーンで活躍する選手に、大門氏の世話になっていない選手はいない、と言われるくらい、地道に日本と世界の橋渡しを行っている。それは選手に限らず、スタッフも同じこと。マッサージャーやメカニック育成にも同じように情熱を注ぎ、現在チームには世界をめざす若いスタッフが働いている。

 イタリアを拠点に多国籍な選手とともに活動するのも、本場でトップチームと同じシステムでチームを運営するため。そのことで、選手やスタッフが上のステップにスムースに行くことができる。レースの結果だけが報道されることが多いが、そのバックグラウンドにある、チームの思いにも注目してほしい。

3月最終週に開催されたフランスのステージレース「Boucle de l'Artois」のスタート前、チームメンバーが壇上で紹介される3月最終週に開催されたフランスのステージレース「Boucle de l'Artois」のスタート前、チームメンバーが壇上で紹介される

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