悲惨な事故を減らすため、いま私たちにできること「他人の子供も見守ってほしい」 子育て世帯の交通安全に取り組む大阪府警の栢野警部補に聞く

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大阪府警東警察署の栢野警部補大阪府警東警察署の栢野警部補

 小さな子供が犠牲になる交通事故が、全国各地で後を絶たない。今年2月には、川崎市で母親と2人の娘が乗った3人乗り自転車が転倒し、女児がトラックにひかれて亡くなる事故があったばかり。

 こうした悲劇を少しでもなくし、子育て世帯が安全・安心に移動できる社会を実現するために、私たちは何をすべきか? 3年前から子育て世帯向けに自転車の交通安全教育を行っている大阪府警東警察署の栢野(かやの)警部補に話を聞いた。 (取材・文 岡田由佳子)

交通安全を常に“意識”する

 栢野さんは職業柄、小さい子供が犠牲となる交通事故に向き合う機会が少なくない。親子や家族で事故にあい、大切に育ててきた我が子を亡くした親の悲しみは、いかばかりだろう。

交通安全教育イベントで説明をする栢野さん(栢野警部補提供)交通安全教育イベントで説明をする栢野さん(栢野警部補提供)

 「事故にあう人は基本的に、自分が事故にあうなんて思っていない。しかし、事故防止は自分自身で意識することがとても大切」と栢野さん。

 いつも心の片すみで、事故から身を守ろうという意識を目覚めさせておくこと。そうした心がけが、自分や家族の命を救うことにつながるという。
 
交通安全キャンペーンなどを通じて注意を促すことも、安全意識を見直してもらう大切な機会になる。栢野さんは「地道な取り組みのその先で、必ず事故防止につながる」と確信している。

 子育て世帯向け交通安全教育は、栢野さん自身の管轄区域となる保育所や子育て支援センターで年に数回開催され、希望すれば、誰でも参加可能だ。子育て世帯以外を対象とした交通安全教育も、大阪市中央区民まつりや地域の学校、老人福祉センターなどで行われている。

 警察署は管轄区域内であれば、時間と業務の都合が合えば、可能な限り交通安全教育を行ってくれる。交通安全教育は受講する人たちの年齢を考慮して内容が工夫されている。

自分だけでなく他人の安全も守る

 ただ、子育て世帯向けの交通安全教育に集う母親たちは、乳幼児や未就学児を連れての参加が多い。子供が泣いたり、授乳しなければならなかったりするため、母親たちには聞きたくてもちゃんと聞きづらいのが実情だ。栢野さんは限られた講演の時間の中で、母親たちに向かって「もっとも大切なことを覚えておいてほしい」と呼びかける。

 それは「交通社会の一員として、責任をもって行動すること。自分の子供だけでなく人の子も見守り、危険なときには助けること」だという。

道路交通法では次のように規定されている。第14条3項では、『児童(6歳以上13歳未満の者をいう。以下同じ)若しくは幼児(6歳未満の者をいう。以下同じ)を保護する責任のある者は、交通のひんぱんな道路又は踏切若しくはその附近の道路において、児童若しくは幼児に遊戯をさせ、又は自ら若しくはこれに代わる看護者が付き添わないで幼児を歩行させてはならない
 
また、4項では、『児童又は幼児が小学校又は幼稚園に通うため道路を通行している場合において、誘導、合図その他適当な措置をとることが必要と認められる場所については、警察官等その他その場所に居合わせた者は、これらの措置をとることにより、児童又は幼児が安全に道路を通行することができるようにつとめなければならない』とある。社会全体で人と人との関係や地域のつながりが薄れている中、改めて目の前にいる他人への思いやりや気遣いが問われているといえよう。


人と人との関係から生まれる、安全と安心

安全教育ではビンゴゲームなども交えて解説を行う(栢野警部補提供)安全教育ではビンゴゲームなども交えて解説を行う(栢野警部補提供)

 栢野さんが子育て世帯向けに自転車の交通安全教育を始めたきっかけは、地域交通安全活動推進委員からの要望だった。委員たちの多くは、自転車で子供を保育所に送り迎えする母親たちが、交通安全ルールをあまり知らないことに危機感を抱いていた。

 「大切なのはルールだけでなく、交通社会に関わる人みんなが、自分だけでなく他人の安全も確保しようという意識や使命感。その人自身の生き方も問われる」と栢野さん。「一人ひとりが意識すれば、必ず事故は防ぐことができる」と断言した。

◇           ◇

 実は筆者も、2歳の子をもつ子育てママである。

 子育て世帯はただでさえ、心や行動に余裕がない。しかし、そんなママやパパを見て見ぬふりをするのではなく、積極的に関わり合い、助け合ってほしいと思っている。

 先日、娘と出かけた際、交差点に向かって娘が走り出した。交差点が危険なことは普段から口うるさく言い聞かせているので、娘は赤信号の手前で止まって私を待った。

 その時、通りすがりの中年女性が「娘が道路に飛び出さないように」と、そばでじっと見守っていてくれた。それがわかったので、私も焦らず、安心して娘のもとに行き「ありがとうございます」とその女性に伝えた。女性は「きちんと信号待ちできるんやね。何もなくてよかったわ」と笑い、去っていった。

 このようにちょっとした心配りでも、子育て世帯には大きな安心感と感謝につながっていく。まさに、子供は社会全体で育てていくものだということを、改めて教わった気がした。

 子供の交通事故を防ぐためには、交通ルールを再確認するだけでなく、社会のさまざまな世代や立場の人たちが、子育て世帯に対する意識や接し方をいま一度、見つめ直すことが大切だろう。子供たちを見守り、助け、間違ったことをしていたら注意する。そういったかかわり合いの積み重ねは、交通安全だけでなく、虐待や育児ノイローゼ、事故や事件の防止にもつながっていく。

 小さなふれあいが、一つの命を救っていくことを願っている。
 

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