「私とCyclist」②福光俊介さん『Cyclist』が示したサイクルメディアの報道の在り方 伝える側・読む側双方へ引き継がれるものに

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 Cyclistの情報更新停止まであと3日となりました。連載執筆陣がCyclistとのかかわりを振り返る「私とCyclist」を3月31日までリレー連載します。第2回はサイクルジャーナリストの福光俊介さんです。

自転車にまつわる話題を幅広くカバーしたCyclist。レース報道もその魅力の1つだった(写真はツール・ド・フランス2020第21ステージより) Photo: Yuzuru SUNADA

一通のメールから始まったCyclistとの出会い

 はじまりは一通のメールからでした。

 そこには、新たに立ち上げるというサイクルメディアの概要と、運営開始に向けて携わっている3人の編集スタッフの名が記されていました。それが、Cyclistとの出会いでした。

 2012年4月のこと(3月か5月だったかも)。当時、ボクは出版業界に身を置いていて、タウン誌の編集長を務めていました。月刊誌を製作しつつ、「いつかはサイクルメディアで働いてみたい」といった思いを抱きながら、日々を送っていました。そんな「ロードレース好きのエディター」に届いた不意のメール。まさかの展開に心躍ったことを、いまも鮮明に覚えています。

サイクルジャーナリストとしてのデビューとなったツール・ド・フランス2012。同い年のブラッドリー・ウィギンスが大会を制したことも強い思い入れになっている =ツール・ド・フランス2012第21ステージ、2012年7月22日 Photo: Yuzuru SUNADA

 Cyclistでのデビューが、サイクルジャーナリストとしてのデビューでもありました。同年6月のサイト運営開始からの寄稿。ツール・ド・フランスにまつわるコラムから始まったわけですが、当時はボクと同年代の選手たちがキャリアのピークに差し掛かっていて、彼らへの思いを一言一言にぶつけられたと自負しています。同い年のブラッドリー・ウィギンス(イギリス)が制覇した大会から執筆を始められたことも、とても強い思い入れになっています。

 ボクのスキルと知識を見抜き、可能性を広げてくださった初代編集長の上野嘉之さんには、心から感謝しています。寄稿する一回一回に忌憚のない意見をくださり、ロードレースに限らず「自転車」というツールを多面的に見ることを教えていただきました。信頼のおける編集長に出会えたことは、やがて「一人の男」としての信頼へと変わり、いつしか自らの進むべき道をも相談するようになっていました。サイクルジャーナリストとして生きることを現実のものとしてくださり、出版の仕事を辞めて独立すると決めたときに一番に報告したのも上野さんでした。

 上野さんが編集長を退任される際の送別会では、出席者を代表して挨拶をさせてもらったことも良い思い出です。泣こうかと思ったのですが、涙が出ないどころか、ベロベロに酔っぱらってしまい、何を語り、どんなことを伝えたのか、まったくもって覚えていないのですが(笑)。

Cyclistが示した報道姿勢を引き継ぎたい

 Cyclistの強みは、「現実味のあるサイクルライフ」を人々に届けていた点にあると思っています。特定のジャンルに偏るのではなく、自転車競技の結果報道もあれば、バイクインプレッションやスポーツバイクの活用法、気兼ねなく参加できるサイクルイベントの紹介など、「思い思いに自転車を楽しむことができる」「好きなサイクル情報を適宜チョイスできる」といったメリットを感じていました。

パンデミックによる混乱下で行われたツール・ド・フランス2020の実際を現地からリポートしたことも大きな経験になった(写真はイメージ) Photo: Yuzuru SUNADA

 また、読み物系メディアが紙媒体(雑誌など)からウェブ媒体(ウェブサイト、ウェブマガジンなど)に移りつつあった時期に、ものすごい勢いで自転車業界へ飛び込んだ功績も見逃してはなりません。人々にとって当たり前となったウェブの世界で、「必要な時に必要な情報を選別できるサイクルメディア」を体現したのは、まさにCyclistではないかと思うのです。

 適材適所のライター選びもCyclistの魅力でした。書き手の得意分野や好みを最大限尊重し、それぞれが伝えたいことを伝えたい形で執筆させる。ボクであればロードレースですし、あるライターさんは自転車とのユニークなかかわり方、別のライターさんは機材に特化したもの…と、読み手がいろいろな角度から自転車を見て、感じられるようアプローチしているあたりも、このサイトだから成しえたことだといえるでしょう。

 Cyclistならではのトピックの在り方や報道姿勢。個人的にはまだまだ続くものであってほしかったのですが、「サイクルメディア」という枠組みの中で大きな成果を上げてその役割を終えるということで、これからはこの媒体に育ててもらったボクのような人間がその意志を引き継ぎ、あらゆる形で表現していけたらと思います。

週刊サイクルワールドで「自転車競技の現在地点」を示してきた

 「Cyclistの思い出」がテーマですので、連載「週刊サイクルワールド」についても触れておきます。

 運営が終わるギリギリまで寄稿することを想定すると、全381回になります。これはCyclistにおける最長寿連載で、ボクの大きな誇りです。

Cyclistの最長寿連載「週刊サイクルワールド」。リアルタイムのレース情報や現地リポートなどを毎週届けてきた(写真はイメージ) Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 ある年の冬、「ロードレースでも、トラックでも、シクロクロスでも、マウンテンバイクでも、競技であれば何でも良いので、トピックをまとめたコラムを書いてみないか」とお誘いをいただいたのがきっかけでした。それを真に受けたボクは、「ロードレースシーズンの開幕とともに書いたら良いんだ!」と思い込み、一方的に原稿を編集部に送り付けたところから、この連載のスタートに至ります。こちらが考えるおおよそのプランを提示し、担当編集がそれを整えながら、いまのスタイルへと形作られていきました。

 できる限り、「自転車競技の現在地点」を示してきたつもりです。結果としてロードレースに傾倒していきましたが、その中で起きている事象やトピック、選手・関係者らを巻き込んで進行している話し合い、といった「競技の進化」を克明に伝えることに重きを置いてきました。

「週刊サイクルワールド」では優勝した選手やトップチームのエースだけでなく、アシスト選手や将来性豊かなヤングライダーにもスポットを当ててきた(写真はティレーノ〜アドリアティコ2021より) Photo: Marco Alpozzi - LaPresse

 また、優勝した選手やトップチームのエースだけでなく、彼らを支えるアシスト選手や将来性豊かなヤングライダーにもスポットを当てることも心掛けていました。「ロードレースを構成しているものは何か」と考えたとき、「選手」というくくりでフォーカスしていくと、トップライダーだけを報じていくのでは成り立たないと個人的には考えています。そうした選手たちを押し上げていくのはアシスト選手であり、ときの移り変わりとともに台頭するであろうヤングライダーも“予習”しておく必要がある。ロードレース報道は、こうあるべきだと思うのです。

 そんな思いが募るうちに、現場取材の機会も増えていきました。ツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャ、春のクラシック、国内であればツアー・オブ・ジャパンやジャパンカップ…。「週刊サイクルワールド」独自のポイントで、これらレースの話題を届けられたことも、大きな自信となりました。

 実は1つだけ、心残りがあります。この連載の締めにお届けしている「今週の爆走ライダー」。基本的に、「同じ選手を2回以上紹介しない」と決めていたので、このままいくと381選手をピックアップしてきたことになります。これらをまとめて書籍化できないかと、何年も前から掛け合ってきたのですが、ここまで実現できずにいるのです。編集部のみなさん、何とかなりませんか?(笑)

 サイクルジャーナリストとして駆け出しだったころから今に至るまで、何ひとつ変わることなく接してくださったCyclist編集部のみなさまには心の底から感謝しています。「週刊サイクルワールド」の担当編集だった元スタッフのシュルテ柄沢亜希さん、平澤尚威さんにも、この場を借りてお礼を申し上げます。素晴らしいサイクルメディアで仕事ができていたこと、強く、強く実感しています。

Cyclistが示してきたトピックの在り方や報道姿勢を引き継ぎ、あらゆる形で表現していきたいと思っている(写真はツール・ド・フランス2019より) Photo: Syunsuke FUKUMITSU

 10年近くCyclistとともに歩んできたわけですが、それが当たり前であった日々にまもなく終わりが訪れると思うと、寂しさを超え、恐怖すら覚えます。これが「ロス」というものなのでしょうか。

 そして、長い間ボクの記事を楽しんでくださった読者のみなさまにも、心よりお礼を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。ボクでCyclistロスだ何だと言っているのですから、みなさんはもっと喪失感があるかもしれませんね。自転車の楽しさを共有できたこと、良い思い出にするとともに、これからのジャーナリスト活動の励みにしていきます。

 ボク自身、Cyclistは卒業となりますが、引き続き自転車競技をメインに取材・執筆の活動を行っていきます。きっとどこかのメディアでボクの文章に触れ、どこかのレースではボクの姿を目にすることがあろうかと思います。これからも、ドラマティックで魅力たっぷりの自転車競技を一緒に楽しみましょうね!

福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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