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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<最終回>世界一周のゴール地・日本 久々に見る満開の桜の美しさ

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 旅サイクリスト・昼間岳さんの『地球走行録』。最終回は世界一周旅の終着地、日本のお話です。幼い頃から自転車で世界一周するという夢を抱いていた昼間さんは、ついにその夢を実現。世界を旅して感じた日本の良さ、そしてこれまでの連載を振り返ります。

6年間の世界一周を終えて帰国した Photo: Gaku HIRUMA

◇         ◇

 夢を叶えるのはどのような感覚なのだろう。小学校の卒業文集に将来の夢は「世界一周」と書いた。そのときは十数年後に本当に自転車で世界一周に出るとは思わなかったけれど。世界中を走り、海外ツーリングの終わりである韓国の釜山から福岡行きのフェリーに乗り込んでも、未だにその実感はなかった。それでも日本を走るのに一番美しいであろう桜の咲く季節に帰国するのを調整して、ついに福岡に降り立った。

帰国後初の日本食は牛丼

 のんびり日本を走ろうかと思ったけど、各地に会いたい人が多すぎて、日程調整に追われて思いのほか忙しい走行になってしまった。ただどこにいっても再発見があり、日本はここまで個性的だったのかと驚いた。中でも驚いたのが日本食だ。涙が出る程美味しいかったのはもちろん、これまで旅してきた国々との文化の違いをとても感じ取れた。牛丼屋に回転ずし、ラーメン屋とずっと憧れていた食べ物だ。

しまなみ海道は走るのがもったいなくなるほど道で、ゆっくりと噛みしめるように走った Photo: Gaku HIRUMA

 世界一周をした人に「日本に帰国して初めに何を食べました?」と聞くと「牛丼」と答える人が多い。帰国して最初の日本食なのだからもっと豪華にいけばいいのにとも思ったものだけど、実際に僕も牛丼屋へ向かった。帰国したばかりで物価の感覚に慣れていなかったのもあるけど、単純に頭に浮かんだのが牛丼だった。

 清潔な店内ににこやかな店員さん、あっという間に提供される食事。特に要求していないのにお茶のお代わりをしてくれて、料金はワンコインともの凄くリーズナブル。こんな国は世界の中で日本だけだと思う。

徳島県の三好町(旧昼間村)にある昼間郵便局。僕のルーツの村。ずっとここに来たかった Photo: Gaku HIRUMA

 インドネシアからスタートしたアジア走行。シンガポール、マレーシア、タイ、韓国と走ったけど、食事で特徴的だったのは唐辛子を使った料理だった。インドネシアなど南の方が甘さが際立つ甘辛いトロピカルな味付けで、東南アジアを北上すると甘さがだんだん抑えられ、韓国までくるとキムチの様に甘みの少ない辛さに変化してくる。

 食事で点ではなくて線で違いのうつろいを実感できるのは、やはり自転車旅ならではの魅力だと思う。ところが、日本はそこまで辛さを強調した日本食は多くなく、甘じょっぱい味付けになる。こんなに大陸に近いのに日本だけまるで違う文化が花開いているのは、とても興味深く面白かった。

満開の桜と旅の終わり

 日本を走っているとあまり声を掛けてもらえないことに気がついた。それは僕の怪しい出で立ちもあったのかもしれないけれど、海外では少し休憩していただけでも数人には話しかけられる。

 だけど自転車に「世界一周してきました」とプレートを付けて走ったところ、多くの人から声を掛けてもらえるようになった。こうした国民性も改めて独特で面白いなぁと思った。

「世界一周してきました」とプレートを付けて走ったら声をかけてもらえるようになった Photo: Gaku HIRUMA

 よく「NOと言えない日本人」などと言われるけれど、それは欧米のような広大な国土で培われる文化で、狭い島国で生きてきた日本人の独特の一歩引いた文化は、それはそれで誇っても良い文化なのではないかと思う。長期の海外旅行から帰ってきて感じたことは、建物も人も街並みも、本当に和の文化は個性的で面白かった。

昔は苦しかった箱根峠も、このときばかりはあっという間だった Photo: Gaku HIRUMA

 ゴールを神奈川県の実家に定めたので、箱根峠を最後に通った。そこでこのままずっと上りが終わらなければいいのにと思うくらい、旅が終わってしまうのが名残惜しかった。

 桜の季節に日本で走るのを選んで良かった。よく冬に世界の各地で「なんでこんなシーズンにここを走っているのか? 春はもっと美しいのに」などと言われたことが多かったけど、やっぱり日本だけは桜のシーズンである春に帰国を合わせて正解だった。

僕が帰国したとき、日本は桜の季節。世界に誇れる美しさだ Photo: Gaku HIRUMA

 世界一周の旅を終えたことや夢を叶えた実感は正直そこまでないけれど、夢を描いていたあの頃の自分に、少しは胸を張れるんではないだろうか。そう感慨に浸りつつ、眺める日本の満開の桜はとても美しかった。

連載終了によせて

 今まで長年に渡りまして『旅サイクリスト昼間岳の地球写真館』と『地球走行録』をご愛読いただきまして誠にありがとうございました。自転車旅から帰国した2015年より隔週で連載を持ち、約7年間という長きに渡り執筆させていただききました。

 地球写真館では、全行程60カ国もの国と地域の魅力をお伝えいたしました。自転車で旅して見てきた世界の国々は、住んでいる人々や文化の違いを本当に肌で感じることができ、その個性的で面白い国の魅力をそのまま記事にさせていただきました。

 地球走行録ではテーマを絞り、自転車旅ならではのエピソードを書かせていただきました。自転車旅のエピソードをそんなに書ける内容があるのかと不安になることもありましたが、書けば書くほどお伝えしたいエピソードが思い浮かび、僕自身、改めて自転車旅の魅力を再発見する日々でした。

 僕の記事を通じて、ひとりでも多くの方に自転車旅の魅力が伝わり、自転車旅に出ていただけたら嬉しいです。今まで本当にどうもありがとうございました。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生のときに自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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