福光俊介の「週刊サイクルワールド」<378>実力・実績十分のエースがチームを牽引 ロット、アンテルマルシェ 2021チーム展望
2021年シーズンのトップチーム展望、今回は“王国”ベルギーが誇る実力派2チームに着目。伝統チームのロット・スーダルは実績あるエースクラスが充実。エーススプリンターのカレブ・ユアン(オーストラリア)も元気にシーズンイン。UCIワールドチームとしての船出を切ったアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオは、現状未勝利だがここからの上昇に期待がかかる。ビッグレースが目白押しのこれからに向け、楽しみが膨らんでいる。

ウェレンス、ユアンが好調な出足 ロット・スーダル
1月下旬からレース活動を開始したロット・スーダルは、本記執筆時点で3勝をマーク。その先陣を切ったのは、“スタートダッシュ・スペシャリスト”のティム・ウェレンス(ベルギー)だ。

ウェレンスは、2月上旬に開催された全5ステージのレース「エトワール・ド・ベッセージュ」(UCIヨーロッパツアー2.1)で個人総合優勝。複数の丘越えが設定された第3ステージで圧勝すると、あとはジャージを守るだけ。これまでもシーズン序盤のレースでたびたび好走してきたが、今年も最高の出足となった。
3月に入り、他の実力者たちが状態を上げてきたこともあり、前月ほどの勢いとはいかなくなってきたが、それでも6日のストラーデ・ビアンケを13位でまとめており、状態は悪くない。当面は4月半ばからのアルデンヌクラシックに照準を定めるとしながら、ミラノ~サンレモや北のクラシック数レースでの上位進出にもチャレンジする。

好調ウェレンスに続いたのが、絶対的なエーススプリンターのユアンだ。UCIワールドツアー初戦のUAEツアーでシーズンインを果たすと、大会後半のスプリントステージで本領発揮。最終の第7ステージでついに勝利を挙げ、世界最高スプリンターの1人としての面目躍如。第1ステージでは横風によるプロトン分断で後方に下がってしまうなど、苦難の立ち上がりだったが、スプリンターとしてのあるべき姿は大会の最後にしっかり示した。
そのユアン、今季の目標はいつになく大きい。3つすべてのグランツール出場を掲げ、それぞれでステージ優勝を挙げると宣言。これが達成されれば、2003年のアレッサンドロ・ペタッキ(イタリア)以来の偉業となるが、群雄割拠の現在のスプリント戦線にあって、同一シーズンでの全グランツール勝利は大きな価値として認められることだろう。3つすべてで全21ステージを走り切るのかどうか、といったところも焦点となりそうだが、どんな形であれ、どん欲に勝利にこだわる“ポケットロケット”の姿を今年は見ることができるはずだ。
モニュメント全制覇に挑戦するジルベール
現在開催中のパリ~ニースでは、第2ステージを終えた時点でフロリアン・フェルメールス(ベルギー)が新人賞のマイヨブランを着用。脚質的にはスプリントやワンデーレースを得意とするため、この先控える山岳ステージで順位を下げる可能性は高いが、ジャージをどこまでキープできるか見ものだ。

こうして目立つ場面も多いチームだが、今年最初の正念場が3月20日開催のミラノ~サンレモとなる。このレースに並々ならぬ意欲を燃やしているのが、フィリップ・ジルベール(ベルギー)。これまでのキャリアでは数多くのタイトルを獲得し、2012年には世界王者にもなった世界最高レベルのワンデーレーサーだが、いまだ頂点に達していないのが、ミラノ~サンレモなのだ。ワンデークラシックの中でもひときわプライオリティの高い「モニュメント」5つのうち、すでに4つは獲得。残る1つに向け、集中力を高めているところだ。

年齢的には38歳になったが、狙いを定めたレースに対する調整力はまだまだ健在。今季は1月下旬からレースを複数走ってきているが、2月27日に行われた北のクラシック初戦のオンループ・ヘットニュースブラッドでは5位とまとめており、状態は悪くない。自身は40歳になる2022年シーズンをキャリアの最後にする意向を示しており、モニュメント全制覇へのチャレンジは、残り2回となっている。
そのジルベールと、春のクラシックシーズンでコンビを組むジョン・デゲンコルプ(ドイツ)もチームを牽引する存在。2015年にはミラノ~サンレモとパリ~ルーベを制するなど、たびたび勝負強さを発揮してきた。スプリンターとして鳴らした当時のスピードではないものの、ワンデーレースでもステージレースでもその走りには巧さが備わる。ジルベールとデゲンコルプ、ベテランによる双頭体制はライバルにとっても侮れないはず。スピードやパワーに長けた選手たちとて、この2人の走りがはまった時にはその脅威を感じずにはいられないだろう。
そのほか、プロトン最高の“逃げ屋”トーマス・デヘント(ベルギー)を筆頭に、ありとあらゆる形でレースを動かせる人材がそろう。実情として、グランツールの総合を狙えるだけの選手には乏しいが、クラシックレースやステージ優勝にフォーカスした戦い方で、チームのスタイルを維持していくことになる。
ロット・スーダル 2020-2021 選手動向
【残留】
ステフ・クラス(ベルギー)
ジャスパー・デブイスト(ベルギー)
トーマス・デヘント(ベルギー)
ジョン・デゲンコルプ(ドイツ)
カレブ・ユアン(オーストラリア)
フレデリック・フリソン(ベルギー)
フィリップ・ジルベール(ベルギー)
コービー・ホーセンス(ベルギー)
マシュー・ホームズ(イギリス)
ロジャー・クルーゲ(ドイツ)
トーマス・マルチンスキー(ポーランド)
ステファノ・オルダーニ(イタリア)
ヘルベン・タイッセン(ベルギー)
トッシュ・ファンデルサンド(ベルギー)
ブレント・ファンムール(ベルギー)
ハーム・ファンフック(ベルギー)
フロリアン・フェルメールス(ベルギー)
ティム・ウェレンス(ベルギー)
【加入】
フィリッポ・コンカ(イタリア) ←ビエッセ・アルヴェディ
セバスティアン・グリニャード(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
アンドレアス・クロン(デンマーク) ←リワル・セキュリタスサイクリング
カミル・マウェツキー(ポーランド) ←CCCチーム
シルヴァン・モニケ(ベルギー) ←グルパマ・エフデジ コンチネンタルチーム
ハリー・スウェニー(オーストラリア) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
マキシム・ファンヒルス(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
ヴィクトール・フェルシャーヴェ(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
クサンドレス・フェルフローゼム(ベルギー) ←ロット・スーダルU23(アマチュア)
【退団】
サンデル・アルメ(ベルギー) →クベカ・アソス
ラスムス・ビュリエルイーヴァスン(デンマーク) →ヘアニングCK(アマチュア)
スタン・デウルフ(ベルギー) →AG2R・シトロエン
ジョナサン・ディッベン(イギリス) →引退
カールフレドリク・ハーゲン(ノルウェー) →イスラエル・スタートアップネイション
アダム・ハンセン(オーストラリア) →引退(トライアスロン転向)
ニコラス・マース(ベルギー) →引退
レミー・メルツ(ベルギー) →ビンゴール・ワロニーブリュッセル
ブライアン・ファンフーテム(オランダ) →引退
イエール・ワライス(ベルギー) →コフィディス
チーム力を結果で示す1年に アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ
今年からUCIワールドチームの仲間入りを果たしたアンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ。昨年までセカンドディビジョンの同プロチームとして走ってきたが、CCCチームを運営していたコンティニュアムスポーツ社からワールドツアーライセンスを買い取り、晴れてファーストディビジョンへステップアップした。

チームは2009年に「ベランダスウィレムス」の名で活動をスタート。2シーズン、UCIコンチネンタルチームとして走ったのち、2011年からセカンドディビジョンへ。これまで数度、タイトルスポンサーを変えながら、チーム力アップと活動規模の拡大を図ってきた。この間、2017年から3年連続でツール・ド・フランス出場チームに選出されるなど、レース内外での存在感も高まっていた。
そうして迎えた、トップディビジョン初年度。最高峰のレベルで戦えるだけのチーム力を有するか、懐疑的な見方も多い点は否めないが、そこは結果で覆していくしかないだろう。

もちろん、戦力の整備は進んでいる。実績のある選手の引き抜きにも成功しており、あとはどれだけリザルトに結びつけられるかだ。CCCチームからは3選手が新規合流したが、なかでもヤン・ヒルト(チェコ)にはステージレースの総合成績が求められる。グランツール経験が豊富なうえ、アスタナ プロチームで走っていた2019年にはジロ・デ・イタリアでのステージ2位や、ツール・ド・スイス個人総合5位といった好成績も残している。昨年はアシストに回ることも多く、自身のリザルトはついてこなかったが、新たな環境ではエースとしての役目がめぐってくる。
また、過去2度のツール個人総合トップ10入りを経験しているルイス・メインチェス(南アフリカ)の加入も大きい。ステージレースの上位常連だった時期から少し時間が経ってしまっているが、けがによる戦線離脱が大きな要因とあって、回復さえすれば再び前線で戦う力が戻ってくるとチームは期待する。実際、UAEツアーでは山岳ステージで終盤までメイン集団で展開しており、自身も復調に向けた手ごたえはつかんだとしている。
当面の目標はUCIワールドツアーでの勝利
昨年からの継続選手の中にも、勝利を挙げるチャンスを秘めた選手が控える。

エーススプリンターの1人、アンドレア・パスクアロン(イタリア)は、3月2日にベルギーで開催されたワンデーレース「ル・サミン」(UCIヨーロッパツアー1.1)で3位に入り、表彰台の一角を確保。スピードだけでなく、バイクテクニックにも長けており、リードアウトトレインに頼らずも好ポジションから飛び出せるあたりに強みがある。
同じくスプリンターのダニー・ファンポッペル(オランダ)も有力。19歳でツールにデビューしたのが2013年。その時は第1ステージで3位に入るセンセーショナルなデビューを飾ったが、8年経ってチームを引っ張る責任ある立場になった。主にはワンデーレースでの優勝を目指したいとしており、レース規模の大小問わずエースとして臨む以上はチャレンジしていく姿勢を見せている。
まずは、UCIワールドツアーでの勝利が待たれるところ。かねてから得意とするスプリントや石畳だけでなく、総合系ライダーも加わったことで戦術に幅が広がることは間違いない。どんな形で勝ち星を挙げるか見ものである。
なお、今季の所属選手は29人。そのうち半数を超える17人が契約最終年であることが明らかになっている。その選手たちにとっては来年以降の契約をかけたシーズンとなるが、同時にチームにとっては継続して戦力を整える時期であることを意味している。
アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ 2020-2021 選手動向
【残留】
ヤン・バークランツ(ベルギー)
ジェレミー・ベリコー(フランス)
アイメ・デヘント(ベルギー)
ジャスパー・デプルス(ベルギー)
ルドウィク・デウィンター(ベルギー)
テオ・ドラクロワ(フランス)
トム・デヴリーント(ベルギー)
オドクリスティアン・エイキング(ノルウェー)
アレクサンダー・エヴァンス(オーストラリア)
クイントン・ヘルマンス(ベルギー)
ウェスリー・クレダー(オランダ)
マウリス・ラメルティンク(オランダ)
アンドレア・パスクアロン(イタリア)
シモーネ・ペティッリ(イタリア)
コルネ・ファンケッセル(オランダ)
ケヴィン・ファンメルゼン(ベルギー)
ボーイ・ファンポッペル(オランダ)
ダニー・ファンポッペル(オランダ)
ピーター・ファンスペイブルック(ベルギー)
ロイック・ヴリーヘン(ベルギー)
【加入】
ヤン・ヒルト(チェコ) ←CCCチーム
ヨナス・コッホ(ドイツ) ←CCCチーム
ルイス・メインチェス(南アフリカ) ←NTTプロサイクリング
リカルド・ミナーリ(イタリア) ←NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス
バティスト・プランカールト(ベルギー) ←ビンゴール・ワロニーブリュッセル
ロレンツォ・ロータ(イタリア) ←ヴィーニザブ・KTM
レイン・タラマエ(フランス) ←トタル・ディレクトエネルジー
タコ・ファンデルホーン(オランダ) ←ユンボ・ヴィスマ
ゲオルク・ツィマーマン(ドイツ) ←CCCチーム
【退団】
アルフダン・デデッケル(ベルギー) →タルテレット・イソレックス
トーマス・デガンド(ベルギー) →未定
ファビアン・ドゥべ(フランス) →トタル・ディレクトエネルジー
ティモシー・デュポン(ベルギー) →ビンゴール・ワロニーブリュッセル
クサンドロ・ムーリッセ(ベルギー) →アルペシン・フェニックス
ヨアン・オフルド(フランス) →引退
今週の爆走ライダー−アイメ・デヘント(ベルギー、アンテルマルシェ・ワンティ・ゴベールマテリオ)
1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシスト や逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。
ライダーを評する際、脚質を用いることが一番手っ取り早い手段だが、この選手に関してはさまざまな評価がある。パンチャーやルーラー、オールラウンダーならまだしも、ときにはビッグエンジンといわれ、またあるときにはブレイクアウェイスペシャリスト(逃げのスペシャリスト)とも。実際、すべて言われたことがあるフレーズなのだとか。

26歳のアイメ・デヘントにとって、2021年は自らを表現する大事なシーズンとなる。2年前のチーム加入以降、あらゆる形でチームへの貢献度を示してきたが、いよいよ結果を求められるところまでやってきた。
ここまでの準備は順調だ。昨年秋から取り入れている高地でのトレーニングキャンプも上手くいき、フィジカルの向上を実感している。直近のターゲットはツール・デ・フランドルとパリ~ルーベ。その前に出場する予定のティレーノ~アドリアティコとミラノ~サンレモは、クラシックシーズンに向けた総仕上げといった趣きだ。
そして何より、自らの「主戦場」を見つけたい。自身の走りについて多数の評価を得たことはうれしかったが、裏を返せば「他より秀でたものが何ひとつないのでは?」との疑問も生まれたという。プロであるならば、どれか1つストロングポイントは持っておきたい。それをはっきりさせるのが、今シーズンでもある。
パンデミック下でも、あれこれ惑わされず走り切った昨シーズンが大きな自信になっているという。気持ちの面でも充実して臨んでいる現在、チームが、そして自身が望んでいる結果を得ることができると確信している。


サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU」