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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<377>確たるエースを軸に組織力で勝負する トレック、EF 2021チーム展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2021年シーズンのトップチーム展望。今回はトレック・セガフレードとEFエデュケーション・NIPPOのアメリカ籍2チームを見ていきたい。レース活動が本格化し、両チームともに積極的な戦いぶりを披露。それぞれに一定の成果を上げて、春のクラシックやグランツールへと見通しを立てている。

快調なシーズンインとしているトレック・セガフレードと、中根英登と別府史之の加入で期待が膨らむEFエデュケーション・NIPPO。アメリカ籍の両チームの戦いぶりが楽しみ Photo: Trek - Segafredo, EF Education - Nippo

前世界王者ピーダスンがクールネ勝利 トレック・セガフレード

 今季がスタートした2月ですでに4勝と、スタートダッシュに成功しているのがトレック・セガフレードだ。Cyclistで先ごろお伝えしたツール・デ・アルプ=マリティーム・エ・ドゥ・ヴァールでは、バウケ・モレマ(オランダ)とジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)がそろってステージ1勝。ブランビッラは最終日にリーダージャージを獲得し、個人総合優勝にも輝いている。

2月28日のクールネ〜ブリュッセル〜クールネではマッズ・ピーダスンが優勝。前日の悔しさを晴らす快勝だった Photo: Mark Van Hecke - Pool/Getty Images

 クライマー陣が築いた勢いは、クラシック班にも届いた。2月28日にベルギーで開催されたワンデーレース「クールネ~ブリュッセル~クールネ」(UCIヨーロッパツアー1.Pro)で、マッズ・ピーダスン(デンマーク)が優勝。北のクラシック第1週に位置づけられる伝統の一戦だが、この前日に開催されたオンループ・ヘットニュースブラッド(UCIワールドツアー)ではチームとして不発に終わっていただけに、すぐさまのリベンジに成功した形となった。

北のクラシックではヤスパー・ストゥイヴェンも切り札の1人として控える Photo: Peter De Voecht - Pool/Getty Images

 クールネ~ブリュッセル~クールネも「北のクラシック」に数えられる他のレースと同様に、難易度の高い石畳や短い登坂が待ち受けるが、コースレイアウト的に集団でのスプリント勝負となることも多い。実際、今年は30人のグループでフィニッシュへと突入。トレック・セガフレードは、残り1kmからヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)がピーダスンを引き上げながら最高のポジショニング。集団最前方から飛び出したピーダスンは、一番にフィニッシュラインを通過するだけで大仕事が果たせる状況が整っていた。

 3月を迎え、ステータスの高いワンデークラシックが次々と開催されるが、2年前の世界王者であるピーダスンとビッグレースでの優勝経験豊富なストゥイヴェンの双頭体制でタイトル獲得を目指す。チームも、そして両選手もどちらかで勝利を狙うことを公言しており、あとはアシスト陣がいかにして2人を優勝戦線へと送り込むかにかかってきている。

ジロはニバリ、モレマ、チッコーネのトリプルリーダー体制

 チームは今年初めに、エースクラスのターゲットレースを発表。お家芸でもあるグランツールでの上位進出を目標に、総合エースを軸としたチーム構築に取り組んでいる。

 そこで明らかにされたのは、モレマのほかヴィンチェンツォ・ニバリ、ジュリオ・チッコーネ(ともにイタリア)をチームリーダーに据えること。

2021年はジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスに臨むヴィンチェンツォ・ニバリ。東京五輪への意欲も高い Photo: Jacob Kennison

 グランツールすべてでの個人総合優勝を果たしているニバリは、まずジロ・デ・イタリアでのマリアローザ奪還を目指す。昨年の同大会では個人総合7位に終わっており、再浮上を誓っての参戦となる。36歳という年齢面からの衰えを指摘する声に理解を示しつつも、自身はまだまだやれるという意欲に満ちている。ジロ後は、ツール・ド・フランスへと向かう予定。ただ、あくまで東京五輪を見据えての調整の意味合いが強いとし、総合成績は狙わない方針だ。

 好調なシーズンインを果たしたモレマも、当面はジロが目標に。そこでの最優先はステージ優勝だといい、ツールとブエルタ・ア・エスパーニャに次ぐ全グランツールでの勝利を目指す。同時に、ニバリを上位に送り出す山岳アシストとしての役目も担う。こちらもその後はツールへと向かう見込みだ。

総合エースの大役を担うことになったジュリオ・チッコーネ。狙うはジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャだ Photo: Trek - Segafredo

 そして、ニバリとモレマの両ベテランと並ぶ立場となったチッコーネ。つまりは、グランツールレーサーとして2人の後継者に任命されたことを意味する。昨年は新型コロナウイルス感染の影響で、大きなレースでの結果には乏しかったが、2019年ジロでの山岳賞や、同年ツールでのマイヨジョーヌ着用は、この先の活躍を約束させるものとしては十分。そんな彼に与えられる役割は、ジロでベテラン2人のバックアップとブエルタでの総合エース。特に、急峻な山岳をめぐるブエルタにおいては、アグレッシブなレース運びが持ち味の彼にはもってこいの3週間といえそうだ。

 ジロではトリプルリーダー体制で臨戦態勢を整えているが、彼らに続く若手の育成にも着手する。今年プロデビューの20歳、マティアス・スケルモース(デンマーク)は2月下旬のUAEツアーで個人総合6位でフィニッシュ。山岳・個人タイムトライアルともに適性の高さを見せ、プロ2戦目で上位進出。本人もチームも、将来的にはグランツールレーサーとなることを意識しており、将来に向けた英才教育に着手する。

 経験・実績に富んだ実力者がそろうとともに、アシスト陣も含めた組織力で安定した成績を残し続ける。エースを支える人材としては、ブランビッラのほかにケニー・エリッソンド、ジュリアン・ベルナール(ともにフランス)といったクライマーや、逃げでも魅せるトムス・スクインシュ(ラトビア)、平坦ではクーン・デコルト(オランダ)といった名が挙がる。加えて、昨年2勝のスプリンター、マッテオ・モスケッティ(イタリア)を中心としたスプリント路線にも期待が高まる。

トレック・セガフレード 2020-2021 選手動向

【残留】
ジュリアン・ベルナール(フランス)
ジャンルーカ・ブランビッラ(イタリア)
ジュリオ・チッコーネ(イタリア)
ニコラ・コンチ(イタリア)
クーン・デコルト(オランダ)
ニクラス・エイ(デンマーク)
ケニー・エリッソンド(フランス)
アレクサンダー・カンプ(デンマーク)
アレックス・キルシュ(ルクセンブルク)
エミルス・リエピンス(ラトビア)
フアン・ロペス(スペイン)
バウケ・モレマ(オランダ)
ジャコポ・モスカ(イタリア)
マッテオ・モスケッティ(イタリア)
ライアン・ミューレン(アイルランド)
アントニオ・ニバリ(イタリア)
ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア)
マッズ・ピーダスン(デンマーク)
チャーリー・クォーターマン(イギリス)
キール・レイネン(アメリカ)
ミヘル・リース(ルクセンブルク)
クイン・シモンズ(アメリカ)
トムス・スクインシュ(ラトビア)
ヤスパー・ストゥイヴェン(ベルギー)
エドワード・トゥーンス(ベルギー)

【加入】
ヤコブ・イーホルム(デンマーク) ←ヘーゲンズバーマン・アクセオン
アマヌエル・ゲブレイグザブハイアー(エリトリア) ←NTTプロサイクリング
マティアス・スケルモース(デンマーク) ←レオパード プロサイクリング
アントニオ・ティベーリ(イタリア) ←チーム コルパック・バラン

【退団】
ウィリアム・クラーク(オーストラリア) →引退
リッチー・ポート(オーストラリア) →イネオス・グレナディアーズ
ピーテル・ウィーニング(オランダ) →引退

エースの好走でチームは上昇傾向 EFエデュケーション・NIPPO

 別府史之、中根英登の加入で国内での注目度がこれまで以上に高まっているEFエデュケーション・NIPPO。両選手の奮闘とともに、チーム状態も上がってきた。

2020年シーズンにブレイクしたヒュー・カーシー。今季序盤もまずまずの戦いぶりを見せている ©PHOTOGOMEZSPORT2020

 ツール・デ・アルプ=マリティーム・エ・ドゥ・ヴァールでの中根の走りは既報の通りだが、直近では2月27日にフランスで行われたフォーン=アルデシュ・クラシックに2人そろってメンバー入り。レース半ばにメイン集団を率いる2人の姿が現地テレビ放映でたびたびとらえられており、貢献度の高い走りをアピール。チームはヒュー・カーシー(イギリス)を3位に送り込み、表彰台の一角を押さえた。2人は翌日のロイヤル・ベルナール・ドローム・クラシックにも出場し、役目を果たしたのちバイクを降りている。

 チーム全体で見ると、UCIワールドツアー初戦のUAEツアーでも随所で力を発揮。特に目立ったのが期待のオールラウンダー、セルヒオ・イギータ(コロンビア)で、山岳の2ステージでそれぞれ3位と4位フィニッシュ。中東レース特有の強風によるプロトンの分断が起こった第1ステージで遅れていたため、個人総合では11位に終わったが、得意とする局面では実力通りの結果を残している。

 また、この大会では22歳の若手有望株、シュテファン・ビッセガー(スイス)が個人タイムトライアルで争われた第2ステージで2位。独走力とスプリント力を兼ね備えるスピードマンだが、今年はまず個人タイムトライアルで好結果を残している。

ウランやカーシーがグランツール上位に向け調子を上げる

 2018年にチームのタイトルスポンサーに就いたEFエデュケーション社。世界規模の語学学校の運営をメインとする企業は、未曽有のパンデミックによって売り上げが激減。チーム支援にも大きく影響し、選手たちの給与カットもやむない状況が生まれた。それでも、態勢を立て直して支援を継続。給与カットに応じた選手たちは、優先的に今季の契約を用意するなど、ありとあらゆる形で戦えるチーム作りを進めてきた。

 そこへ、新たなタイトルスポンサーとしてNIPPO社が合流。より強固な基盤となったチームへは、日本勢として別府と中根が加わった。

 15カ国から実力者が集まったグローバルなチーム体制。昨年までの主力選手が数人移籍したものの、加入選手も含めて今シーズンを戦うメドが立っている。

今年もツール・ド・フランスに向けてシーズンインをしたリゴベルト・ウラン。目指すは2017年以来の総合表彰台だ ©︎ A.S.O./Alex Broadway

 なかでも、グランツールではピンクのジャージがひときわ映えることになるだろう。絶対エースのリゴベルト・ウラン(コロンビア)は、ツールに目標を設定。昨年、一昨年とトップ10入りを果たし、今年は個人総合2位となった2017年以来の総合表彰台に向けてエンジンを温めている段階だ。そこに、ウランの後継者でもあるイギータがジョインする見込み。イギータに関しては、4月後半のアルデンヌクラシックまでビッグレースに次々臨む予定になっており、23歳の若きリーダーとしてチームを引っ張ることになりそうだ。

 昨年のブエルタ個人総合3位ですっかり一流グランツールレーサーとなったカーシーは、ジロを予定する。ブエルタでは名峰のアングリルで勝利し勢いに乗ったが、難易度の高い山岳での攻撃性は今シーズンもたびたび好結果を引き寄せることになりそう。

 UAEツアーではイギータに代わって総合争いに加わり5位と好走したニールソン・ポーレス(アメリカ)や、昨年のジロで山岳賞を獲得したルーベン・ゲレイロ(ポルトガル)も、これまで以上に目立つシーンが増えてきそうな選手たち。1週間程度のステージレースが主たる舞台となるか。

2019年のツール・デ・フランドル覇者のアルベルト・ベッティオル。2年ぶりのタイトル獲得に順調な調整ぶりを見せている Photo: EF Education First

 来る北のクラシックに向けては、2019年のツール・デ・フランドル王者のアルベルト・ベッティオル(イタリア)が準備を進める。スプリントにも強いマグナス・コルトや新加入のミケル・ヴァルグレン(ともにデンマーク)らもそろい、強固なメンバーで臨める強みがある。

 所属選手のうち、アレックス・ハウズ(アメリカ)とラクラン・モートン(オーストラリア)はロードレースと並行して、砂利道や不整地を走るグラベルレースを転戦中。これまでにない活動にトライする彼らの取り組みにも注目していきたい。

EFエデュケーション・NIPPO 2020-2021 選手動向

【残留】
アルベルト・ベッティオル(イタリア)
シュテファン・ビッセガー(スイス)
ヨナタン・カイセド(エクアドル)
ヒュー・カーシー(イギリス)
マグナス・コルト(デンマーク)
ローソン・クラドック(アメリカ)
ミッチェル・ドッカー(オーストラリア)
ルーベン・ゲレイロ(ポルトガル)
セルヒオ・イギータ(コロンビア)
モレノ・ホフラント(オランダ)
アレックス・ハウズ(アメリカ)
イェンス・クークレール(ベルギー)
セバスティアン・ラングフェルド(オランダ)
ラクラン・モートン(オーストラリア)
ローガン・オーウェン(アメリカ)
ニールソン・ポーレス(アメリカ)
ヨナス・ルッチ(ドイツ)
トム・スクーリー(ニュージーランド)
リゴベルト・ウラン(コロンビア)
ジュリアス・ファンデンベルフ(オランダ)
ティージェイ・ヴァンガーデレン(アメリカ)
ジェームス・ウィーラン(オーストラリア)

【加入】
ダニエル・アロヤベ(コロンビア) ←UAE・チームコロンビア(アマチュア)
ウィリアム・バルタ(アメリカ) ←CCCチーム
別府史之(日本) ←NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス
ディエゴ・カマルゴ(コロンビア) ←コロンビア・ティエラ・デ・アトラス-GWビシクレタス
サイモン・カー(イギリス) ←NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス
ジュリアン・エルファレス(フランス) ←NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス
中根英登(日本) ←NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス
ミケル・ヴァルグレン(デンマーク) ←NTTプロサイクリング

【退団】
ショーン・ベネット(アメリカ) →クベカ・アソス
サイモン・クラーク(オーストラリア) →クベカ・アソス
クリストファー・ハルヴォルセン(ノルウェー) →ウノエックス・プロサイクリング チーム
タネル・カンゲルト(エストニア) →チーム バイクエクスチェンジ
ダニエル・マルティネス(コロンビア) →イネオス・グレナディアーズ
セップ・ファンマルク(ベルギー) →イスラエル・スタートアップネイション
マイケル・ウッズ(カナダ) →イスラエル・スタートアップネイション

今週の爆走ライダー−マティアス・スケルモース(デンマーク、トレック・セガフレード)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 UCIワールドツアーデビューとなったUAEツアーで個人総合6位。当初はニバリの山岳アシストとしてメンバー入りしていたが、横風分断でプロトンが崩壊した第1ステージで、先頭グループに残ったことで大きなチャンスを引き寄せることとなった。

プロ2戦目のUAEツアーで個人総合6位に食い込んだ マティアス・スケルモース。チームからの高い期待に応える好走だった Photo: Tim de Waele/Getty Images

 ジュニア時代から山岳とタイムトライアルは得意。UAEツアーのメンバー入りも、個人タイムトライアルが採用されていたから。首脳陣からすれば、「第1ステージのプロトン分断がなくても個人総合トップ10入りはできたと思う」。チームからの期待にきっちりと応えてみせた。

 競技を始めたのは16歳の時。それまで取り組んでいたサッカーへの情熱が薄れていったことがきっかけだった。両親からの「サッカーは無理に続けなくても良いけど、何かスポーツにはチャレンジしてほしい」との思いを受けて自転車競技を始めた。それから瞬く間に年代のトップへと駆け上がり、20歳でのプロ入りを実現。

 キャリア年数が少ないことも関係してか、実のところトップライダーについて知らないことが多いのだとか。レース会場で名の通った選手について教えてもらうこともあるほどで、「今年は経験を積むことと同時に、選手の顔と名前を覚えること」が目標とも。いまのところ、グランツールは来季にデビューする心づもりでいる。

 自転車に乗り始めた頃から今に至るまで、自宅のあるコペンハーゲンを拠点にトレーニングするスタンスは変わらない。天候が変わりやすい環境下でトレーニングすることで、悪コンディションでのレースにも対応できるようにしたいという。そして何より、生まれ育った街で、家族や友人に寄り添いながら過ごすことに大きな喜びを感じている。

ライダーとしてのキャリアはわずか4年。プロ1年目の今年は「経験を積むことと同時に、選手の顔と名前を覚えること」が目標だ Photo: Trek - Segafredo
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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