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栗村修の“輪”生相談<198>10代男性「将来ロードバイクを研究開発する仕事に就くにはどのような能力が必要ですか?」

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 大学1年生です。自粛期間中にツールドフランスを観て、自転車の世界にハマってしまいました。

 先日、僕もロードバイクを購入したのですが、ロードバイクの乗り物としての凄さを実感しています。転がり抵抗を小さくするためのタイヤ素材や形状、エアロ性能や剛性を追求したフレームやホイール、ハンドル。工学部生として、自転車にはものづくりの魅力がたくさん詰まっていると感じています。将来はロードバイクを研究開発する仕事につけたらなと考えています。あわよくば、マイヨジョーヌが乗るバイクを作ってみたいものです。

 しかしロードバイクを作っているメーカーは海外を拠点にしていることが多く、日本では自転車を専門とする研究室が少ないと感じています。

 そこで、自転車の分野に長年いらっしゃる栗村さんに質問です。ロードバイクに関する研究をするためには留学するべきでしょうか。また実際に研究職に就くためにはどのような能力が必要でしょうか。よろしくお願いします。

(10代男性)

 ときめきを仕事にできたら幸せですよね。

 ただ、「ロードバイクを作る」といっても、色々です。ロードバイクは大きくフレームと部品に分けることができますが、部品類なら日本のシマノやイタリアのカンパニョーロ、アメリカのスラムが有名ですよね。

 ただ、質問者さんの目標は「マイヨジョーヌが乗るバイク」ですから、部品じゃないですよね。フレームないし完成車です。「どのロードバイクに乗ってるんですか?」と聞かれて、「シマノです」と答える人はいません。普通はフレームメーカーの名前が出てくるでしょう。

 残念ながら、フレームに関しては主導権は日本ではない国にあります。特に空力面を含めた開発だと、今はアメリカ系ですよね。スペシャライズドとか、トレックとか。あるいはヨーロッパにもいいブランドはありますが、ともかく、残念ながら日本ではありません。だから最先端のロードバイクの開発をしたいなら、そういうメーカーに開発者として入るのが近道ですが、そもそも日本みたいに新卒一括採用をしている世界ではありませんから、いくらシマノの国から来た若者とはいえ、入るのは簡単ではないはずです。

かつてはパナソニックが欧州ロードレースに参戦していた。写真は1990年に宇都宮で行われた世界選手権ロードで優勝したルディ・ダーネンス(ツール・デ・フランドル1991) Photo: Yuzuru SUNADA

 留学なら自転車文化が根付いているヨーロッパをお勧めしますが、それも向こうのメーカーへの入社には直結しないと思います。ですから僕は、まずは日本のメーカーで実績を挙げ、その上で必要なら海外に行くことをお勧めします。

 欧米に押されているとはいえ、日本にもロードバイクを作っているメーカーがありますから、そういうメーカーをよく企業研究し、どういう人が研究職についているのか調べてみてください。たぶん理系、とくに工学系の研究室出身者が多いんじゃないでしょうか。

 さて、その上で僕が強調したいのは、質問者さんが将来いいロードバイクを作るために、ロードバイクにはたくさん乗って欲しいということです。ロードバイクは変わった乗り物で、エンジンが人間です。自動車や飛行機とはそこが違います。

 他の乗り物の場合、車体(機体)もエンジンも、どちらも広い意味では工学の対象だと思うんです。しかしロードバイクのエンジンである人間は工学じゃわからないですよね。スポーツ科学や栄養学、場合によっては文系の学問まで動員しなければ研究できない、非常に困った存在です。そういう意味では、ロードバイクのエンジンは最新のジェット機やロケットよりも研究が難しいわけです。

 もちろん質問者さんの関心はエンジンではなく車体、ロードバイクのほうにあるわけですが、いいロードバイクの条件はエンジンの性能を引き出せることですから、エンジンのことも知らなければいけない。

 しかし、自動車のエンジンはガソリンとオイルさえやれば文句も言わずに働きますが、ロードバイクのエンジンは「フィーリングが…」とか「踏んだ感じがちょっと…」など、よくわからないことを言います。

 剛性がいい例でしょうか。理屈上はしなりがゼロの「剛体」なら力が逃げないだろうとガチガチのフレームを作れたとしても、エンジンは間違いなく文句を言ってくるはずなんです。「しなりがない」とか。それは、エンジンである人間が非常に複雑な動きをする上に、「脳」という特殊なパーツがついていて、そこもエンジンのパフォーマンスに影響するからです。

 したがって、工学などロードバイクの開発に直結する学問を学ぶのはもちろんですが、並行してエンジンの研究も進めて欲しいのです。そしてそのためには、スポーツ科学などもありますが、実際に乗ってみることが不可欠です。

 個人的には、日本メーカーが欧米メーカーの押されている現状はちょっと残念です。だから、質問者さんがいつか、ツールを勝つフレームを作ってくれることに期待したいですね。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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