昼間岳の地球走行録<72>真冬のネパールから真夏のインドネシア・バリ島へ
山岳国家のネパール滞在時、次に走るのは東南アジアと決めていたものの、どこから走ろうかと迷っていた。シンガポールから北上してタイを目指すルートであれば、飛行機に乗ることなく東南アジアをスムーズに走れるし、インドネシアに飛んだとしても、フェリーを使えば輪行することなくマレー半島に渡ることができる。しかし僕らが真っ先に目を付けたのがインドネシアのバリ島だ。

水着を着たまま走り、海でクールダウン
海外ツーリングの輪行は非常に労力がかかるので、できれば避けたいけれど、それでも僕らはバリ島行きを決めた。しかし時間の関係で自転車で走れるのはバリ島一周くらいで、その後は再び輪行をして飛行機でシンガポールに渡らなければならなかった。
高地で真冬だったネパールに3カ月も滞在していると、寒さと空気の薄さも手伝い、バリ島のあのトロピカルな雰囲気と綺麗な海をどうしても味わいたいという衝動を抑えきれなかった。
バリには一度バックパッカーとして行ったことがある。海はもちろんだけど、内陸部の町は独特の風情があり、とても魅力な国だったことは覚えている。そしてなによりリーズナブルな物価も大きな魅力だった。それにバリ島を自転車で走るというのは、なんとなくだけど聞いたことがあったので、恐らく走りやすい国なのだろうと思っていた。
真冬のネパールから真夏のバリ島に着いたとき、知っていたとはいえ、粘り気のある湿気の含んでまとわりつくような東南アジアの暑さにいきなり面食らった。少し動いただけで汗が吹き出て、自転車を組み上げる頃には汗だくになってしまった。
その間、雷鳴が鳴り響き激しいスコールが地面を叩き付けたかと思うと、自転車を組み上げる頃には、南国の日差しが戻ってきていた。寒さに耐えていた身体にはいきなり堪える暑さだったが、それでも南国に来たという実感が伴い、嬉しかった。
想像通りバリ島は最高だった。辛味とココナッツミルクの甘みが絶妙なバランスがあり、トロピカル色の強いバリの料理を食べられて、安くてクオリティーの高い宿に泊まれる。補給できる商店や露天は沢山あるし、ヒンドゥー教と土着の宗教が混ざり合い、独特の雰囲気が醸し出されている街は、歩いていても飽きるこはなかった。
信仰心の厚い人々は常に神様の像を大切に扱い、苔むしたヒンドゥー教の神様の像に花やお供えをする姿が本当にバリの空気感そのものといった趣だった。
走行中も暑いので水着を着たままで走り、いいビーチを見つけると、休憩とクールダウンを兼ねてそのまま海に飛びこんだり、格安のプール付きの宿を見つけては出掛けて帰ってくるたびに汗だくになるので、プールに入ったりと南国ならではの楽しみ方と快感もあった。

ただそんな素晴らしいバリでも誤算もあった。バリが思った以上に起伏のある島だったこと、想像以上にリゾート感が強かったことだ。結論から言うと、この島で走るなら荷物を最小限に抑えたロードバイクツーリングがピッタリだと思う。
宿や食堂、商店は沢山あるし、強い日差しで洗濯物はすぐ乾くので荷物は本当に最小限で走ることができる。基本的に宿の予約をしなくても泊まれるけれど、綺麗でリーズナブルな宿はネットで探した方が見つけやすいので、気に入ったところがあれば、あらかじめ予約しておくのがいいと思う。

日本からの荷物は初日に泊まるホテルに預かってもらえば、すぐに気持ちの良いバリ島ツーリングを楽しめる。起伏のある島も、ロードであればむしろ楽しめるくらいのレベルだし、島は一周400キロととても走りやすい。幹線道路は交通量も多いけど、一本道を外れれば日本人の心にしみるのどかな田園風景と南国の風景が広がっている。リゾート感の強い街並みと田園風景をロードで颯爽と走るのは本当に楽しいと思う。

だけど、荷物を60キロ以上積んだツーリング自転車で走るとなると、島の起伏はとても辛いものがある。みんなタンクトップでリゾートを楽しむ中、汗をかき、重たい自転車を歯を食いしばって漕ぐのにどうしても耐えられなくなってしまった。
大陸であればそれでも先へ進むために走るのだけど、バリ島一周という目標だったので走らなくてもいいかという気持ちになってしまった。私たちはたった400キロのバリ島一周を諦めて、ビーチに滞在して過ごすことにした。
今この記事を書いていてふと思ったが、荷物を全て宿に置いて、空荷の自転車でバリ島を一周してきたら楽しかったはずだ。当時は格安ビーチリゾートのことで頭がいっぱいになり、そこまで気が回らなかった。再び海外旅行が行ける日が来たら、今度はロードバイクでバリ島を走ってみたい。

小学生のときに自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!」