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猪野学の“坂バカ”奮闘記<55>坂バカがMTBレースに挑戦! 全日本オープンレースで魅せた“珍プレー好プレー”

by 猪野学/Manabu INO
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 私は悪路に定評がある。整地されたアスファルトのヒルクライムレースよりシクロクロスやBMXの方が評価されることの方が多い。それは8歳から始めたスキーのおかげだと推察する。スキーでの重心移動やコブ斜面での吸収動作が自転車でも生かされるのだ。チャリダーのロケで出場したマウンテンバイク(MTB)の全日本選手権でそれを実感した。

MTBといえば竹谷賢二さん!細かいテクニックをたくさん教えていただいた

試走でコースを身体に叩き込む

 MTBの全日本選手権では、私のような素人が出れるオープンレースも同時に開催されている。と簡単にいうが、日本一を決めるコースを走るのだ。これはかなり難易度が高い。しっかりと試走しなければならない。ということでレース会場に前日入りした。

 会場に着くと、早速選手たちが試走をしている。コースの変化を頭と身体に叩き込むことがMTBでは重要らしい。

お借りしたフロントサスペンションのMTB。後ろにもサスが付いていたら、大岩も怖くないのだろうか…

 ということで、私も早速試走を開始! スタートしてすぐにゲレンデを駆け上がると、いきなりのヒルクライム。ゲレンデの中腹まで上り、林道に入って麓まで下る。そして今度は林道を再びヒルクライムする。

 いつものヒルクライムと違うのは大きな木の根や岩がゴロゴロと点在し、下から突き上げられることだ。お尻がぴょんぴょん跳ねてしまい、ペダリングが上手く行かないし、体力を消耗してしまうので、サドルからお尻を浮かせて空気椅子状態でペダリングしなければならないらしい。猛烈に太ももに乳酸が溜まってキツい。結局どうやってもキツいのがMTBだと早々に悟る。

難所①「巨岩」

 ギャラリーがたくさん集まっている行く手に、今度は巨大な岩が現れた。「大岩」と呼ばれるコース一番の難所らしい。3mぐらいの岩をほぼ直角に降りる。ここをクリアすると一人前と認められる。もちろんエスケープする迂回路もある。

大岩を下る竹谷さん。よく見ると岩肌が平らではないため、どのラインを下るかも難しい

 私は怪我をしたら撮影にならないため、エスケープしようと思った…が、しかしコース脇で見ているギャラリー達が「坂バカ行かないの?」「嘘でしょ!坂バカなのに行かないの?」と囃し立てられ、気が付いたら大岩へ突撃していた。

 大岩の難しいところは岩を下るのもちろんだが、岩の頂上までいくのに不安定な段差を上らなければならないことだ。

 これが難しい。バランスを崩した状態のまま大岩頂上に着くと確実に落車しながら岩を落下するという地獄絵図が待っている。私は恐る恐る、しかし勢いよくペダルを踏んで岩を駆け上がった!すると案の定少しバランスを崩した状態で頂上に着く。ヤバい! しかしもう止められない!

 身体が不安定な状態で斜度が90度近い岩(実際は40〜50度だったらしいが…)を下りる恐怖をご想像いただけるだろうか? 私はその時落車を悟った。「やっちまったな」と。怪我したらロケを潰してしまうし、事務所にも怒られる! などと思いながら瞬時に着地の衝撃に備えた。

 着地と同時に前方へ一回転すると思われたが、フロントサスペンションが見事に衝撃を吸収し、なんとか前転を免れた。しかし次の瞬間股間に激痛が走った! 着地の衝撃でビンディングがペダルから外れサドルで股間を強打した。ビンディングペダルの解放値が緩過ぎたのだ!

 股間が猛烈に痛いが、岩の上ではギャラリー達が「坂バカすげー!」「ホントに行ったよ!冗談で言ったのに!」とガヤガヤ沸いている。私は痛みを堪えながら余裕のガッツポーズをかましてやった。ヒルクライムでは味わえない達成感だ。それはまるで初めてバンジージャンプをした時の感動に似ていた。

難所②「ゴロゴロの岩場」

 大岩を終えても難所は終わらない。すぐに折り返し、“ゴロゴロの岩場”を上る。多くの選手が足をついてしまい、自転車を押して歩いていた難所だ。皆果敢に挑戦するが、ペダルが岩に当たって引っ掛かるのだ。

 ようやく最大の難所をクリアすると、今度は小さな段差を上る激坂区間が現れた。段差というものは降りることはできても、上るものではないという概念だったが、MTBでは上れてしまう。ハンドルを少し浮かせると同時にトルクをかけると上れるが、全身を使うのでそれだけで最大心拍になる!本当にキツい!

 ようやく頂上に到達すると、今度はダウンヒル! スキー場を一気に下る。これは私にとっては容易い。猛スピードで下る。だが、下が草地なのでコーナーではタイヤがとられ、滑る。

 リアブレーキをロックする寸前までかけ、外脚で踏ん張る。外足荷重! スキーと同じではないか、と微笑んだその瞬間、再び股間に激痛が走った! 踏ん張り過ぎてビンディングが外れ、またもやサドルに股間が直撃! このままだと落車するので、すかさずサドルにお腹を乗せてスーパーマンの様な状態でフルブレーキ!

 何とか落車は免れたものの、1日に2度も股間を強打するとは、MTBは味わい深い。しかしまだコースの半ば。というかまだ試走だ!

難所③「段差」

 下りもゲレンデだけじゃなく、崖のような悪路を下る。ようやく麓付近に付くと今度こそ完全に90度の段差が現れた。ここにもエスケープゾーンがある。さすがに90度なんて下りたことがないのでエスケープしようとすると、またもやギャラリーが「坂バカ行けるよ!」と囃し立ててきた。全くもって因果な商売だ。ここで行かないと後で何を言われるか分からない。

コース最下部。駐車場に面しいるので歓声が湧く!

 ギャラリーにどうやって行くのかを尋ねると。身体をリアタイヤにお尻が付くぐらい後方にして、ジャンプの瞬間に少しハンドルを上げれば簡単に行けると。
言われた通りやってみると意外と簡単にジャンプでき、着地もすんなり出来た。
後で聞いたが、これも実は難しいテクニックだったらしい。

 ゲレンデの下まで下りて、また激坂を上り返してようやくゴール。全日本チャンプを決めるだけあって相当な難コースだ。危険な個所を頭に叩き込む為に私はもう2周念入りに試走をした。

 これで大丈夫と安心してホテルに戻った頃に、雨が降り出した。この雨がコースを全くの“別もの”にしているとはつゆ知らず、私は穏やかな眠りについたのだった。

<次回「脅威のウルトラC!歴史に残る大落車!九死に一生編」へと続く>

猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

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MTBレース 猪野学の“坂バカ”奮闘記

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