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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<372>五輪メダルに向けて準備を進めるエースたち バイクエクスチェンジ、アスタナ 2021チーム展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 数回に分けてお届け中の2021年シーズンのトップチーム展望。今回はチーム バイクエクスチェンジとアスタナ・プレミアテック。バイクエクスチェンジは、このほど開催された国内戦「サントスフェスティバル」で実力通り大会を席巻。一方、アスタナ・プレミアテックはスペインでのトレーニングキャンプを打ち上げ、エースクラスのシーズン目標も“内定”。そんなチームに共通しているのは、エースクラスが東京五輪ロードでのメダル獲得を目指してレースプログラムを組んでいる点にある。

五輪メダルに向けて2021年シーズンを指導させたサイモン・イェーツ(左)とヤコブ・フルサン。ともにチームを率いる存在でもある Photo: Team BikeExchange, RCS Sport

バイクエクスチェンジ勢がダウンアンダー代替大会で圧倒

 まずはタイムリーな話題から触れておこう。1月21日に開幕し、全4ステージで争われたオーストラリアのローカル大会「サントスフェスティバル・オブ・サイクリング」で、チーム バイクエクスチェンジがワールドクラスの実力を披露。第1ステージで、レース距離106.8kmのうち80km以上にわたって独走を演じたルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)が圧勝。このステージでだけで2分以上の総合リードを獲得し、最終的に貯金を守り切って個人総合優勝を果たしている。

ツアー・ダウンアンダー代替大会のサントスフェスティバル・オブ・サイクリング第1ステージで逃げ切ったルーク・ダーブリッジ。大量リードを守り切って個人総合優勝を果たした Photo: Tour Down Under

 ダーブリッジといえば、同国きってのタイムトライアルスペシャリスト。独走力を生かして、過去には同国選手権のロードレースでも単独逃げ切りでタイトルを獲得したこともある。そんな彼だが、今回はクイーンステージとなった第3ステージのウィランガ・ヒルでも3位とまとめてみせるなど、事実上のシーズン開幕戦を最高の形で終えている。

 ちなみに「サントスフェスティバル・オブ・サイクリング」は、中止になったツアー・ダウンアンダーの代替イベントとして開催され、国内選手を中心にレースを実施。UCI(国際自転車競技連合)非公認レースではあるものの、チーム バイクエクスチェンジは主力選手をそろえて挑んでいた。

イェーツはグランツールと五輪にフォーカス

 今年を幸先の良い形でスタートさせたチームだが、エースたちの目標設定については流動的。現状で明確になっているのは、サイモン・イェーツ(イギリス)がグランツールを、5年ぶりに古巣復帰となったマイケル・マシューズ(オーストラリア)がスプリントとクラシック戦線を中心にリーダーシップを執るあたり。

グランツールと東京五輪にフォーカスするサイモン・イェーツ。戦力ダウンが囁かれるチームを浮上させるべく意欲を見せる Photo: Team BikeExchange

 イェーツについては、2014年のプロデビュー以来キャリアをともにしてきた双子の兄弟・アダムがイネオス・グレナディアーズに移籍したことによって、これまでとは心身ともに異なるシーズンを送ることになる。チーム全体を見ても戦力的に厳しい状況になったことは否めないが、同時にイェーツにかかる期待が自然と大きくなってくる。その点、本人は前向きで、「アダムと対戦することになっても問題はない」との姿勢を見せる。

 レースプログラムについては春のクラシックを回避する見通しで、ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスと2つのグランツールにまずは集中。さらには、その後の東京五輪にも意欲的。かねてから、「ツールよりも五輪」という考えがあると述べており、代表入りが叶えば、ジロで総合を狙ったのち、ツールはステージ狙い。そして五輪でのメダル挑戦という流れを望む。

5年ぶりに古巣へ帰還したマイケル・マシューズ。春はクラシック戦線でチームを牽引する Photo: Team BikeExchange

 クラシック路線を担うマシューズは、これまでも上位進出経験のあるアムステル・ゴールド・レースやリエージュ~バストーニュ~リエージュのタイトル獲得にチャレンジすることになりそう。幾度となく激戦を制してきたスプリント力に加えて、長短問わず対応できる登坂力もいまだ健在。イェーツと並んで、チームの浮沈にかかわる立場にあることは間違いない。

 ミッチェルトン・スコットからチーム バイクエクスチェンジと名を変えて戦う今季。昨年までチームの屋台骨を支えた選手たちが離脱したこともあり、戦力がダウンしているとの見方が強まる中、今年はイェーツやマシューズに続く選手たちの擁立もチームのテーマに。前日のダーブリッジや、スプリンターのルカ・メズゲッツ(スロベニア)、忠実な山岳アシストのミケル・ニエベ(スペイン)らも控えるが、いずれもベテランの域に達している選手たち。やはり、若手・中堅クラスがどこまでチャンスを得られるかが、この先のチームの方向性にも影響を与えることになるだろう。

チーム バイクエクスチェンジ 2020-2021 選手動向

【残留】
ジャック・バウアー(ニュージーランド)
サムエル・ビューリー(ニュージーランド)
ブレント・ブックウォルター(アメリカ)
エステバン・チャベス(コロンビア)
ルーク・ダーブリッジ(オーストラリア)
アレクサンダー・エドモンソン(オーストラリア)
スガブ・グルマイ(エチオピア)
カーデン・グローブス(オーストラリア)
ルーカス・ハミルトン(オーストラリア)
マイケル・ヘップバーン(オーストラリア)
ダミアン・ホーゾン(オーストラリア)
クリストファー・ユールイェンセン(デンマーク)
アレクサンダー・コニシェフ(イタリア)
キャメロン・マイヤー(オーストラリア)
ルカ・メズゲッツ(スロベニア)
ミケル・ニエベ(スペイン)
バルナバーシュ・ペアーク(ブルガリア)
ニック・シュルツ(オーストラリア)
カラム・スコットソン(オーストラリア)
ディオン・スミス(ニュージーランド)
ロバート・スタナード(オーストラリア)
サイモン・イェーツ(イギリス)
アンドレイ・ツェイツ(カザフスタン)

【加入】
ケヴィン・コッレオーニ(イタリア) ←ビエッセ・アルヴェディ
アムンドグレンダール・イェンセン(ノルウェー) ←ユンボ・ヴィスマ
タネル・カンゲルト(エストニア) ←EFプロサイクリング
マイケル・マシューズ(オーストラリア) ←チーム サンウェブ

【退団】
エドアルド・アッフィニ(イタリア) →ユンボ・ヴィスマ
ミヒャエル・アルバジーニ(スイス) →引退
ジャック・ヘイグ(オーストラリア) →バーレーン・ヴィクトリアス
ダリル・インピー(南アフリカ) →イスラエル・スタートアップネイション
アダム・イェーツ(イギリス) →イネオス・グレナディアーズ

細かな目標設定でビッグタイトル獲得へ アスタナ・プレミアテック

 対照的に、エースクラスごとに細かい目標設定を行っているのが、今年から新スポンサーを獲得しチーム名が変わったアスタナ・プレミアテックである。

2020年はイル・ロンバルディアを制したヤコブ・フルサン。今年はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュと東京五輪を最大目標とする Photo: Marco Alpozzi

 なかでも、プロトンにおけるスーパーライダーの1人に数えられるヤコブ・フルサン(デンマーク)は、誰よりも五輪ロードレースへの思いが強い。2016年のリオデジャネイロ五輪では、激闘の末に銀メダル。当時はその結果に満足感があったというが、次の五輪が近づくにつれてさらに上を目指したいという意欲が高まった。今では「金メダルを目指す」と宣言し、夏の東京を視野にプログラムを組んでいる。

 衰え知らずの35歳は、「今年最初のハイライト」にリエージュ~バストーニュ~リエージュを設定。2年前に鮮やかな独走劇を演じた伝統の大会で、タイトル奪還に挑む。その後、ツールに向けて準備をするが、あくまでも「五輪への調整」と「ステージ優勝」のための出場。「ツールのコースは東京五輪に向けた調整にピッタリなルート」との言葉からも、彼のモチベーションをうかがうことができる。起伏に富む難コースである五輪のレースルートは、タフなレイアウトで真価を発揮する彼には打ってつけといえる。これまで、好調で臨んだレースでも思わぬ落車で状況が一変するケースがあったが、目標達成のカギは、クラッシュなどのトラブルを避けられるかどうかでもありそうだ。

 なお、東京五輪に関しては、実力者の1人であるアレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)も狙いを定めるという。同国ライダーの五輪メダルといえば、現在チームのゼネラルマネージャー職に就くアレクサンドル・ヴィノクロフ氏が2012年のロンドン五輪で金メダルを獲得している。その時以来の表彰台を目指して、“カザフスタンの至宝”が準備を進めていく。

ウラソフらがステージレースで上位を狙う

 お家芸であるステージレースは、若きオールラウンダーのアレクサンドル・ウラソフ(ロシア)の成長でグランツールの戦いにメドが立った。

アスタナ・プレミアテックの総合エースに成長したアレクサンドル・ウラソフ(左)。2021年はジロ・デ・イタリアで上位進出を図る Photo: Fabio Ferrari

 チーム1年目だった昨季、加入早々から結果を残して一躍主力ライダーに。なかでも、8月に開催されたモン・ヴァントゥ・チャレンジ(UCI1.1)で勝利してクライマーとしての地位を確たるものにした。その後も、イル・ロンバルディアではフルサンを支えながら3位入り。ジロは体調不良でリタイアしたが、スライド出場したブエルタ・ア・エスパーニャでは本調子からほど遠いにもかかわらず個人総合11位にまとめている。

 迎える今シーズンは、前回の雪辱を期してジロへ出場することを表明。全ルートの発表が待たれるところだが、ジュニア時代からイタリアを拠点に走っていたこともあり、コースがいかなるものであってもチームは総合エースに据える構え。

 昨年までチームを引っ張ったミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア、現モビスター チーム)に代わる存在として期待が膨らむウラソフ。今年がチームとの契約最終年とあって、ジロの結果次第では大型契約に発展する可能性もあるといわれる。その動向に注目していきたい。

 1週間規模のステージレースについては、ゴルカとヨンのイサギレ兄弟(スペイン)が頼もしい。特に、4月に開催されるイツリア・バスクカントリーは地元でのレースとあって、並々ならぬ意欲を燃やす。2年前に大会を制したヨンのタイトル奪還を視野に、チームもサポートすることを明かしている。

 ほかにも、派手さこそないが確実に仕事をこなす“職人”たちがチームには控える。ルイスレオン・サンチェスやオマール・フライレ(ともにスペイン)、スプリントから上りまで幅広くこなすファビオ・フェリーネ(イタリア)らが、チームの上位進出を支える。

 これまでカザフスタンの国家プロジェクト色が強かったチームは、カナダの農業・園芸サービス企業であるプレミアテック社を招き、国際色豊かな体制へと変化。カザフスタン国営企業からのサポートは減ったものの、新たなマネジメントのもとチーム強化を図っていく。

新スポンサーを迎えて2021年シーズンに入ったアスタナ・プレミアテックの選手たち。ジャージデザインも変わり、幾何学模様が採用されている Photo: Tim de Waele/Getty Images

アスタナ・プレミアテック プロチーム 2020-2021 選手動向

【残留】
アレクサンデル・アランブル(スペイン)
マヌエーレ・ボアーロ(イタリア)
ロドリゴ・コントレラス(コロンビア)
ファビオ・フェリーネ(イタリア)
オマール・フライレ(スペイン)
ヤコブ・フルサン(デンマーク)
エフゲニー・ギディッチ(カザフスタン)
ヨナス・グレゴー(デンマーク)
ドミトリー・グルズジェフ(カザフスタン)
ユーゴ・ウル(カナダ)
ゴルカ・イサギレ(スペイン)
ヨン・イサギレ(スペイン)
メルハウィ・クドゥス(エリトリア)
アレクセイ・ルツェンコ(カザフスタン)
ダヴィデ・マルティネッリ(イタリア)
ユリー・ナタロフ(カザフスタン)
ワジム・プロンスキー(カザフスタン)
オスカル・ロドリゲス(スペイン)
ルイスレオン・サンチェス(スペイン)
ニキータ・スタルノフ(カザフスタン)
アロルド・テハダ(コロンビア)
アレクサンドル・ウラソフ(ロシア)
アルチョム・ザハロフ(カザフスタン)

【加入】
サムエーレ・バティステッラ(イタリア) ←NTTプロサイクリング
グレブ・ブルセンスキー(カザフスタン) ←ヴィノ・アスタナモータース
ステファン・デボッド(南アフリカ) ←NTTプロサイクリング
エフゲニー・フェドロフ(カザフスタン) ←ヴィノ・アスタナモータース
ベン・ペリー(カナダ) ←イスラエルサイクリングアカデミー
アンドレア・ピッコロ(イタリア) ←チーム コルパック・バッラン
ハビエル・ロモ(スペイン) ←無所属 ※トライアスロン並行
マッテオ・ソブレロ(イタリア) ←NTTプロサイクリング

【退団】
ザンドス・ビジギトフ(カザフスタン) →未定
エルナンド・ボオルケス(コロンビア) →未定
ローレンス・デヴリーズ(ベルギー) →アルペシン・フェニックス
ダニイル・フォミニフ(カザフスタン) →未定
ミゲルアンヘル・ロペス(コロンビア) →モビスター チーム

今週の爆走ライダー−サムエーレ・バティステッラ(イタリア、アスタナ・プレミアテック)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 2019年のアンダー23世界チャンピオン。NTTプロサイクリング(現クベカ・アソス)には鳴り物入りで加わったが、「とても通用したとは思えない」悔しい1年を過ごした。合計で47日間、総距離7732kmを走破したプロ初年度だったが、自身の結果はもとより、アシストとしても機能できなかったと反省する。

2019年のアンダー23世界チャンピオンのサムエーレ・バティステッラ。2021年シーズンからアスタナ・プレミアテックで走る Photo: Yuzuru SUNADA

 それでも、学ぶことは数多かった。ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア)はレースに対する集中力はすさまじく、ジャコモ・ニッツォーロ(イタリア)は狙ったレースを逃さない勝負強さを目の当たりにした。「模範的で、チームリーダーにふさわしい選手たち」と評した彼らから、レースに対する姿勢を学べたことは大きな収穫だったという。

 チーム事情もあり移籍を決意したが、アスタナ・プレミアテックにもイタリア人の先輩たちが多数所属する。なかでも、オールラウンドに力を見せるフェリーネのアシストに任命されているそうで、レース内外でいかに彼をサポートするか目下考え中。

 当面はエース格の選手たちをケアする側に回るが、将来的にはワンデーレースをメインにトップに立つことを夢見る。関係者の間では、かつて世界王者となり、北のクラシックでも強さを見せたアレッサンドロ・バッランの再来との声もあるとか。2年前に手にしたマイヨアルカンシエルを見て気持ちを奮い立たせる22歳は、「まずは競争力を高めて、それから上を目指したいと思う」と現実的だ。

 オフシーズンは両親と過ごしながら、精神分析学の文献を読むなど、レース以外の分野にも着手。芸術系の学校を卒業していることもあり、これからはもう少し「絵を描く時間も作りたい」と画策中だ。

プロ1年目は不満が残る結果だったというサムエーレ・バティステッラ。当面は経験豊富な選手たちから学びながら力を養っていく構えだ =ツアー・ダウンアンダー2020チームプレゼンテーション、2020年1月18日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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