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栗村修の“輪”生相談<197>50代女性「ロードバイクでハンドルから手を放すことができません」

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 こんにちは、いつも楽しく拝見しています。

 49歳からロードバイクを始め、週末のポタリングは楽しく乗れるようになりましたが初心者の域を出られないままです。小回り、ダンシングもいまだにきちんとはできませんが、一番困るのはハンドルから手を放すことができないことです。

 もちろん下ハンに握り替えることもできません。ちょっとでも手を放すとバランスが乱れ、中央車線に寄って行ってしまいます。

 顔がかゆくても、サングラスがずり落ちても直すことができず、次の信号待ちまでもぞもぞしながら走っています。

 競技をするわけではないので、ドリンクを飲んだりするのは止まればいいのですが、ハンドサインが出せないのでグループでの走行ができません。このままでは憧れのサイクルイベントに参加もできず、悲しいです。

 バランス感覚を磨き、せめてハンドサインが出せるようになるにはどのような練習をすればいいでしょうか? よろしくお願いします。

(50代女性)

 片手放し運転ができないということですね。

 まず大事なことですが、道交法上、片手放しは基本的にNGです。安全運転の義務を定めた第70条に「車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぽさないような速度と方法で運転しなければならない」と定められているからです。これは手信号の義務を定めた第53条と微妙に矛盾しそうですが、もちろん安全運転のほうが優先と解釈していいでしょう。

 いずれにしても、大事なことは、片手放しができなくても法的にはそれほど問題ないということです。

 しかし、片手放しができない、すなわちハンドルを両手で握りしめていないと転んでしまう状態で公道を走っているのは、むしろ危険とも言えます。普通に走っているだけでも、たとえば道路のわだちでふらついたり風にあおられたりするのが自転車ですから、片手を放しても転ばないだけの余裕は必要でしょう。

 その余裕がない状態で走っている質問者さんは相当の緊張を強いられると思いますので、疲れるとも思います。ともかく改善が必要ですね。

 でも、たぶんそれほど難しい話ではありません。なぜなら、質問者さんはすでに「自転車に乗る」という、とんでもなく複雑で微妙なバランスを要求される芸当をマスターしているからです。自転車に乗ることに比べたら片手放しなどなんでもありません。

片手放しができなければガッツポーズももちろんできない… Photo: Yuzuru SUNADA

 ただ、忘れないで欲しいのは、自転車に乗れるようになったり片手放しができるようになるといったスキルを手に入れるためには、スキルトレーニングが必要だという点です。日本の自転車界では軽視されがちなのですが、自転車を乗りこなすためにはスキルが必要であり、スキルを身に着けるためにはトレーニングが必要です。

 考えてもみてください。はじめて自転車に乗ったとき、いきなり公道を走ったりはしませんでしたよね。たぶんご両親などと一緒に、安全な場所で十分に練習を積んだはずです。だから今回も同じことをやればいいのです。

 というわけで、まずは安全な、クローズされた場所に行きましょう。転ぶリスクを考えると、地面は芝生のほうがいいかもしれません。あともちろん、ヘルメットはしっかりつけてください。

 そこを走りながら、右手でも左手でもいいですが、一瞬だけパッと放してみましょう。一瞬です。最初は0.2秒とか、0.5秒とか。いくらなんでも手を放した瞬間にズバッと転ぶことはないでしょう。

 これを慣れるまで繰り返したら、徐々に手を放す時間を伸ばしていきます。1秒、2秒、5秒…というふうに。これを左右の手で繰り返してください。

 手放しに慣れたら、次に、片手放しの状態でヘルメットを触ったり、腰を叩いたりと、ちょっとバランスが崩れる姿勢をとってみてください。アンバランスさに慣れるためのトレーニングです。ここまでできれば、手信号まであと一歩です。

 要するに、初めて自転車に乗ったときと同じトレーニングをするわけです。補助輪を外した瞬間に何kmも走れる子どもは稀ですよね。はじめは親御さんに見守られながら、数メートルくらいしか走れなかったでしょう。でも、それが今や、質問者さんはロードバイクに乗るまでになっているんです。

 それは、身体が、「自転車に乗る」というきわめて複雑な行為を覚えたからです。今回も同じことをやるだけの話です。小回り、ダンシングなども同様です。もし将来、質問者さんが両手放しやウイリー、さらにはペテル・サガンじゃないですが、片手放しウイリーみたいな超絶技巧に挑戦するとしても(別に覚える必要はないのですがが)、手順は同じなんです。

 あまり意識されませんが、「ロードバイクに乗る」というのは、かなり特殊で難しい行為なのです。それにも関わらずスキル面でのベーストレーニングが不足している日本の現状は、かなり危険だと思います。

 ご自分のスキル不足を自覚できている質問者さんはむしろ優秀だと思いますよ。もしこの質問を見て笑ってしまった方がいたとしたら、あなたこそ危険です。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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栗村修の“輪”生相談

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