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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<371>強力エース擁してグランツールの上位うかがう DSM、ボーラ 2021チーム展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 数回に分けてお届けする2021年シーズンのトップチーム展望。今回はドイツ籍の2つ、チームDSMとボーラ・ハンスグローエにフォーカス。昨年、若手の急成長で一躍期待値が高まったDSMと、数年かけてペテル・サガン(スロバキア)頼みの体制から脱却しつつあるボーラ・ハンスグローエ。今季を迎えるにあたって両チームに共通しているのは、グランツール路線の強化。3週間の戦いを知るエースクラスが、これからのシーズンを引っ張っていくことになる。あわせて、ボーラ・ハンスグローエを襲った交通事故の情報もお知らせする。

ドイツ籍の2チーム。チームDSMは総合エースに成長したジャイ・ヒンドレー(左)が、ボーラ・ハンスグローエはペテル・サガン(右)がそれぞれチームの浮沈のカギを握っている Photo: Yuzuru SUNADA

ヒンドレーに新エースの大きな期待 チームDSM

 これまで、スプリント、クラシック、さらにはグランツールを制するなど、シーズンごとに違った色を見せてきたチームは、世代交代を進めていく中でヤングライダー中心の陣容へと様変わり。昨年は開幕当初は大苦戦が予想されていたが、ふたを開けてみればシーズン序盤から少しずつ勝ち星を積み重ね、最終的には年間16勝。UCIワールドランキングで5位となったほか、ツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリアなどビッグレースでは鮮烈なインパクトを残してみせた。

ジロ・デ・イタリアで一躍ブレイク。グランツールレーサーの仲間入りを果たしたジャイ・ヒンドレー =ジロ・デ・イタリア2020第21ステージ、2020年10月25日 Photo: Yuzuru SUNADA

 改めてチームビルディングの巧さを示した「チーム サンウェブ」は、今季からメインスポンサー変更にともない「チームDSM」として動く。ジャージを含めたチームカラーは大幅に変わるが、若手や中堅クラスの選手を軸としたチームの方向性は当面維持することとなる。

 それらに加えて、今年はより具体的に勝つことを意識して戦術を組み立てていくことになる。ジロでの激闘ですっかり総合系ライダーとして認知されるようになった24歳のジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)は、今年も3つのグランツールのうちどれかをターゲットに据えることだろう。昨年までのリーダー格が軒並み移籍したこともあり、エースの席はなかば自動的にヒンドレーの場所へ。山岳でのクオリティの高さは実証され、あとはタイムトライアルの改善が課題。それでも、展開が味方をすれば、すぐにでも3週間の戦いで王座に就く可能性は十二分にあるといえる。

新加入バルデが若いチームを牽引する

 新型コロナ禍においても、ビッグトピックをわれわれに提供した。ツールの総合表彰台を経験するロマン・バルデ(フランス)が加わったのだ。

チームDSM入りしたロマン・バルデ。トレーニングキャンプに合流しチームのムードを感じている(チームTwitterより) Photo: Team DSM

 近年はツールでの総合争いで苦しむことの多いフレンチオールラウンダーだが、環境を変えることで今までとは違ったアプローチでグランツールへ臨む。昨年はジロ参戦を予定していたが、レースプログラムのシャッフルによってツールに目標を変更。大会後半での落車負傷でリタイアとなったが、それまでは総合上位につけ、まだまだ戦えるところを見せた。上りも下りもハードに攻める本来の走りを取り戻して、若い選手たちを牽引することが目下のテーマだ。

ツール・ド・フランスで鮮烈な印象を残したセーアン・クラーウアナスン。本職であるクラシックで上位進出を狙っていく =ツール・ド・フランス2020第14ステージ、2020年9月12日 Photo: Pool / BETTINI / SUNADA

 ヒンドレー、バルデがグランツールを担当するなら、クラシック路線はセーアン・クラーウアナスン(デンマーク)に期待がかかる。ツールでステージ2勝の印象が強いが、得意とするのは北のクラシックなどのワンデーレース。ツールで見せたようなアタックからの独走から勝機を膨らませる。マルク・ヒルシ(スイス)のUAE・チームエミレーツ移籍によって抜けた穴を、経験豊富なティシュ・ベノート(ベルギー)らとともに埋めていく働きが求められる。

 しっかりとしたエースクラスを擁立する一方で、山岳アシストの手薄さは気がかりな面。ベテランのニコラス・ロッシュ(アイルランド)や、2019年のツール・ド・ラヴニール個人総合3位の20歳、イラン・ファンワイルダー(ベルギー)らが奮起できるか。また、セース・ボル(オランダ)やアルベルト・ダイネーゼ(イタリア)といったスプリンターも、プロトンの雰囲気に慣れたところで勝ち星を増やしてチームに還元したいところだ。

チームDSM 2020-2021 選手動向

【残留】
テイメン・アレンスマン(オランダ)
ニキアス・アルント(ドイツ)
ティシュ・ベノート(ベルギー)
ケース・ボル(オランダ)
アルベルト・ダイネーゼ(イタリア)
ニコ・デンツ(ドイツ)
マーク・ドノヴァン(イギリス)
ニルス・エーコフ(オランダ)
フェリックス・ガル(オーストリア)
チャド・ハガ(アメリカ)
クリス・ハミルトン(オーストラリア)
ジェイ・ヒンドレー(オーストラリア)
マックス・カンター(ドイツ)
アスビャアン・クラーウアナスン(デンマーク)
セーアン・クラーウアナスン(デンマーク)
ヨリス・ニューエンハイス(オランダ)
カスパー・ピーダスン(デンマーク)
ニコラス・ロッシュ(アイルランド)
マーティン・セルモン(ドイツ)
マイケル・ストーラー(オーストラリア)
フロリアン・ストーク(ドイツ)
ヤシャ・ズッタリン(ドイツ)
マーティン・トゥスフェルト(オランダ)
イラン・ファンワイルダー(ベルギー)

【加入】
ロマン・バルデ(フランス) ←アージェードゥーゼール ラモンディアール
マルコ・ブレンナー(ドイツ) ←ジュニア
ロマン・コンボー(フランス) ←NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス
アンドレアス・レックネスン(ノルウェー) ←ウノエックス・プロサイクリング チーム
ニクラス・メルクル(ドイツ) ←デヴェロップメントチーム サンウェブ
ケヴィン・ヴェルマーク(アメリカ) ←ヘーゲンズバーマン・アクセオン

【退団】
マルク・ヒルシ(スイス) →UAE・チームエミレーツ
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ) →ボーラ・ハンスグローエ
マイケル・マシューズ(オーストラリア) →チーム バイクエクスチェンジ
サム・オーメン(オランダ) →ユンボ・ヴィスマ
ロブ・パワー(オーストラリア) →クベカ・アソス

“脱・サガン頼み”で戦力充実 ボーラ・ハンスグローエ

 ボーラ・ハンスグローエに触れるうえで、サガンの動向を見逃すわけにはいかない。昨年はシーズン自体がイレギュラー化したとはいえ、なかなか勝つことができなかった。ツールでは7度にわたって獲得してきたポイント賞のマイヨヴェールを手放す結果にもなったが、何よりもスプリントで精彩を欠いた印象が強い。最終的に、ジロ第10ステージでの独走勝利、この1勝にとどまっている(逃げ切りそのものは非常に鮮やかだったが)。

ボーラ・ハンスグローエもトレーニングキャンプが進行中。ペテル・サガン(左)も精力的に強化に励んでいる(チームTwitterより) Photo: Bora - hansgrohe

 開幕が迫る今季の戦いに関して、決定していることは「クラシックに注力する」、この1点のみ。もちろん、その先に控えるツールや東京五輪、さらにはベルギーで開催されるロード世界選手権も意識はしているが、それらもクラシックを走り終えてから考えるという。もっとも、昨年は秋開催だったツールとジロに集中したため、北のクラシックは全休。それだけに、再びパヴェへと戻ってタイトル奪取への思いが強まっているようだ。

 チームのトレーニングキャンプにも参加し、レースに向けた準備を着々と進める。当初は1月下旬のブエルタ・ア・サンフアン(アルゼンチン)でのシーズンインを予定していたが大会中止が決まり、2月27日のオンループ・ヘットニュースブラッド(ベルギー)でスタートを切る見通し。

 ちなみに、サガンは今年がチームとの契約最終年。彼自身、そしてチーム双方の意向によっては、来季に向けたストーブリーグにおいて最大の目玉となる可能性も秘めている。

総合、スプリント、クラシック…穴のない布陣に大きな強み

 好結果が計算できるサガンの走りに頼りがちだったチームは、この数年をかけてグランツールで戦えるだけの戦力を整備。その最たる例が、エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)によるツール2019での個人総合4位。

ボーラ・ハンスグローエのグランツール路線を率いるエマヌエル・ブッフマン。2021年はジロ・デ・イタリアにフォーカスする =ツール・ド・フランス2020第9ステージ、2020年9月6日 Photo: Yuzuru SUNADA

 そのブッフマンは昨年のツールこそ、戦前のクラッシュが影響して結果を残せなかったが、現在もチーム内での高い信頼度は変わらず。今年はジロに参戦する見通しとなり、春からしばらくはイタリアで開催されるステージレースをメインに調子を上げていく。

 そこに、昨年のパリ~ニース覇者のマキシミリアン・シャフマン(ドイツ)が加わる予定で、ドイツが誇る実力者2人が共闘態勢でイタリアでの3週間へ挑むことに。ワンデーレースも得意とするシャフマンは、4月半ばからのアルデンヌクラシックにも目標を設定しており、好調を維持したままイタリアへと乗り込む公算。グランツールの上位を狙っていく意向も示しており、その戦いぶりに注目が集まる。

世界最高スプリンターの1人、パスカル・アッカーマンも順調に調整中。勝利量産が計算できる頼もしい存在 ©︎ BORA - hansgrohe / Bettiniphoto

 ほかにも、移籍加入を果たしたウィルコ・ケルデルマン(オランダ)や、昨年のツールでステージ1勝のレナード・ケムナ(ドイツ)ら上りに強い選手たちが多数控えており、これらメンバーをどのレースに配備していくかも見どころだ。

 まだまだタレントは豊富。チームの勝ち頭でもあるスーパースプリンターのパスカル・アッカーマン(ドイツ)は今年、どこまで勝利数を量産できるか。これまで通り充実のリードアウト陣を生かしながら、きっちりと勝ち切る姿を何度も目にすることだろう。こちらはツール初参戦をなる見込み。また、念願かなって自国のチーム入りを果たすニールス・ポリッツ(ドイツ)は、加入早々“ポスト・サガン”として北のクラシックでの実力発揮が望まれている。2019年にはパリ~ルーベで2位。26歳となり、ビッグタイトル獲得が現実的なところまで差し掛かっている。

 なお、チームはイタリア北部・ガルダ湖近くで行っていたトレーニングキャンプの最終日(1月17日)に、7選手が道路を横切ろうとした車と衝突したと発表。うち、移籍加入したばかりのウィルコ・ケルデルマン(オランダ)が脳震盪と椎骨骨折、リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ)が脳震盪、アンドレアス・シリンガー(ドイツ)が頸椎と胸骨の骨折との診断。この3選手は当面、けがの治療に専念するものとみられる。そのほか、同グループで走行していたシャフマン、マークス・ブルグハート、アントン・パルツァー、ミヒャエル・シュヴァルツマン(以上ドイツ)は軽傷で、病院での診察後にホテルへと戻っているという。

ボーラ・ハンスグローエ 2020-2021 選手動向

【残留】
パスカル・アッカーマン(ドイツ)
エリック・バシュカ(スロバキア)
チェザーレ・ベネデッティ(イタリア)
マチェイ・ボドナル(ポーランド)
エマヌエル・ブッフマン(ドイツ)
マークス・ブルグハート(ドイツ)
マッテオ・ファッブロ(イタリア)
パトリック・ガンペール(オーストリア)
フェリックス・グロスチャートナー(オーストリア)
レナード・ケムナ(ドイツ)
パトリック・コンラッド(オーストリア)
マルティン・ラース(エストニア)
ダニエル・オス(イタリア)
ルーカス・ペストルベルガー(オーストリア)
ユライ・サガン(スロバキア)
ペテル・サガン(スロバキア)
マキシミリアン・シャフマン(ドイツ)
アイド・シェリング(オランダ)
アンドレアス・シリンガー(ドイツ)
ミヒャエル・シュヴァルツマン(ドイツ)
リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ)

【加入】
ジョヴァンニ・アレオッティ(イタリア) ←サイクリングチーム・フリウリASD
ウィルコ・ケルデルマン(オランダ) ←チーム サンウェブ
ジョルディ・メーウス(ベルギー) ←SEGレーシングアカデミー
アントン・パルツァー(ドイツ) ←無所属 ※山岳スキー兼任、4月1日加入予定
ニールス・ポリッツ(ドイツ) ←イスラエル・スタートアップネイション
マチュー・ウォールス(イギリス) ←トリニティレーシング
フレデリク・ワンダール(デンマーク) ←チーム コロクイック
ベン・ツィーホフ(ドイツ) ←チーム センチュリオン・バウデ

【退団】
ジャンピエール・ドリュケール(ルクセンブルク) →コフィディス
オスカル・ガット(イタリア) →引退
ラファル・マイカ(ポーランド) →UAE・チーム エミレーツ
ジェイ・マッカーシー(オーストラリア) →未定
グレゴール・ミュールベルガー(オーストリア) →モビスター チーム
パウェル・ポリャンスキー(ポーランド) →未定

今週の爆走ライダー−マルティン・ラース(エストニア、ボーラ・ハンスグローエ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 スプリント王国ボーラ・ハンスグローエの昨年加わったエストニア人スピードマン。数チームを渡り歩いた末に勝ち取ったトップチームとの契約は、当初1年。2020年シーズンは勝負の年と位置付けていたが、パンデミックという予期せぬ事態に一度は将来を悲観視した。

スプリント王国、ボーラ・ハンスグローエの一角、マルティン・ラース。シーズン中断明けのツール・ド・スロバキアでステージ2勝。チームの戦力として認められる好走だった Photo: Igor Stancík/BettiniPhoto©2020

 だが、自らの力で流れを変えて見せた。9月に臨んだツール・ド・スロバキア(UCI2.1)でステージ2勝。1日だけだがリーダージャージにも袖を通した。チーム事情もあり、シーズンインから長いこと裏番組…いわば1軍メンバーとは別グループでレースを転戦していたが、この後すぐに契約延長の話になったというのだから、チーム内で信頼を勝ち取るのには十分な大仕事だった。

 さらには、その後出場したブエルタではアッカーマンのリードアウト役にも任命され、チームの勝利にたびたび貢献。これまでは自らの勝ちにこだわって走ってきたが、チームや仲間に貢献する喜びがいかなるものか、改めて実感できた日々だったという。

 とはいえ、浮かれた様子はない。昨年は「上手くいきすぎていたと思う」と振り返り、今シーズンに向けては持ち前のスピードをさらに生かすことに力を注ぐ。チームからは「トップスピードを持続できること」を評価されているといい、その長所を仲間へ、そして自身の勝利につなげられるよう取り組んでいく。

 トッププロ入りが26歳と遅咲きの部類に入るが、それまではヨーロッパだけではなくアジアでも実績を積んだ。2018年にはツアー・オブ・ジャパンの東京ステージで優勝。日本での勝利を経て、ワールドクラスでどこまで飛躍を遂げるか。それを見守るだけの価値は、大いにある。

かつてはアジアのレースも転戦し日本での勝利も経験しているマルティン・ラース。今ではすっかりワールドクラスのライダーとして大きなチャンスを得ている Photo: Igor Stancik/BettiniPhoto©2020
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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