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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<370>ツールのジャージホルダーが防衛に向け始動 UAE、ドゥクーニンク 2021チーム展望

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 数回に分けてお届けする2021年シーズンのトップチーム展望。今回は、昨年のツール・ド・フランスで衝撃的な強さを見せたエースを誇る2チーム、UAE・チームエミレーツとドゥクーニンク・クイックステップを見ていきたい。22歳にしてロードレース最高峰の戦いを制したタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)は、ツール2連覇に向けてすでに本格始動。ドゥクーニンク・クイックステップも、ツールでポイント賞のマイヨヴェールを獲得したサム・ベネット(アイルランド)、世界王者のジュリアン・アラフィリップ(フランス)らを中心に、9年連続の年間最多勝への準備を進めている。

ツール・ド・フランス2020のジャージホルダーの2人。タデイ・ポガチャル(中央左)はUAEチームエミレーツ、サム・ベネット(中央右)はドゥクーニンク・クイックステップをそれぞれ引っ張る存在だ =2020年9月20日 Photo: Yuzuru SUNADA

実力者そろえトップシーンの主要勢力に UAE・チームエミレーツ

 2020年のUAE・チームエミレーツは、なんといってもポガチャルのツール制覇にすべてが集約されるといってもよいだろう。風による集団分断のあった第7ステージで遅れながら、その後のステージで再三の攻撃でタイムを取り戻すと、最終日前日の第20ステージでの大逆転劇。ツール史に残る劇的展開であると同時に、逆転を決めた山岳個人タイムトライアルは、伝説的な走りであったといえよう。

1月8日からUAE国内でトレーニングキャンプを開始。タデイ・ポガチャルら選手たちはワクチンを接種して新型コロナ感染を防ぐ Photo: UAE-Team Emirates

 そんなドラマティックな展開はわれわれに大きなインパクトを与えたわけだが、視野を広げてみるとシーズン序盤から終盤までしっかりとチーム力を発揮して、終わってみれば33勝。決してポガチャル頼みのチームではなく、エーススプリンターのフェルナンド・ガビリア(コロンビア)や、ツール第1ステージ勝利でマイヨジョーヌ着用のアレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)、狙ったレースやステージは外さないディエゴ・ウリッシ(イタリア)らの実力者が要所で好走をした点も見落としてはならない。

 こうして順調に軌道に乗せるチームは今季、一層の活躍が見込まれる。もちろん、スーパーエースのポガチャルにはツール2連覇への期待も膨らむ。自然とプレッシャーも大きくなるが、そこはツール王者の義務。チームもこれまで以上にリーダーとしての役割が与えるとしていて、グランツールと並んで重視するUAEツアー(2月21~27日)やアルデンヌクラシックにもフォーカスする。まずは、2月3日開幕のボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ(スペイン、UCI2.Pro)でシーズンイン。春のレースでは、パリ~ニースも視野に入れていく見込みだ。

ヒルシが加入 クラシック戦線の主役へ

 充実度の高いチームには、自然と明るい材料も増していく。

 新戦力は5人(1人は8月加入)と少なめながら、いずれも即戦力だ。北のクラシックなどのワンデーレースから、ステージレースでのスプリントまで万能にこなすマッテオ・トレンティン(イタリア)は、シーズン前半にチームを牽引する存在となるだろう。グランツールでの実績は申し分なしのラファウ・マイカ(ポーランド)は自身の結果はもとより、ツール連覇へ向かうポガチャルの右腕となるとしても計算される。これが機能すると、チームのウィークポイントでもある山岳アシストの問題は解消される。

2021年に入ってマルク・ヒルシの加入が決定。クラシック路線に厚みが増している Photo: UAE-Team Emirates

 そして、昨年大ブレイクのマルク・ヒルシ(スイス)が1月9日にチームに正式合流を果たした。チーム サンウェブで走った昨年は、ツールでのステージ優勝を皮切りに、シーズン後半に快進撃。ラ・フレーシュ・ワロンヌ優勝で初のビッグタイトルを獲得すると、直後のリエージュ~バストーニュ~リエージュでも2位。春のクラシック戦線は、順当にいけば「皆勤賞」となる見通しで、北のクラシックではトレンティンやクリストフらと、その後のアルデンヌクラシックではポガチャルらと共闘する。当初はサンウェブ後継のチームDSMで走る予定だったが、今年末まで残っていた契約を解除しての移籍。詳細は明かされていないが、多額の移籍金が発生しているとみるのが通常だろう。

 どこからでも仕掛けられる戦力を整え、プロトンでの主導権争いでも中心的存在に立っても不思議ではない。加えて、ジロ・デ・イタリアで一時上位を走った22歳のブランドン・マクナルティ(アメリカ)や、同じく22歳でタイムトライアルスペシャリストのミッケル・ビョーグ(デンマーク)といった次世代のスター候補も控える。チーム力アップと若手育成、この両輪でどこまで底上げしていくかも今シーズンの見どころだ。

UAE・チームエミレーツ 2020-2021 選手動向

【残留】
アンドレス・アルディラ(コロンビア)
ミッケル・ビョーグ(デンマーク)
スヴェンエリック・ビストラム(ノルウェー)
ヴァレリオ・コンティ(イタリア)
ルイ・コスタ(ポルトガル)
アレッサンドロ・コーヴィ(イタリア)
ダビ・デラクルス(スペイン)
ジョセフロイド・ドンブロウスキー(アメリカ)
ダヴィデ・フォルモロ(イタリア)
フェルナンド・ガビリア(コロンビア)
アレクサンダー・クリストフ(ノルウェー)
ヴェガールステイク・ラエンゲン(ノルウェー)
マルコ・マルカート(イタリア)
ブランドン・マクナルティ(アメリカ)
ヨウセフ・ミルサ(アラブ首長国連邦)
フアン・モラノ(コロンビア)
クリスティアン・ムニョス(コロンビア)
イヴォ・オリヴェイラ(ポルトガル)
ルイ・オリヴェイラ(ポルトガル)
タデイ・ポガチャル(スロベニア)
ヤン・ポランツ(スロベニア)
アレクサンドル・リアブシェンコ(ベラルーシ)
マキシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)
オリヴィエロ・トロイア(イタリア)
ディエゴ・ウリッシ(イタリア)

【加入】
フアン・アユソー(スペイン) ←チーム コルパック・バラン ※8月1日加入予定
ライアン・ギボンズ(南アフリカ) ←NTTプロサイクリング
マルク・ヒルシ(スイス) ←チーム サンウェブ
ラファウ・マイカ(ポーランド) ←ボーラ・ハンスグローエ
マッテーオ・トレンティン(イタリア) ←CCCチーム

【退団】
ファビオ・アル(イタリア) →チーム クベカ・アソス
トム・ボーリ(スイス) →コフィディス
セルジオ・エナオ(コロンビア) →チーム クベカ・アソス
ジャスパー・フィリプセン(ベルギー) →アルペシン・フェニックス
エドワルド・ラヴァージ(イタリア) →エオーロ・コメタ

モニュメントのタイトル奪還へ ドゥクーニンク・クイックステップ

 昨シーズン39勝を挙げたドゥクーニンク・クイックステップは、これで8年連続のシーズン最多勝。所属選手の約半数である15選手が勝利を挙げており、どこからでも勝ちに行ける巧さと勝負強さを改めて証明した1年となった。

2020年のロード世界王者に輝いたジュリアン・アラフィリップ。今年は純白にレインボーバンドが輝くジャージでの躍動を誓う =UCIロード世界選手権男子ロードレース、2020年9月27日 Photo: Yuzuru SUNADA

 ハイライトは、アラフィリップのマイヨアルカンシエル獲得だろう。レースシーズンの中断もあり、イレギュラー化した中で好不調の波もあったが、狙ったところできっちりと結果を残したあたりはさすが。また、“新・スプリント王”をツールで射止めたベネット、けがで戦線離脱するまでに出場した4つのステージレースすべてを制していたレムコ・エヴェネプール(ベルギー)などもチームを牽引する強さを見せた。

 今シーズンはまず、昨年獲得できなかったビッグクラシック「モニュメント」のタイトル奪還がテーマとなる。2016年以来となったモニュメント無冠の雪辱を期するべく、各レースへベストメンバーを送り込む。お家芸である北のクラシックへは特に、チーム内競争も激化。誰が出ても上位を狙える力を持つが、最大のライバルとなるであろうマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)やワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)に勝つために、いかに総力戦へと持ち込むかがカギ。ベテランのゼネク・スティバル(チェコ)やカスパー・アスグリーン(デンマーク)、イヴ・ランパールト(ベルギー)といったレース巧者を軸に戦術を組み立てる。

 今年はそこに、チームの顔であるアラフィリップも加わる公算だ。昨年のツール・デ・フランドルでは優勝争いに加わりながら、勝負どころを前にモーターバイクとの接触で落車リタイア。そのリベンジをかけて、今年もフランドル参戦の意向を表明。例年通りであれば、2年前に制したミラノ~サンレモに挑んだのち、4月4日のフランドル、そしてアルデンヌクラシックへと向かうことになるだろう。

ヤングパワーの台頭でグランツール制覇も現実目標に

 スプリント路線は引き続きベネットが中心。プロトン最強クラスのリードアウトマンによるお膳立てのもと、今年はどれだけの勝利を挙げられるだろうか。昨年同様に最大目標をツールに据えており、マイヨヴェール防衛にも期待が膨らむ。スプリンターではアルバロホセ・ホッジ(コロンビア)、ツール・ド・ポローニュでの大事故からの復帰を目指しリハビリ中のファビオ・ヤコブセン(オランダ)らも控え、彼らの走りがチームの年間勝利数にも直結してくる。

イル・ロンバルディアでの落車負傷が癒え戦線復帰間近のレムコ・エヴェネプール。今年こそグランツールデビューを果たすこととなりそうだ © Wout Beel

 ここ数年はクラシックとスプリントで成果を上げてきたが、ヤングパワーの台頭によってグランツールでの上位進出も現実的な目標になっている。ジロで15日間マリアローザを着用し、最終的に個人総合4位に食い込んだジョアン・アルメイダ(ポルトガル)がその可能性を実証。さらに、イル・ロンバルディアでの落車負傷で戦列を離れたエヴェネプールがいよいよグランツール路線へと飛び込む。前述したように、エヴェネプールは1週間程度のステージレースでは総合力を証明しており、けががなければジロでグランツールデビューの予定だった。すでにけがも回復し、レースへ向けた準備も少しずつ進行中。22歳と20歳の若き両輪が、3週間の戦いではチームを牽引する。なお、エヴェネプールは再度ジロを目標にする意向を示しているが、両者のシフトは今後決定する運び。昨年のジロではアルメイダを支える山岳アシスト陣の手薄さが目についたが、今年の戦力でどう整備を図るか見ていきたい。

 その他のトピックとしては、マーク・カヴェンディッシュ(イギリス)の6年ぶりとなるチーム復帰も見逃せない。ここ数年は体調不良もあり勝ち星を挙げられておらず、実情として即戦力とみるには厳しいが、出直しを図るシーズンで再浮上なるか。35歳となり、一時は引退濃厚との声もあったが、本人は復活を信じ走り続ける意志を固めている。

ドゥクーニンク・クイックステップ 2020-2021 選手動向

【残留】
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)
ジョアン・アルメイダ(ポルトガル)
シェーン・アーチボルド(ニュージーランド)
カスパー・アスグリーン(デンマーク)
アンドレア・バジオーリ(イタリア)
ダヴィデ・バッレリーニ(イタリア)
サム・ベネット(アイルランド)
マッティア・カッタネオ(イタリア)
レミ・カヴァニャ(フランス)
ティム・デクレルク(ベルギー)
ドリス・デヴェナインス(ベルギー)
レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
イアン・ガリソン(アメリカ)
アルバロホセ・ホッジ(コロンビア)
ミケルフレーリク・ホノレ(デンマーク)
ファビオ・ヤコブセン(オランダ)
イーリョ・ケイセ(ベルギー)
ジェームス・ノックス(イギリス)
イヴ・ランパールト(ベルギー)
ファウスト・マスナダ(イタリア)
ミケル・モルコフ(デンマーク)
フロリアン・セネシャル(フランス)
ピーター・セリー(ベルギー)
ステイン・ステールス(ベルギー)
ヤニック・シュタイムレ(ドイツ)
ゼネク・スティバル(チェコ)
ベルト・ファンレルベルフ(ベルギー)
マウリ・ファンセヴェナント(ベルギー)

【加入】
マーク・カヴェンディッシュ(イギリス) ←バーレーン・マクラーレン
ヨセフ・チェルニー(チェコ) ←CCCチーム

【退団】
ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク) →アージェードゥーゼール・シトロエンチーム

今週の爆走ライダー−アレッサンドロ・コーヴィ(イタリア、UAEチームエミレーツ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ポガチャルがツールで「世紀の大逆転」を演じた2020年9月19日。イタリア北部のジェノヴァでは、ポガチャルと同い年のチームメートが奮闘していた。同国伝統のレース、ジロ・デッラッペンニーノ(UCI1.1)でUAEチームエミレーツは思わぬ苦戦を強いられていたが、ただ1人メイン集団に残っていたアレッサンドロ・コーヴィがチームを救った。約40人によるスプリントで2位。リーダー格の選手が勝負どころを前に脱落し、戦術が大幅に限定された中で、22歳のスピードマンが勝利まであと一歩に迫ったのだ。

2020年9月のジロ・デッラッペンニーノで2位でフィニッシュしたアレッサンドロ・コーヴィ。ポガチャルと同い年の22歳のスピードマンだ Photo: Dario Belingheri/BettiniPhoto

 ただ、この日はポガチャルの激走に加えて、ツール・ド・ルクセンブルクに出場していたウリッシが個人総合優勝。どうしても彼らの走りに霞んでしまうことは否めない。それでも、「チャンスを与えてくれたチームには感謝している」。自身のレベルやレーススキルに見合ったプログラムを用意してくれるチームにフィットしていることを実感できた喜びの方がはるかに大きかった。

 新たなシーズンを前に、まずは目標を「プロ初勝利」に定める。消耗戦からのスプリントは得意で、脚質的にはクラシックで力を発揮できると自己分析。その走りは、かつてのジロ覇者であるダミアーノ・クネゴ氏も太鼓判を押す。昨年末、インタビューで期待の選手を問われたクネゴ氏は真っ先にコーヴィの名を挙げ、「まだ実力の一部しか発揮していない」とコメント。秘めた可能性は大きいと示唆した。

 グランツールレーサーとして将来を嘱望される同年代のチームメートが多い中で、独自路線を開拓できるか。そんな未来が明るい若武者だが、普段はケバブが大好物で、サッカー・ACミランのサポーターであることも自ら明かす。いまどきの若者らしいところは、観る者にとっても親近感が湧いてくる。

2021年シーズンの活躍が期待されるアレッサンドロ・コーヴィ。まずはプロ初勝利を目指して走る Photo: Luca Bettini/BettiniPhoto
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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