title banner

猪野学の“坂バカ”奮闘記<54>“坂バカ大国”日本に相応しい五輪ロード峠コース 開催を信じて表敬登坂!

by 猪野学/Manabu INO
  • 一覧

 2021年がやって来た! 今年こそ開催されるであろう世界的なイベントがある。そう、東京オリンピックだ! 未だかつてこんなに宙ぶらりんなオリンピックがあっただろうか? 我々、開催国の国民ですらどこか半信半疑だ。しかし私が出演している『チャリダー★』では昨年から自転車競技オリンピック日本代表を取材し続けて来た。ロードレースに限らず、トラック競技、MTB、 BMX。中でも私が1番注目したいのは、やはりロードレースだ。読者の皆様も既に知っておられるだろう。東京オリンピックのコースは未だかつてないほどの、過酷な選手泣かせのコースなのだ。

決戦場になるであろう三国峠にテンションが上がる筆者

 都内在住ライダーの“オアシス”「都道南多摩尾根幹線」(通称:オネカン)をスタートして、道志道を北上し、富士山周辺の坂を上りまくり、最後は激坂の三国峠を登って富士スピードウェイでゴール。

 坂 坂 坂…“坂バカ大国”日本に相応しいコースだ。これは坂バカ俳優である私が行かないわけにはない。早速、最後の決戦場になるであろう三国峠へと赴いた。

坂バカ屈辱、三国峠で初の足つき…

 三国峠は距離はそれほど長くはないが、かなりの激坂と聞いている。恐る恐る軽めのギヤで上り始めた。するとすぐに勾配がグングンキツくなる。「優しくない坂だ」と早々に悟る。そして身体が悲鳴をあげ始めた! この日の私がバッドコンディションだったのか、三国峠がキツ過ぎるのか分からないが序盤で心臓バクバクだ。

勾配20%を超える激坂区間。なぜ写真だと勾配のキツさが伝わらないのだろう…‟坂バカあるある”だ

 今日は駄目な日だ悟ると、突然景色が開け、平坦区間が現れたではないか!「これは有り難い!」と坂バカとは思えない思考が巡る。30mぐらいの平坦で呼吸を整える。すると先に「ヌリカベ」のように聳え立つ壁が現れた! ここから三国峠が本領を発揮する。

 斜度20%を超える壁の連続が襲いかかって来る。しかし慌てることはない。私にとって20%超えは日常茶飯事だ。落ち着いてギヤをインナーロウに入れた。しかし20%がいつもよりキツく感じる。慌ててスプロケを見ると、そこには愛しの32Tの姿はないく、28Tが無表情に回っていた。

 「しまった!スプロケ変えて来るのを忘れた!」

 ギヤが…重い。しかし激坂は容赦なく私に遅いかかって来る。必死に踏み倒して乗り切ろうとすると、今度は懐かしい痛みがやって来た。私の専売特許、腰痛だ!

 昨今の私は体幹を強化し、腰痛はかなりマシになっていたのだが、三国峠は腰痛を再燃させやがった。腰痛により踏めなくなった私はやむなく「蛇行祭り」を強いられることになった。わっしょい!わっしょい!…って、ちっとも前に進まない。何という屈辱だ。坂は舐めてかかると、ときに叩きのめされる。

激坂区間を抜けても三国峠は休ませてくれない

 やっとの思いで激坂区間を突破するも、なかなか蛇行から抜け出せない。看板を見て納得した。16%と書いてある。何て坂だ! 東京オリンピック本番では200km以上走った後にこの激坂が遅いかかる。

 世界の化け物達、ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)やタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)やマルク・ヒルシ(スイス、チーム サンウェブ)はこの坂を華麗なダンシングで蹴散らすのだろう。何とも心が踊るではないか!

やっと勾配が緩くなる。でも11%はしっかりとある

 しかし私の腰は心とは裏腹に限界を迎え、ついに足をついてしまった。私が坂で足をつくのは恐らくこれが初めてだ。三国峠とはそういう坂なのだ。

本番は誰が勝つ?上りながら“妄想五輪”開催

 しかしすぐに気持ちを立て直し、再スタート。しばらく走ると神奈川県境の看板が見えた! 頂上かと思いきや三国峠はそう簡単には終わらない。ここから数km、勾配が緩いワインディング区間が続くのだ。

ゴールと間違えがちな神奈川県境。まだまだ終わらない

 この区間、パンチャーはギヤを上げてアタックするだろう。そう考えるとピュアクライマーには不利な坂なのかも知れない。やはりアラフィリップが有力だろうか。

県境を過ぎても緩やかに上る。アタック合戦となるか?

 いやいや、忘れてはいけない! 日本のチャリダーの希望の星、新城幸也選手だ。オリンピックが開かれる7月の日本は高温多湿だ。日本の夏を舐めてはいけない。西洋の選手たちには日本の夏は難敵だ。

 新城選手は酷暑のタイで合宿をしているし、パンチ力も強い。このワインディング区間で強烈なアタック、そしてそのままスピードウェイでゴール! そんなビジョンをイメージし、ニヤニヤしながらようやく山頂に到達した。タイムは40分。世界のトップクラスは15分で上り切るらしいから、我ながら酷いタイムだ。

山中湖村の看板が本当の頂上。ここから山中湖迄短いダウンヒル。そして富士山スピードウェイへと

 しかし上ってみてわかった。この坂はキツいが短い。クライマー以外にもチャンスがあるコースだ。オリンピック史上に残る名勝負が繰り広げられるに違いない。世界中の視聴者達は「日本はとんでもないクレイジーな坂大国だ!」と沸き立つことだろう。

 今回のオリンピック開催には賛否は有るだろうが、私は開催して欲しいと思う。オリンピックは、日々心拍数を上げて限界に挑んでいるアスリートのものだ。努力は報われるべきなのだ。

 この夏、彼等が日本で躍動することを願いつつ。今年も皆様に素敵なライドが訪れますように。

猪野 学(いの・まなぶ)

俳優・声優。自転車情報番組NHK BS1『チャリダー☆』(毎週土曜18:00~18:50)にレギュラー出演し、「坂バカ俳優」という異名で人気を博す。自転車の他、空手やスキーなども特技とするスポーツマン。俳優として舞台や映画、ドラマなどで活躍する一方、映画『スパイダーマン』のトビー・マグワイアの声優としても知られる。ウェブサイト「マナブログⅡ

この記事のタグ

猪野学の“坂バカ”奮闘記

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

Cyclist CLIP

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載