森本禎介さん注目・2020年のニュースリザルトの向こうに、見えないそれぞれのドラマがあった五輪代表選考

by 森本禎介 / Teisuke MORIMOTO
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 『Cyclist』と関わりのある著名人が2020年の自転車関連の出来事を振り返る連載「今年の注目ニュース」。TKC Productions(ティーケーシープロダクションズ)代表・森本禎介さんが注目したのは、「増田成幸が東京五輪ロードレース代表入り決定的に スペインのUCIレースで中根英登を逆転」でした。

接戦の東京五輪男子ロードレース代表選考で、1枠を争うかたちとなった増田成幸(宇都宮ブリッツェン)と中根英登 © 宇都宮ブリッツェン © Team NIPPO DELKO One Provence

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選手側のプロセスがコロナ禍で空中分解

 今年のニュースは新型コロナウィルス抜きでは語れません。本来なら五輪イヤーであった今年、UCIが3月15日にレースカレンダーを中断させたことにより、それぞれの選手が組み立てていた代表選考基準突破までのプロセスが全て空中分解してしまったのです。

 柔道や水泳と言った国内の選手層が厚く、メダル獲得が期待できる種目とは違い、代表選考枠を勝ち取って五輪のスタートラインに立つことが1つの目指すべき到達点とも言える自転車競技においては、選手や所属チームの計画、さらには人生を大きく狂わせる大事件でした。

 ロードレースでは新城幸也選手が国内選考ランキングで2位以下を引き離しており、事実上の内定だったのですが、問題は2枠目が2位の増田成幸選手と3位の中根英登選手で拮抗していたことです。日本自転車競技連盟(JCF)は5月26日に代表選手選考基準の見直しを発表し、ここでワールドツアー再開の8月1日から78日分を追加し、10月17日を新たな選考対象期限とします。

 これに対して国内のUCIレースが軒並みキャンセルとなり、8月1日から海外遠征してUCIポイントを獲得することも極めて難しい状況の増田選手はスポーツ仲裁機構に仲裁申立を行いますが、8月3日に棄却が発表されてしまいます。対する中根選手はプロコン(UCIプロチーム)に所属のヨーロッパ在住であったため、UCIレース再開以降にポイント獲得に成功、増田選手を逆転して2枠目に大きく近づいたかに見えたのですが、なんとここで増田選手所属のブリッツェンはクラウドファウンディングで集めた資金を元手にスペインで10月12日に開催されたレース(プルエバ・ビジャフランカ=オルディシアコ・クラシカ)に出場するという、誰もが想像しなかった驚きの戦略を取り、そして実際に増田選手は20位で完走、UCIポイントを獲得すると選考ランキングで中根選手を1.8ポイント差で逆転、五輪の2枠目を獲得したのです。

 このレースはYouTubeでライブ中継され、下馬評では中根選手を推す声も多かったのですが、後に海外ニュースサイトで伝えられた内容によると、中根選手所属のNIPPO DELKOはチームのオーナーシップの変更により、日本人選手が来季の契約の破棄を迫られたり、それを拒否すると出場レースを全て白紙にされ、果てにはチームの宿舎から追い出されるという、レースに集中できるような状況ではなかったことが明らかになります。

 MTBの場合はJCF当初の予定のまま5月27日で選考対象期限を終えることを発表、コロナ禍直前のヨーロッパで効率良くUCIポイントを稼いで盤石の選考ランキングトップだった今井美穂選手が内定を決めます。末政実緒選手は出場予定していたWCに一縷の望みを残していたため、JCFに意見書を出しましたが、「資格基準期間2年間の約90パーセント、個人ランキング換算期間1年間の約80パーセントはすでに消化」されていたため、一定の判断ができると決定は覆りませんでした。松本璃奈選手はアメリカ国内選手権のUSカップ参戦のためカリフォルニア滞在中にUCIからカレンダー停止の発表があり、急遽帰国する事態となり、今年の全日本シクロクロス選手権を最後に学業専念のため一線を退いています。

 この様に、新型コロナウィルスという人類がコントロールできない要素のせいで選手の人生が大きく変わってしまったのですが、当事者の選手からは戦略的な理由やチームの都合によりその苦悩が語られることはほとんど無く、NIPPO DELKOの内紛のように表に出てくるのは稀で、我々一般人がうかがい知れることはごく一部分であることが分かります。選手の価値はリザルトで判断されますが、そのリザルトの向こう側にもっと色々な人間臭い、語られることのないドラマが多数あるということを気付かせてくれた2020年でした。既に4年を切ったパリ五輪の選考争いは始まっています。次のドラマが楽しみでならない筆者です。

森本禎介(Teisuke Morimoto)

TKC Productions代表。ポートランドに本拠を置く数ブランドの代理店を務めながら、まだ見ぬシングルトラックを追い求める日々の合間に仕事をするライフスタイルを目指している。
Photo: Masahiro Matsushima

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