マルコさん注目・2020年のニュース社会に大きく影響を与えた自転車購入費補助 コロナ禍を機に変容するイタリアの交通手段

by マルコ・ファヴァロ / Marco FAVARO
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 『Cyclist』と関わりのある著名人が選ぶ連載「今年の注目ニュース」。「つれづれイタリア〜ノ」を連載するマルコ・ファヴァロさんが選んだのは、イタリアの自転車購入補助制度がもたらした効果についてです。コロナ禍で一変した交通手段について考察します。

補助制度が施行された影響でミラノの自転車店前には長蛇の列ができた ©Bike Italia

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 2020年に蔓延し続ける新型コロナウイルスの影響は計り知れなく、社会を大きく変化させた出来事として将来的に教科書に掲載されるに違いありません。戦争だけでなく、1918年に蔓延したスペインインフルエンザ、1929年に始まった世界恐慌、1968年の学生運動、2008年のリーマンショックなどもその一例です。

 パンデミックや経済的不安が起きる度に、社会構造やライフスタイルが大きく変わります。今回の新型コロナウイルスがもたらした影響は、「社会的距離、移動や働き方の再認識」です。

自転車が消えた日

 6月6日に掲載されたコラム「つれづれイタリア〜ノ」では、イタリア政府が打ち出した驚きの対策について書きました。

 移動における人との接触を避けるため、5月4日にイタリア政府は「Bonus mobilità」と呼ばれる移動対策補助金の導入に踏み切り、自転車や電動スケートの購入に対し500ユーロ(約6万円)まで補助する制度です。

■Bonus mobilità(移動対策補助金)の内容

利用期間:2020年5月4日〜12月31日まで

対象車:自転車本体(電動アシスト、中古品を含む)、電動スケート、セグウェイ、ハンドバイク、電動スクーター、ホバーボード、その他の電動車両

対象の販売業者:自転車を販売する領収書が発行可能な店舗。ただし、オンラインショッピングの場合、環境省が認めた販売業者のみに限定

補助金上限金額:購入額の60%、最大で500ユーロ(現6万円)

対象者:人口5万人以上の自治体在住の18歳以上の住民

使用回数:1回のみ

請求期限:第1回2020年11月4日〜2021年1月31日

 この補助金はイタリア全土で大きな反響を起こしました。瞬く間に自転車ショップの前に自転車を購入したい人が列をなし、1000〜1200ユーロ(現12万〜14万円)の自転車が姿を消えました。大成功に終わったというよりも、大パニックを起こし、どこへ行っても手頃な価格の自転車が見つからないという現象が起こりました。

 政府としては38万台の自転車が新規に販売されるだろうと推定し、1億9000ユーロ(現238億円)の予算を計上していました。しかし、2010年11月4日にオンラインによる補助金請求申込申請が始まったと同時に、2億1500万ユーロ(現270億円)が請求され、想像以上の反響ぶりをうかがわせました。

 急遽、予算は追加されていますが、最終的なデータはまだ公開されていません。ANCMA(イタリア二輪工業会)の発表によると、最終的に2020年で200万台自転車(※)が売れるだろうと予測しています。前年から20〜23%の増加です。販売台数はもっと大きくなるはずでしたが、アジアで製造されているパーツの供給不足が販売に影響を与えているようです。

(※)ANCMAのデータによると、88%は自転車、12%電動アシスト自転車

 デローザ社長のクリスティアーノが11月31日にFacebookに掲載したポストでは、自転車不足について「Comunque noi in De Rosa le bici le abbiamo…」(自転車ならデローザにはまだ在庫がありますよ)と冗談交じりに言及しました。

イタリアの社会はどう変わったのか

 イタリアが見える形で大きく変わりました。ミラノやトリーノのような大都市では自転車専用レーンが大幅に増え、街中の自家用車への乗り入れは大きく制限されました。最新型の電車の車両では、自転車を置ける車内スペースが増加され、充電もできるようになりました。社会全体は脱炭素に向け、自転車が大きな役割を果たすと国が認識しているようです。

 そのため、自転車の新規購入に対し2024年まで年間3000万ユーロ(38億円)の予算を割り当てる予定です。

電車+自転車という移動手段も。Trenitalia(トレニタリア)社の最新の通勤車両 Photo: Marco Favaro

 製造ラインも大きく変わる可能性が出てきています。イタリアだけでなく、ヨーロッパの多くの国では自転車が不足している状況にあると、ANCMA(イタリア二輪工業会)の調べでわかりました。イタリアの多くのメーカーは中国、台湾などに製造ラインを移した結果、不足しているパーツがなかなか届かないという深刻な問題が発生しています。そのため、製造を再びイタリア国内に戻し、若い技術者を育てようと真剣に考える企業が増えています。

終わりに

 新型コロナウイルス感染拡大がもたらした影響は計り知れません。その影響はまだ収まっていませんが、今までのライフスタイルの矛盾を考え直すため、いいきっかけにもなっていると思います。

 自転車の積極的な活躍は、急務になっている脱炭素社会の実現に向けて、大きな役割が果たせると考える政治家もヨーロッパを中心に増えています。自転車はエコや健康促進、そして人間的な生活の要として位置づけられ、これからの世界はどんな変貌を遂げるかが楽しみです。

Marco FAVARO(マルコ・ファヴァロ)

東京都在住のサイクリスト。イタリア外務省のサポートの下、イタリアの言語や文化を世界に普及するダンテ・アリギエーリ協会や一般社団法人国際自転車交流協会の理事を務め、サイクルウエアブランド「カペルミュール」のモデルや、欧州プロチームの来日時は通訳も行う。日本国内でのサイクリングイベントも企画している。ウェブサイト「チクリスタインジャッポーネ

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