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栗村修の“輪”生相談<195>20代男性「弁護士として自転車界に貢献できることはないかと考えております」

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 いつも楽しく拝見しております。

 大学生の頃にツールドフランスを見て以来、サイクルロードレースに限らず自転車で旅をすることや自転車の整備等、自転車そのものに惹かれております。最近はほしいと思ってから5年ほど経ち、ようやく自分のロードバイクを購入しました。

 ロードバイクに乗ること、お酒を飲みながらロードレースや自転車の番組を見ることは非常に楽しく、私の人生を豊かにしてくれています。しかしながら、ビジネスモデルとして成り立っていないロードレース、未だに日本での(道路上の)社会的な地位が確立されていない自転車乗りといった現況を鑑みると、永きにわたって自転車が日本や世界で生き残っていくことは難しいのではないかと思っております。

 私は弁護士をやっており(といっても、駆け出しの1年目ですが…)、弁護士として自転車界に貢献できることはないかと考えております。学生時代は、プロロードレーサーの代理人も面白そうと思っていたのですが(今もやってみたい気持ちはあります)、代理人になったとしても、自転車という文化が存続することにはつながらないと思えます。

 弁護士として、今の自転車界に貢献できる道は何かあるのでしょうか。

 また、自転車がうまく社会の中で認められている国として、留学先としてお勧めの国はあるでしょうか。4年後、2年間の海外留学(海外のロースクールないし大学院に在籍する予定です)を予定しており、自転車(とワイン)が好きな私としてはヨーロッパに行こうと思っています。

 日本での自転車文化の存続について学べる国として、参考となる国はあるでしょうか。社会の制度・生活の中に、自転車がどのように組み込まれているのかを学べたらよいと思っています。

(20代男性)

 非常にありがたいご質問です。日本の自転車界には、質問者さんのような方が必要だからです。

 僕が現在身を置く日本の自転車競技界の課題は、言うまでもなく選手たちの強化です。日本人選手を強くしなければいけない。もちろん、多くの方がそれぞれの方法で強化に力を入れていますし、その結果が出ていないわけではありませんが、遅々たる歩みであることは否定できません。

 なぜか。理由の一つは、僕を含めた強化にかかわっている人々に、自転車以外の知識が足りないからです。「こんなトレーニングが効く」とか「レースではこう走れ」みたいな話はできるのですが、そしてそれはそれで重要なのですが、それ以外のことをよく知らないのです。

 無理もありません。自戒を込めて言いますが、僕を含め、子どものころからずーっとサドルの上で過ごしてきたわけですから。

 しつこいようですが、自転車に乗ってきた経験は大事ですし、美しいものです。しかしそれだけではダメなんですよ、もう。「気合いだ」「根性だ」「当たって砕けろ」だけではうまくかないのです。

 たとえば、選手たちを強化しようと思ったらお金が必要ですから、継続的にお金が回るビジネスモデルを作らなければいけません。そのためにはビジネスや法の知識が必要です。また、ビジネスモデルには組織が必要で、組織経営を適切に管理監督するためにはガバナンス構築が欠かせません。体育会系のノリのままで、ウェアだけスーツに着替えてもダメです。社会についての知識や教養が必要です。他にも、経営やスポーツ科学の知識もあったほうがいいですよね。

 とにかく、もう「自転車一筋」ではダメな時代なのです。だから、質問者さんのような他分野のプロフェッショナルの方が興味を持ってくれると非常に心強いわけです。

 ちなみにイネオス・グレナディアーズのチーム代表であるサー・デイビッド・ブレイルスフォード氏は元選手でありながらMBA(経営学修士)を取得しています。

イネオス・グレナディアーズを率いるデイヴ・ブレイルスフォード。ロンドン五輪で自転車競技イギリス代表を率いてメダルを量産し、その後ロードレースでもツール・ド・フランスで常勝する最強軍団を作り上げた Photo: Yuzuru SUNADA

 彼は選手としての経験(気持ち)に加えてトップレベルの指導者としての知見、そして基本的な経営の仕組みを理解しているのでほぼフルパッケージ型の人材といえます。

 さて、それでご質問への答えです。

 選手の代理人は確かに魅力的なお仕事ですが、お気づきのように、日本の自転車界「全体」への影響は限られるでしょう。個別の選手やチームにかかわると視野が狭くなり、全体の利益ではなく個別の利益を追求しがちだからです。最悪、全体の利益を損ねる恐れさえあるでしょう。もちろん現場を経験することは大事ですし、最初のステップとしては現場で現実に触れてほしいのですが、そこにはリスクもあるということです。

 ですから、自転車界への貢献という観点では、最終的には連盟レベルや国レベルの機関に関わる必要があると考えます。

 その上で参考となる国ですが、やはり欧州、中でもイギリスでしょう。最強チーム・イネオス代表のデイブ・ブレイルスフォードさんの母国です。とくに首都ロンドンは、競技に限らず、自転車を生かした街作りを推し進めているようです。イネオスの活躍と自転車を活用する政策との間には、なんらかの関係があるでしょう。

 繰り返しになりますが、まずは何らかの方法で現場を見ていただいて問題をはっきりさせ、しかし決してそこには留まらず、もっと自転車界を広く俯瞰できる立場でお仕事頂きたいと思っています。キーワードは、少し古いかもしれませんが、「再編と改革」です。変わらなければいけないのです。

回答者 栗村修(くりむら おさむ)

 一般財団法人日本自転車普及協会 主幹調査役、ツアー・オブ・ジャパン 大会ディレクター、スポーツ専門TV局 J SPORTS サイクルロードレース解説者。選手時代はポーランドのチームと契約するなど国内外で活躍。引退後はTV解説者として、ユニークな語り口でサイクルロードレースの魅力を多くの人に伝え続けている。著書に『栗村修のかなり本気のロードバイクトレーニング』『栗村修の100倍楽しむ! サイクルロードレース観戦術』(いずれも洋泉社)など。

※栗村さんにあなたの自転車に関する悩みを相談してみませんか?
 ml.sd-cyclist-info@sankei.co.jpまで、タイトルを「輪生相談質問」としてお寄せください。

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