『Cyclist』が選ぶ今年の注目ニュース<1>「外出自粛」が追い風に “バーチャル旋風”に乗ったサイクリストたち 

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
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 『Cyclist』編集部の記者が選ぶ「今年の注目ニュース」。後藤恭子が注目したニュースは今年6月に報じられた記事、『新時代の自転車文化になるか 「RCCズイフトチャンピオンシップ」に見るオンラインの可能性』です。「外出自粛」という緊急事態で世界中が窮屈な生活を強いられていた最中、実に鮮やかにバーチャルの世界へと走りに行ったサイクリストたち。そんな中、世界中にクラブチームをもつラファがバーチャルプラットフォーム「ZWIFT」とタッグを組んで“世界選”を繰り広げたことはシンボリックな試みでした。イベントが相次いで中止に追い込まれる一方で巻き起こった“バーチャルライド旋風”、コロナ一色だった今年の自転車界における注目トピックスとして紹介します。

オンラインで開催された、ラファのズイフトチャンピオンシップの男子決勝のシーン。白熱のゴールスプリントは1000w超の激闘に! ©Zwift

「リアルがダメならバーチャルで」

 「外走っちゃダメなの?じゃあバーチャルで」─そんなやりとりを思わせるようにコロナ禍で素早くバーチャルライドの世界へと移行したサイクリストたち。もともとバーチャルの素地があったとはいえ、当たり前のようにあちこちでミートアップ(オンライン上で仲間とつながって走行)やライドイベントが立ち上がり、盛り上がっている様子は、むしろ外出自粛のおかげで自転車に乗れるようになった人が多いのでは? という逆転現象を思わせるほどでした。

ズイフト×ビデオ通話で仲間7人とミートアップする、編集部・松尾修作 Photo: Shusaku MATSUO

 もはや、仲間と走るためのツールと化したローラー。私の周囲にも、仲間とズイフトをするためにローラーを買い求めた人が何人かおり、当時どのメーカーも欠品、品薄状態が続いたほどでした。

 実際、コロナ禍をきっかけにオンラインに参入するサイクリストが急速に増えたそうで、ズイフトジャパンの当時のまとめでは、同時ログイン数のピーク値がコロナ前と比べておよそ2倍に達したそうです。

 こうしたインドアサイクリングの人気沸騰は日本のみならず世界的な傾向として現れていたようで、GPS搭載のスマートウォッチブランド「GARMIN」が利用者のデータをもとに集計した結果からも、「特に増加したアクティビティ」としてインドアサイクリングが急増していた様子がわかります。

青く塗られた部分がとくにインドアサイクリングが増えた国々を示している 出典:GAMINレポート「世界的なパンデミックが及ぼす運動習慣への影響(Part 3)」

 さらにバーチャルライドの波はプロのレースにも波及。コロナ真っ只中の4月、毎年6月に開催される「ツール・ド・スイス」の代替レースとしてバーチャルレース「デジタル・スイス5」が開催されたことも、もはや懐かしいエピソードです。

出場選手には各チームジャージのアバターが用意された 引用:「The Digital Swiss 5 Race 1」

 バーチャルの公式レースは前代未聞の試みで、スマートローラーの規格や性能差、通信の安定性、ロードバイクを漕ぐ環境差等色々と課題も残ったようですが、レースの中止が相次ぐ危機的な状況の中、試行錯誤しながらバーチャルでの開催にこぎつけたことには、開催側の必死さを感じました。

「つながろう」とする思いが新しい世界を作った

 そしてコロナ禍で世界中が厳戒な外出規制を迫られていた今年のゴールデンウィーク、ラファのチャンピオンシップが開催されました。ラファが運営するサイクリングクラブに所属する世界中のメンバー約1000人が、自宅から手元のスマホやタブレットという“扉”を潜り抜けてレース会場に集まり、現実世界さながらのレースに挑んだのです。

 世界各地にいるメンバーがまるで地元レースのようにライド空間を共有するという、これまでに例のない試みで、その斬新なアイデアに驚きましたが、考えてみればこれもミートアップの延長にあるもの。グローバルにネットワークを拡大してきたRCCだからできた、納得の展開でした。

リアルのレースさながらの激闘が繰り広げられた「RCC チャンピオンシップ」 ©Zwift

 もちろんアマチュアのバーチャルレースなので、ある程度機材のレギュレーションはあってもアプリの個人設定は参加者のスポーツマンシップに依るもの。という部分はさておき、実際にレースが始まると、バーチャルかどうかは関係なく、まるでレースのテレビ中継を見ているように白熱した展開に見入りました。

 トップアスリートのみに許される舞台だった世界選に、クラブチームの仲間が国旗を背負って走っている。しかも飛行機でレース開催地に行く負担もなく、自宅での参加。コロナが発生する前は想像もしなかった光景でしょう。

 記事中でラファ・ジャパンの矢野大介代表も語っていますが、「コロナの影響で外を走ることを制限され、バーチャルの世界を有効利用していこうと方向転換をした結果、それがむしろ世界中のメンバーをより繋げやすいフォーマットとなった」という言葉に象徴されるように、多くの人々のつながろうとする思いが、まるで新しい世界を作り出したようでした。

コロナ禍で生まれた新時代の火種

 外出規制がなくなったいま(またいつ規制が発令されるかわかりませんが…)、やっぱり走るのは外がいいと認識しているのは筆者だけではないでしょう。ただ、バーチャルライドが見せた可能性は大きく、単なる「インドアサイクリングの道具」に終わらないアイデアの種を撒きました。

 その一つが、バーチャルイベントの可能性です。「Mt.富士ヒルクライム」がバーチャル化した「Virtual Mt.Fuji Hill Climb」、長野県の小諸市の人気イベント「グランフォンド小諸」がバーチャル化した「VRグランフォンドKOMORO」等、逆境の中、様々な工夫を凝らして「withコロナ」のイベントの形を探っていました。そうした試みから、観光PRの手段としてヒントを探ろうとする自治体の動きも少しずつ始まっています。

 ズイフト一強だったアプリ市場も、他社との競争で活気付いています。この先、どんなアイデアとニーズが生まれ、それに対してサービスがどう答えるのか。コロナ禍で生まれた新時代の火種は、来年さらに進化を遂げていくのかもしれません。

後藤恭子後藤恭子(ごとう・きょうこ)

Cyclist編集部員。まとまった時間ができるとすぐに自転車旅へと出かける“放浪”サイクリスト。国内だけでなくスイス横断旅を始め、欧州各国を自転車で旅した他、2018年にはノルウェーで開催されたアマチュア最高峰のステージレース「Haute Route」に日本人女性として初参加・完走を果たした。最近はトライアスロンにも挑戦中。

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