西薗良太さん注目・2020年のニュース東京2020オリンピックロードレース代表選考から見えた、国内ロードレースの現状と課題
『Cyclist』と関わりのある著名人が選ぶ連載「今年の注目ニュース」。全日本タイムトライアル(TT)王者にも輝いた元プロ選手で人気Podcast “Side by Side Radio”主宰の西薗良太さんが注目したのは「増田成幸が東京五輪ロードレース代表入り決定的に スペインのUCIレースで中根英登を逆転」です。五輪の代表争いから見えた国内ロードレースの現状と課題について考えます。

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2020年はコロナウイルスと共に語られる年であることは間違いありません。コロナ禍でも各スポーツが最善を尽くそうと多くの試みがありました。ロードレースでいえばZwift(ズイフト)を利用したバーチャル・ツール・ド・フランスや、大胆なレースカレンダーの再編があります。
そして競技を超えた大きな取り組みとして、東京2020オリンピックの延期が決まりました。その中で男子ロードレースの五輪選考期限も延長され、期限まで残り数日となったスペインのUCI1.1レース「プルエバ・ビジャフランカ=オルディシアコ・クラシカ」にNIPPO・デルコ・ワンプロヴァンスの中根英登と石上優大、電撃渡欧した宇都宮ブリッツェンの増田成幸が出場し、増田成幸がオリンピック代表を勝ち取ることになったニュースに現在の国内ロードレースの現状が浮かび上がるかと思い、選んでみました。
ギリギリまでもつれた2枠目の争い
コロナの感染拡大によって、UCI(国際自転車競技連合)は管轄下のロードレースを一時すべて停止しました。その後五輪ロードレース日本人出場選手を選考するJCF(日本自転車競技連盟)はレース再開後78日と定め、再開された8月1日から10月17日までを追加で選考期間としました。ニュースとして取り上げた「プルエバ・ビジャフランカ=オルディシアコ・クラシカ」は10月12日に行われ、まさに最後のタイミングだったと言えます。
五輪ロードレースではUCIワールドツアーの選手が集結することから、ヨーロッパの高いレベルでのロードレースで普段から成績を残せる選手を優先的に選考したいというJCFの意向が反映された選考基準となっています。具体的には、ヨーロッパやワールドツアーでのロードレースで取得できるポイント(UCIポイント)に高い価値がつくように係数が調整されています。
2019年の大怪我から復帰した後にワールドツアーレースで一気にポイントを上げた新城がリードを広げると、国内やアジアツアーでコンスタントにポイントを稼ぐ増田とワールドツアーレースやヨーロッパの1クラスレースで点を加算していくNIPPOの中根、石上らが2枠目を激しく争う展開となり、ロードレースファンとしてはドキドキ・ハラハラする展開が続きました。
また、ヨーロッパのUCIレースはカレンダーを変更しても晩夏から秋にかけて開催されるレースが多かったのに対して、国内のUCIレースは今年の開催が全滅だったため、国内を主戦場とする宇都宮ブリッツェン所属の増田は、機会の平等性を損ねるとして日本スポーツ仲裁機構に申し立てを行うという場面もありました。
選考最終盤に開催されたプルエバ・ビジャフランカ=オルディシアコ・クラシカ。昨年石上選手が7位に入り、増田選手自身も走っていたこのレースに増田を含め宇都宮ブリッツェンが電撃出場。20位完走でポイントを獲得した増田が僅差で代表選考ポイントを逆転し、五輪出場を決めました。
2年間で満足に選考基準を満たすために活動できた選手がどれだけいたのか、2024パリへの布石は
増田にとって、宇都宮ブリッツェンの活動が国内やアジアのロードレースのみに限られていたため、配点の大きなヨーロッパのポイントを獲得するための活動はナショナルチームでの活動に依存しているところがあり、この活動がコロナ禍によってなくなってしまったことがさらなる痛手となった形です。
一方で選考のために盤石のレース活動体制を敷いていたかと思われていたNIPPOは内部爆発ともいわれる報道から(※日仏合同プロ自転車ロードレースチームを襲った不運。運営陣の内紛とコロナ禍が、日本側との確執を生んだ)、実は日本人選手にとって極めて厳しいチーム運営体制であったことが明らかとなりました。結局のところJCFがオリンピックで好成績を挙げるという目標を掲げたときに、どれほどの選手がストレスなく今回の選考レースに向かって2シーズン集中してレースができたか疑問符がつく形となってしまいました。
リオオリンピック後にヨーロッパのレースを含めて本格的に活動できた国内の選手はわずかで、組織的に活動したのはNIPPO・ヴィーニファンティーニ →NIPPO・デルコ・ワンプロヴァンス、2017年までのブリヂストンアンカー(現ブリヂストンサイクリング)の選手たち。そして別府史之(2019年まではトレック・セガフレード)、新城幸也(バーレーン・メリダ/バーレーン・マクラーレン)、入部正太朗(2020年のみNTTプロサイクリング)に加えてあといくらか、という状態でした。
2021年を迎える現時点でEFエデュケーション・NIPPO所属の選手と育成チームのNIPPOプロヴァンス・PTSコンチ所属の織田聖、そして新城幸也という面々となっており、2016年の頃より量という観点からいえば厳しい状態で仕込みを始めると評価せざるをえないという状況になっています。2021年も国内レース関係者全体での底上げの具体案が待ち望まれる年になりそうです。

元プロロードレース選手。日本自転車競技連盟データアナリスト
全日本選手権タイムトライアル3回優勝。「世界最高のサイクリストたちのロードバイク・トレーニング」監訳、Podcast “Side by Side Radio”主宰