教えて! 安井先生<12>ロードバイクを複数所有する際の選び方と乗り分けは?
今回のお題
Q:最近郊外に引っ越して家が広くなったので、今まで保管場所の問題で不可能だった複数台所有ができそうです。安井さんは何台も所有されていると思いますが、どのように複数のロードバイクを選び、乗り分けているんですか? ロードバイク限定でアドバイスをお願いします。

A:自転車は車検も駐車場も必要ないし維持費もそれほどかからないので、手軽に増車できてしまいます。一番ハードルが高いのは1台→2台のときですからね。後はもう雪崩のようです。だからうっかりしてると玄関に2台、リビングに3台、寝室にも3台、トイレにはバラしたフレームが2本、ホイールはそこらじゅうに転がっていて…みたいなことになりかねません。ご注意下さい。
さて、複数台体制のご相談。分かりやすいのはカテゴリー違いですよね。
コンペティティブロードとエンデュランスロード。ロードバイクとグラベルロード。軽量バイクとエアロロード。誰もが思いつく「複数台体制の正解パターン」です。
でも、ここは質問どおりロードバイクに絞って、もっとマニアックに、ディープにいきましょう。

安井流ロードバイクの選び分け・乗り分け
僕は、得意分野やコンセプトではなく、「ペダリングフィール」「剛性感」で自転車を選び分け、乗り分けてます。
主力機は、動力性能が高く、シャキッと走るけどガチガチでもフニャフニャでもない、バランスのとれたバイクにします。頑張って走るとき、思いっきり練習するとき、イベントに出るときなどは、こういうバイクで走ります。おのずとビッグメーカーの万能ハイエンドモデルになることが多いですね。僕のメインバイクは、かつてはルックの695やBMCのSLR01でした。今はキャノンデールの先代スーパーシックスエボです。

セカンドバイクその1には、剛性感にクセのある個性的なモデルを選びます。パリパリとしたペダリングフィールの軽量高剛性バイク。これはがっつりとヒルクライムを濃く楽しむときに引っ張り出します。出撃回数はそれほど多くないけど、欠かせない存在。昔はそれがコラテックのCF-1でしたし、今はルックの785ヒュエズRSです。

セカンドバイクその2は、しなやかな剛性感を持つ一台にします。一体感があり、滑らかなペダリングフィールを持ち、どこまでも走っていけそうな、そんな性格のバイク。これは、距離とかタイムとか獲得標高とか、そういう数字や結果を睨んで乗るときには使わない。とにかく気持ちよく走りたいときに乗る一台です。峠をいくつもつないで走るような山岳ツーリングにはこれで行きます。僕はラグ時代のタイムとかルックの595を選んでます。
素材の違いや剛性感の違いを楽しむ
ざっくり分けるとこんなところ(3タイプ)ですが、細分化させるときりがありません。
例えば、フレーム素材別の走りを楽しんでみるのも楽しいですよ。メインバイクがカーボンだったら、モダンスチールで鉄ならではの剛性感を味わい、チタンバイクを配備してゴージャスな走行感に浸り、カチコチのアルミフレームでときどき刺激を入れ…というように。
アルミフレームは手放してしまいましたが、スチールフレームとチタンフレームは今でも持ってます。ときどき無性に乗りたくなるんですよね。これらはいわば遊軍です。
オーダーの世界に飛び込むと沼はさらに深くなりますが、まぁこのへんにしておきましょう。
剛性感の違いでバイクを複数所有していると、気分や体調に合わせて乗り分けやすくなるんです。「明日はシャキシャキ走りたいから785で風張林道だな」とか、「自転車とじっくり向き合いたいから明日はVXRSにするか」とか、「週末は入山峠でスチールのばね感を楽しみたい気分」とか。カテゴリ違いのバイクを目的別に揃えるより、そのほうが僕の自転車の楽しみ方には合うんです。
歳を重ねると上がりの一台を選ぶ人も
ついでに一言付け加えておきましょう。
歳を重ねて人生の折り返し地点を過ぎると、「あれも欲しいこれも欲しい」という所有の欲望が一周するのか、複数台所有の人が一転してバイクを大幅に減らすケースが多くなるようです。
僕はまだその境地には達していませんが、50歳前後の自転車乗りの先輩たちはみんなそういうことを言い始めますね。「ほとんど処分することにした」「持っててもしょうがないから」と。自転車人生の終活とでも言いますか。おそらく最後は、本当の伴侶とでもいうべき1台を残して手放すのでしょう。これが本当の意味での、上がりの一台というやつだと思います。
40歳になったあたりから、そういうことを頭の片隅に置いた自転車選びをしてみるといいかもしれません。参考になったかどうか分かりませんが、幸せな複数台生活をお送りください。
大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。ひょんなことから自転車ライターへと転身し、現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた自転車大好き人間。