安井行生さん注目・2020年のニュースサイクリストは"自転車の楽しさを再認識した年"に、多くの人が"自転車の魅力に気づいた年"に

by 安井行生 / Yukio YASUI
  • 一覧

 『Cyclist』と関わりのある著名人が選ぶ連載「2020年の注目ニュース」。インプレッションライダーの安井行生さんが注目したのは、新型コロナによって「自転車の魅力を見直す流れが生まれたこと」です。安井さんは2020年、自転車を取り巻く環境について、どのように感じていたのでしょうか。リポートしてもらいました。

ライドイベントなど多数中止となった2020年。安井さんが注目する「自転車の魅力を見直す流れが生まれた年」とは何を意味するのでしょうか Photo: Kenta SAWANO

コロナが与えた自転車への影響

 今年のニュースといえば、これはもうコロナ以外にはないでしょう。製品の発表・製造・入荷が遅れ、高価格帯バイクの売上が落ち、レースやイベントの中止や延期が相次ぎました。グランツールはなんとか開催できたものの、プロ選手にも感染が出始め、コロナの影響で業績が悪化した企業がチームのスポンサーを降りるなど、自転車界に与えた影響は非常に大きいものでした。

 我々メディアの人間にとっても、展示会が中止になり、発表会がなくなり…と、なかなかつらい1年となりました。特に、メーカー取材ができなくなったことが大きかった。読者の皆さんも、多かれ少なかれ影響を受けたことと思います。

 一方、感染リスク低減のために企業が自転車通勤を推奨しはじめ、低価格帯の自転車が売上を伸ばすなど、自転車業界にとっては追い風が吹いたともいわれています。ズイフトなどインドアサイクリングの盛況もその一つかもしれません。

 こんな状況だった2020年の「今年のニュース」に、僕は「自転車の魅力を見直す流れが生まれたこと」を挙げたいと思います。あくまで推測なんですけど。

自転車は目標なんかなくても楽しいもの

 自転車を趣味としている人の中には、イベントやレースを目標にしている人がたくさんいるでしょう。あのイベントがあるから頑張れる。チームでエンデューロに出るから練習する。あのヒルクライムでタイム更新を狙っているからパワーメーターを買ってメニューを作って新しい機材で軽量化する…という。

 しかし、今年はシーズンインをコロナ禍が直撃し、先述の通り多くのイベントが中止(もしくは縮小、オンライン化)となりました。知り合いの店長は、「イベントがなくなったから、整備依頼や消耗品の売上がめっきり減った」と嘆いてました。「目標を見失ったから、自転車に乗らなくなった」という人たちが少なからずいるわけです(もちろん、そうではない人たちも多いと思いますが)。

 でも、中にはイベントがなくなったことで「自転車に乗ることそのものの楽しさを再認識した」という人もいるはずです。目標から解放され、軽くなった心でメーターの数字にとらわれず思うがままにペダルを踏み、自転車に乗ることの魅力に改めて気づいたという人が。

 僕は、自転車は目標なんかなくても楽しいものだと思うんです。

 仕事は、「目標とそれをどれだけ達成できたか」という成果が大事ですね。でも自転車は趣味です。趣味とは、結果ではなくプロセスや、没頭している時間そのものを楽しむもの。

 あくまで個人的な意見ですが、目標がなくなったり、レースで結果が出なくなったからといって、自転車に乗らなくなるなんてあまりにもったいない。せっかく自転車という最高の相棒と出会えたのだから、加齢や環境の変化を含め、「目標を達成する」「結果を出す」とは違う見地で自転車を楽しむのもいいんじゃないか、と思うんです。

メジャーメーカーから登場した脱レースバイク

 また、そんな状況の中で、偶然にも「脱レース」を標榜したスポーツバイクが生まれました。もちろん今までも一部のエンデュランスロードやスチールフレームやチタンフレームなど、“レースをしないロードバイク”は存在したわけですが、メジャーメーカーのハイエンドカーボンロードバイクにそういう種族が出現し始めた。これは大ニュースです。

 その代表がスペシャライズドのエートスです。個人的には、あれは「ピーター・デンクに作らせたらめちゃめちゃ軽いバイクが出来た」→「当然UCIの重量制限に抵触する」→「どうやって売り出す?」→「レースはしないということにするか」という流れであり、要するにあのコンセプトは後付けだと思ってますが(だって設計を見たらどう見ても超本気の軽量レーシングバイクですからね)、結果としてそういう売り方の自転車が、あんな塗装を纏って出てきた。

585gという超軽量フレーム(FACT 12r カーボンフレーム56サイズ)のエートス Photo: Shusaku MATSUO

 また、サーヴェロからはカレドニアという新種も出てきました。各メーカーが力を入れ始めたグラベルロードも、その多くが「レースをしないロードバイク」です。それらが、コロナ禍における「ロードバイクの楽しさ、再発見」を後押ししているのではないかと思います。

 我々サイクリストだけの話ではありません。コロナの影響でバスや電車を避けて自転車通勤をする人が増えました。自粛下の運動不足解消のためにサイクリングをするようになった人もたくさんいると思います。これは、非サイクリストたちが、自転車の魅力に目覚めるきっかけともなるはずです。

 自転車通勤者の多くは、いち交通手段として自転車に乗っているだけでしょう。でも、その中の何%かが、自転車の楽しさに気づいてくれるんじゃないかと思ってるんです。

 要するに2020年は、サイクリストには「自転車の楽しさを再認識する」という年に、一般の人たちには「自転車の魅力に気づく」という年になったのではないかと思うんです。

 2011年の東日本大震災で、自転車の「道具としての優秀さ」が注目されました。2016年に成立した自転車活用推進法によって、自転車に関係する制度や環境が整備されつつあります。そして2020年のコロナ禍によって、人々の自転車に対するマインドが変わる―。

 これはあくまで個人的な希望的観測にすぎませんし、すぐに結果が出るようなことでもありません。でも近い将来、「コロナで自転車にはまりまして」「あのときに自転車の新しい楽しみ方に気づいたんですよ」なんて人がたくさん出てくるといいな、なんて思ってます。

 コロナ禍が一刻も早く終息することを願っております。

インプレッションライダー・安井行生(やすい・ゆきお)

大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。ひょんなことから自転車ライターへと転身し、現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた自転車大好き人間。

この記事のタグ

2020年注目のニュース

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

Cyclist CLIP

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載