腰山雅大さん注目・2020年のニュースラファとパレススケートボード、そしてポプテピピックとの類似性

by 腰山雅大 / Masahiro KOSHIYAMA
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 『Cyclist』執筆陣が選ぶ「今年の注目ニュース」。第5回目はBMXやシクロクロスで活躍する社会人ライダーの腰山雅大さんが注目したのは『ラファがパレススケートボーズとコラボ EFチームのジロ・デ・イタリア専用キットが登場』です。イギリス発のウェアブランドが、人気のスケートボードブランドとタッグを組んだ効果、影響について考えてもらいました。

2020年のジロ・デ・イタリア第1ステージ、ラファ×パレススケートボーズのウェアに身を包んで個人TTを走るショーン・ベネット(アメリカ、EFプロサイクリング)ジロ第1ステージTT Photo: Yuzuru SUNADA

賞賛も批判も多かったインパクト

 イベントのキャンセルが相次ぎ、旧来とは異なる生活様式が求められた本年。やるせないニュースも多かったが、対してシーズン後半はなんとか開催に漕ぎつけたレースイベントたちがウェブ誌面を華やかに彩った。特に今年は若手の活躍が目立ったグランツール、その中でも一際目を引いたのはRapha(ラファ)とPalace Skateboards(パレススケートボーズ)によるコラボウェアを身に纏ったEFプロサイクリングの姿だった。称賛の声はもちろんのこと批判的な意見も散見したが、それも含めたインパクトはとにかく大きかった。しかしパレスの正体や、デザインに隠された文脈が解き明かされる機会はあまりなく、今回はことの真相に迫ってみたいと思う。

 そもそもパレスに関するコンテキストを読み取るのは難しい。もはやSupremeと並ぶほど人気を博すストリートブランドにも関わらず、公式ウェブサイトにはブランド紹介など皆無、プロダクトページを覗いてもユーザーを茶化すような短文が並んでいるだけで正直訳がわからない。彼らのスタイルを説明するにはこれまでの経緯を紐解く必要がある。

ジロ・デ・イタリア第3ステージを制しポディウムに乗ったヨナタン・カイセド(エクアドル、EFプロサイクリング) Photo: Yuzuru SUNADA

イギリス発のスケートボードブランド

 遡ること十数年、同ブランドはLev Tanju(レヴ・タンジュ)によってイギリスで立ち上げられた。スケートボーダーであるレヴはサウスバンクと呼ばれるスケートスポットに程近いとある場所にスクワット(居座り)した時期があり、ブランド名はその場所をPalace(宮殿)と呼んでいたことに由来している。

 スケートフィルマーでもある彼は、パレススケートチームの映像も手掛けている。高画質な映像が身近になった2010年代でもなお、まるで90年代さながらのローファイな作品を作り出しており、VHSの文化を彷彿とさせるスタイルが逆に人気を博すこととなった。

 また彼らが映像やアパレルで表現する手法も独特で、くどいほどにサンプリングネタを前面に出している。サンプリングとは音楽に由来する文化であり、過去作品の流用し新たな楽曲を製作する手法だ。ファッションでも当然の表現方法として確立されているが、今回のEFチームキットで言えば、背景模様はブリジットライリーのオプアート、太陽のロゴはアシッドイベントのフライヤーロゴが元ネタであり、キャラクターお面のようなアヒルは…あえて言うまでもないだろう。

 元ネタのセンスはともかく、サンプリング自体はラファでも取り入れられている手法だ。70~80年代のプロチームへのオマージュや、定番のデザインでも当時のデザインを昇華させたものもある。それはサイクリングウェアを製造する技法が確立される遥か昔、選択肢の少ない中で生み出されたプリミティブなデザインに美しさと価値を見い出した結果だと言える。

 同じイギリス出身、サンプリング、当たらずといえども遠からずな2つのブランドがあえて手を組んだことによって与えた衝撃とは、どのようなモノだったのか。

 チームプレゼンテーションの日のこと。EFチームは前述のデザインを身に纏って登場した。揺らぎをもたらす幾何学模様、ドラッグパーティーからの引用、ポップアイコンからの大胆なサンプリング。保守層の批判をも恐れない反社会的なポジションで、グランツールというメインストリームから、カウンターカルチャーへのリスペクト(またはパロディ)を大声で叫ぶ結果となった。

ジロ・デ・イタリア第9ステージでゴールするルーベン・ゲレイロ(ポルトガル、EFプロサイクリング) Photo: Yuzuru SUNADA

 しかしだ、ここまで語ってきたモノを誰が即座に理解できただろうか。元ネタを回収するのはSNSでのお約束とも言えるが、あまりに場違いなネタのおかげか、いつまで経っても真相は語られずにいた。いや、もはやそれで良いのかもしれない。というのも、今回の騒動は日本のアニメ、ポプテピピックが与えた衝撃と酷似している。

「オマージュか、パクリか」問題

2018年、日本のオーダーサイクルウェアブランド、ウエイブワンとポプテピピックがコラボしたアイテム © WAVEONE

 私はポプテピピックを日本のヒップホップアニメだと捉えている。それはヒップホップが持つ要素、例えば新しい文化の創出、反社会性、若年層からの評価、そして結果的に経済効果を生んでいることを兼ね揃えているからである。過去のアニメへのオマージュなのか、パクリなのか、何せ誰にも理解されなくたって構わないぜというスタンスを前面に出しているのがこのアニメの特徴だ。

 パレスにとっても、主義主張を理解してもらう必要などなかったのかもしれない。これまでにもイギリスの巨大ブランドといくつもコラボレーションを果たしており、アンブロやリーボック、アディダスとのコラボの際はサッカーの名門ユヴェントスFCのウェアをジャックしている。しかし、本稿のウェアほどカウンターカルチャーへ焦点を当てた事例はなく、その姿で真相までは理解できずとも「何か新しいものが動いている」という認識はできたはずだ。

 そこで、この話をまとめるとするなら例の一言だ。私たちサイクリストにとって異端なストリートブランドの仕掛けを目の前にして、胡散臭がったり、否定論を投げるのではなく、あえて「あーそーゆーことね、完全に理解した」と言ってウンウン頷きさえすれば、この一連の騒動を確実に味わったと言えるのではないだろうか。

腰山雅大
腰山雅大(Kossy)

自転車歴20年の社会人アスリート。BMXパーク競技を経て、数年前からシクロクロスへ参戦、ボーダーレスな自転車競技活動が注目される。All-City Cyclesのライダーとしてシングルスピードで国内トップカテゴリーを走っている。コーヒーやクルマの造詣も深い。

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