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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<365>プロトンの未来を背負って立つヤングライダーたち トップチーム注目の若手厳選ピックアップ<3>

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 2021年シーズンに飛躍を誓う有力チーム期待の若手を紹介。第3弾となる今回は、モビスター チーム、イネオス・グレナディアーズ、ユンボ・ヴィスマ、クベカ・アソス、チーム サンウェブ、トレック・セガフレード、UAE・チームエミレーツから、来季時点で25歳以下のヤングライダーをチョイス。これまでの実績に加えて、今後の見通しについても分かっている範囲でお伝えしていきたい。すでにあらゆる経験を積んでいる選手から、プロデビューを控えている選手まで、期待が高まるライダーの顔は多岐にわたる。(紹介する選手はいずれも2021年シーズン所属予定チーム。ただし、選手・チームの事情により移籍するケースがあることをご理解ください)

イネオス・グレナディアーズ入りが決まっているトーマス・ピドコック。ロード、シクロクロス、マウンテンバイクとマルチな才能を発揮している21歳がいよいよトップシーンへと飛び込む =UCIシクロクロス世界選手権2019、2019年2月2日 Photo: Yuzuru SUNADA / BELGA

各世代で最強を誇ったマルチタレントはイネオス・グレナディアーズへ

コロンビア人クライマーのエイネルアウグスト・ルビオはモビスター チームで将来的にエースとなり得る逸材 =ジロ・デ・イタリア2020第20ステージ、2020年10月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 スペイン唯一のトップカテゴリーチームであるモビスター チーム。かつては自国ライダーをメインとしたチーム編成だったが、近年は他国籍の有望株も採用するなど、国際色が豊かになりつつある。伝統的にグランツールやステージレースで結果を求めるチームにあって、次期エース候補の1人として名乗りを挙げるのがエイネルアウグスト・ルビオ(22歳・コロンビア)。デビューイヤーだった今季はジロ・デ・イタリアでグランツールに初挑戦し、セストリエーレを上った第20ステージで6位と健闘。総合争いが盛り上がる中を縫って、才能の片りんを見せている。プロ入り前の2019年には、アンダー23版ジロで個人総合2位。コロンビア勢が席巻した大会で、圧倒的な登坂力で山岳賞にも輝いている。

トーマス・ピドコックは2021年3月にイネオス・グレナディアーズに合流を予定。今年はUCIマウンテンバイク世界選手権クロスカントリー種目でアンダー23カテゴリーの頂点に立った ©︎ UCI

 近年のプロトンにおいて最強チームの呼び名をほしいままにしてきたイネオス・グレナディアーズ。スーパーエースのエガン・ベルナル(コロンビア)、次期総合エース候補のパヴェル・シヴァコフ(ロシア)が23歳、今年のジロ覇者のテイオ・ゲイガンハート(イギリス)が来年3月に26歳になるなど、ヤングパワーの台頭は世代交代の成功を意味している。そんな若さ溢れる実力派軍団に、さらなる風が吹き込む。ロードレース、シクロクロス、マウンテンバイクで各世代最強を誇ったトーマス・ピドコック(21歳・イギリス)が満を持してトップシーンに飛び込むのだ。ここまでのキャリアで最も実績を残しているのはシクロクロスで、ジュニアとアンダー23時代に世界王者を経験。エリートカテゴリーへと乗り込み臨んだ今年2月の世界選手権では銀メダル。マウンテンバイクでは今年、クロスカントリー種目でアンダー23とEバイク部門の2冠。オフロードでの活躍によって、印象がかすみがちなロードの走りだが、それでも今年はアンダー23版ジロで圧勝。エリート部門のみだったロード世界選手権へも飛び級で代表入りした。山岳、石畳、スプリント、タイムトライアル、何でもござれのマルチタレントはシクロクロスシーズン終了後の3月に正式にチーム合流を果たす。

ブエルタ・ア・エスパーニャではアシストとして機能したヨナス・ヴィンゲゴー。戦力充実のユンボ・ヴィスマにあって重要なピースに成長している Photo: Team Jumbo-Visma

 今シーズンのセンセーショナルな戦いぶりで、戦力面のみならず戦術的な部分でもナンバーワンの充実度を誇ったユンボ・ヴィスマ。ツール・ド・フランスやブエルタ・ア・エスパーニャで見せた組織力は、来年も確実に機能することだろう。その一端としてすっかり名をあげたのがヨナス・ヴィンゲゴー(23歳・デンマーク)だ。ブエルタでは山岳で安定した長時間の牽引が観る者にインパクトを与えたが、あれがグランツールデビューだったというのだから、その堂々たるレース構築は大きな殊勲。プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)の大会2連覇に貢献したばかりか、自身のクライマーとしての可能性を広げる絶好の機会ともなった。昨年のツール・ド・ポローニュでは逃げ切りからリーダージャージを奪取するなど、もともとスマートな走りをウリにしてきた選手。来年以降、フィジカルが向上すればステージレースを中心に恐ろしい存在となるに違いない。

アメリカ期待の総合系ライダーはグランツール上位入りを目指す

日本でのレース経験もあるディラン・サンダーランド。チーム体制が変わるクベカ・アソスで逃げを中心に勝機をうかがっていくことになる =ジロ・デ・イタリア2020第15ステージ、2020年10月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チームスポンサー獲得が難航していたNTTプロサイクリングだったが、スイスのサイクルウェアブランド「アソス」との契約にこぎつけ、クベカ・アソスとして活動する運びとなった。来季のチーム活動を危惧して退団した選手が多く、本記執筆時点での所属予定選手は15人。今後陣容が固まっていくことになりそうだ。そうした中で、チーム残留となる数少ない選手であるディラン・サンダーランド(24歳・オーストラリア)は、かつてUCIアジアツアーでもレースを活性化させたタフマン。ツアー・オブ・ジャパンにも2回出場し、2018年には南信州ステージで3位に入っている。今季はジロを走り、問題なく3週間を完走。得意の逃げで勝機をうかがっていくあたりは、自身の脚質やチーム事情にマッチするはずだ。

チーム サンウェブのスプリント路線を引っ張ることになるマックス・カンター。まずはプロ初勝利を目標にする =ツアー・ダウンアンダー2020チームプレゼンテーション、2020年1月18日 Photo: Yuzuru SUNADA

 チーム サンウェブは、22歳のマルク・ヒルシ(スイス)がツールをきっかけにラ・フレーシュ・ワロンヌ、ロード世界選手権で劇的なドラマを演じ、24歳のジェイ・ヒンドレー(オーストラリア)はジロでグランツールレーサーの仲間入り。シーズン当初は不安要素が多いとされていたが、結果的に“若さ”が良い方向へと働いた。来季はグランツールがヒンドレーと新加入のロマン・バルデ(フランス)、クラシックがヒルシと、タイトルを狙うメドが立った。そこに加えて、マックス・カンター(23歳・ドイツ)にスプリント路線のリーダーとしての期待がかかる。シーズン中断明けの8月以降に勢いづき、ブエルタではステージ3位を2回記録。ピュアスプリンター相手に臆することなくチャレンジを繰り返した。来季はまず、プロ初勝利を挙げることが目標。チームには平坦を得意とするスピードマンがそろっており、彼らのリードアウトがあれば勝ち星を得るのはそう遠い未来ではないはずだ。

シーズン序盤にスプリントで2勝を挙げたマッテオ・モスケッティ。大怪我を乗り越え戦線へと戻ってきた。2021年は完全復活を印象付けたい Photo: Mario Stiehl

 早々に来季メンバー29人を固めたトレック・セガフレードも、20歳代前半から半ばの選手が多くそろい、あらゆる可能性を秘める。そんな中で、期待値が高いのがマッテオ・モスケッティ(24歳・イタリア)。なんといっても、今年のシーズンイン早々にスペイン・マヨルカ島で挙げたスプリントでの2連勝は、先々の活躍を予感させるに十分な走りだった。直後のレースでの落車で骨盤骨折に見舞われ、その勢いは一瞬にとどまってしまったが、予想をはるかに上回る早期復帰を実現させ、シーズン中断明けの7月下旬にはプロトンへと戻った。さすがに結果を急ぐわけにはいかず、ブエルタも第7ステージでタイムアウトに終わってしまったが、来季は完全復活をかけるシーズンと位置づけスプリント戦線の主役を目指す。

ジロ・デ・イタリアでは一時総合争いにも加わったブランドン・マクナルティ。来季はUAE・チームエミレーツの総合エースとして活躍の場が広がりそうだ =ジロ・デ・イタリア2020第20ステージ、2020年10月24日 Photo: Yuzuru SUNADA

 タデイ・ポガチャル(スロベニア)の衝撃的なツール制覇は、いまだにわれわれの脳裏に焼き付いているが、UAE・チームエミレーツには彼と同世代の注目株がひしめいている。その中で一歩抜け出した感があるのが、ブランドン・マクナルティ(22歳・アメリカ)。初のグランツールとなったジロでは、第10ステージの2位を皮切りに、第14ステージの個人タイムトライアルでは3位に入るなど、一時は個人総合4位につける健闘。大会終盤も総合でトップ10入りが見えるポジションを走り続け、総合力の高さを示した。今年が現チーム1年目だったが、実は早くから多くのトップチームが争奪戦を繰り広げたほどの注目ライダー。自らの判断で早期デビューを避けたように、己を客観視できる精神面も高く評価されている。ポガチャルと同い年であるところも、自然と可能性と期待を膨らませる要素に。来季はこの2人がチームを率いる場面が多くみられることだろう。

今週の爆走ライダー−マッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、モビスター チーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 モビスター チームでは唯一のアメリカ人ライダー。多くの実力者を輩出するアメリカにおいて、トップシーンに躍り出るまでの経歴が異色だと話題になっているという。

モビスター チーム唯一のアメリカ人ライダー、マッテオ・ヨルゲンセン。プロ1年目からビッグレースを経験し、トップレベルで通用する手応えをつかんだ =ツアー・コロンビア2020第6ステージ、2020年2月16日 Photo: Yuzuru SUNADA

 その大きな理由は、同国の育成システムから外れたことにある。きっかけは、多くの実力者をトップシーンへと送り込むヘーゲンズバーマン・アクセオン入りがかなわなかったこと。いまをときめくヤングライダーたちと同様の道のりで強くなりたいと思ったが、望んだ通りには事が運ばなかった。

 そんな彼が次に目を向けたのが、プロへの近道としてヨーロッパで走ることだった。結果を残して、自身を売り込むことで道を切り拓いた。昨年はアージェードゥーゼール ラモンディアールの下部組織でシーズンを送り、晴れて今季から現チーム入り。実のところ、下部組織からトップチームへ上がる話も進んでいたというが、より良い条件を提示したモビスター チームをプロデビューの環境に選んだ。

 プロ入りする時点で英語、フランス語、多少のスペイン語を話せたことは、チームにフィットするうえでプラスに働いた。なかでも大きかったのが、チームの先輩であるカルロス・ベロナ(スペイン)からトレーニングパートナーに指名されたこと。日々の過ごし方やレースに対する意識を学び、プロ1年目の生活に役立てた。

 周囲には彼を「パイオニア」と呼ぶ者もいるが、それは否定する。ただひとつ、経験上確かだといえるのが、「アンダー23カテゴリーの時点で、レースの本場であるヨーロッパのライフスタイルを身につけておくこと」。自国にはパフォーマンスに集中するあまり、ヨーロッパ進出後に心身のバランスを崩す選手が多く存在するといい、自身のような歩みでプロへ到達する選手が増えることを願っている。

 今年のハイライトは、ミラノ~サンレモでの17位。初のビッグクラシックは、メイン集団でフィニッシュを迎えたばかりか、チーム最上位を記録。ワンデーレースなら通用する手ごたえをつかんだ。走りに現れる心身の充実は、経験に基づく言葉にさらなる説得力を与えている。

チームでは主力選手からトレーニングパートナーに指名されるなど、存在感を高めているマッテオ・ヨルゲンセン。プロ入り前からヨーロッパのライフスタイルに触れていたことが大きいと自ら分析する =ツアー・コロンビア2020第6ステージ、2020年2月16日 Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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