一歩先行く「自転車通勤推進企業」2社を潜入取材「自転車通勤ができる企業」に見るリスクへの備えと対策 日本電子とブリヂストンサイクルの取り組み

by 後藤恭子 / Kyoko GOTO
  • 一覧

 新型コロナウイルス対策として国が発表した「新しい生活様式」で、移動手段として推奨されている自転車利用。さらに自転車の通勤利用を後押しする施策として「『自転車通勤推進企業』宣言プロジェクト」が創設され、29社・団体(2020年10月6日現在)が“宣言企業”として名乗りを上げた。安全面等の問題で敬遠されがちな自転車通勤だが、宣言企業はリスクとどう向き合い、どのような安全対策を講じているのか。推進企業の先駆けとなった日本電子と、ブリヂストンサイクルに自転車通勤を導入するためのポイントを取材した。

「新しい生活様式」に組み込まれた自転車。通勤にも積極的に活用したいところだが… Photo: gettyimages/ monzenmachi

日本電子、1800人の約3割が自転車通勤

 「自転車通勤推進企業」としての認定を受けるには自転車通勤を認めた上で、①従業員用駐輪場を確保 ②交通安全教育を年1回実施 ③自転車損害賠償責任保険等への加入を義務化─の3項目全てを満たすことが必須となっている。

 今年8月末に行われた初回の認定で「宣言企業」となった24社・団体の中にはブリヂストンサイクルやシマノ、トレック・ジャパン、ホダカ等自転車関連企業が目立つ一方、静岡県庁や茅ヶ崎市といった自治体や非自転車関連企業もいくつか「宣言企業・団体」に名を連ねた。

 その非自転車関連企業の一つが日本電子株式会社(JEOL)。電子顕微鏡等の開発を手掛ける、日本を代表する世界的なトップメーカーだ。

東京・昭島市にある日本電子本社 Photo: Kyoko GOTO

 自転車通勤の導入時期は「創業当時(1949年)まで遡る」というのだから、その歴史は実に70年に及ぶ。

 東京・昭島市にある本社の従業員の数は1800人で、そのうち自転車通勤者は約500人以上。自動車通勤者190人、モーターバイク通勤者60人と比べても自転車利用者が圧倒的に多い。自転車利用者の多くは走行距離が5km程度と会社周辺の在住者が目立つが、自転車通勤に最適な環境であることが要因としてあるが、中にはサイクルジャージ姿で片道20kmの距離を通勤するサイクリストもいるという。なお、昭島本社以外でも駐輪場が確保できる支店等では原則自転車通勤を認めている。

社員通用門付近に整備された駐輪場。ゲートには駐輪と同時に出勤・退勤を管理できるタイムレコーダーが設置されている Photo: Kyoko GOTO
別の場所に設けられた屋根付きの駐輪場。こちらの方がスポーツタイプの自転車が多め Photo: Kyoko GOTO
開発室のドアの前に脱ぎ置かれていた「SIDI」のSPD-SL。この扉の向こうにサイクリストが… Photo: Kyoko GOTO

 広大な敷地を生かして設けられた駐輪スペースは、まるで駅前の駐輪場のようなスケールで溢れんばかりの数の自転車がとめられていた。「これでも新型コロナウイルスの影響で少し減った方です」と話すのは同社総務部部長の和田幸一さん。基本的に製造業を主としているが、リモートワークが可能な部署の社員の出社が減っているためだという。

取材に応じてくれた総務担当の中村達也さん(画像左)と総務部長の和田幸一さん。東京都交通安全協会の「自転車安全教育指導員」として自転車通勤をする社員の安全管理を担当している。背後にあるのは「未来技術遺産」に認定された同社初期の磁界型電子顕微鏡 Photo: Kyoko GOTO

会社独自の自転車保険も

 こうした数多くの自転車利用者の安全を管理するため、同社では様々な取り組みを実施している。その一つが独自に定めた「自転車通勤管理要領」だ。自転車利用者はこの要領に従い、使用する自転車の規定をはじめ、防犯登録、自転車(賠償)保険の加入、交通規則の遵守等が義務付けられる。交通規則については「車道の左側走行」や「歩道は歩行者優先で車道寄りを徐行」「運転中の携帯電話、イヤホーンの使用禁止」等全9項目が明記されている。

ロードバイクでもスタンドは装備必須 Photo: Kyoko GOTO

 自転車通勤は許可制で、「自転車通勤申請書」と安全走行の誓約書を提出し、登録自転車の後輪の泥除け部分に「許可証シール」を貼ることが義務付けられる。「危険運転や迷惑駐車等をした場合、ロゴマークを付した許可証シールを見れば、管理番号を記しているため社員が特定される」(和田さん)と、管理の目が届かないところでも社員の安全管理を紐づけている。

社名の英語表記が入った「JEOLシンボル」が目立つ駐輪証シール。これが貼られていない自転車の駐輪場は利用不可となっている Photo: Kyoko GOTO

 こうした対策を実施していても、残念ながら自転車事故を完全に防げるわけではない。和田さんによると、3~4年前の健康志向ブームから自転車利用者が急増し、同時に事故件数も右肩上がりで増えたという。「その都度、事故の内容を逐一社員にフィードバックし、会社全体として事故の再発防止策に努めています」という和田さん。自らも「自転車安全教育指導員」として東京自転車安全教育推進委員会が年に一度実施する講習を受け、最新の情報を社内報等を通じてフィードバックしているという。

 一方で、社員が加害者になった場合に備えて独自の「JEOL自転車保険」も導入している。10%の団体割引が適用される団体保険を活用したもので、年間保険料3790円(本人型)から国内無制限の個人賠償責任補償特約がついた交通事故等限定プランを提供している。自転車保険は個人の判断で他社も選択できるが、JEOL自転車保険を選択すると給与天引きで保険料の払い込みができる仕組みになっている。

 こうした通勤における自転車安全利用の取り組みが高く評価され、同社は地元の昭島警察署の推薦を受け、2017年に警視庁の「自転車安全利用モデル企業」にも認定されている。

和田さん自身も毎日自宅からMTBで通勤。ちなみに自転車通勤を申請すると手当として月に1000円が支給されるという Photo: Kyoko GOTO

 和田さんは、「働きやすい仕組みづくりと社員の安全を両立するために独自に培ってきたことが周囲から認められるということは、自分たちの仕事に対する一つの評価でもあると思っています。まだまだ課題はありますが、一つの導入事例として参考にしてもらえたら」と話している。

ブリヂストンサイクル「自転車の走行ルール学べる場を」

 もう一つの“宣言企業”であるブリヂストンサイクルは、シティバイクからプロ機材まで手掛ける日本を代表する自転車メーカー。同社も埼玉・上尾市にある本社・工場を中心に以前から自転車通勤を制度として導入している。同社がこの「自転車通勤推進企業」宣言プロジェクトに、いち早く賛同した背景には、自転車メーカーとしての“ある思い”があった。それは自転車通勤普及促進の後押しだけでなく、自転車の安全利用をサポートしたいという使命感だ。

ブリヂストンサイクルの大槻浩太郎さん Photo: Kyoko GOTO

 ブリヂストンサイクルでは2017年から自転車ユーザーに対して「自転車の乗り方」を教える講習会を開催している。

 実施のきっかけは同社が参加する企業間コミュニティでの会話だった。「子乗せ電動アシスト自転車は重くて取り扱いが難しい」─。そこで参加企業の子育て世代を対象に子乗せ電動アシスト自転車の扱い方についての講習会を実施したところ、当初の予想を上回る参加者が集まった。

 その後、自治体等からも依頼を受けてシニア向けの電動アシスト自転車の乗車講習を展開。児童向けの自転車教室等次第にオファーが増え、2017年6月~2020年10月末までの開催実績は実に70回近くに及んでいる。

大槻さんが講師を務めたシニア向けの電動アシスト自転車講習の模様。免許返納後、電動アシスト自転車やe-BIKEへの切り替えを考える人で、数十年ぶりに乗る自転車に体と機材のギャップを感じる人も少なくないという。中には漕ぎ出しのアシストに驚かれる人も Photo: Kyoko GOTO

  講習会を担当している大槻浩太郎さんによると、「自転車に乗るという行為は多くの人にとっては、できて当然のことで、とくに大人になってから改めて乗り方を教わるという必要性を感じている人は少ないと思います。ただ、自転車本体もそうですが自転車を取り巻く環境が大きく様変わりしているので、もう一度しっかり乗り方を学びたいという潜在的なニーズがかなり多いことに気付きました」とのこと。そのニーズの一つに自転車通勤も含まれるという。

リスクは知ることで回避できる

 自転車通勤を検討している人からよく寄せられる相談が、改正道交法に対する疑問点。大槻さんによると、自転車はどこを走るべきなのかという疑問をもつ方が多く、「実は自分は正しく乗れてないのではないか」「どう乗ったらいいかわからない」といった理由で安全講習を受講してくるケースが多いという。

「自転車に“正しく”乗るための学びの場を求めている人は意外と多い」と大槻さん Photo: Kyoko GOTO

 講習会では、実際に起きた事故の事例や事故が発生しやすい状況、自転車側が加害者になる可能性もあることを説明した上で、道交法に基づいた走行ルールを解説する。「『自転車は危ない』ではなく、事故の原因や走行時のリスクを知ることで危険を回避できることを伝えたい」と大槻さんは強調する。

 ただ、「自転車の歩道走行」については全てが禁じられているわけでなく、運転者の意識を変えることがポイントだという。

 「道交法で原則車道走行とされている一方で、歩道走行可の標識があったり、運転者が児童や高齢者だったり、車道走行時の安全確保が困難な場合には、例外として歩道走行が認められている場合もあります。なので現状で自転車ユーザーの安全性を第一に考えた場合、車道と歩道の使い分けが安全上のポイントになると思います」との見方を示す。「自転車は原則車道であることを認識して、歩道を走行する場合は歩行者を優先し、『歩道を走らせてもらう』という意識をもってほしい」と大槻さんは強調する。

ブリヂストンサイクルの電動アシストクロスバイク「TB1e」。航続距離130kmで約13万円というコスパの良さがコロナ禍の通勤需要で注目を集めている Photo: Kyoko GOTO

 ブリヂストンサイクルとして安全講習のオファーがあれば対応するとしており、さらに今後はオンラインで受講可能な体制も整備する予定だという。「自転車はクルマと違って免許がないので、ルールについて知る環境がありません。その環境をいかにして提供していくのかが我々自転車メーカーに求められている役割でもあると思うので、是非気軽に問い合わせていただければ」と話している。

➡後編「ブリヂストンサイクルが静岡県職員向けに講習を開催に続く

この記事のタグ

ブリヂストンサイクル 自転車通勤

新着ニュース

もっと見る

ピックアップ

Cyclist CLIP

スペシャル

自転車協会バナー

ソーシャルランキング

インプレッション

インプレッション一覧へ

連載