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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<359>ファンデルプールとファンアールト 歴史を刻み続けるニュースターの歩みに触れる

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 実質2020年シーズン最後のビッグクラシックとなった、10月18日開催のツール・デ・フランドル。いまをときめくニュースターの2人、マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)とワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)のマッチアップは、伝統のフランドルに新たな歴史を刻む名勝負となった。両者はともにシクロクロスにバッグボーンを持ち、10年近く互いを意識する関係にあることはファンの多くが知るところ。激闘の興奮が冷めやらぬ今こそ、この2人の関係性を振り返るべきだろう。今回は、フランドルの覇権を争った両選手のこれまでと、今後の可能性について触れてみようと思う。

ツール・デ・フランドルで優勝を争ったマチュー・ファンデルプール(左)とワウト・ファンアールト。激闘を演じたが、この先長く続くであろうライバル関係の1ペーに過ぎない Photo: STIEHL / SUNADA

2人ともに「モニュメント」制覇 インパクト十分のシーズンに

 今年のツール・デ・フランドルは、世界中のファンが待ち望んでいた戦いの実現でもあった。ファンデルプールとファンアールト、シクロクロスで実力・テクニック・フィジカルを養い、満を持してこの数年でロードへと本格参戦を果たした2人だ。

ツール・デ・フランドルのスタートラインについたマチュー・ファンデルプール(右)とワウト・ファンアールト(中央) Photo: STIEHL / SUNADA

 ファンデルプールは1995年1月19日生まれの25歳。ファンアールトは1994年9月15日生まれの26歳。数カ月違いながらも、ファンアールトが年上となる(日本の「年度」で考えると同学年、となるが…)。

 2人は、ジュニアカテゴリーの10歳代後半から、20歳代前半にかけてシクロクロスで世界をリードしてきた。そんな関係に変化が見られたのは、昨年3月にファンアールトが現所属のユンボ・ヴィスマに加入したあたりだったといえるのではないだろうか。これを機に、ロードにより注力するようになった。一方で、ファンデルプールはジュニア時代から掛け持ってきたシクロクロス、ロードレース、マウンテンバイクを継続。特にマウンテンバイクは、東京2020オリンピックを最大目標に据える。

 ただ今年は、新型コロナウイルス感染拡大によって異例のレースシーズンとなったこともあり、7月のシーズン再開以降少しずつ軌道に乗ったロードシーンにそろって集中力を高めていく格好になった。その結果、ファンデルプールは先日のフランドルを制覇。ファンアールトは8月のミラノ~サンレモを制したほか、ツール・ド・フランスではスプリントに、山岳アシストに、大車輪の働き。ともに、その実力を余すことなく発揮し、インパクト十分のシーズンとした。

両者の対戦成績はファンデルプールが圧倒

 2人のトップシーンでの対戦を知るには、約10年前までさかのぼる必要がある。

 世界ナンバーワンをかけた争いが始まったのは、2012年のシクロクロス世界選手権。当時17歳だった両者の勝負は、ファンデルプールに軍配。ファンアールトは2位。ここから、いまに至るまで続くライバルとしての歴史が始まった。

UCIシクロクロス世界選手権で2016年から3連覇を達成したワウト・ファンアールト。マチュー・ファンデルプール(後ろ)とのライバル関係はシクロクロス時代から続く =2018年2月4日 Photo: Yuzuru SUNADA

 以降、シクロクロスでは着実に上位を争う存在となり、2014年の同大会ではファンアールトがアンダー23カテゴリーで初の世界タイトル獲得。翌年には最上位のエリートカテゴリーへとステップアップすると、ファンデルプールが年上の選手たちを撃破して世界の頂点に立つ。

 シクロクロッサーとしてのファンアールトのハイライトは、2016年から。3年連続で世界選手権優勝。ベルギーやオランダを中心に転戦するワールドカップなどではファンデルプールの後塵を拝することが多かったにもかかわらず、世界選手権で強さを発揮し続けた。かたや、ファンデルプールは運に見放されることも多く、2017年大会では4度のパンクに見舞われる悔しさも味わった。

2019年のシクロクロス世界王者に輝いたマチュー・ファンデルプール。以降、世界ナンバーワンの座を維持している =UCIシクロクロス世界選手権2019、2019年2月3日 Photo: Yuzuru SUNADA / BELGA

 その後の2年間は、ファンデルプールが世界王者の証であるマイヨアルカンシエルを奪還。ファンアールトがロードへシフトしていることもあり、シクロクロスでの状況は少しずつ変わってきている。

 そうした変化に比例して、ロードでの本格的な対戦も増えてきた。とはいっても、先日のフランドルが23回目の対戦だったという。シクロクロスでは158戦同じレースを走っており、それと比べるとロードでの対戦はまだまだ少ない。今年はシーズンが本格再開した8月以降同じレースを走ることが多く、ストラーデ・ビアンケ、ミラノ~トリノ、ミラノ~サンレモ、ヘント~ウェヴェルヘム、そして激闘のツール・デ・フランドルにそろって出場した。

 ちなみに両者の対戦成績(先着数)はというと、シクロクロスではファンデルプールが109勝、ファンアールトが49勝。ロードはファンデルプールが15勝(うち優勝5回)、ファンアールトが8勝(うち優勝4回)。数字だけでいえば、完全にファンデルプールに分があることになる。

ロードでのマッチアップは引き続き限定的に

 先日のツール・デ・フランドルが両者のこれまでの対戦成績を反映したものだったかというと、決してそうではないだろう。この先、長くライバル関係が続くであろう2人に、過去のデータは何の参考にもならないはず。それくらいに、両者のスプリント力、登坂力、勝負どころを見極める嗅覚、そして可能性が秘められていることは、レースを追い続ける人たちであればきっと分かるだろう。

2位で終えたツール・デ・フランドルをもってシーズン終了を宣言したワウト・ファンアールト。石畳系レースのタイトル獲得は2021年シーズンにシア挑戦する Photo: STIEHL / SUNADA

 そんな2人の今後は果たして。直近では、ファンアールトがロードシーズンの終了を宣言。しばしの休養に入る。ファンデルプールは、10月21日のAGドリダーフス・ブルージュ〜デパンヌを走って今年のロード活動を終了する見通し。シクロクロスについては、ともに発表していないが、ファンデルプールはシーズンが盛況となるクリスマス頃には戻る計画があるよう。

 長期的には、ロードへの意欲を強めるファンアールトと、マウンテンバイクでの五輪出場にこだわるファンデルプールとで進む道筋は変わってくる。ロードでの対戦は、もうしばらく限定的になりそうだ。

 それでも、レーサーとしてのキャリアはようやく半ばに差し掛かろうかというところ。この先まだまだ続くであろうライバル関係。スリリングかつアメージングな2人の走りは、ロードレース界の明るい未来であることは間違いない。

ツール・デ・フランドル2020のポディウム。マチュー・ファンデルプール(中央)とワウト・ファンアールト(左)によるこうした光景は今後もたびたび目にすることとなりそうだ Photo: STIEHL / SUNADA

※参考ウェブサイト
ProCyclingStats.com https://www.procyclingstats.com/
CYCLOCROSS24 https://cyclocross24.com/

今週の爆走ライダー−マチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 ここまで書いてくると、2人のどちらかをピックアップしないと記事として成り立たない(笑)。というわけで、今回はフランドル勝者のファンデルプールを。

ツール・デ・フランドルを制したマチュー・ファンデルプール。34年前に大会を制した父・アドリ氏に続くフランドル制覇となった Photo: STIEHL / SUNADA

 この勝利は、34年前に優勝した父・アドリ氏に続くものに。また、昨年亡くなった祖父であり名ライダーのレイモンド・プリドール氏も57年前には上位を争ったといい、いわば3代にわたってフランドルで強さを発揮したことになる。

 本来であれば、今頃はまったく違うレースキャリアを歩んでいたかもしれない。当初、今年の目標はマウンテンバイク・クロスカントリーでの五輪金メダルだった。本番から逆算して組んでいたスケジュールは、パンデミックによって白紙に。気持ちの面ではフランドルとパリ~ルーベ(2020年大会は中止)にフォーカスしたが、フィジカルの部分で時間がかかった。新たに設定された日程との絡みもあり、脚質に合致しないレースに“チャレンジ”することもあった。

 どんなレースであっても、出場するとあれば注目され、勝ちを義務付けられるようなムードはやはり「重たい」と打ち明ける。それでも、今年は9月に行ったトレーニングキャンプで調子を取り戻すと、フランドルでは多くの人が期待する“スーパー”な状態に仕上げてみせた。

 「平均的にすぎなかったシーズンは、フランドルの勝利でスーパーシーズンになった」と“クラシックの王様”フランドル勝利に胸を張った。21日にはAGドリダーフス・ブルージュ〜デパンヌを走るが、そこはボーナスステージといったところか。観る者は圧倒的な走りを期待するが、周囲の目や自身のコンディションを気にしてまで臨む必要はないだろう。

 常に付きまとうファンアールトとの比較については、「彼はツール・ド・フランスでも通用していて、ロードを走る能力が向上している。私はマウンテンバイクを重視していて、違いは大きいと思う」と語る。

 今後は、1年近くレースから遠ざかっているマウンテンバイクについて考えたり、熱望しているツール出場の可能性を模索したりと、忙しい日々が続きそうだ。ちなみに、アルペシン・フェニックスは今季のUCIヨーロッパツアーでチームランク1位が確定的。ランキングトップのチームに与えられる来季のUCIワールドツアー招待出場権を得られれば、ロードでもトップシーンを駆ける機会がより増えてきそう。現に、本人も「その気」で、シクロクロス、マウンテンバイク、そしてロードと、3つの顔を持つ男の活動はこれまで以上に拍車がかかりそうなのである。

マチュー・ファンデルプール、当面の目標は東京2020オリンピックでのマウンテンバイク・クロスカントリー金メダル、そしてツール・ド・フランス出場だ Photo: STIEHL / SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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UCIワールドツアー ツール・デ・フランドル ロードレース 週刊サイクルワールド

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