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教えて!安井先生<10>安井さん、「いい自転車」ってなんですか?

by 安井行生 / Yukio YASUI
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今回のお題

Q:安井さん、「いい自転車」ってなんですか?

A:うーん…。ちょっと考え込んでしまいました。前回の質問も微妙に答えづらかったですが、これはさらにその上をいく。改めて聞かれると難しい質問です。

 「ああ、いい自転車ってのはねぇ…」とスラスラと答えるような人は、よほどの天才か嘘つきかのどちらかでしょう。

 なぜなら、「いい」の基準は人によって、使う状況によって、選ぶ人の自転車観によって、コロコロと変わるからです。例えば同じロードバイクだって、毎日の通勤に使う人と、乗鞍で1時間切りを目指している人とでは、異なる答えになります。

 目的が同じだったとしても、体重・好み・ペダリングのクセ・乗り方・自転車歴・脚質・パワー・速度域などによって正解は変わります。だから唯一絶対の答えなんてどこを探してもないんです。

同一メーカーのものでも車種が異なればフィーリングは違いますし、同一車種でも乗り手が変われば感じ方は異なります。「いい自転車は?」に対する唯一絶対の答えは存在しません Photo: Shusaku MATSUO

「いい自転車」について言えること

 ただ一つ、目的や個人差にかかわらず言えることがあります。

 「乗りやすい自転車はいい自転車」ということです。

 「乗りやすさ」とは曖昧な表現ですが、言い換えれば以下のような性能を持つ自転車です。

乗りやすい自転車とは

・思い通りに反応する

・素直に曲がる

・リラックスできる

・一体感がある

・ペダリングしやすい

・走っていて楽しい

 気を張ることがなく、精神的な疲労が少なく、自分の力を上手く引き出してくれる自転車。なんだか「いい結婚相手」の条件みたいですが、似ているところがあるかもしれません。

 岩のように硬く、操舵感がコーナーの曲率によってコロコロと変わり、独自規格満載でポジションを妥協せざるを得ないかわりに、すさまじく軽く速い200万円のハイエンドカーボンバイクより、ペダリングしやすい剛性感で、ハンドリングが素直で、どんな状況でも操舵感が一貫しており、自分のポジションがピタリと出た車重9kgの15万円のスチールバイクのほうが「いい自転車」になることだってあります。本当ですよ。

 ただし、乗りこなせるスキルやパワーがあり、短所を上回るメリットがあれば、「乗りにくい自転車」であってもそれを選ぶべきです。

 例えばツール・ド・フランスを走ってるTTバイク。あれは決して乗りやすい自転車ではないでしょう。普通の人ならマトモに走らせることすら難しいかもしれない。

 例えば乗鞍で一番時計を争うクライマー。彼らは多少ペダリングフィールが不快でも軽くて速く上れるバイクを選ぶでしょう。

 でも、彼らは「乗りにくさ」を上回るメリット(=速さ)があるから、多少乗りにくくても使っているまでです。同じタイムを出せてもっと乗りやすい自転車があったら、そっちのほうがいいに決まってます。

メーカーは乗りやすさをアピールしない!?

 さて。大事なのはここからです。

 「乗りやすさ」は、曖昧で分かりにくい要素であり、しかも乗り手によって答えが変わってしまうため、カタログスペックには表れませんし、メーカーもわざわざアピールしません。

 商品を売るためには、分かりやすい空力や軽さや剛性などを一生懸命アピールせねばならず、結果として「そういうことをアピールしやすい自転車」を作るようになります。それが市場の原理です。

 だからこそ、「乗りやすいか」「走らせやすいか」「走りが気持ちいいか」という選定眼が大事になってくるのです。それは、意識して試乗しないと分かりません。これは、フレームだけでなく、ホイールやハンドルなどのパーツにも言えることです。

 「速さ」や「硬さ」や「軽さ」もいいけれど、「乗りやすい自転車こそがいい自転車」という観点に立つと、自転車選びがもっと楽しくなるかもしれません。

インプレッションライダー・安井行生(やすい・ゆきお)

 大学在学中にメッセンジャーになり、都内で4年間の配送生活を送る。ひょんなことから自転車ライターへと転身し、現在は様々な媒体でニューモデルの試乗記事、自転車関連の技術解説、自転車に関するエッセイなどを執筆する。今まで稼いだ原稿料の大半をロードバイクにつぎ込んできた自転車大好き人間。

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