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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<65>一時帰国を経て「サーリー」へ乗り換え 変化した自転車旅の装備と活躍したアイテム

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 自転車旅に限らず何においてもそうだと思いますが、物事を始める前に自分のスタイルを見抜くのは難しい。やってみて初めて気が付くことが沢山ある。僕の場合は旅のスタイルすらも旅の前半と後半で変化していったので、それに合わせて一時帰国後の装備も変化していった。

山下さんからいただいたタイヤカバーはタイヤの保護だけではなく、視認性も高めてくれて、とても重宝した。ちなみに親日家の国ではサッカー日本代表のユニフォームを着て走ることが多かった Photo: Gaku HIRUMA

自転車旅の後半は“最強”の自転車で

 まず、大きな旅の変化は旅行中の南米で後に妻となる女性と出会い、旅の最後の一年間、アジア大陸を一緒に走ることになったこと。コンパクトさを求めるよりも、より快適に過ごせるように考える必要があったし、一年間の期限付きだったので自転車やメカトラブルで時間を無駄にすることは避けたかった。

 アジア大陸で過酷な地といえば、僕らの考えていた走行ルートの中だとタジキスタンのパミールだ。無人地帯の荒れたオフロードの山岳地帯をひたすら走ることを想定していたので、より頑丈な自転車と装備を選ぶ必要があった。

 その観点から初代の自転車を直すのではなく、トラブル回避を最優先に考えて“最強”の自転車の呼び声高かったSURLY(サーリー)のLONG HAUL TRUCKER(ロングホールトラッカー、LHT)を購入した。リペアパーツや工具を共有することを狙い、妻が乗る自転車も同じLHTを購入してもらった。パーツや工具を共有できる点は市販車の強みだと思う。

1年間の期限付きの走行だったので、後半の旅はトラブルの少ない自転車と装備をと心がけた。実際にパミールでも全くトラブルなく走行できた Photo: Gaku HIRUMA

 サーリーのLHTは、世界中のサイクリストから絶大な信頼を得ている自転車だ。ホイールベースが長く、直進安定性に優れていて、なによりタフでトラブル知らず。何十kgという負荷がかかるキャリアを支えるダボ穴は、フレームに半分埋め込まれるような形で、金属疲労によりダボ穴が折れてしまう海外ツーリングならではの悩みを、見事に解決してくれる。ボトル用のダボ穴も3カ所設けられていて、チェーンステーに予備のスポークを収納できるなど、旅人心をくすぐる自転車だった。

 当時のLHTはドロップハンドルにカンチブレーキが標準だった。海外を走るのであれば、やや頼りない装備だったが、前半の旅でカンチブレーキのおかげで旅を続けられた経緯があったので、そのまま使用した。妻のLHTのブレーキは握力を考えてVブレーキに変更した。サドルはもちろん革サドルのブルックスに付け替えた。

トラブルなしのキャリアと強度・防水性抜群のバッグ

 キャリアはやはりチューブスだ。ドイツのキャリアブランドで、キャリアが折れたという話はほとんど聞いたことがない頑丈なものだ。実際、荒れたオフロードを走ろうが、飛行機輪行で雑に扱われようが、全く折れたり曲がったりせず、トラブルがなかったのは驚きだった。同じドイツのメーカーのORTLIEB(オルトリーブ)のバッグと相性も良く、荷物を満載にしているのに振られずガチッとした印象でとても走りやすかった。

 オルトリーブのバッグは一番大きく、ペアで40Lの容量があるバックローラークラシックを使っていた。想像以上に生地が薄くて軽いのに、強度は申し分なかった。防水性能も抜群で、流石にハードに使っていると多少穴は開くが、どれも自分で補修できる小さな穴だった。

 さらにバッグはワンタッチでロックが掛かり、自転車への着脱もしやすいので、パッキングの時間が短縮される。毎日毎日行う作業なので、少しでも作業効率できると、ストレスがない。

 さらにバックローラークラシックの上に、オルトリーブのラックパックというドラム型のダッフルバッグを載せていたのだが、バックローラークラシックにスマートに取り付けられた。見た目もすっきりしているのに全く動かなかったのは、多くのサイクリストに支持されるのも頷ける。

テントは居住性を重視

 大きく変更した装備はテントだ。自転車旅後半のテントは、居住性の広さを確保するためにアライテントのエアライズ2(2~3人用)と DXフライシートのセット品を選んだ。

 前半の旅で使っていたゴアライトの2~3人用を購入し、DXフライシートを使うという選択肢はあった。しかし自転車旅の場合、必ずしもテントがゴアテックスである必要がないと思い、それなら同じように山岳テントとして定評のあるアライテントを選んだ。野宿が多いので、テントを張っていても目立ちにくい緑色のフライシートだったのもエアライズ2を選んだ理由だ。

 2人で使うので、もうワンサイズ大きいテントを購入するかと思ったが、野宿ではテントを広々と張れるスペースを確保できないことも多く、2~3人用にした。DXフライシートで前室を確保すれば、バッグなどはテントの前室に置けるので、テント内は二人が寝るスペースは充分確保できる。雨のときも濡れずにテントで自炊できるのも、大きいテントならではだ。

 そして暑い地域も走る予定だったので、同じフレームで使えるメッシュテントのカヤライズも購入した。アフリカの宿でもマラリア対策として使えるかと思っていたが、乾季であまり蚊はいなかったので、宿では使う機会はなかった。

 だけどやはり暑い地域では重宝した。暑い地域で狭いテントに二人で寝るのは厳しすぎる。寝不足は翌日の走行に響くし、なにより妻と喧嘩が増える。荷物がかさばってしまうけど、そういったことを解消してくれただけでも、持ち運んでよかった。

 妻には僕と同じ寝袋とエアマットを選んでもらったが、さらに寒さ対策として、SOLのヒートシートエマージェンシーブランケットを持って行った。これはその名の通り、緊急用のアルミのブランケットだ。通常のアルミシートだとシャカシャカと音がうるさく破けやすい難点がある。だけどヒートシートエマージェンシーブランケットは、音が静かで繰り返し使っても破れにくいという特徴があり、寒いとき寝袋の上からかけたり、下に敷いたりするだけで温かさが格段に上がった。自転車旅以外でも防災用に用意しておきたい一品だけど、意外にもエチオピアの宿でも役に立った。

 エチオピアでは多くの旅人が宿のベッドに巣食う南京虫(トコジラミ)の被害に遭っていた。そこでをヒートシートエマージェンシーブランケット敷き、南京虫が上がってくるのを防ぐのに役に立った。アルミなので南京虫が付着することもなく安心だった。

地球儀のボールが交流ツール

 自転車旅の後半に使って便利だったアイテムは、モンベルのリペアシートだ。半透明の粘着シートで、必要な大きさに切って使うだけなので非常に簡単。粘着性も抜群で多少伸縮するので、リペアシートを貼ってもどのアイテムも違和感なく使えた。防水バッグの穴を塞いだり、レインウェアや寝袋、テントやフライシートのリペアにも物凄く重宝した。

 さらにキャンプツーリングの達人でおなじみの山下晃和さんから餞別としていただいた、オーストリッチのタイヤカバーがある。予備のタイヤに着けて持ち運んだが、紫外線からタイヤを守るだけではなく、シルバー色のカバーがとても目立ち、安全性を上げてくれた。以後自転車旅の最後までありがたく使わせてもらった。全く自分では思いつかなったアイテムだ。

 前半の旅でも使っていたものだが、高度計や気圧計の付いたアウトドアウォッチは持っていって良かった。事前に峠の標高を調べておけば、後どれくらい上ればいいか分かって精神的にもかなり楽になる。また、今日は標高何百m上がったから、そろそろ体力的に無理せずに野宿できる場所を探そうとか指針になった。ただ、大きくて目立つので街歩きのときは必ず宿に置いていった。

初めて標高4000mを越えた瞬間。サイクリストにとって標高が分かるか分からないかでは精神的負担が大きく違う Photo: Gaku HIRUMA

 他には小さな地球儀のボールを買った。オルトリーブの防水バッグは布バッグのようにワッペンが貼れず、どこを走ってきたか分からない。そこで地球が書いてあるボールに走ってきたルートを書き込み、「どこから走っているのだ?」という地元の人の質問に、分かりやすくスムーズに答えられるように工夫した。そんなことかと思うかもしれないが、この質問は一日に何度も何度もされるので、スムーズに答えることがのは意外に重要だった。

地球儀のボールに走行してきたルートを書き込み、地元の人たちとのコミュニケーションを取った Photo: Gaku HIRUMA

 走行とは関係ないが、最後にこだわった装備がドリップコーヒーのセットだ。はじめはモンベルのコンパクトドリッパーだけを持ち、MSRの2Lのクッカーにドボドボと水を入れて作っていたが、あまりにも雰囲気がなさすぎた。

 そこで、美味しいコーヒーを淹れるために、気軽に使えるガスバーナーを持ち歩いた。旅の途中でケトルと保温ボトルを手に入れ、世界各地にあるコーヒーの産地で豆を買い、ドリップコーヒーを楽しんだ。

朝一でできるだけ距離を稼ぎたいサイクリストにとって、あえてゆっくりとコーヒーを淹れる作業はとても贅沢な時間で大好きだった Photo: Gaku HIRUMA

 引き締まった朝の空気の中、絶景のキャンプポイントで目の前の山に日が当たるのを見ながら、ゆっくりとコーヒーをドリップしたり、上るのが厳しかった峠の頂上で、峠越えの労いとしてコーヒーを淹れるのが、最高に幸せな時間だった。

旅の装備に正解はない

 4回にわたり装備の記事を書かせてもらいましたが、結論としては旅の自転車と装備に正解はないと感じます。“最強”と聞いて選んだ自転車と装備は確かにトラブル知らずだったけど、はじめからその自転車と装備で出発していたら、面白みも半減していたのではないかと思います。

 初代の自転車で旅していたときは、トラブルを乗り切るために必死になり、たくさんの人の知恵や力を借りた。そういう経験が力となり、世界一周をやり遂げることができた。

 心さんから“最強”の装備を教わった当初、最強の装備ではない自分の真新しい自転車と装備がひどく恥ずかしかった。だけど初代の自転車と装備で旅を続けて数年、自転車も装備も色褪せて傷だらけになった頃に、ブルガリアで出会った人が、僕の装備を隅から隅まで見てきて「岳さんの自転車物凄くかっこいいですね」と言ってくれた。

 どんな自転車でも海外を走れる。走りながら自分のスタイルに合わせて少しずつ装備を変えていくのも、自転車ツーリングの楽しみの一つだ。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生のときに自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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