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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<358>“クラシックの王様”フランドルにビッグネーム集結 パリ〜ルーベは中止に

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 熱戦が進むジロ・デ・イタリアと並行して、ワンデーレースも次々と開催されているロードレースシーン。特に今年は変則日程となったこともあって、ジロとワンデー、それぞれにフォーカスする選手がくっきりと二分された印象だ。そうした中で、ワンデーレースはいよいよクライマックスを迎えようとしている。“クラシックの王様”ツール・デ・フランドルが10月18日に開催される。このレースに向け、猛者たちが前哨戦で脚試しを行うなど、その盛り上がりはジロに負けていない。そこで、本コーナーでは前回に続いてワンデーレースにフォーカス。フランドルの展望や前哨戦の結果をまとめていこうと思う。

クラシックレースはいよいよクライマックスへ。1月18日のツール・デ・フランドルで盛り上がりは最高潮に達する(写真は2019年大会から) Photo: Yuzuru SUNADA

ツール・デ・フランドルに世界王者アラフィリップ参戦

 ツール・デ・フランドルは1913年に初開催され、今年で104回目を迎える。開催地ベルギー・フランドル地域では最も格式の高いレースとされ、そのステータスはツール・ド・フランスをも上回る。同地では「クラシックの王様」との愛称がつけられている。

ツール・デ・フランドル2020年大会は無観客での開催となる。毎年大観衆で埋め尽くされるミュール・カペルミュールもファンの立ち入りが禁止される(写真は2019年大会) Photo: Yuzuru SUNADA

 もちろんロードレース界全体でもこのレースへの位置づけは高く、10月4日に開催されたリエージュ~バストーニュ~リエージュなどとならんで「モニュメント」の1つに数えられる。そして何より、石畳系レースの最高峰「北のクラシック」の1つであり、路面の変化やめまぐるしく変わる天候も作用してレースは過酷を極める。

 18日に行われる2020年大会は、アントウェルペンからアウデナールデまでの243.3kmで争われる。主催者が実質の無観客開催を打ち出し、コース全容の公表は控えられているが、レース展開を左右する重要区間はしっかりとルートに組み込まれているようだ。

 ポイントとなるのは、全14セクションに上る「ミュール」と呼ばれる石畳の急坂区間。距離にすると数百メートルから2kmほどだが、なかには10%を超える急勾配も。特に注目したいのは、3回通過するオウデ・クワレモント(登坂距離2.2km、平均勾配4%)と2回通過するパテルベルグ(400m、12.5%)。それぞれ通過3回目と2回目はレース終盤のヤマ場となり、この局面を前方でクリアできるかどうかで勝負に絡んでいけるかが決まってくる。ちなみに、レース全体を通して最後の石畳区間となる2回目のパテルベルグを通過すると、フィニッシュまでは14.5km。トップが独走なのか、小集団なのか、それとも比較的大人数の集団なのかでも最終局面の流れは変わってくる。ちなみに、昨年優勝のアルベルト・ベッティオル(イタリア、EFプロサイクリング)は、3回目のオウデ・クワレモントでアタックに成功。続くパテルベルグもうまくクリアし、そのままフィニッシュへと独走している。

10月11日に行われたヘント〜ウェヴェルヘムで上位に入った選手たちはツール・デ・フランドルにも参戦を予定している Photo: STIEHL / SUNADA

 このレースが「北のクラシック」であることは前述したが、純粋な石畳巧者にとどまらず、パンチャーやときには総合系ライダーまでもが参戦するのもフランドルの特徴の1つ。ミュールに限らず急坂区間が多く詰まっていることや、レース距離の長さ、コンディションも含めたタフさもあらゆる脚質の選手が集まる要因だ。

 そんな今年の顔ぶれはというと、11日に行われたヘント~ウェヴェルヘムで主役を争った選手たちはこぞって参戦する。このレースを制したマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)は2年前に2位となり、飛躍のきっかけをつかんだ。昨年のフランドルを制したベッティオルも優勝争いに加わって最終的に4位。2連覇に向けて視界が良好であることを公言する。

 激しいマークの末に共倒れになってしまったワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)とマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・フェニックス)は、同じ失敗は繰り返したくない。両者ともに独走、スプリントどちらも対応できるが、タイトルを懸けてどんな展開を好むだろうか。

 レース中盤から前線を押さえて最後も3位にまとめたマッテオ・トレンティン(イタリア、CCCチーム)や一時は独走したシュテファン・キュング(スイス、グルパマ・エフデジ)、落車の影響でこのレースでは上位はならなかったオリバー・ナーセン(ベルギー、アージェードゥーゼール ラモンディアール)といった選手たちも優勝候補に挙がる。

ジュリアン・アラフィリップがツール・デ・フランドルに初出場を果たす Photo: STIEHL / SUNADA

 そして新たな目玉となるのが、世界王者ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)の参戦だ。かねてから「ツール・デ・フランドルの優勝は目標になっている」と公言していたが、満を持してスタートラインにつく。今大会に向けては「さすがに自分が優勝候補だとは思わない」とコメントしているが、すでにコース試走を行うなど準備を着々と進める。7日に行われたブラバンツ・ペイルで優勝(後述)し、その後はフランス北部に拠点を置いて調整中。チームはヘント~ウェヴェルヘム2位のフロリアン・セネシャル(フランス)や同7位のイヴ・ランパールト(ベルギー)、経験豊富なゼネク・スティバル(チェコ)といった面々がメンバー入り予定で、出場チーム随一といえるベストメンバーで臨む公算だ。

 なお、前述の通り限りなく無観客に近い形での開催とあって、スタート・フィニッシュ付近やオウデ・クワレモント、コッペンベルグ、ミュール・ファン・ヘーラルツベルゲン(ミュール・カペルミュール)といった箇所への観客の立ち入りを禁じる見込みとなっている。

フランドル前哨戦をおさらい

 ここからは、前回紹介したレースの結果をお伝えしていきたい。ツール・デ・フランドル前哨戦の意味合いも強まり、例年以上にハイレベルなレースが展開された。

 10月7日に行われたベルギーの丘陵地帯で行われたブラバンツ・ペイル(UCI 1.Pro)は、3人による優勝争いをアラフィリップが制した。レース終盤、逃げが吸収された直後に石畳の登坂区間でアラフィリップがアタック。これにファンデルプールやブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)ら6人が合流。さらに周回コースの同じ箇所で再びアラフィリップが仕掛けると、ファンデルプールとコヌフロワとの3人に絞られる。

10月7日に行われたブラバンツ・ペイルはジュリアン・アラフィリップが優勝。マイヨアルカンシエルで初勝利を挙げた Photo: STIEHL / SUNADA

 最終盤は後続が懸命の追い込みもあったが、脚のそろった3選手には届かない。アラフィリップ、ファンデルプール、コヌフロワによる優勝争いは、スプリントで伸びを見せたアラフィリップに軍配。ファンデルプールがフィニッシュライン手前で追い込んだものの、わずかに届かなかった。例年は4月半ばに開催され、アルデンヌクラシック前哨戦の趣きを持つレースは、今年に限っては北のクラシック前の準備レースに。その主役候補たちが、さっそく輝きを見せた。

パリ〜トゥールは2人の優勝争いになり、カスパー・ピーダスン(左)が優勝 ©︎ ASO/G.Demouveaux

 また、11日に行われたパリ~トゥール(フランス、UCI 1.Pro)は、カスパー・ピーダスン(デンマーク、チーム サンウェブ)が優勝。フィニッシュ前50kmから本格化する未舗装区間が大きな見どころとなるレースだが、今年もそのポイントが流れを大きく動かした。人数が絞られていく中から、残り30kmでピーダスンとコヌフロワが抜け出すことに成功。この2人が最後まで逃げ続け、マッチスプリントでピーダスンが勝利。優勝候補筆頭に挙げられていたチームメートのセーアン・クラーウアナスン(デンマーク)が未舗装区間でのクラッシュで上位戦線から脱落した中、同国の成長株が大仕事を果たした。

 なお、このレースにはロマン・バルデ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)がブラバンツ・ペイルに続いて出場。逃げるコヌフロワのために追走グループの抑え役を務め、自身も7位フィニッシュ。落車による脳震盪でツールを離脱し心配されたが、復調していることをアピールしている。

パリ~ルーベは新型コロナ感染増大により中止

 北のクラシック関連では、25日に開催予定だったパリ~ルーベの中止が決まっている。主催者A.S.O.(アモリ・スポル・オルガニザシオン)が9日に発表したもので、レース開催地域の新型コロナウイルス感染者増大を受けての措置であるとしている。

 フランス北東部の感染増大が危機的な状況にあるとされ、フィニッシュ地ルーベが属するリール大都市圏は同国政府によって最大の警戒態勢に置かれることに。同地自治体の要請もありレースの中止が決定した。また、スタート地点のコンピエーニュ大学では、学生の3分の1ほどが陽性反応を示しているとの情報もある。

 今年は女子レースの初開催など、これまで以上に注目度が増していた大会だったが、来年までのお預けに。なお2021年大会は4月11日に開催予定であることも明らかになっている。

 パリ~ルーベの中止も影響して、多くの選手がツール・デ・フランドルへとフォーカスしている状況だ。

パリ〜ルーベ2020年大会は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止が決定。次回大会は2021年4月11日を予定している(写真は2019年大会から) Photo: Yuzuru SUNADA

今週の爆走ライダー−カスパー・ピーダスン(デンマーク、チーム サンウェブ)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 10月11日、ジロ・デ・イタリアではルーベン・ゲレイロ(EFプロサイクリング)がステージ優勝し、マリアローザをジョアン・アルメイダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)が守った。2人のポルトガル人が主役となった1日を「ポルトガルデー」と報じた欧米のメディアも多かったよう。

パリ〜トゥールを制したカスパー・ピーダスン。エースのクラッシュでめぐってきた代役の仕事を見事に果たした ©︎ ASO/G.Demouveaux

 実は同日、もう1つの“記念日”も生まれていた。ベルギーで開催のヘント~ウェヴェルヘムではマッズ・ピーダスン(デンマーク、トレック・セガフレード)が制すると、お隣フランスで行われたパリ~トゥールではカスパー・ピーダスンが優勝。そう、「ピーダスンデー」でもあったのだ。

 そんな記念日を呼び込んだカスパー・ピーダスン。現チーム入り後初勝利に「プロで結果を残すという夢が1つかなった」と感激の様子。この日は、自国の先輩でもあるクラーウアナスンのアシストを予定していたが、状況は一変。それでも、思いがけずやってきた優勝のチャンスにも動じず、とにかくスプリントに持ち込むことに集中したという。もっとも、この日マッチアップしたコヌフロワは、アンダー23カテゴリー時代はまったく歯が立たなかったのだという。そんな相手にどうやって勝つかを考えたときに、選択肢は1つしかなかった。

 持ち味のスピードは、トラック競技で培った。ジュニア時代にはトラック世界選手権のオムニアムで優勝。その後も代表の常連としてバンクで走りを磨いてきた。徐々にロードに比重を置くようになると、2017年にはアンダー23カテゴリーでヨーロッパ王者にもついた。

 プロ入り後はアシストを務めることが多いが、転機となったのが今年のツール・ド・フランス。メンバー入りは大きな自信になったといい、きっと近いうちに自分にも勝利を狙うチャンスがめぐってくると思えるきっかけにもなったという。

 トラックがメインだった頃はロードでのプロ入りはあまり考えていなかったというが、レースを重ねてトップライダーを間近に見るにつれワクワク感とともに、高いレベルで走る本気度が増していったという。

 いまでは若いチームを率いる1人に成長。とはいえ、チームメートも次々と台頭しているとあって、来るツール・ド・フランドルのメンバー入りは実のところ当落線上だとか。パリ~トゥールの勝利は状況を変える要素となるのか。本人はいたってやる気満々だ。

若い選手が次々と台頭するチーム サンウェブでまた1人新鋭が現れた。カスパー・ピーダスンはトラック仕込みのスピードでスプリントや北クラシックでの活躍を目指している ©︎ A.S.O / Jonathan Biche
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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