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旅サイクリスト昼間岳の地球走行録<64>自転車旅の装備を変えた伊東心さんとの出会い

by 昼間岳 / Gaku HIRUMA
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 世界一周自転車旅の装備を紹介した記事で「当時はスマホもパソコンも持っていなかったので、インターネットの情報から装備を参考にすることはほとんどなかった」と書いたが、実は少しだけ例外がある。僕の勤務していた自転車店のウェブサイトに伊東心さんという世界一周中のサイクリストがコラムを投稿していた。当時の僕は、家にインターネットの環境がなかったので、休憩時間を利用して熱心に心さんのコラムを見ていた。

交換したての真新しいブルックスの革サドル。乗れば乗るほど、艶の美しいこげ茶色のサドルに変化し、お尻にフィットする最高のサドルに育っていった Photo: Gaku HIRUMA

憧れの人とまさかの遭遇

 心さんの世界一周旅の記事はどれも面白かったが、その中には旅の基礎知識や装備についても事細かに記されていて、参考にすることが多かった。

 また僕が唯一知っている世界一周中のサイクリストだったのもあって、憧れを抱いていた。だけど、世界一周旅を始めるとき、あまり心さんの知識を生かせていない装備で出発することになった。

 不安な気持ちでアラスカの空港に降りたった僕だったが、初めの1~2日は本当に海外を走っているという嬉しさから、ハイテンションで乗り切った。しかし3日目くらいになると、この先の行程や装備は本当に大丈夫なのだろうかと少し不安になってきた。

 スタートして4日目の夕方、集落の外れに小さな川が流れていて、人目に付きにくそうな河原があったので、そこにテントを張ることにした。僕が荷をほどき、テントを立て、夕食のラーメンと缶詰を食べ終わるころ、1人のサイクリストが同じ河原にやってきた。どうやら同じようにこの河原で野宿をしようしているらしい。

 「Hi ! 」と声をかけられたので答えたが、なんか雰囲気が「日本人ぽいな」と思っていたら、相手の方から「日本の方ですか?」と先に聞いてきた。その人の恰好と自転車、そして装備は、長期間世界を走ってきたオーラが満載だった。話を聞くと、すでに3年半世界を走った経験があるそうで、5カ月間の一時帰国を経て、これからアラスカ経由で南米に向かい、世界一周を完走させると言っていた。

 こんなところで日本人の先輩サイクリストに会えるとは思わず、自己紹介も忘れてしばらく話していたが、やがて思い出したように自己紹介し始めた。

 「伊東心と申します」

 この言葉を聞いたとき、驚きすぎて一瞬何が何だか分からなかった。まさか旅で初めて出会った日本人サイクリストが、旅の参考にしていた伊東心さんだとは夢にも思わなかったからだ。

伊東心さん。アラスカで出会い付かず離れずで、その後も各地で再会を果たした。自転車旅のイロハを教わった僕の自転車旅の先生だ Photo: Gaku HIRUMA

 僕は、心さんがコラムを寄稿していた会社の元社員で、読者だったことを告げると、心さんはとても驚いていた。そこからは白夜で日が沈まないのをいいことに、心さんにずっと質問攻めをした。自転車や使っているキャリア、装備にルートに見どころなど、ありとあらゆることをとにかく聞いた。

 世界中のサイクリストから絶大な支持を集め、“最強”と呼ばれる自転車やパーツ、装備があるのだとこのとき初めて知り、ほぼ全てのものを見せてもらった。いや、正確に言えばコラムで読んだのかもしれないが、ネットの情報と直接本人が伝えてくれるのでは情報の重さは全く違っていた。

 その日から数日間、一緒に走らせてもらうことになり、便利な装備や上手なパッキングの仕方、自転車のデッドスペースの埋め方、自炊方法、野営地の探し方、ガソリンスタンドで給油する方法、水道水の貰い方、セルフのコーヒーの買い方など、何から何まで参考にさせてもらった。

 アウトドア用品や自転車パーツが充実しているアメリカで心さんと出会えたのは幸運だった。教えてもらった“最強”装備を何から何まで揃えたかったが、出発したなのに旅の資金をそこまで減らす訳にはいかず、長く使える装備から少しずつ変えていこうと決意した。

出会いが旅の装備を変えた

 心さんに教えてもらい最後まで役に立った道具の中で最も衝撃を受けたのは、iPod touchだ。今更誰もが知っているこの商品の魅力を語っても仕方ないので割愛するが、通信機器に疎かった僕にとって、無線通信(Wi-Fi)でインターネットと接続し、手のひらサイズの液晶で情報が見られるのが、当時は本当に衝撃的だった。

 そして自転車の装備はサドルから変えた。僕は旅を始めて間もないからか、お尻に痛みを感じていた。そのことを心さんに言うと「革サドルにすると、馴染んできて全然痛くないよ」と提案してもらった。これが僕が最初に購入した“最強”と呼ばれるツーリングアイテムのひとつだった。

 BROOKS (ブルックス)というイギリスの革サドルの老舗メーカーのものだ。初めはとても硬いが、使えば使うほど馴染んで自分のお尻の形にフィットしていき、長時間乗ってもお尻が全く痛くならないということだった。使えば使うほど馴染むのであれば、旅の前半で買った方がいいと思い、自転車店で見つけたときは即購入した。

 革製なので雨に弱いという弱点もあるが、専用のオイルで手入れをして、長い時間乗ったブルックスのサドルは、本当にお尻を包み込むようなフィット感があった。乗れば乗るほど艶がでてきて、気が付けばサドルを撫でているなんてこともあるくらい触り心地もよく、こんなに美しいサドルがあるのかと思うほどだった。

使い古しでも需要があるシュワルベ・マラソンプラス

 ほかにもチューブスのキャリア、オルトリーブの防水バッグなど、世界中のサイクリストが愛用する装備を教えてもらったが、“最強”のタイヤと呼び声高いシュワルベのマラソンプラスは満足度が高かった。

 タイヤをマラソンプラスに交換して走ってみると、それまで使っていたタイヤと比べて、本当にパンクしなかった。タイヤに5mm厚の耐パンクベルトが設けられていて、驚くほど耐久性が高いのだ。以降ツーリングはこのタイヤ以外はありえないと思えるほどで、お店で見つけては購入し、持ち運んだ。

アメリカ滞在中にマラソンプラスを購入できたのは幸運だった。以後手放せないタイヤになった Photo: Gaku HIRUMA

 また摩耗してツルツルになったマラソンプラスを宿で交換していると、ほかのサイクリストから「そのマラソンプラス捨てるならちょうだい。そこらへんの安タイヤより絶対パンクしないと思う」と言って欲しがる人がいるくらいだった。

摩耗して耐パンクベルトがむき出しになったマラソンプラス。流石にこうなるとパンクリスクは高くなるが、この状態でもタイヤを欲しがるサイクリストが居るくらい、マラソンプラスの信頼は絶大だった Photo: Gaku HIRUMA

川の水も飲料水に変える浄水器

 次に浄水器。世界を走ってきた心さんが「必要だった」と言っていたし、これから世界を走る僕も必要になると思ったので、MSR「ミニワークスEX」を購入した。とてもコンパクトな浄水器だけど、工具なしで分解できて、簡単な定期メンテナンスで浄水性能を保つことができるという優れものだ。

パタゴニアの無人地帯で小川の水をろ過して飲む。ほかにも水道水をろ過してミネラルウオーター代をかなり節約した Photo: Gaku HIRUMA

 無人地帯でも川さえあれば、その水を浄化して飲料水を作れるという安心感があった。水道水も念のため浄化して飲んでいたのでミネラルウオーター代の節約にもなった。毎日毎日ミネラルウォーターを買うとかなりの出費になるので、それがないだけでも結構な節約になる。

インナーシーツとカバーも購入

 そして寝袋のインナーシーツとカバーも揃えた。インナーシーツは筒状になっていて寝袋の中に入れて使う。無人地帯が多く、何日もシャワーを浴びられない環境で直接寝袋に入って寝ると、匂いと汚れが寝袋に付いてしまうからだ。

 海外の環境だと寝袋はほぼ洗えないので、インナーシーツを入れて極力清潔感を保つ。それにシーツなら宿でも洗えるので衛生的だ。さらっとしていて肌触りがよく、夏の夜のちょっと涼しいときや、宿のシーツが汚いときになど重宝した。色々な素材があって迷ったが、一番コンパクトなシルク製のシーツを選んだ。

 シーツがインナーならカバーは寝袋のアウターだ。寝袋カバーは雨やテント内の結露から寝袋が濡れるのを防いでくれるので、寒い時期などに活躍する。狭いテントだと雨のとき、どうしてもテント内に水がしみてくるし、寒いときはテント内の結露が思っている以上に寝袋を濡らすことがある。

 もちろん天気が良ければ、休憩時になど寝袋を干しておけばいいが、もちろんそういう環境ばかりではないので、これは走って経験しないとなかなか気が付けない道具だった。

 心さんに出会ったおかげで、装備がとても充実した。またサイクリストコミュニティに紹介してもらったおかげでその後の旅が充実した。

昼間岳(ひるま・がく)

小学生のときに自転車で旅する青年を見て、自転車で世界一周するという夢を抱いた。大学時代は国内外を旅し、卒業後は自転車店に勤務。2009年に念願だった自転車世界一周へ出発した。5年8カ月をかけてたくさんの出会いや感動、経験を自転車に載せながら、世界60カ国を走破。2015年4月に帰国した。『Cyclist』ではこれまでに「旅サイクリスト昼間岳の地球写真館」を連載。ブログ Take it easy!!

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