UCIロード世界選手権2020【詳報】アラフィリップ独走でフランスに23年ぶりのアルカンシエル 新城は約170km逃げで魅せる

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 伝統国フランスで名立たるスターが袖を通したマイヨアルカンシエルに、いまをときめくプリンスが肩を並べた。イタリア・イモラで開催されたUCIロード世界選手権は、現地時間9月27日に最終種目の男子エリートロードレースを実施。258.2kmで争われた今年の世界ナンバーワン決定戦は、最大の勝負どころ「チーマ・ガッリステルナ」でアタックを成功させたジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ)が、最後の11kmを独走。そのまま逃げ切り、自身初めてとなる世界選手権制覇。マイヨアルカンシエルを戴冠した。日本勢は、新城幸也(バーレーン・マクラーレン)がスタート直後に形成された先頭グループでレースを展開。約170kmにわたる逃げで魅せた。

UCIロード世界選手権・男子エリートロードレース。急坂区間「チーマ・ガッリステルナ」でアタックを決めて最後の11kmを独走したジュリアン・アラフィリップ。フランスに23年ぶりのマイヨアルカンシエルをもたらした Photo: Yuzuru SUNADA

新城が170kmを逃げて好調アピール

 9月2日に開催が決まり、約20日間による大急ぎの準備で開催にこぎつけたイモラ大会。実施レースをエリートカテゴリーに限定しての開催となったが、ここまで期待を大きく上回る激戦が展開されてきた。

ブドウ畑を見ながら進むメイン集団 Photo: Yuzuru SUNADA

 いよいよ、大会は最終日。最後を飾るのは、男子エリートロードレース。前日の女子エリートロードレースと同じく、イモラ・サーキットを発着とする28.8kmの周回コースが舞台となった。最初の1kmと最後の3kmでサーキット内を走行するほかは、変化に富んだ難易度の高いルート。周回半ばにやってくるマッツォラーノとチーマ・ガッリステルナの2カ所の登坂区間はともに10%を超える急勾配。女子ではガッリステルナの上りで勝負が決まったが、男子も同様にこの上りで大きな動きがあるものとみられた。

 また、下りもテクニカルで、180度ターンや上り返しといった要素も選手の心身に休む間を与えない。世界の頂点に立つには、このコースを攻略することが求められた。

7人の逃げグループに入った新城幸也 Photo: Yuzuru SUNADA

 迎えたレースは、リアルスタート直後に新城が魅せた。5km地点での数人のアタックに新城も同調し、そのまま先行を開始。メイン集団が容認したこともあって、プロトン全体の活性化を見ずに先頭グループが形成された。

 前線をゆくのは新城ら7人。1周目は3分ほどだったタイム差は、次の周回の途中では7分近くにまで拡大。これを受けてか、一時的にデンマークとスイスが集団のペーシングに動いたが、それほど追走を急ぐムードでもない。3周目にはスロベニアも集団先頭に選手を送り出したが、あくまでも先頭7人との差をコントロールする程度。この構図はしばらく続き、4周目を終えた時点でその差は7分を超えた。

 快調に飛ばしてきた先頭グループだが、全9周のうち5周目に入って状況が変わってくる。上りで耐えられずに1人、また1人と遅れていく。新城はしっかりと前線に残って逃げを継続。その後ろでは、メイン集団も少しずつペースアップ。スイスが中心となってのコントロールに、この周回を終えた段階でタイム差は5分40秒となった。

先頭から遅れて以降も粘りの走りを見せた新城幸也 Photo: Yuzuru SUNADA

 だが、ここまで順調に逃げてきた新城も、6周目に入ってからのマッツォラーノの上りで遅れ始める。先頭はヨナス・コッホ(ドイツ、CCCチーム)とトースタイン・トレーエン(ノルウェー、ウノエックス・ノルウェージャンデヴェロップメントチーム)に絞られる。それでも、新城は前の2人への再合流を目指して粘りの追走。上りもしっかりとしたペダリングでこなすと、30秒程度のタイム差にとどめてこの周回を完了した。

 タイミングを同じくして、メイン集団も勝負どころを見据えたムードが高まってくる。引き続きデンマークやスイスが牽引しペースを上げると、7周目を迎えたところで、3番手を走っていた新城、さらにはその前の2人も労せず吸収。チーマ・ガッリステルナではフランスがペースアップを図るなど、徐々に緊張感が高まっていく。

 結果的に、新城は約170kmを前線で展開。最後の1周回を残して、レースを離脱した。

急坂区間でのアラフィリップのアタックに誰も追随できず

 緊迫の情勢が破られたのは、8周目のチーマ・ガッリステルナでのこと。タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAE・チームエミレーツ)がアタック。メイン集団はベルギー勢が隊列を組んで牽引を開始。ポガチャルとの差を約30秒にとどめて進行し、そのまま最終周回の鐘を聞いた。

残り2周で飛び出したタデイ・ポガチャル。先頭で最終周回へと突入した Photo: Yuzuru SUNADA

 大差は得られずも、1人で逃げ続けるポガチャル。しばし静観だったメイン集団は、マッツォラーノでいよいよ動き出す。先陣を切ってトム・デュムラン(オランダ、ユンボ・ヴィスマ)がアタックし、ポガチャルにジョイン。ほどなくして集団も追いついてふりだしに戻すと、ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・マクラーレン)がスピードアップ。これを集団がチェックしたのを見計らって今度はヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア、トレック・セガフレード)がカウンターアタック。

 地元勝利を狙うイタリア勢の波状攻撃に追随するべく、ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ)、ミケル・ランダ(スペイン、バーレーン・マクラーレン)、リゴベルト・ウラン(コロンビア、EFプロサイクリング)が前へと上がってくる。この顔ぶれではさすがにお見合い状態となり、頂上通過後の下りで集団が合流。それでもイタリア勢は状況の変化を狙ってファウスト・マスナダ(ドゥクーニンク・クイックステップ)もアタック。これも集団がきっちり反応するが、いつ決定打が生まれても不思議ではない流れとなった。

チーマ・ガッリステルナの上りをゆく精鋭グループ。この後ジュリアン・アラフィリップ(先頭左)がアタックを成功させる Photo: Pool / SWPIX / SUNADA

 有力選手が前方へと集まった状況で、運命のチーマ・ガッリステルナを迎える。上りの入口からグレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー、CCCチーム)が牽引を開始すると、集団はあっという間に崩壊。これを確認したマルク・ヒルシ(スイス、チーム サンウェブ)が先頭へ出てさらなるペースアップを図ると、続くことができたのはアラフィリップ、ファンアールト、ニバリ、プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)ら数える程度となる。

 そして、決定的な瞬間は残り11kmで訪れた。ここまで攻撃を見せず静かに走っていたミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)がアタック。ここは決まらなかったものの、間髪入れずにカウンターアタックを繰り出したのはアラフィリップだった。

 狙いすました攻撃には誰も反応することができない。数秒のリードを奪って頂上をクリアすると、そのままダウンヒルへ加速。後続はファンアールト、ヒルシ、クフィアトコフスキ、ログリッチ、ヤコブ・フルサング(デンマーク)による追走パックが形成され、アラフィリップへの合流を目指す。

イモラ・サーキットへと帰ってきたジュリアン・アラフィリップ。逃げ切りを目指してフィニッシュへ急ぐ Photo: Pool / BETTINI / SUNADA

 それでも、この日のアラフィリップは強力メンバーによる後方からの追い上げにまったく動じることはなかった。ときおり後ろを振り向いて差を確認しながらも、力強いペダリングは一向に変わらない。10~15秒で推移していた後続とのタイム差は、残り2kmを切ったあたりから追走メンバーに牽制が見られ始めたことで、最後の最後にきて広がっていった。

 イモラ・サーキットに入ってからも逃げ切りにかけて踏み続けたアラフィリップ。ようやくその表情が緩んだのは、最後の直線に入った瞬間だった。十分なリードであることを確認すると、頭を抱えて勝利の瞬間を噛みしめる。そして、彼の代名詞でもある拳を力いっぱいに振り切って世界タイトル獲得の瞬間を迎えた。

ジュリアン・アラフィリップは世界チャンピオンの称号をつかみ取り右拳を力強く振り下ろした Photo: Yuzuru SUNADA

涙のアラフィリップ「これは夢の1日だ」

 2020年の男子ロードレース頂点に立ったジュリアン・アラフィリップは、1992年6月11日生まれの28歳。プロ入り前まではロードとシクロクロスとを並行して活動し、ジュニア時代の2010年にはUCIシクロクロス世界選手権で同カテゴリーの銀メダルを獲得。

フィニッシュ直後、バイクを降りて倒れ込んだジュリアン・アラフィリップ Photo: Pool / SWPIX / SUNADA

 2015年のプロ入り後は、ワンデーレースを中心にビッグタイトルを次々と獲得。なかでも激坂「ユイの壁」を上るラ・フレーシュ・ワロンヌでは2018年から2連覇を達成するなど、パンチ力を生かした戦いが得意。また、昨年のツール・ド・フランスではマイヨジョーヌを合計14日間着用し大会のヒーローになると、今年も第2ステージで勝利してから3日間着続けた。

 そして迎えた今大会でのマイヨアルカンシエル獲得。表彰式ではフランス国歌に涙した新王者は、「夢がかなった」と開口一番。このレースに向けてはチームメートがタイトルに向け自らを信じてくれたといい、「仲間に感謝している。この勝利の価値は言葉では言い表せない」と感激の面持ち。これまではあと一歩のところで遅れを喫するなど、タイトルまで手が届きそうでなかなか届かなかったが、「多くの野心を持ってレースに挑んだ。とにかく…」と言うと言葉に詰まり、「夢の1日なんだ」と絞り出すように口にした。

 これでアラフィリップは、次回大会までの約1年間、白地に虹のラインをあしらったスペシャルジャージを着用しレースに出場する。フランス勢のアルカンシエル獲得は1997年のローラン・ブロシャール以来23年ぶり。同国の選手としては9人目となるロードレースの世界王者が誕生した。

 なお、アラフィリップに続く表彰台争いは5人によるスプリントとなり、ファンアールトが2位、ヒルシが3位となった。

男子エリートロードレースの表彰。左から2位ワウト・ファンアールト、1位ジュリアン・アラフィリップ、3位マルク・ヒルシ Photo: Yuzuru SUNADA

収穫十分の新城 今後に向け弾みのレースに

 リザルトの上ではリタイアとなった新城だが、長距離逃げで世界にその存在をアピールした。

 逃げるかどうかスタートするまではっきりとは決めていなかったそうだが、実際に先頭グループでレースを進めてからは「残り2周で集団が合流してくることをイメージして、前待ちの感覚で走っていた」とこの日の戦術を振り返る。タイムギャップが最大で7分程度だったことには「思っていたより少なかった」と話すが、6周目で先頭から水を開けられてからも粘りの走り。「集団に追いつかれたのが想定より早くて、チーマ・ガッリステルナでは対応しきれなかった」と悔やんだが、今後に向けて収穫は十分だったよう。

 パンデミックによってイレギュラー化したシーズンの中で、「実質前半戦の最重要レース」に位置付けていたという今大会。そこで調子の良さを実感でき、この先のレースへとつなげて意欲をさらに高めたようだった。

約170kmにおよぶ逃げで魅せた新城幸也。今後に向けて弾みとなるレースになった。カメラに向かってVサイン Photo: Yuzuru SUNADA

UCIロード世界選手権、2021年はベルギーでの開催が予定されている。

男子エリートロードレース 結果
1 ジュリアン・アラフィリップ(フランス、ドゥクーニンク・クイックステップ) 6時間38分34秒
2 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ユンボ・ヴィスマ) +24秒
3 マルク・ヒルシ(スイス、チーム サンウェブ)
4 ミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド、イネオス・グレナディアーズ)
5 ヤコブ・フルサング(デンマーク、アスタナ プロチーム)
6 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア、ユンボ・ヴィスマ)
7 マイケル・マシューズ(オーストラリア、チーム サンウェブ) +53秒
8 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター チーム)
9 マキシミリアン・シャフマン(ドイツ、ボーラ・ハンスグローエ)
10 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・マクラーレン)
DNF 新城幸也(バーレーン・マクラーレン)

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