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福光俊介の「週刊サイクルワールド」<355>総合上位陣が語ったツール終盤戦への意欲 各賞の見どころも押さえる

by 福光俊介 / Syunsuke FUKUMITSU
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 新型コロナウイルスがフランスで再び感染拡大する中、世界最大の自転車ロードレースであるツール・ド・フランスは進行を続ける。日々最善を尽くすその先には、選手たちによる激闘、そして最終目的地・パリ到達という目下の夢へとつながる。いよいよ大会は第3週、残すは6ステージだ。9月14日は大会2回目の休息日で、個人総合上位陣を中心にオンラインでのメディア対応を行った。そこで選手たちは何を語ったか。大会終盤戦への意欲をまとめるとともに、こちらも大詰めとなった各賞争いの見どころを確認したい。

ツール・ド・フランス2020第2週を終えて個人総合ワンツーを占めるスロベニア勢。プリモシュ・ログリッチ(右)とタデイ・ポガチャル、ともにツール制覇へ意欲を見せる Photo: Yuzuru SUNADA

ログリッチ「総合表彰台の高い位置に上がれると信じている」

 大会第2週でひときわ際立ったのが、ユンボ・ヴィスマのチーム力だった。序盤戦からプロトンを統率する場面が目立っていたが、第9ステージでスーパーエースのプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)がマイヨジョーヌを獲得。その彼がジャージのキープに前向きだったこともあり、第2週はチームとしてレースを支配する動きを強めていった。

山岳アシストとしてユンボ・ヴィスマ勢の強さを支えるトム・デュムラン Photo: Yuzuru SUNADA

 役割分担が明確だ。トニー・マルティン(ドイツ)が平坦区間やレース前半のコントロールを担って集団の動きをまとめると、登坂区間からは実績十分のロベルト・ヘーシンク(オランダ)がペーシング。今大会すでに2勝を挙げるワウト・ファンアールト(ベルギー)は長時間の牽引や急坂での絞り込みに強さを見せ、大会前半の落車で傷んでいたジョージ・ベネット(ニュージーランド)が第2週後半に復調。山岳でのログリッチのケアが最大のミッションとなっているトム・デュムラン(オランダ)とセップ・クス(アメリカ)が最終盤まで余ることさえあるほどに、その戦力が充実している。

 首位のログリッチはもとより、デュムランも個人総合10位につけ、第2週最終日の第15ステージではクスの仕事が残り400mからリードアウトだけだったあたりにも強さは現れている。アムントグレンダール・ヤンセン(ノルウェー)が、集団内でチームメートのために細かなケアに努めることも忘れてはならない。

安定した走りでマイヨジョーヌを守るプリモシュ・ログリッチ Photo: Yuzuru SUNADA

 そして“大将”のログリッチだ。勝利は第4ステージのみだが、ここまではほぼノーミスでクリア。ライバルたちが何らかの理由でタイムを失っていく中、自身はチームメートの盛り立てと要所での安定感で首位を守るという、まさに王道の走りに終始している。

 やることは明確だ。最低限、第2週までと同様のレース運びができればマイヨジョーヌは固いものとなる。第3週初日の第16ステージから3日連続で山岳ステージとなり、第20ステージには個人タイムトライアルが控える。ログリッチの見せどころでもあるタイムトライアルは、ライバルを突き放す決定打となる可能性も大いにある。言ってみれば、山岳ステージで多少崩れることがあっても、タイムトライアルで挽回できる強みがあるのだ。

 とはいえ、すべてが理想通りにはいかないのがグランツールであり、ツールの難しさ。それはログリッチが誰よりも理解できているようだ。

休息日にはチームメートと第16ステージのコース試走を行ったプリモシュ・ログリッチ(チーム配信の動画から)

 休息日だった14日は、チームメートととトレーニングを行い、第16ステージの終盤を試走。コースをチェックしながら調整を行った。

 午後にはチームを通じてコメントを配信。「厳しいステージをいくつも乗り越えてきた。このタイミングで休息できることは回復と準備には大歓迎だ」と明るく話す。レースリーダーである現状について、「素晴らしいレースでリーダーになることがいかなるものであるかは理解しているつもり。もちろんチームメートもだ」と述べ、実績に富んだ選手たちがそろう充実ぶりに自信を見せる。レースそのものは失敗が許されないとしたうえで、「まだまだ厳しい山岳が控えていて、タイムトライアルも重要な1日になる」と気を引き締める。

ツール制覇への意気込みを語ったプリモシュ・ログリッチ(チーム配信の動画より)

 ここまでくるとライバルは同国のヤングライダー、タデイ・ポガチャル(UAE・チームエミレーツ)となってくるが、「年齢の差はあれど、彼とは親友だ。本当に素晴らしい人柄で、それでいて才能も十分。パリの総合表彰台ではスロベニア人が最も高い位置にいると確信している」とも。「それがもちろん私であると思いたい」と最後に付け加えることも忘れず、勝利への強い思いを見せた。

 なお、この日受けたPCR検査で陰性であることが確定。これまで通りレースに臨めることも明らかにしている。

ポガチャル「マイヨジョーヌへの戦いは終わっていない」

 個人総合2位であり、走りの内容や総合タイム差から見てもログリッチと一騎打ちの様相となりつつあるポガチャル。ツール史ではもちろん初となる、スロベニア勢同士のマイヨジョーヌ争いは、大会第3週の最大の見どころとなる。

ここまでステージ2勝。個人総合2位につけるタデイ・ポガチャル Photo: Yuzuru SUNADA

 ここまでステージ2勝。第7ステージでの集団分断でタイムを失ったが、その分を取り戻そうと翌日から攻撃に転じ、そのスタイルを貫き通している。光るステージ成績、そして現時点での総合成績は、走りにふさわしいものと言えるだろう。

 自らもその内容に満足しているという。14日午後に行ったオンラインでのプレスカンファレンスでは、「この1週間は素晴らしかった。昨日(第15ステージ)の勝利がハイライトだ。いまだに喜びを言葉では言い表せない」と、超級山岳グラン・コロンビエを制したことに胸がいっぱいの様子。一方で、「平坦ステージこそ難しく感じる。プロトン内で待機していることにストレスを感じている」と正直な思いも口に。実際に第1休息日明けの第10・第11ステージの両平坦ステージが苦痛だったといい、一時的に調子が落ちていたとも。

オンラインでのプレスカンファレンスに臨んだタデイ・ポガチャル

 第3週の展望を問われると、21歳の若武者らしく攻撃に出ることをはっきりと宣言。「マイヨジョーヌへの戦いはまだ終わっていない。最後まで戦うつもりだ。チームを信じているし、彼らのサポートを信頼している」とコメント。具体的に狙いのステージを聞かれると、「コル・ド・ラ・ローズを上る第17ステージ」と挙げ、「失敗すると簡単に30分失うことだってある」と述べてミスをすると一気に上位戦線から脱落する危険性を指摘。標高2304mの超級山岳で、マイヨジョーヌに直結した何らかのアクションがあるだろうとした。

 質問はやはりログリッチについてへ。ツール期間中はあまり話す機会に恵まれていないとし、「レースの間は会話する時間はほとんどないし、勝負に集中している」と状況を説明。グラン・コロンビエでの上りスプリントで、ログリッチが勝利を譲ったのではないかとの問いには、「彼が勝たせてくれたとは思っていない」と話してあくまでも真剣勝負で勝ったことを強調した。

 ポガチャルといえば、圧倒的な登坂力もさることながら、6月下旬に行われたスロベニア選手権個人タイムトライアルの覇者であることも押さえておきたい。レース距離は15.7kmと短めだったものの、コースは実質山岳個人タイムトライアルの趣きで、ログリッチを9秒上回って勝利している。現時点での両者の総合タイム差は40秒。この先厳しい山岳とタイムトライアルが残っていることを考えると、2人の争いはまだまだ決着していないと見るべきだろう。

各賞の状況おさらい

 最終週に向けて、状況を整理しておこう。

個人総合5位につけるアダム・イエーツ。総合表彰台を狙えるポジションにつけている Photo: Yuzuru SUNADA

 マイヨジョーヌがかかる個人総合では、ログリッチとポガチャルの2人が群を抜いている感があるが、リゴベルト・ウラン(EFプロサイクリング)とミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ プロチーム)のコロンビア勢が追走する。ウランは総合タイム差1分34秒、ロペスは同1分45秒と、追いかける余地は十分ある。休息日のプレスカンファレンスに臨んだウランは、「できる限りのことはやってみる」とチャレンジに意欲的。第1週にはマイヨジョーヌを着用したアダム・イェーツ(イギリス、ミッチェルトン・スコット)も2分3秒差につけているなど、総合表彰台争いという観点でも各選手たちの走りから目を逸らすことができない。

ポイント賞首位のサム・ベネット。初のマイヨヴェールなるか Photo: Yuzuru SUNADA

 ポイント賞のマイヨヴェール争いは、首位のサム・ベネット(アイルランド、ドゥクーニンク・クイックステップ)がここまでは上手く立ち回っている印象だ。ステージ優勝こそ第10ステージの1つだけだが、中間スプリントポイントではメイン集団の先頭を確保する場面が増えてきた。45点差で追うペテル・サガン(スロバキア、ボーラ・ハンスグローエ)とのスプリント力の差も歴然で、マッチアップとなればベネットが勝る。この後控える山岳ステージでも、本格的な上りに入る前に中間スプリントポイントが置かれており、リードアウト陣も含めた総力戦でジャージのキープに努めるはず。

山岳賞の首位に立つブノワ・コヌフロワ(中央)。山岳がさらに厳しくなるここからがジャージキープの正念場となる Photo: Yuzuru SUNADA

 マイヨジョーヌとならんで予断を許さないのが山岳賞。マイヨアポワはブノワ・コヌフロワ(フランス、アージェードゥーゼール ラモンディアール)が着用するが、上級カテゴリー山岳が増えてきてジャージを守るのが難しくなってきた。2点差でポガチャル、さらに1点差でログリッチが控えており、個人総合を争う2人が有利か。例年であれば逃げて得点を量産する選手が現れるが、今回は第17ステージでの頂上フィニッシュで山岳ポイントが倍に設定されており、この日を制した選手が一気に優位に立つことも考えられる。

 新人賞のマイヨブランは、いまのところポガチャルが文句なしの着用。個人総合でも8位につけるエンリク・マス(スペイン、モビスター チーム)が2分35秒差で追うが、ここまでのレース内容から予想するに、ポガチャルがよほどの大崩れをしない限りこの賞の獲得は堅そうだ。あとは、昨年のエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)に続く、マイヨジョーヌとの2冠なるかが焦点だ。

今週の爆走ライダー−アロルド・テハダ(コロンビア、アスタナ プロチーム)

「爆走ライダー」とは…

1週間のレースの中から、印象的な走りを見せた選手を「爆走ライダー」として大々的に紹介! 優勝した選手以外にも、アシストや逃げなどでインパクトを残した選手を積極的に選んでいきたい。

 戦前の期待に違わず、ここまで力強い走りを見せているアスタナ プロチームの総合エースのロペス。総合表彰台、さらには状況次第ではまだマイヨジョーヌの可能性がある位置を走るチームリーダーは、ステージを経るごとにアシストとして機能する自国の後輩に感謝を示す。

新人ながらツール・ド・フランスのメンバーに大抜擢されたアロルド・テハダ ©︎ A.S.O./Pauline Ballet

 今年プロ入りした23歳のアロルド・テハダ。昨年まではアンダー23カテゴリーで走っていたヤングライダーは、ロペスの誘いを受けて現チーム入り。もともと山岳アシストとして期待されていたが、このところの好調さを買われて自身でも驚きのツールメンバー入りを果たした。

 夢だったというツール出場にあたっては、「チームが私を選んでくれたことに間違いがなかったことを示したい」と活躍を誓って臨んでいる。第15ステージの超級山岳グラン・コロンビエでは、最終盤までロペスの負担を軽減する好アシスト。大事な局面で、しっかりと任務を果たした。

 大会前には「あわよくばステージ優勝も…」と思っていたそうだが、どうやらそうもいかなくなってきた。自身をプロに導いてくれたリーダーの上位進出がかかっているのだ。ここから山岳ステージが本当のヤマ場。どれだけ仕事ができるかは、彼の将来にもかかわってくる。

 プロ入り前の昨年には若手の登竜門、ツール・ド・ラヴニールでステージ優勝。180cm・63kgというクライミング向きのフィジカルも将来性は十分。南米の自転車王国が誇る次世代のスター候補は、ここにも控えている。

ツール・ド・フランス開幕以降、ステージを経るごとに山岳アシストとして機能。第3週も重要な役目が待ち構えている Photo: Yuzuru SUNADA
福光俊介福光俊介(ふくみつ・しゅんすけ)

サイクルジャーナリスト。自転車ロードレース界の“トップスター”を追い続けて十数年、今ではロード、トラック、シクロクロス、MTBをすべてチェックするレースマニアに。現在は国内外のレース取材、データ分析を行う。UCIコンチネンタルチーム「キナンサイクリングチーム」ではメディアオフィサーとして、チーム広報やメディア対応のコントロールなどを担当する。ウェブサイト「The Syunsuke FUKUMITSU

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